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~ガルゥラの回想~
しおりを挟むその男は過去を振り返っていた、彼の名はガルゥラ
自分達、鳥族を滅亡に追いやり、自分達の都合の為だけに自然を破壊し続ける人間と言う存在がガルゥラは大嫌いであった。
これはガルゥラ、鳥族が人々に住む場所を追われ山奥に隠れ住んでいた頃の話
「あんな奴らがいなければ、この地球上は一番自然な形で調和されていたんだ、そしたら鳥も動物達も植物も平和に暮らしていけていたんだ」ガルゥラらは人間に対する怒りで満ち溢れていた。
大勢いた、鳥族も今や三十に満たない数になっていた。
人間に殺された者、将来に絶望し自ら命を絶った者。
鳥族は心の優しい存在だった。
人間と言う種族が横暴になるまでは。
ある時、ガルゥラは長に懇願する
「人間に復讐しましょう、私は力には自信がある」
ガルゥラは確かに鳥族の中でも群を抜いて強かった。
「我々のこの人数で戦っても全滅するだけだ、それにな、争いはまた新たな火種をうみ次の争いに繋がる、
そしたら、この大地や自然を余計に失い汚す事になる」
「ですが、このままじゃ、我々は滅んでしまう」
「そしたら、それで仕方のない事だ、争い続けなければ生き残れないような世界なら、いずれ滅びるのが自然の定め」
ガルゥラは長の姿勢も気に食わなかった。
このまま、我々が滅びるだと
人間 人間 人間 人間 人間めぇ
ガルゥラの心は怒りと憎しみで満ちていた。
その時
ガルゥラは一瞬何かを感じ木陰に身を隠した、目の前を覗くと人間が寝ていたのだ。
ついに、この山奥にまで人間が入り込んできたか、このままじゃ、村が危ない ここで殺すか?
人間に手を出す事は争いをこのまない鳥族の御法度であった。
ええいっ、知るか、この場所すら奪われてたまるか、ガルゥラは力強く武器を握りしめた。
そうさ、誰にも分からないさ。
村を守るため仕方のない・・・
ガルゥラは人間に背後から近づいた。
すると
「やめておけ、お主じゃ俺には勝てん」
ガルゥラは驚いた、完全に気配は消したはず
何者だ?この人間
それがガルゥラと若き日の一山の最初の出会いであった。
「お主鳥族か、よろしく」一山は微笑み、すぐに手を出した。
この行為もガルゥラには到底信じがたい光景だった。
人間は我々のこの姿を気味悪がり、嫌な反応をするのが常だった。
しかし、この目の前の男はそんな反応を全く見せず、まるで友達と話すかのような、自然な素振り。
罠か?ガルゥラの頭に一瞬そんな思いもよぎった。
他に人間が隠れているのか?
ガルゥラは辺りを見回した。
一山はその所作を見逃さなかった。
「お前、人間に随分酷い目にあわされたんだな」
ガルゥラは自分の目を疑った。
なんと目の前の男が地面に頭をつけ土下座しているではないか
「こんなものでは足りんかもしれないが、鳥族の事は良く知っている、人間がお主達にした事、謝らせて欲しい」
その時だった、背後から沢山の人間の足音が、ガルゥラは即座に身を隠した。
ついにこの隠れ家もここまでか?
すると
「この先は崖だ行ったって通れやしない、先に進むなら、あっちからまわればいい」
「一山さんがそう言うなら、戻りましょう」
その名を聞いてガルゥラは驚いた。
一山だと?
その頃、既に一山の強さは国中に名を轟かしていた。
この男がそうなのか?
あの槍使いの一山。
「ここから先は、俺が人が近づかない様に皆に伝える、だから安心して暮らしていい」
「では、邪魔したな」一山は歩きだした。
俺の知ってるどの人間ともこいつは違う、その瞬間からガルゥラは一山という男に惹きつけられるようになっていた。
ガルゥラはその日、自分の村には帰らずこの男の後を隠れてついて行く事に決めた。
観察すればするほど不思議だった、何故なら彼の自然に対する振る舞いや敬意は、まるで自分達、鳥族と同じであったからだ。
一つ一つの所作ですぐに自然を大切にしていると言うことが分かった。
ある時それは、起こる。
一匹の子うさぎが崖の真横を歩いていた、その時、足場は崩れ
「しまった」ガルゥラは瞬間走り出していた、だが自分より先に崖から飛び出し兎を抱き抱え落ちて行ったのは一山であった。
「あの野郎、死んだのか?」ガルゥラはすぐに崖下に駆けおりて行った。
すると声がした。
「良かったなぁ、良かった、良かった はやくお母さんの所に帰りなさい」
この時、ガルゥラは初めて知った、人間にもこのような者がいると。
ガルゥラは一山の前に姿を現した。
「何者かがついてきてる気配を感じてたが、お主だったか」
「貴様、どうして兎を助けた?」
「どうして?って変な事をきくなぁ」
「答えろ」
「俺が助けようとすれば助けられたからかねぇ」
「そいつは動物、貴様ら人間とは違い、助けたって仕方のないものだろ?」
「違わんよ、同じ命じゃないか」
ガルゥラは人間にもこのような者がいると言う事をこの時、知った。
上っ面の口だけじゃない こいつも我々の様に行為で示してる奴だ。
長、人間にこのような者がいるなら、少しは自分も信頼してみようと思う。
それは生まれて初めてガルゥラが好きになった人間であった。
それから、二人は共に旅を続けた。
一か月に満たない旅であったが、人間と鳥族の垣根を越え、同じ生命として向き合ったかけがえのない日々であった。
「人間が皆お前のようであったら、種族の垣根すら越え仲良くやれるかもな」
「ああ、本当は平和や愛しあうことは皆が望んでる事なのかもしれない、だが心に潜む恐れなどがそれを邪魔している、一人一人が自分の心と向き合うことによってそれらは溶け、消えて行き、可能になると思う」
「こころか」
「きっと皆の中に眠ってる愛をそれぞれが見つめることがすべての解決策だと俺は思う、ちょっとくさかったかなぁ」一山は笑った。
「ああ、その顔で愛とは笑わせる」ガルゥラも笑い
二人は笑いあった。
「皆にそれを見出せると?思うか」
「ああ、自身に見ようと決めたら必ず」一山の表情と言葉は揺るぎないものに感じた。
翌朝ガルゥラは町でとんでもない噂を耳にする。
当時から鬼族は力ある者として怖れられていた。
そんな、中でもやはり有名だったのが、現大帝国の大幹部 鬼神
更に二人の鬼の兄弟も強くて有名だった。
奴らは 金閣鬼 銀閣鬼と呼ばれ、怖れられていた鬼だった。
その二匹が自分の村の山辺りで暴れていると言う噂だった、全身に悪寒が走った、俺は皆を放ったらかしにしてしまっていた、気がついたら全力で走っていた。
実はこの頃、大帝国と言う組織がしっかりと出来上がる前、鬼道は自身の帝国をつくりあげる為に国中を周り強い者を集めていた。
その中で目をつけたのが鬼族。
自然を愛し生命を大切にするような、鳥族は政策上邪魔だったのだ。
これからは、闇と恐怖で支配する、それが鬼道の考えだった。
それ故、鬼族の暴れん坊を鳥族の住む場所を探し出し、けしかけていたのだ。
ガルゥラは道行くなか、考えた、俺一人で奴らに勝てるか?
ええい、今はそんな事考えてる場合じゃない。
一山に助けを申しでれば?
笑わせる、奴には関係ない
それに友を危険な目に合わせるわけには。
けっ、俺が人間を友だと笑わせやがる、勘違いも良い所だ。
ガルゥラは全力で村に向かった。
二日後の夜、村に着いた時、ガルゥラは泣いた。
村は破壊され、鳥族は二人の小さき子を残して皆殺しにされていたのだ。
村の中心に堂々と居座る二匹の鬼達
「この二匹の鳥のがきは俺たちの奴隷にしようぜ、銀閣」
「ああ、そいつは良いな」
ザッ
「貴様らゆるさん」ガルゥラは気づくと鬼の前に立っていた。
「おやまぁ、まだ生き残りが居たか、鬼道の旦那に怒られちまう所だったな」
ズンッ
ガルゥラも強かったが分が悪かった、相手は二匹
気付いた時には地面に倒れていた。
泣きわめく鳥族の子供達「ガルゥラ」
ガルゥラは悔しくて、悔しくて、悔しくて、たまらなかった、すまねぇ、仲間を殺され、そしてこれから奴隷にされる子供達を助けてやることすらできなぃ、悔し涙が止まらない。
「丸焼きにして喰うのも美味そうだな銀閣」
「やめとこうぜ、こんなの不味いよ」
「それも、そうだな 死ねっ」
くっそうううううーすまん すまんっ すまんっ
ドゴオオオーン
「おっ、お前」
「水くさいじゃねえかよ」
「どうして、こんなとこまでついてきやがった?」
「血相抱えて走ってたのが見えたからよ、飛ぶのはずるいぜ、少し見失った」
「ちげーよ、こいつらあの有名な金閣と銀閣なんだよ、何故きちまったんだ?」
「友達だろう」
ガルゥラは生まれて初めて人間の言葉に泣いた。
「鬼達よ、俺は殺生はもうしたくない、二度とこのような真似はしないと誓え」
「ああっ?」
戦うしかなかった。
死闘の末、金閣と銀閣は二人によって打ち倒された。
ガルゥラの胸に今もあの頃の一山の言葉がしっかりと刻まれていた。
友達だろう
俺の為に命をかけてくれた友
そして現在
いけすかねぇ、こいつを見てるとよ、お前を思い出すんだよ、一山
刀は心の臓を貫いていた。
蠅王蛇の心の臓を貫いていたガルゥラの刀
真堂丸は地面に寝そべるよう倒れた
ドサッ
「ばかやろう、おせぇぜ、助けないのかと思った」
「ふっ、少々 過去をさまよってたのさ」ガルゥラは静かに微笑んでいた。
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