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~鬼ヶ島~
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嫌な空気がその辺りには流れていた。
なんだか息苦しい感じすらする
死闘をくぐり抜け感覚が研ぎ澄まされた人間、相手の強さを敏感に感じとってしまう人間
そのような者だったら、彼の圧倒的な存在感を感じとり即座に震えが止まらなくなってしまうかもしれない。
直感が見えない何かを感じとり体は正直にそれに反応してしまう。
この者とは関わってはいけない。
「ワンッ ワン ワン ワンッ」一匹の犬が2人の男に吠えている
「コラッ、ハチだめだっ」
2人の男は立ち止まり
「貴様我々が誰だか分かってるんだろうな?」
飼い主の爺は2人の姿を見て愕然とする
「すみません、どうかハチは許してやって下さい」
姿からさっするに男達は大帝国の兵士達
「俺たちは大帝国の兵だぞ、これは反乱かな」
「何も分からない動物のした事ですから、どうかお許しを」
「我々の上には恐ろしい幹部がいるんだぞ、我々は強いんだ、我々の気をそこねるのは死に値すること、まずは犬を殺す」
ズバッ
「ひぃいぃぃぃっ」
大帝国の兵は斬り殺されていた。
「きっきさま、分かってるのか 我々は大帝国の兵だぞ」
ギロリ
兵隊はそいつの風貌に言葉を失った。
「まっ、まさかあなた様は」
全身焦げた肌 肌の色はまるで墨のような黒
男の姿はまるで焼け焦げて残った灰
この言葉通りだった。
「骸様っっ」
ズバッ
「あっ、あっあっ助けてくっくれて ありがとうごっございます」
あまりの恐ろしさに爺は地面に膝をついてしまった。
骸は何事もなかった様に歩き去っていった。
「あんな、カス共が生きがる 世も末だな 弱者が人の名前をたてに調子づきやがる」
「弱い奴は死ぬ以外にないんだよ」
「なあ真堂丸、お前と俺はどっちが生き残るんだろうな」
「俺を少しは楽しませろよ」
骸は急に立ちどまる。
どうやら、空がざわついていやがる。
うっすら笑みを浮かべ 「一波乱ありそうだな」
「俺も少し暇つぶしと行くか、名だけが残る老いぼれを始末するとしよう」
「白竜と言ったか? これから遊びに行くぜ」
白竜と言う怪物の強さはあまりに浮世離れしていたため、全ての人間が何処に住むかを知っているにも関わらず、誰一人として決して彼の住む場所に近づく事はなかった。
白竜の住む 龍山 と呼ばれるその祠から怪物は30年の月日を経て出現しようとしていた。
ここ何十年言われ続けていた言葉がある
この世で生き抜きたいのなら、決して 三者の怪物には手を出してはいけない
女狐 鬼神 白竜
その伝えは真堂丸と呼ばれる人間の男の手によって崩される。
絶対的な力の下、停滞していた時代は大きくうねりを上げ動き始めていた。
高い高い木の上にガルゥラはいた。
女狐が討ち取られた今、鬼神と白竜は動きだすだろう
「ふっ、しかし正直、真堂丸とか言う野郎には驚かされた、女狐を倒し、一つの時代を動かしやがった」
「だが、どうやってこれから出てくる大きな巨山を切り崩すか、こいつらは一苦労だな」
「一山、貴様が生きていれば、情けなくもそんな事を思う」
「ふぅー」
ガルゥラの目つきは変わった。
「行動にでるとしよう」
一山をもってして、刀の神と呼ばしめた男
一斎は胸を躍らせていた。
「あの、全身白ずくめの格好をした奴の話なかなか面白い、興奮が止まらない はやく そいつの元に行こうっと、よしっ今すぐ行こう」
一斎はいよいよ動き出す。
果たして彼の向かう場所は......
その晩、月夜が美しく輝いていた。
菊一の作った外風呂に、皆で火を焚きながら浸かっている。
「かあーっ、たまんねえな最高だぜぇ」しんべえが言った。
「おいっ、お前一人で場所とりすぎなんだよ」と太一
「んだとぉー」
二人はどうやら犬猿の仲らしい、僕らは会ってから毎度のように見る二人のやりとりによく笑わされた。
「まったく、この二人は仲が悪いでごんすね」
「それにしても道来殿、鬼の時は救われた、ありがとうでごんす」
「礼には及ばない、だがこの後が少しやっかいだな、とんでもないのが出てくることになる」
「鬼神に白竜ですか、どっちも小さい頃良く話を聞かされました」文太がつぶやく。
「真堂丸、厳しい戦が続くが身体は大丈夫なのか?」道来が真堂丸を見る。
「ああ、あの薬 大したもんだ」
「それに、敵はその二人だけじゃないでごんす、幹部が減ったとは言え、万にのぼる兵はいるであろう大帝国、それに骸、そして一山さんがそこまで言う程の男」
菊一は木の側、目をつむり横たわりながらも皆の話をしっかり聞いていた。
そんな時だった。
「綺麗な空だなぁ」
それは真堂丸の言葉
皆はその言葉に空を見上げる
僕、文太はその言葉が泣きそうになるほど嬉しかった。
真堂丸と出会ったばかりの頃には、こんな風に感じている事を真堂丸が伝えてくれるなんて考えられなかった。
今は僕らを仲間、いや、友だと思ってくれている。
嬉しかった。
このまま、争いなどなくみんなで暮らせたら。
この日々の命のやりとりの戦から皆を少しでも抜けださせてあげられたら。
僕らの夢はみんなでこの先も笑いあい生きるだけだった。
他に何がなくたっていい
富も名声も権力も要らない
みんなで平和に暮らしたい
それが僕らのたった一つの夢
夜空に輝く星は本当に綺麗だった。
それから僕らは菊一さんのもとで一週間程過ごし
その日の朝、真堂丸が言う「傷はもう大丈夫だ、出発しよう」
信じられない回復力だ、いくら俺の薬を使ったにしても全く信じ難い生命力。
菊一は今まで見たこともない人間の回復力に驚いていた。
「行くのは良いが俺の言った覚悟は決まったのか?」
文太は菊一をしっかり見つめ
「覚悟は最初から決まってます、ただ菊一さんの言ってた仲間が死ぬのを乗り越えていく覚悟とちがって、皆で共に生き抜く覚悟です」文太は言った。
菊一は微笑み「なら行ってこい、死ぬなよ」
「はいっ」
僕らは菊一さんに礼を言い出発した。
目指すは、鬼神が支配していると言われる土地
菊一は皆の後ろ姿を眺めていた。
「なぁ、一山お前が奴らを信頼した理由何となく分かるぜ」そう言い空を見上げた。
僕らの向かっている先
それは鬼ヶ島と呼ばれる場所
鬼神はそこにいる。
人間が自ら進んでその場所に行く事はまずないだろう
死にたい人間すらも、その死に方だけは選ぶ事はない
この世の地獄がそこにあると言われている
そこが僕らの向かう場所
馬が走ること2日、僕らはとある小さな町に着いた。
ここから、菊一さんの知り合いが小さな舟を出してくれるとのこと。
「この家に居るはずだ」道来は入り口の戸の前に立ち戸を叩いた。
ガラッ
中から顔を出したのは、みすぼらしい老人
「話は聞いている、お前達死にたいのか? 例え死にたくとも、どんな恐ろしい目にあうかを考えりゃそこにはいかねぇ」
「どんな理由かは知らないが、俺はお前らを島にとどけりゃ即逃げるぞ、菊一が命の恩人じゃなきゃ、絶対に俺はあんな所に行きゃしなかった、お前達あいつに感謝するんだな」
「ありがとうございます」
「今日の夜に出発する、明るい時に島に着いて鬼に見つからないようにする為だ、せいぜい人生最後の日を出発まで楽しんでおくんだな、8時に舟乗り場に来い」
「しかし、あんたらはとんでもない変わり者達だな、自ら地獄に向かうんだからな」
ガラッ戸はすぐに閉められた。
しんべえの足は震えている「本当にまさか自分が鬼ヶ島に行くことになるなんて、ちょっと前には夢にも思わなかったぜ」
ったく、俺もどうかしてやがるぜ。
「身の安全は保障出来ん、覚悟のない奴はここで待ったほうがいい」道来が皆を見て言う。
「知ってるぜ、俺も行く」しんべえは何故か自分に言われたような気がしてすぐに返事をした。
そのほぼ同時刻の頃
「貴様どうしたその腕?」
「人間にやられました、真堂丸の仲間かと思われます」
ブチッ
「どうやら、そいつらは俺すら恐れてないらしいな」
鬼神は人間が五十人でも持ち上げられない様な大きな大きな岩を片手で持ち上げ、投げ出した。
「許さん人間ごときが」
「鬼道との約束は無しだ、また人間を殺し始めるとしよう」
「おいっ、赤鬼はまだもどらねぇか?いつまでそいつを探すのにかかってやがる」
「残り二人の幹部を集めろ」
鬼神に呼ばれ二人の幹部が集まった。
黄鬼 に 青鬼
「おいっ、人間をまた昔のように殺す事にした」
黄鬼は喜ぶ「そりゃ、いいぜ旦那」
青鬼は表情には出さずに、心の中で叫んでいた。
嘘だろ、せっかく人間が安全な方に向かったと思ったのに、俺はただ人間と仲良くしてぇだけ。
のの どうやら やばいことになりそうだ。
鬼ヶ島はざわつき始めていた。
「頭、鬼ヶ島の人間達はどうする?」
青鬼の心臓が鼓動を速める
「ダメだ、こいつらは永遠に俺様の奴隷、死んで逃がすことはしない」
青鬼は歯をくいしばった。
「こりゃ楽しくなってきたぜー」
鬼達が声高々に叫び出す。
「と言うことだ、皆の衆 今日は夜通し飲み明かすとしよう」
鬼神は大きな口を開き笑い、大きな酒樽を持ち上げ一気に飲み干した。
ちょうどこの頃
真堂丸達の乗る舟は鬼ヶ島に向け出航する。
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