文太と真堂丸

だかずお

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~ ひとつ ~

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森の奥の家屋、菊一と洞海は座っていた。

「あたしゃの名前は、米(ヨネ)聞いただろうが一山の元妻じゃ」

やはり本当に一山の妻だったんだ、驚きもあったが何だか嬉しい感じもした。
何故なら今の自分を導いてくれた一山、その元妻にまで会ってることに何か不思議な縁のようなものを感じたからだ。
「お初にお目にかかります」洞海は頭を床につけお辞儀した。

「で、菊一 話を聞こう」

「一山から話は聞いていたか?」

「ああ、死ぬ直前ここに来た」

米の頭に一山と最期に会った場面が浮かぶ

ザーッ   ザーッ

雨の中、その日は何だか懐かしい風を感じた。
外に出ていた自分が家に戻ると、立っていたのは一山

「久しぶりじゃのう」一山は微笑んだ

「なんじゃ、突然」
奴に会った瞬間、これが最期になるだろうと感じた。奴の表情から、なんかしらの決意が見てとれたからだ。いや、なんだか理由なし、不意にそう感じたのやも知れぬ。

沢山思い出話をし、懐かしいあの頃、共に時を過ごした人生の思い出が流れた。
あいつは本当に素敵な男だった。

「さて、そろそろ帰ろうかのう」

「ひとつ頼みがある」

米は一山を見つめる
「文太と真堂丸と言う男達が必ず、大帝国に立ち向かうことになる、その時は彼らを儂だと思い手助けしてやって欲しい」

「こんな よぼよぼの婆さんにそんな頼みをすんのかい?嫌だよ私は」

一山は微笑んで歩きだした。
「達者でな、世話になった」

そのなんかしらの覚悟を決めた表情をしている理由も言わんのかい 一山。
心の中想う。

ヒョオオオーーッ

頬にあたる懐かしい風が何処かへ吹いて行く

何も聞かなかった

後に噂で、鬼道に殺されたと知った。

米の瞳が現在に向く

「最期まで、馬鹿な奴だったな、鬼道にただ殺されに行ったのか、罠だと知っていただろうに」

「あいつは仲間を殺せない」菊一が言う

「知っている、想像はついていた。奴は大帝国を言葉で説得でもしようとしたんだろ、あいつらしい」

「で、私が聞きたいのは、文太と真堂丸って奴等をお前は気に入ったのか菊一?」

「ああ、大好きだ」

米の口元が緩む
「強さは知っている、あの狐の女だけではなく鬼神にすら勝ったらしいのぅ」

「ああ、とんでもねぇやろうだ」

「鬼道の集めた、あの十からなる化け物集団をことごとく討取るとは大した奴等だ、まさか大帝国がこんなことになるとは、さすがに想像せなんだ」

「で米に頼みがある、近く大帝国とぶつかることになると思っている、仲間を募っている、そしてあんたの力を借りたい」

「戦か」米は悲しい表情を浮かべる

「そして、まだ報告がある。あの三國人が生きていた」

米の目つきが変わる
「元凶は奴等じゃったか」

「奴等とは決着をつけねばならないのぅ」

すると洞海が「あの、三國人と言うのは強いのですか?」

「若者よ、鬼神に会ったことは?」

「いや、自分は元大帝国だったのですが、自分位の立場では幹部に会えるのは稀で直属の幹部の秀峰、あと雷獣にしか会ったことがありません」

「奴等をどう感じた?」

「こんなに強い人間がいたのかと、もし敵だと思うと恐ろしく思いました」

「私が三國人と対峙した時に感じたことだ」米が言う。

さっきあれだけの殺気を放ったこの人がそんな風に感じるのか。そんなに強いのか、洞海は息を飲んだ。

「あたしゃの故郷は奴等に潰されているんだ。まだ若くてねぇ、何も出来なかった、家族も友も親戚も皆奴等に殺された。自分だけが生き延びたのさ、そこから強くなる為に必死だった」

「まさかのぅ、奴等がまだ生きていたとはのぅ」

「俺たちが生きてる間に奴等を止めるぞ」菊一が言った。

その時
「そんな化け物に勝てるのですか?」洞海だった。

「二人は死ぬつもりでことに向かっている、それはわかっている、だが、逃げて関わらなければいい、そしたら一山だってまだ生きていられたんだ、仲間でもない同じ国に住むだけの他人の為にどうして命をはるんです」

米は優しい表情を浮かべ洞海を見つめた。
「わたしも長く生きたからのぅ、生きてると考えも変わるものじゃ  同じ人間、ひとつの家族 その人間同士が殺しあってるのを見て見ぬふりは出来なくなったんじゃ」

「この空のように、人々、命はちゃんと繋がっているとわたしは思っているんじゃ」

その言葉は洞海には衝撃だった。
他人は敵、我々大帝国の人間こそが正しく他は悪。
大帝国の人間達は皆がそう言っていた。自分達こそ優れていると、そうして同じ人間を皆殺し、虐殺すらしている、そう、殺しすら、そんな理由で正当化させ。
だが、ここにいる人間達は違った。
皆が一体、それを基盤に生きていたのだ。

人を慈しみ愛する心

洞海は気がつけばこんな問いを米に発していた
「人は一体何の為に生きてるのでしょう?」

「必要か?」

「えっ?」

「理由が必要か?」

「生きる それが目的じゃいかんかな」

「沢山笑い、泣き、喜び、怒り 、悩み、人生を愛し、生きよ 、すべてがいつか宝になるときがきっと来る」米は優しく洞海の肩に手をのせる

洞海は泣いていた、大帝国でこんなことを言えば殺されるだけだった。こんなに優しくされた。
自分は本当にこの者達と出会えて良かった。
人の温もりや愛が自身を支え、力を与えてくれている、
この者達はきっと誰に対してもこうなんだろう。
ずっと抱えていた孤独感などが溶けて消えていく気がした。
一山、俺も少しでも、この者達のように在れる様努力する。

自分は菊一さんと米さん、今の仲間達が大好きだ。

その時だった、米の表情が一気に豹変する

菊一も即座に刀を抜いた

ゾクッ
洞海に戦慄が走る

何故なら、圧倒的だったのだ

圧倒的想像を遥かに超えていた強者

身体は震えあがり、立ち上がることすらままならなくなる

そう、家の前に立っていたのは三國人

絶望が顔を覗く。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオー


その頃、文太達のもとでは。

真堂丸が立ち上がる

ゾクッ

「真堂丸?」

「奴が来た」

皆に緊張が走る

「一斎」

ザッ    ザッ ザッ

「夢のようだ」目の前に立つ一人の男

「待ちわびた、ずっと会いたかった」

真堂丸がほくそ笑む
「ああ、俺もだ」

あの野郎が一斎?しんべえの心臓が高なる、強いって言ったって相手はあの真堂丸だぞ。
だが、不安がよぎる、仲間達の顔を見回し思う。

なぁ、あいつ負けねぇよな

なあ  あいつ死なねぇよな

文太

頼む

安心出来るくらい強く、そう言ってくれ

望み、望まれ、今ようやく二人の男達は対峙する

「一斎」雪が弟の姿を見叫ぶ

「姉ちゃん、今は邪魔しないでくれよ」

あの子の瞳には私がうつっていない、私じゃもう止められない 真堂丸様 雪が祈るように思う。

「君が真堂丸だったんだね」

「山道で会ってから、忘れられなかった」

「いつか、僕が斬るって」

「僕は最近運が良い。君の友達だったのかな?彼は知っていた」

「?」

「僕しくじっちゃった、本当に後悔したんだ、それほど強く素晴らしかった、今までで一番強い相手だったんだ」

真堂丸にはすぐに分かった、そう一斎の手に握られるふろしき。

ゴロン

血の匂いがしていたから……

ふろしきの中から転がり落ちたのは骸の首

「うわあああああああっ」皆が叫ぶ

うっ、嘘  骸さん  
 文太の瞳に涙が浮かんだ。

太一も何だか力が抜けてしまう、一度は恐怖を植え付けられたが、自分の命を助けてくれ、圧倒的な強さに男として憧れのような物すら抱いていた その骸の首。

「嘘だろう、あの骸をやったのか?」道来、一之助、しんべえも驚きを隠せない。

「僕、彼に謝らないと、斬った後に知ったんだ。君との戦いの後で万全でなかったことに」

「凄かった、僕にそれを気づかせないんだから」

「彼は言ってた、真堂丸は俺より強いって」

「彼が万全だったら、僕に傷くらいはつけられたかも知れないのに」

ゾクッ
その言葉に皆の緊張は高まる、一斎が嘘や誇張して言ってるわけではないのを感じてしまうから。

自身の敗北は天地がひっくり返ってもない

だが太一は黙っていられなかった

「嘘つきやがれ、骸がおまえなんかに負ける訳ないだろっ」

道来が太一を見つめる

「まぁ、何でもいいよ、はやくやろう」

ドクンッ

文太の心臓が覚悟を決めた

ヒョオオオオオオーー

二人が刀を抜きはじめる

その相手の所作の美しさに道来は言葉を失った。
見事。なんだあいつは本当に人間か?あの境地にどうやったら辿りつける?
たった一つの所作で道来がここまで感じる程であった。

ザッ

「左利きか」
真堂丸はその光景を忘れることはないだろう

一瞬、目を疑った程
刀を自身とは違う利き手で持ち、立つ一斎の姿がまるで鏡に映る自分自身に見えた。

ニヤリ

勝っても、負けても おそらくこれが生涯最強の相手だろう 真堂丸は確信する

「行くぞ」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオーー


遂に真堂丸と一斎の決闘が幕を切って落とされる



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