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〜 流るる新しき風 〜
しおりを挟むチュン チュン チュン チュン
真っ暗だった空は晴れ青空の下、小鳥のさえずりが鬼ヶ島にこだましている
激闘の末
真堂丸が鬼神に勝ってから丸一日がたっていた。
真堂丸はいまだ目を覚ますことなく眠っている
「しかし、こいつ目さまさねぇなぁ」しんべえが真堂丸のほっぺたを引っ張り言う。
「さすがにあれほどの死闘の後、寝かせてあげとくでごんすよ」
「まあなぁ、しかし、こいつ本当にあの鬼神にまで勝っちまうんだから、本当に夢のようだぜ」
文太は真堂丸の寝顔を見つめ、心から安堵していた。
「さすが、真の兄貴だぜ、だけど今回ばかりはひやっとした、やっぱ鬼神は半端ない強さだった」
「そう言えば太一さん、道来さんは?」
「ああ、道来さんなら大体何してるか分かりやすよ」
その頃、道来は山の中、刀を振っていた。
「二万三百三、二万三百四」
真堂丸お前は鬼神との闘いで更に強くなった。
全く信じ難いことだ、あれからまだ強くなるんだからな。
私ももっと強くならなければ、お前の足を引っ張るだけだな。
「二万三百二十」
道来は鬼神との闘いを思い返す
あの時、私は刀の道を生きる者として、あらざるべき態度をとったやも知れぬ。
許せ真堂丸。
お前が負けてしまうと思った私は加勢する事にした。
己の判断に悔いは無いが。
お前が負けると疑った。
道来は刀を降り続けながら思う
だが文太、お前は本当に心より真堂丸を信じているのだな。
お前だけはあの時も変わらずに揺るがず真堂丸を信じきっていた。
大したものだ。
信頼
自身は真堂丸を信じきっていると思った。
だが極限状態、状況にて、己すら思ってもみない疑いや揺らぎが心の奥底から顔を覗かせる
その状況下で己の本当の心の奥を垣間見れた。
文太と真堂丸
心より信頼しあう強き絆
力以上の強さを己はあの時、目の当たりにしたのだ。
「ふっ、己も心共々、もっと強くありたい」
道来は空を見上げ、目の前の憧れの男達の姿を思い。
「二万四百四十」素振りを続ける
「どこまでも高く、揺らがない目標が出来た」と微笑んだ。
その頃、ののは青鬼や鬼達を看病していた。
ののは驚くことに既に自身を傷つけてきた、鬼達を赦していたのだ。
「お前、さんざん酷いことしてきた、俺たちをどうして介抱する?」
「今のみなさんは私の過去に出会ったみなさんとは違います、私にはみなさんの心が変わったのが分かります」
「だが、だからと言って過去の出来事を・・・」
「私はいつまでも恨んだりしてるのだったら、鬼さん達と手を繋いで仲良くして生きたいと思ってます」
「それに憎しみでこれから私自身の心を黒くしてたら、それこそ誰のせいでもなく私が自分で不幸の道を歩く選択、それこそ尚姉やおばあちゃんに顔向けが出来なくなる、だから、私は全部洗い流します」
「自分の為にもです」
「これから、仲良くやりましょう お願いします」
その言葉に涙を流す鬼達
「すまん、すまなかった」
青鬼は壁ぎわを向いて眠っていた。
だが、寝たふりをして話を聞いていたのだ。
今は後ろを振り返られないでいる
何故なら、その二つの瞳からは堪え切れない程の沢山の涙が溢れ出て頬を伝っていたから。
ずっと夢見て来た人間と鬼が仲良くなる時代
夢は諦めなければ叶うものなんだな、そんな事を強く想った。
夢見ていた人間と鬼が手を取り合い生きる時代、種族の垣根を越えて手を繫ぐ時代
痛く、辛く、苦しかった、古い扉を自ら一歩超えて手を差し伸べてくれたのは、ののだった。
ありがとう ありがとう
ゆるしてくれて ありがとう
こうしてひとつ
争いや怒りの輪廻の歯車は音を立てず崩れていった。
それを成したのは
罪をゆるした愛のこころであった。
人間の心の美しさ、愛という無限性に触れ、鬼達は心をうたれていた。
硬く深く閉ざされた、鬼達の心を一筋の光が完全に貫いた瞬間だった。
時、同時刻、一片の小舟が鬼ヶ島に上陸する
「静かだな一体どうなりやがったんだ?」
その声は菊一
「歩くぞ」すぐさま舟をおり、歩き出すガルゥラ
島を歩いていて、男達は事の顛末を確信する
すれ違う、島の人間達は泣きじゃくりながら、皆が笑い合い、心よりの笑みを浮かべあっていたのだ。
「島の人間が笑ってるな」
菊一は人間のあんな嬉しそうな表情を初めて見た。
その表情はどれほど過酷な状況を島の人々が生きて来たのかを察するに充分な表情だった。
ガルゥラの心は驚きを隠せなかった。
信じられん、あの鬼神に本当に勝ちやがったのか。
本当に本当なんだな。
菊一は心の中、一山に語りかける
なぁ、お前が信じた 新しい希望達は本当にやりやがったぞ、 女狐を討ち取ったと思えば鬼神にまで勝ちやがったんだ。
ずっと俺らがなし得なかったことを、彼らがやってくれた。
二人の心の中から我慢できないほどの、今まで抑えてきた気持ちが顔を出そうとしていた。
希望
いつからか、無意識にあきらめていたのかも知れねぇ。
どうせ、変わらないさと知らず知らずあきらめていたのかも、自身でもそれは仕方がないことだと思っていた。
世界は大きな大きな闇を目の当たりにした
大帝国
それはとてつもなく強大で計り知れない程強く、恐ろしい闇そのもの
配下には十からなる 人間がどう逆らっても勝てるはずのない真の怪物達
国はもう、この支配からは逃れられず、この支配下は永久に終わることはない
自身でも気づかぬ所そう思いこんでいた。
いつからか、長い事生き、世界が脅威に変わってしまっていたのだ
あまりにも強大なものの前に無意識にどこかあきらめていた。
だが
そんなことはない
道は必ず自身でつくりあげられる
未来は自らがつくってゆける
お前達が俺にそれを教えてくれたんだ。
希望はいつだって共にある
ふっ、俺としたことがねぇ。
菊一の口元は笑っていた。
「はやく、あいつらの顔がみてぇ、ガルゥラ行くぞ」
「フンッ」
その頃、文太達
「全くおめえは、また訳の分からねぇことをしやがる」としんべえ
文太は鬼神の墓石をつくっていた。
「こいつは、敵だろ?それにこんなのつくって村の人間が怒りだすだろ?」
文太は振り向かず土を掘りながら、つぶやいた。
「そしたら、まだ争いは終わらなかったってことです」
「はっ?」しんべえには言葉の意味が良く分からなかった。
一之助は思った、それぞれの心の奥にしまいこんだ、怨恨はまた新たな火種になる可能性がある。
大きなものから、小さないざこざを日常にうむ。
一人一人が自分の心としっかりと向き合った時に、その原因を見つけられ新たな道を発見出来る。
自身の経験から一之助はそんな事を感じていた。
「これくらいで、良いっすかね」と太一
「そうですね」
すると背後から
「私にも手伝わせて下さい」
振り向くとそこには、ののが立っていた。
文太はののを見つめ、嬉しく、気づくと力強く返事をしていた。
「はいっ、お願いします」
鬼達はまた、驚いている
一体なんなんだ?
なんで、敵だった存在にそんな事を?
恨み憎しむべき相手ではないのか?
青鬼がそんな鬼達の肩に手をやる
「俺たちも今まで殺めた人々の墓を作ろう、償いたい」
「はいっ、そうしましょう」
鬼達はこんな会話をしていた。
「不思議だな、あいつら見てると安心しねぇか?」
「何でだろうな、あいつら見てると涙が止まらなくなるんだ」
「青鬼さんなんでだろう、あいつらとっても、まぶしいよ」
「あんな綺麗なものがこの世にあるんだな」
「俺分かんねぇけど、なんだか心が喜んでるみたいだ」
「我々も今までとは違う道を共にあゆんでみようか?」
「青鬼さん、どこまでもついて行きます」
その光景を後ろで見ていた、菊一とガルゥラ
「信じられねぇな、鬼と人間が仲良くなってらぁ」
「ガルゥラ、あいつら見てると一山を思い出さねぇか?」
ガルゥラは黙っていた。
「あいつらなら、お前も再び人間と仲良くしたいなんて思うんじゃねえか?」
ガルゥラは一山との会話を思い出す
「人間とは哀れなものだ、同じ人間同士で競い合い、奪いあい、何もない土地に線を引きここからは自分の領土だと、国旗をつくり、またそれを奪い合い、殺しあう」
「大帝国はお前達人間の心そのものの結果ではないか」
「そうかも知れぬ」
「そんな人間を救う為に動くだと笑わせる」
「それでも、儂には希望が見えるんじゃ」
「そんなこと言って今までを見てみろ、また争い崩壊し歴史は何度繰り返されてる、また同じ結果だろ」
「そうならない為に儂は自分の出来る事をする」
「ガルゥラ次もそうなるなんてどこの誰に分かる?」
「儂はこの地球に生まれた人間、生き物達を愛し、信じることに決めたのだ」
「必ず皆が手を繋ぎあえる時代はやってくる、儂はそれを信じることしか出来んのじゃ」一山は微笑んだ。
「フンッ、笑わせるな」ガルゥラの口元は少し笑っていたように見えた。
その返事は今現在の目の前にいる菊一に言ったこと。
二人は皆に声をかけず、後ろからいつまでもその光景を眺めていた。
時代は変わる
いつか本当に争いのなくなる時代がやってくるかも知れない。
それを望む人間がそれを信じないでどうする
ああ、きっとそうなる
二人の目の前には、鬼達と仲良く手を繋ぐ人間達の姿が映っていた。
恐怖と絶望に支配されて来た鬼ヶ島に今、新しい風が吹き始めたのだ。
流るる新しき風
それは今まで感じたことのない調和の色をした優しい音色の風
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