文太と真堂丸

だかずお

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~新たな脅威 ~

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「着いた、確かこの辺りだったはずだ」
走る馬を止め道来は外に出た。

そこは辺りに何もない山の奥深く
木々を覆い隠すよう霧が色濃くあらわれている。

「静かですね」と文太
しばし空気を吸いこみ身体中で感じていた。

ふぅー空気が美味しい。
すると突然後ろから声が「ここに何の用だ?」
鋭い眼光を感じ、一之介と太一は即座に刀を抜いた。

「甘いな小僧達、それで受けたら右腕が既にすっ飛んでたぜ、が  そうは出来なかったがな」

「その声は菊一さんっ」太一が声をあげる

この人がっ!一之介は驚いた。
医術の腕は確かだと聞いていたが刀の実力も只者ではなさそうでごんす。

菊一は辺りを見回し。

「お前が真堂丸で間違いないな?」

「ああ」

「はっはっはっは」突然笑い始めた。

「なるほど、確かにやべぇ 俺が殺気を放った瞬間、お前の殺気にぶるって刀を握れねぇとはなぁ」

こいつは確かに、若い頃の一山以上かもしれねぇな。

「文太とやらは、察するにお前か?」

「はい、そうですが?」

空気感がどことなく一山に似ていやがる。

菊一はすぐさま歩き出した。
「ちんたらする時間はないんだろ、すぐに俺の小屋に来な、薬を調合する」


その頃、鬼神は昔を思い出していた。
それは、とある一人の少女との出会い。
鬼神率いる鬼達は、ある集落を襲っていた。
そこに住む、人間達は皆殺しにされ、たった一人の少女だけがそこに立ち残されていた。
鬼神はその少女を殺さなかった、何故ならその少女は死体が転がるその場所で不気味に笑っていたのだ。

「何が可笑しい?気でも違ったか?」

「妾嬉しい、この人間共がこんな姿になって」

「ハッハッハ わらわ か 貴様名前は?」

「・・・・・・」
少女は鬼神を睨み返した。
鋭い眼光、そして俺を前にしてこの態度。
鬼神はこの少女は将来化ける、そう確信した。
その女は育ち、のちに女狐と呼ばれ怖れられるようになる。

「真堂丸と言ったか、許さんよくも俺が可愛がって育てた女を、あの白竜もブチ切れたんではないか、貴様はもうこの世で生きてられないぞ」
鬼神は立ち上がった、凄まじい気迫とその迫力は同じ鬼ですら、震えあがる程だった。

「おいっ、赤鬼よ どうせ大帝国の女郎蜘蛛の野郎もそいつを探してるはずだ、奴より先に真堂丸と言う小僧を探せ」

「分かりました」


静かな森の奥、皆は菊一の小屋にいる。
「お前、女狐を討ち取ったらしいな 正直驚いたぜ 真堂丸と言う名前は知っていたがまさかそこまでの器とは思わなかったぜ」

「だがな、女狐が今まで討ち取られなかったのはただ強かっただけじゃねえ、今でこそ大帝国の幹部に手を出す奴なんかいねぇが、その昔 女狐が大帝国に入る前、奴の名が響き渡りだした頃、あまりの残虐性に黙ってられず、俺や一山達は女狐を倒しに立ち上がった、だが失敗に終わったよ」

「何故だか分かるか? 奴の後ろには二匹の本物の化け物がついていた、一匹は鬼神と呼ばれる鬼の化け物、もう一匹が白竜と呼ばれる 龍の化け物だ、奴らが女狐を可愛いがっていた」

「奴らは文句なしに強かった」

その名を聞きしんべえは震えあがった。
心の中、またぁとんでもねぇ事になってきやがった、真堂丸おめぇ本当に大丈夫だよなぁ。
たっ、頼むぜぇ~

「白竜、まじか、奴は大帝国じゃねえからぶつかる事はないと思ってたんだが」太一が言った。

「どうやら戦いは避けられんか」と道来

真堂丸は何事もないかのように一心に刀を磨いている

「ふっ、大したたまじゃねえか、鬼神も白竜もおめぇの命を狙ってるってのに興味ねえか、二つの伝説だぜ」菊一は微笑み、最後に一山に会った時の事を思い出していた。

「てめぇ、死ぬ気だな?鬼道の所に行くんだな、俺も行く」

「いや、儂が一人で行く」

「馬鹿言え、あの野郎が一人で待ってると思うか?十の幹部が集合してるのは目に見えてる、あんな奴ら相手に一人でどうにかなる訳ないだろ」

「菊一、儂は沢山の人間をあやめた後、ずっと考え生きてきた」

「何言ってやがる?」

「愛とはなんぞや?と」

「てめぇ、阿保か?そんな甘っちょろい事いってられる場合か?
この状況 大帝国を潰さなきゃ沢山の人間が殺される、相手を殺して止める以外に何もないだろう?このまま黙ってみてるのか?
奴らが話をして聞くたまか?」

「大帝国の人間を殺し、止まるまで殺しあう、この争いと言う螺旋階段はいつになったら、止まるんじゃろうな?」

「知らねえよ、そんなの」

「絶対の答えなんかありゃしない、だがなようやく儂自身の答えが見つかったんじゃ」

「てめぇ、どうする気だ?」

「菊一、よく聞け。 お前の所にこれから文太と真堂丸と言う男たちが必ず会いに行く、
どうかその後は彼らに儂の時のように力をかしてやってくれ、彼らは必ず彼らの答えを見つけ出してくれるはずじゃ」

「てめぇ、正気か?お前がこの国の最後の砦だ、一人で行き死んだら、この国が絶望に終わる事を理解してるんだろうな?」

一山は真剣な眼差しで菊一を見つめた。

その視線はほんの小さな疑いと言う雲すら見えない澄んだ眼差しだった。

「彼らが絶対にそんな事にはさせん」

菊一は知っていた、一山と言う男は考えもなしに行動し、この国の民を見捨てるような男ではない、誰よりも人間を、生き物達を愛してきた男

お前はそいつらに何を見つけたんだ ?

その瞬間菊一はその言葉を信じることにした。

そして

「別れは言わねえぞ」
菊一は後ろを振り返らず歩きはじめる

今生の別れ

あばよ友よ 心の中思った。

別れは言わねぇぞ



その時だった。


「おいっ、菊一   」


菊一は足を止めずにそのまま歩き続けた。


「世話になった、達者でな」

二度と振り返らなかった、最後になるだろう、もう二度と姿を見る事はないだろう、わかっていた、奴は今どんな表情をしているんだ?
何度も共に死闘をくぐり抜けてきた最愛の友

その友と最後の別れ

だが 振り返らなかったのだ。

振り返れば、自分の瞳からこぼれ落ちてる沢山の涙を見られてしまうから。

菊一は文太と真堂丸達を見つめ
「お前達、これからどうするんだ?一筋縄じゃあいかねえぞ」

その返事はすぐに返ってきた。
「大丈夫、きっと何とかなります、そんな気がするんです」

「それに僕はみんなを信じてますから」

菊一は驚いた、このとんでもない状況の中、すぐさま何とかなると言いきり返事をしやがった。
こいつの表情、言葉に疑いはねぇ、面ぁ見りゃ分かる……
こいつも一山がしたように、仲間を完全に信じてやがる。
こいつの強さはなんだ? 
仲間達がそうさせてるのか?
頭にこんな言葉が浮かぶ

信頼

菊一は笑った。
こいつの言葉は一山まるでお前の言葉のようだ。
会ったばかりの俺の心に安心と信頼とやらを灯しやがった。

「ふっ、てめぇら 今日俺は気分が良い、好きなだけ食って飲んでいきやがれ」

一山、お前が見つけた希望は俺にその灯火をきちんと見せてくれたぜ。
俺もこいつらに全力で力をかすことをここに決めた。


その頃
「女狐が死んだだと」

「三人で暴れてた頃の記憶が蘇る」

白い鱗に人型、顔は龍の如し
「我が刀を握るなど久方ぶりになる、真堂丸」

「貴様ははじきに死ぬ」

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオー

女狐を超える脅威
国の歴史に名をとどろかせてきた本物の怪物達が今まさに真堂丸達に襲いかかろうとしていた。

菊一は真剣な眼差しで見つめ言った
「気をしっかり持て、地獄を見る事になるのは覚悟しろ、仲間が死ぬのも覚悟しろ」

その言葉にしんべえの心臓ははちきれそうになる。
一山と生きてきた奴のこの言葉 本当にやばい奴らなんだ・・・・しかも二匹だと。

「奴らはべらぼうに強い」


「伝説の怪物達をおまえ達は怒らせたんだ」



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