文太と真堂丸

だかずお

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~ 真堂丸と一斎 ~

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ヒョオオオオオオオオーッ

「ありがとう、真堂丸。君のおかげで、僕は大切な事に気付き、この境地に到達した。僕は自身の欲に溺れ、盲目になっていた。姿勢を正してくれた事、礼を言う」一斉が頭を下げ礼をしたのだ。
この決闘を見ていた誰もが、一斎の変化に気付いていた。  
こいつ、先ほどまでと全然違う。太一は一斎の、あまりの迫力に後ろに一歩下がってしまった。
なんだ?この静かな威圧感。今までの奴とは明らかに違う、なんだよ これっ。

真堂丸、こいつは厄介な事になったな、道来は額から汗を流し、拳を強く握りしめる。 
今の一斎こいつは・・・・・・・
道来はなにか、とてつもなく大きなものを見ている気がした。計り知れない、得体の知れない、なにかとてつもないもの。
それは、まるで果てしない宇宙を見ているかの様に感じた。

「もう、僕は完璧に大丈夫」
こちらを見つめる、一斉の瞳は純粋に光り輝いている。
事実この時、一斉は愛に満たされた感覚に浸っていた。
全ての万物が、自身をこの宇宙を愛してくれている、絶対安堵、絶対信頼の境地に達した。
感謝湧き上がるそれは、感謝
ゆっくりと息を吐く

我無限

我無敵

我完璧

それらの信念や観念が完璧に一斎のものとなる。
そこには、小さな塵程の疑いすら見当たらない

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオー

今の一斎の前では、一瞬でも頭に、敗北の思いがよぎるならば、即斬られるのは間違いない。そんな精神状態ならまず勝ち目はないだろう。
同じ、いやそれ以上の境地にいなければ・・・


死ぬ


確実に


文太が真堂丸の目を見る


ゴゴゴゴゴゴゴゴオー

真堂丸

文太は力強く、まっすぐ戦いを見据えた。

この戦い どちらが勝つにしても、長くは続かないだろう、決着はじきにつく。

ヒョオオオオオオー

文太が見つめた真堂丸の瞳もまた、微塵の疑いも、持っていない

本当に決着がつく

何故だか、真堂丸と出会ってから見届けた数々の死闘が頭に浮かぶ
分からない、何故かは、分からないが、この時、文太の瞳から、ひとすじの涙がこぼれた。

先生、あっしは先生を信じています。祈る様に決闘を見届ける一之助

「負けたらよ、負けたら承知しねえぞ」叫ぶ しんべえ。

頼む、真の兄貴  見つめる太一

真堂丸 天下を取ってこい  道来が叫んだ。


真堂丸

思いは ひとつ

生きて戻ってきてくれ

目の前にいる大切な友

呼吸をし、動いている  今

数秒後には、どうなっているか分からない

見届ける者達にも、色々な感情がわきあがる

真堂丸を信じる

それが俺たちの出来ること

心を据える

覚悟を決める

皆は今を直視する

「行くぞ、一斎」

「行くよ、真堂丸」


ザッ  


両者が飛び出す



ザシュンッ


長かった、本当にここまで来るのは


数々の道を通った


何度も生死をさまよった


色んな奴らと戦った


ここまで 良く やった


なぁ、 俺よ  そうだろ


そして、真堂丸の頭に仲間達の顔が浮かぶ


刀が自身の真横に見えた


・・・・・・・・・・・・すまない 完全に無事では済まなくなる こんな思いが ほんの瞬間の瞬間よぎる



ザシュンッ



ズバッ



真っ暗だった


一人


真っ暗


その場所には、誰も居なかった

そう、誰も居るはずのない場所

誰も辿りつけるはずのない場所

この場所に他者が居るなどあり得ない、その場所で今、何かが動いたんだ

僕は心底驚いた、他に誰か居るのか?

ここに?

この僕以外に?

そんな馬鹿な

その動いたものの、姿を僕は、はっきりと見た。

それは、真堂丸と言う名の男

一斎は嬉しかった

僕は永遠に一人ではなかったのか

違った

君がいた

君がいたんだ


ヒョオオオオオオオー


ザンッ


宙を舞ったのは、左足



ドサッ



ブシュウウウウ



真堂丸から、血がふきだし地面に倒れる



立っていたのは一斎



立っていたのは



一斎だった。



いや




違う



真堂丸が、すぐに立ち上がったから


立っていたのは左足を失った一斎


そう


決着はついた


そう、この状況で続けたら どちらが勝つかは二人には、はっきりと分かっていた。


真堂丸の勝ち、そう普通なら。


一斎が微笑み、刀を向ける

「よせ、一斎 片足のないお前に勝ち目はない」

「君も手負い、分からないさ。この戦いの最中、何度も奇跡は起こった、きっとまだ起こるさ」

「俺はお前を殺さない、生かしてかえすとお前の姉さんと約束をした」

「決着はついた、生きろ一斎」

ヒョオオオオオー

一斎が刀を納めることはなかった。

「決着は、まだ分からない」

「一斎」叫んだのは雪

「お願い、もうやめて」

一斎は止まらなかった

どうする、真堂丸 片足がないとしても、相手はあの一斎。一斎を止めるには、もう斬る以外に道はない
その決断出来ぬまま続けたらお前が斬られるぞ。
どうするんだ?

ザッ  一斎が飛び出す

真堂丸が刀に力を入れる、ザッ  キィンッ

キィンッ  キィンッ  キン キィンッ  キィンッ
凄まじい一斎の攻撃が続く。
片足を失っても、全く戦意は失わず、真堂丸を相手に恐れず突き進む、恐るべし精神力

真堂丸、攻撃しなければお前は確実に殺される

ザンッ 真堂丸の額が斬られ血が流れる

「どうした?まさか本気で僕を斬らずに勝つつもりか?止める?悪いがそれは僕には出来ない、僕はあきらめてはいないからだ、本気でこなきゃ死ぬよ」

「僕は勝つ」

キィンッ   キィンッ   キィンッ  キィンッ

「とどめだ」

ザンッ

真堂丸も同時に刀を振りかざす

直後一斎は思う 

まにあわない   死んだ

この速度の刀、真堂丸自身にも、もう止めることは出来ないだろう 今止めても、まにあうことはない。
その時、一斎は気付いてしまう。

こっ、こいつ 

本当に僕を殺すつもりはない。何故なら自身の刀の前、真堂丸は自分の腕を出し刀を止めようとしたからだ。

ちっ、ばかやろう 叫んだ一斎

そう、自身の左腕を犠牲にする事により刀を一斎の急所からずらし、一斎を救おうとしたのだ。


直後、左腕が地面に転がり落ちる。


ボタ  ボタ   ボタッ 血が地面に流れ落ちる

「真堂丸、自分の腕を犠牲にしてまで、どうして僕を助けようとした」

「一斎、おまえ」
地面に落ちた、左腕は一斎のものだった。
一斎の誇りが真堂丸のやろうとした事を許さなかったのだ。真堂丸の腕が斬られる直前、一斎は自身の身体を入れていた。

「自分の腕を、斬り落としてまで、どうして僕を救おうと?」

真堂丸が刀をしまう。

「お前に負け、僕にはもう何もない 何故殺さなかった」

「何もない?忘れたか?大切な繋がりを」

「お前を愛する者を」

一斎を力強く抱きしめたのは、雪であった。
「ねっ、姉ちゃん」

「一斎良かった、生きて帰ってくれて」

姉ちゃん……

ああ、そうか

何が、独りぼっちだよ…

僕にはずっと姉さんが居てくれたじゃないか

「姉ちゃん  ごめんよ」
僕の心は欲に溺れ、大事なものが見えなくなってた。
それに気付かされたよ…

「姉ちゃん、ずっと側にいてくれて ありがとう」
一斎の瞳から、涙がこぼれていた。


その頃、場面は変わる

「文太 文太   文太  素性、故郷は知れた」

「あいつらの弱みは、一山と同じ、くだらぬ優しさを持ち、他人を見殺しに出来ないところだ くっくっくっく」

「長きに渡り、随分と大帝国を困らせてくれたじゃないか、だがそれもここまでだ」

「さて、皆殺しは近い、真堂丸、文太、貴様達は確実に死ぬことになるだろう」

アアアアーアアアアアアー

鬼道千閣は不気味に笑っていた。
「少し、こちらも準備がいる せいぜい残りの人生を楽しむんだな」
我々の国取りは、これより本格的に進む その為にまず奴らの始末

ニヤリ
最初から、いけなかったのだよ、我々を敵にしては、

三國人、貴様らも殺し 本当の天下を取るのはこの、鬼道千閣様だ。

はっはっはっは 全てはこの時の為に。

真堂丸達はまだ何も知らない、鬼道の次なる手を

そして、これが最後の戦になることを

この時は、まだ誰も知らなかった
これから起こる出来事を………

ヒョオオオオオオー

時は一刻一刻 その時へ向かい流れていく


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