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~ 別れ ~
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日は沈みはじめていた。
真っ赤に燃える沈みかかる巨大な太陽が、目の前に見えている。僕らは馬に乗り全力で大帝国の城から逃げていた。
僕が真堂丸と同じ馬に乗り、道来さんと太一さんが一緒の馬に乗り、馬は全力で走る 僕の故郷へ向け。
道来もまた深い傷をおっていて、今にも意識を失いそうだったが、驚異的な集中力が自身の傷の痛みを忘れさせていた。
今、自分が仲間を守らなければならないという一種の使命感のようなものが依然集中力を切らさず、道来の意識をかろうじて保っていた。
道来は先程から太一の様子を見て、ひとつ気になることがあった。
太一の身体は小刻みに震えている
「太一、さっきからずっと震えてるその身体、この土壇場を切り抜けたことからきてるのか?」
「道来さん、確かにそれもあります、今振り返っても自分達がしたことゾッとします、もちろん後悔はねえですが、だが俺は見てしまったんです」
「見た? 何をだ?」
「骸という男の目です、どこまでも底のない恐ろしい目、そして一瞬で俺でも分かったあの計り知れない強さ」
道来は太一を見つめた。
「これから、先あんなのに一生追われることになる、そんなことを考えちまうと情けねぇ話、身体が震えちまって」
道来は静かに語りはじめた
「俺はお前達と別れた後、滝の所で襲ってきた、白い刃の一員の秀峰とやりあった、あいつは片腕が使えない状態だったにもかかわらず、俺はまるで歯が立たなかった」
太一は息をのみ、額からは一筋の汗が流れ落ちる
「太一、私も本当は恐い。だが、そんなとんでもない奴等を敵として相手にするのに、今自分がこれだけ冷静でいられるのはあいつのおかげかもしれない」
道来の視線の先には真堂丸がいた。
太一はハッとする。
真の兄貴 あの人はあんな本物の化け物達と闘える
道来は言葉をつづけた
「もちろん、頼りきるつもりはない、私はこれから腕を磨く、もっともっと強くなる、愛する者たちを守りたいからな。 忘れるな太一、お前は一人じゃない」
太一は笑った「我ながら情けなかったっすね、真の兄貴もいる、それに文太の兄貴も、道来さんも」こんな頼もしい仲間達がいるんだ。
「俺も、強くなります、兄貴達の役に立ちてえ」
道来は微笑み
「みんなで生き抜くぞ」
「はいっ」
隣の馬の上から、突然文太の声が聞こえた。
「みなさん本当にありがとうございました、みなさんのおかげで命が救われました」涙まみれで 顔をくしゃくしゃにした文太のお礼だった。
「あっはっはっは、文太の兄貴、涙を拭ってくだせえよ、そんな顔みりゃもう、さっきのことなんてどうってことないですよ」
「それに涙だけじゃない、鼻水もはやく拭ったほうがいい」道来は笑った
僕らは笑いあった
いつまでも、こうしていれたらいい、争いなんてなくて、みんなで笑い合って暮らせるなら 他に何もいらない。
勝利も名声もいらない。
僕はただただ平和を望んでいた。
いや、きっとここにいる僕らみんなが、同じ気持ちだっただろう。
辺りは真っ暗、追っても来ていない
「真の兄貴は大丈夫ですか?」
「眠ってるようです、でも一刻もはやく治療してもらわないと」
道来はいまや一瞬でも気を緩めば意識が飛んでしまいそうな状態にいた。
自分の傷は太一には見えないように隠していた。
「真の兄貴大丈夫ですかね?」
「ねえ、道来さん?」
「あっ、ああ 確かにな村はまだか?」
「もうすぐです」
太一はこの時、ようやく気がついた。
道来の額から大量の汗が出て身体をおおった布に血がにじみでていたことを。
「道来さん、この傷?」
「大丈夫だ、急ぐぞ」
太一は気が気じゃなかった
この傷・・・
急がなければ。
危ないのは真の兄貴だけじゃない。
文太は村にいる時、怪我などした人たちの治癒をよく手伝っていた
最低限の応急処置は出来てると思うけど、こんな傷はやったことはなかった。
一刻もはやく急がないと。
気持ちは焦り、まだ不安は消えないでいた。
外が明るくなりだした頃
「見えました、僕の村です」
馬から飛び降り、すぐさま文太はゆっくり慎重に真堂丸を担いだ。
「おめー文太か?」
村中の人が喜び声をあげる
「作蔵さんはいる?」
「いるがなに慌ててるんだ?」
「助けて欲しい友達が、お願い急いで」
文太のただならぬ様子を感じとった村の人達はすぐさま立ち上がった「分かった」
安心した道来もすぐさまその場に倒れ込む。
「道来さん!?」
太一は傷が開かぬように道来を担いだ。
「この人もお願いします」必死に叫んでいた。
僕は驚いた、道来さんもこんな傷を。
「分かった 二人ともすげえ傷だ、こりゃあ・・・・」
傷を見た作蔵は言葉を失った。
「友達なのかい?」
「どうしても、助けたい友達なんです」
作蔵は拳を強く握りしめる。
即座に感じたこと、しかし文太達に伝えることは出来なかった。
それは口が裂けても言えない正直な気持ち。
これは、もう助からない。
ながく人々の治療を続けてきた男が直感で感じたことだった。
しかし、無論 やることはやる大事な文太の友達
「すぐに準備せえ」
表情は一変する。
僕と太一さん、村のみんなはずっと寝ずに看病しつづけた、それは三日三晩続いている。
作蔵は本気で驚いていた
「信じられん人間達だ、普通は死んで当然の状態、それがまだ生きている」この今の状況それは自分の目を疑う程であった。
「後は意識が戻ればいいんだが」
確実に助からないと思った。
なんと生命力の強い人間達。
なにが彼らをここまで強くこの世にとどめさせたのか?
それは医師としてはじめて感じた人間の持つ神秘的な力、いや人知を超えるなにか大きな力を垣間見たような気がした。
五日目の朝だった、道来が目を覚ます。
「道来さん」
文太と太一は抱き合い、そして喜んだ。
「良かった」 「本当に良かった」
「私は一体どれくらい?」
「五日間、眠っていたんです」
「そうか、助かった 私は生きてるのか」道来は笑った。
生きてることが尊いと、はじめて感謝をした瞬間だったかもしれない。
「真堂丸は?」
「まだ、意識が戻りません」
「そうか・・」
その日の夜、いまだに真堂丸の意識は戻らないでいる。
これは夢の中だろうか?
真堂丸は真っ暗な道を歩いていた。
気がつけば、目の前にはとても綺麗な見たこともない美しい花畑が広がっている
それはものすごく心地良いところだった。心は解放されたようでなんとも幸せな気持ちでいる、これはあの世か?
このまま進もう、迷うことはない、そう思った時だった。
目の前に自分が今まで斬った沢山の人間達が立っているのだ。
しかし、どういう訳か
誰一人怒っておらず、優しく微笑んでいる。
真堂丸はそのまま進もうとした
その時ハッキリと感じた言葉のようなもの
「ねえ、行っちゃうの?」
真堂丸は足をとめる
「お兄ちゃんが行ったら、あの国の人達はどうなるの?」
真堂丸は一瞬立ちどまったが、そのまま歩いて進んでいた。
「お兄ちゃんの仲間はどうなるの?」
その一言に足が完全に止まる
真堂丸を見た作蔵はつぶやいた
「もう、駄目かもしれん、ここまで彼はよく頑張った」
「そんなっ」
文太は叫んだ「真堂丸 真堂丸」叫び続けた
太一も道来も一緒に名を呼び続ける
「真の兄貴」 「しっかりしろ真堂丸」
その時、確かに真堂丸は、ハッキリと己を呼ぶ声を感じた。
そして、行き先を変え 再び声のする方に向かうことを心に決心する。
そこにいた人達は優しく微笑んでいた。
それは、誰一人己を恨んでるようには見えなかった、むしろ見守ってくれているようにも感じた。
「ありがとう礼を言う」
「文太、道来、太一」
突然、真堂丸が目をあける
僕らは涙を流し、再び抱き合い、喜びあった。
こうして、一緒に生きることの喜びを分かち合ったのだ。
再びみんなで道を歩めることを、心から感謝した。
一緒に過ごせるかけがえのない時間を僕らは見つけ取り戻したのだ。
真堂丸は、今自分には、生まれてはじめて自身を必要としてくれる人々がいることに気がついた。
はじめて自分の存在を喜んでくれる人間達に出会った。
真堂丸の瞳からも自然と一粒の涙がこぼれ落ちる。
再び目をあけたそこには、大切な仲間たちが自分を待っていてくれていたのだ。
「まったく、年とるとだめだねぇ、こっちまで泣いちまう」作蔵はすぐさま村人達に回復したことを伝えにいき。
村中の人達もまた、文太の友達の無事に涙し、嬉しがり喜んでくれた。
それから、一週間とたたないうちに道来は立ち上がり、稽古を始め、朝から気合いが入っている。
新鮮な気持ちだった、まるで生まれ変わったような気分。
始めて稽古が楽しいと感じた自分に驚いた。
この今と言う時が、こんなにも愛しく感じる時間になるなんて。
死にかけたことによって、生きてることのありがたみに気づいたことから、このような気持ちなのか。
刀の振る目的の変化によるものか、それは分からなかったが。
とにかく、刀の稽古、素振りをこんなに気持ちよくやったのは生まれてはじめてのことだった。
生きている、生きているんだ!!
真堂丸も今は起き上がり、身体を動かせるまで回復していた。
「まったく、本当に驚異的な回復力だ」
自分の想像を遥かにこえた、人間の身体の神秘を目の当たりにして作蔵は自身の持つ肉体の概念など、本当にちっぽけなものなのかもしれないと感じていた、奇跡それをこの目で目の当たりにした気持ちだった。
自分は医師として、常識や知識の上では肉体の事を理解しているが、肉体の持つ神秘さなど、まだまだ知らない事ばかりなのだな、己が知らない事に謙虚に気づき認められ良かった。
作蔵はどこまでも続く、青い空を見上げていた。
文太は母親の畑仕事を手伝い。
太一は村人達と酒を酌み交わし、すっかりみんな仲良しになっていた。
夕方頃
道来は稽古をまだしている
「道来」
「なんだ?」それは真堂丸の声
「一緒に刀合わせを願う」
道来はそれを聞き、まるで無邪気な子供のように喜んだ表情を浮かべた
「是非願う」
僕と太一さんもそれを見ていてとても嬉しくなった。僕らはきっとこの瞬間の光景を生涯忘れないだろう。
二人は毎日の様に朝から晩まで刀を合わせ、僕と太一さんもずっとずっと見ていた。
それは、決闘でもなく 命のとりあいでもない。
「刀と刀で触れ合う、こんなに面白いことだったんだな」道来が言った
「ああ、こんな刀の使い方があるんだな」真堂丸は嬉しそうに笑った。
二人共、本当に無邪気な子供の様に楽しそうだった。
「いつか、刀が人を殺す道具ではなく、娯楽の為にこうして楽しむ為に使われることを願う」真堂丸がそうつぶやいたのを。
僕は生涯忘れないだろう。
いつだって物が凶器になるか、活かすものになるか、それを使う人間にすべてかかっているのだ。
僕らは二人の稽古する、この光景を、いつまでも、いつまでも眺めていられた。
ある日のこと、村人達は朝から話し合っていた。
「大変だよ、奴ら今月は金と米を多くだせって、言って気やがった、俺たちが少しずつ豊かになってるって思ってやがるんだ、でなけりゃ大変な目に合わすって」
太一は村人のその会話を耳にしていた。
「で、どうするんじゃ?」
「断ろう」
「だな、こう要求をのみつづけていても」
「だが、大変な目に合わすっていうのはどうする?」
「私が明日伝えてこよう」
「大丈夫かい?」
「なんとか、なるだろう」
そんな会話を耳にした、太一は文太にきいた。
「文太の兄貴、この村の人達は一体誰に金を払いつづけてるんでぇ?」
「昔から、みかじめ料として毎月あそこにある、大きな屋敷の人にお金を払いつづけてるんですよ」
「一体どうして?」
「理由はないですよ、彼らみたいな人は、金で山賊やら用心棒をやとって、村を見つけてはそうやってお金を稼いでるんです、小さな村ではよくある話です」
「そうでしたか」
太一は決めた、屋敷に向かおうと誰にも言わず一人決めた。
村を出る時だった
「水くさいな」道来は石碑の影に立っていた。
「私にも手伝わせてくれ、この村人達には感謝してる」
「すべてお見通しってわけですね」
「怪我は?」
「問題ない」
一人で決めて歩きだした
今は二人で歩いている
一緒に寄り添い歩く存在がいた。
夕方頃
村に道来と太一が戻って来る。
「何処行ってたんですか?心配してたんですよ」
「あはは、すんません文太の兄貴ちょっと、ひと暴れしちゃって」
「えっ? まさか?」
「おい、文太、真堂丸」道来の突然の呼びかけ。
文太と真堂丸は道来を見つめた
「世話になったな」
「えっ、どういうことですか?」
「あの屋敷の奴はもう二度とこの村からみかじめをとらないだろう、雇った山賊をけしかけてきたもんだから、全員倒した。もちろんこの村には関係ないってな、通りすがりの正義感の強い男達ってことにしといた」道来は笑った。
「だから、文太の兄貴達、俺たちはここにいちゃあ、まずい 一足先に行きますぜ」
「何処に行くんだ?」真堂丸が言った。
「そうだな、自分達の町にはもう住めない、あそこは大帝国の支配下にあるからな、一回荷物を取りに戻る、その時平八郎さんには俺たちから事情を説明しておくから心配いらない」
「道来さんと決めたんだ、国をまわって旅をしようって、もちろん修行しながら」
「今の私達じゃあ、大帝国に狙われた時、何も役に立てないのが痛いほどわかった。
一度、一山先生のもとに行くつもりだ もっと強くなる そして、またいつか会おう 」道来は手をだす。
真堂丸と道来は強く熱い握手をかわした
「ああ、必ず」
「寂しくなりますが、次会う時はもっと成長してますから」
僕らも握手をかわす。
こうして、僕達はお互いの道を進むことに、必ずまた何処かで会えるだろう、その時まで しばしお別れ
太一さん 道来 さん 本当にありがとう
僕らはいつまでも二人の背中を見つめ 僕は手を振り続けていた。
また必ず
必ず
会いましょう 約束です
真っ赤に燃える沈みかかる巨大な太陽が、目の前に見えている。僕らは馬に乗り全力で大帝国の城から逃げていた。
僕が真堂丸と同じ馬に乗り、道来さんと太一さんが一緒の馬に乗り、馬は全力で走る 僕の故郷へ向け。
道来もまた深い傷をおっていて、今にも意識を失いそうだったが、驚異的な集中力が自身の傷の痛みを忘れさせていた。
今、自分が仲間を守らなければならないという一種の使命感のようなものが依然集中力を切らさず、道来の意識をかろうじて保っていた。
道来は先程から太一の様子を見て、ひとつ気になることがあった。
太一の身体は小刻みに震えている
「太一、さっきからずっと震えてるその身体、この土壇場を切り抜けたことからきてるのか?」
「道来さん、確かにそれもあります、今振り返っても自分達がしたことゾッとします、もちろん後悔はねえですが、だが俺は見てしまったんです」
「見た? 何をだ?」
「骸という男の目です、どこまでも底のない恐ろしい目、そして一瞬で俺でも分かったあの計り知れない強さ」
道来は太一を見つめた。
「これから、先あんなのに一生追われることになる、そんなことを考えちまうと情けねぇ話、身体が震えちまって」
道来は静かに語りはじめた
「俺はお前達と別れた後、滝の所で襲ってきた、白い刃の一員の秀峰とやりあった、あいつは片腕が使えない状態だったにもかかわらず、俺はまるで歯が立たなかった」
太一は息をのみ、額からは一筋の汗が流れ落ちる
「太一、私も本当は恐い。だが、そんなとんでもない奴等を敵として相手にするのに、今自分がこれだけ冷静でいられるのはあいつのおかげかもしれない」
道来の視線の先には真堂丸がいた。
太一はハッとする。
真の兄貴 あの人はあんな本物の化け物達と闘える
道来は言葉をつづけた
「もちろん、頼りきるつもりはない、私はこれから腕を磨く、もっともっと強くなる、愛する者たちを守りたいからな。 忘れるな太一、お前は一人じゃない」
太一は笑った「我ながら情けなかったっすね、真の兄貴もいる、それに文太の兄貴も、道来さんも」こんな頼もしい仲間達がいるんだ。
「俺も、強くなります、兄貴達の役に立ちてえ」
道来は微笑み
「みんなで生き抜くぞ」
「はいっ」
隣の馬の上から、突然文太の声が聞こえた。
「みなさん本当にありがとうございました、みなさんのおかげで命が救われました」涙まみれで 顔をくしゃくしゃにした文太のお礼だった。
「あっはっはっは、文太の兄貴、涙を拭ってくだせえよ、そんな顔みりゃもう、さっきのことなんてどうってことないですよ」
「それに涙だけじゃない、鼻水もはやく拭ったほうがいい」道来は笑った
僕らは笑いあった
いつまでも、こうしていれたらいい、争いなんてなくて、みんなで笑い合って暮らせるなら 他に何もいらない。
勝利も名声もいらない。
僕はただただ平和を望んでいた。
いや、きっとここにいる僕らみんなが、同じ気持ちだっただろう。
辺りは真っ暗、追っても来ていない
「真の兄貴は大丈夫ですか?」
「眠ってるようです、でも一刻もはやく治療してもらわないと」
道来はいまや一瞬でも気を緩めば意識が飛んでしまいそうな状態にいた。
自分の傷は太一には見えないように隠していた。
「真の兄貴大丈夫ですかね?」
「ねえ、道来さん?」
「あっ、ああ 確かにな村はまだか?」
「もうすぐです」
太一はこの時、ようやく気がついた。
道来の額から大量の汗が出て身体をおおった布に血がにじみでていたことを。
「道来さん、この傷?」
「大丈夫だ、急ぐぞ」
太一は気が気じゃなかった
この傷・・・
急がなければ。
危ないのは真の兄貴だけじゃない。
文太は村にいる時、怪我などした人たちの治癒をよく手伝っていた
最低限の応急処置は出来てると思うけど、こんな傷はやったことはなかった。
一刻もはやく急がないと。
気持ちは焦り、まだ不安は消えないでいた。
外が明るくなりだした頃
「見えました、僕の村です」
馬から飛び降り、すぐさま文太はゆっくり慎重に真堂丸を担いだ。
「おめー文太か?」
村中の人が喜び声をあげる
「作蔵さんはいる?」
「いるがなに慌ててるんだ?」
「助けて欲しい友達が、お願い急いで」
文太のただならぬ様子を感じとった村の人達はすぐさま立ち上がった「分かった」
安心した道来もすぐさまその場に倒れ込む。
「道来さん!?」
太一は傷が開かぬように道来を担いだ。
「この人もお願いします」必死に叫んでいた。
僕は驚いた、道来さんもこんな傷を。
「分かった 二人ともすげえ傷だ、こりゃあ・・・・」
傷を見た作蔵は言葉を失った。
「友達なのかい?」
「どうしても、助けたい友達なんです」
作蔵は拳を強く握りしめる。
即座に感じたこと、しかし文太達に伝えることは出来なかった。
それは口が裂けても言えない正直な気持ち。
これは、もう助からない。
ながく人々の治療を続けてきた男が直感で感じたことだった。
しかし、無論 やることはやる大事な文太の友達
「すぐに準備せえ」
表情は一変する。
僕と太一さん、村のみんなはずっと寝ずに看病しつづけた、それは三日三晩続いている。
作蔵は本気で驚いていた
「信じられん人間達だ、普通は死んで当然の状態、それがまだ生きている」この今の状況それは自分の目を疑う程であった。
「後は意識が戻ればいいんだが」
確実に助からないと思った。
なんと生命力の強い人間達。
なにが彼らをここまで強くこの世にとどめさせたのか?
それは医師としてはじめて感じた人間の持つ神秘的な力、いや人知を超えるなにか大きな力を垣間見たような気がした。
五日目の朝だった、道来が目を覚ます。
「道来さん」
文太と太一は抱き合い、そして喜んだ。
「良かった」 「本当に良かった」
「私は一体どれくらい?」
「五日間、眠っていたんです」
「そうか、助かった 私は生きてるのか」道来は笑った。
生きてることが尊いと、はじめて感謝をした瞬間だったかもしれない。
「真堂丸は?」
「まだ、意識が戻りません」
「そうか・・」
その日の夜、いまだに真堂丸の意識は戻らないでいる。
これは夢の中だろうか?
真堂丸は真っ暗な道を歩いていた。
気がつけば、目の前にはとても綺麗な見たこともない美しい花畑が広がっている
それはものすごく心地良いところだった。心は解放されたようでなんとも幸せな気持ちでいる、これはあの世か?
このまま進もう、迷うことはない、そう思った時だった。
目の前に自分が今まで斬った沢山の人間達が立っているのだ。
しかし、どういう訳か
誰一人怒っておらず、優しく微笑んでいる。
真堂丸はそのまま進もうとした
その時ハッキリと感じた言葉のようなもの
「ねえ、行っちゃうの?」
真堂丸は足をとめる
「お兄ちゃんが行ったら、あの国の人達はどうなるの?」
真堂丸は一瞬立ちどまったが、そのまま歩いて進んでいた。
「お兄ちゃんの仲間はどうなるの?」
その一言に足が完全に止まる
真堂丸を見た作蔵はつぶやいた
「もう、駄目かもしれん、ここまで彼はよく頑張った」
「そんなっ」
文太は叫んだ「真堂丸 真堂丸」叫び続けた
太一も道来も一緒に名を呼び続ける
「真の兄貴」 「しっかりしろ真堂丸」
その時、確かに真堂丸は、ハッキリと己を呼ぶ声を感じた。
そして、行き先を変え 再び声のする方に向かうことを心に決心する。
そこにいた人達は優しく微笑んでいた。
それは、誰一人己を恨んでるようには見えなかった、むしろ見守ってくれているようにも感じた。
「ありがとう礼を言う」
「文太、道来、太一」
突然、真堂丸が目をあける
僕らは涙を流し、再び抱き合い、喜びあった。
こうして、一緒に生きることの喜びを分かち合ったのだ。
再びみんなで道を歩めることを、心から感謝した。
一緒に過ごせるかけがえのない時間を僕らは見つけ取り戻したのだ。
真堂丸は、今自分には、生まれてはじめて自身を必要としてくれる人々がいることに気がついた。
はじめて自分の存在を喜んでくれる人間達に出会った。
真堂丸の瞳からも自然と一粒の涙がこぼれ落ちる。
再び目をあけたそこには、大切な仲間たちが自分を待っていてくれていたのだ。
「まったく、年とるとだめだねぇ、こっちまで泣いちまう」作蔵はすぐさま村人達に回復したことを伝えにいき。
村中の人達もまた、文太の友達の無事に涙し、嬉しがり喜んでくれた。
それから、一週間とたたないうちに道来は立ち上がり、稽古を始め、朝から気合いが入っている。
新鮮な気持ちだった、まるで生まれ変わったような気分。
始めて稽古が楽しいと感じた自分に驚いた。
この今と言う時が、こんなにも愛しく感じる時間になるなんて。
死にかけたことによって、生きてることのありがたみに気づいたことから、このような気持ちなのか。
刀の振る目的の変化によるものか、それは分からなかったが。
とにかく、刀の稽古、素振りをこんなに気持ちよくやったのは生まれてはじめてのことだった。
生きている、生きているんだ!!
真堂丸も今は起き上がり、身体を動かせるまで回復していた。
「まったく、本当に驚異的な回復力だ」
自分の想像を遥かにこえた、人間の身体の神秘を目の当たりにして作蔵は自身の持つ肉体の概念など、本当にちっぽけなものなのかもしれないと感じていた、奇跡それをこの目で目の当たりにした気持ちだった。
自分は医師として、常識や知識の上では肉体の事を理解しているが、肉体の持つ神秘さなど、まだまだ知らない事ばかりなのだな、己が知らない事に謙虚に気づき認められ良かった。
作蔵はどこまでも続く、青い空を見上げていた。
文太は母親の畑仕事を手伝い。
太一は村人達と酒を酌み交わし、すっかりみんな仲良しになっていた。
夕方頃
道来は稽古をまだしている
「道来」
「なんだ?」それは真堂丸の声
「一緒に刀合わせを願う」
道来はそれを聞き、まるで無邪気な子供のように喜んだ表情を浮かべた
「是非願う」
僕と太一さんもそれを見ていてとても嬉しくなった。僕らはきっとこの瞬間の光景を生涯忘れないだろう。
二人は毎日の様に朝から晩まで刀を合わせ、僕と太一さんもずっとずっと見ていた。
それは、決闘でもなく 命のとりあいでもない。
「刀と刀で触れ合う、こんなに面白いことだったんだな」道来が言った
「ああ、こんな刀の使い方があるんだな」真堂丸は嬉しそうに笑った。
二人共、本当に無邪気な子供の様に楽しそうだった。
「いつか、刀が人を殺す道具ではなく、娯楽の為にこうして楽しむ為に使われることを願う」真堂丸がそうつぶやいたのを。
僕は生涯忘れないだろう。
いつだって物が凶器になるか、活かすものになるか、それを使う人間にすべてかかっているのだ。
僕らは二人の稽古する、この光景を、いつまでも、いつまでも眺めていられた。
ある日のこと、村人達は朝から話し合っていた。
「大変だよ、奴ら今月は金と米を多くだせって、言って気やがった、俺たちが少しずつ豊かになってるって思ってやがるんだ、でなけりゃ大変な目に合わすって」
太一は村人のその会話を耳にしていた。
「で、どうするんじゃ?」
「断ろう」
「だな、こう要求をのみつづけていても」
「だが、大変な目に合わすっていうのはどうする?」
「私が明日伝えてこよう」
「大丈夫かい?」
「なんとか、なるだろう」
そんな会話を耳にした、太一は文太にきいた。
「文太の兄貴、この村の人達は一体誰に金を払いつづけてるんでぇ?」
「昔から、みかじめ料として毎月あそこにある、大きな屋敷の人にお金を払いつづけてるんですよ」
「一体どうして?」
「理由はないですよ、彼らみたいな人は、金で山賊やら用心棒をやとって、村を見つけてはそうやってお金を稼いでるんです、小さな村ではよくある話です」
「そうでしたか」
太一は決めた、屋敷に向かおうと誰にも言わず一人決めた。
村を出る時だった
「水くさいな」道来は石碑の影に立っていた。
「私にも手伝わせてくれ、この村人達には感謝してる」
「すべてお見通しってわけですね」
「怪我は?」
「問題ない」
一人で決めて歩きだした
今は二人で歩いている
一緒に寄り添い歩く存在がいた。
夕方頃
村に道来と太一が戻って来る。
「何処行ってたんですか?心配してたんですよ」
「あはは、すんません文太の兄貴ちょっと、ひと暴れしちゃって」
「えっ? まさか?」
「おい、文太、真堂丸」道来の突然の呼びかけ。
文太と真堂丸は道来を見つめた
「世話になったな」
「えっ、どういうことですか?」
「あの屋敷の奴はもう二度とこの村からみかじめをとらないだろう、雇った山賊をけしかけてきたもんだから、全員倒した。もちろんこの村には関係ないってな、通りすがりの正義感の強い男達ってことにしといた」道来は笑った。
「だから、文太の兄貴達、俺たちはここにいちゃあ、まずい 一足先に行きますぜ」
「何処に行くんだ?」真堂丸が言った。
「そうだな、自分達の町にはもう住めない、あそこは大帝国の支配下にあるからな、一回荷物を取りに戻る、その時平八郎さんには俺たちから事情を説明しておくから心配いらない」
「道来さんと決めたんだ、国をまわって旅をしようって、もちろん修行しながら」
「今の私達じゃあ、大帝国に狙われた時、何も役に立てないのが痛いほどわかった。
一度、一山先生のもとに行くつもりだ もっと強くなる そして、またいつか会おう 」道来は手をだす。
真堂丸と道来は強く熱い握手をかわした
「ああ、必ず」
「寂しくなりますが、次会う時はもっと成長してますから」
僕らも握手をかわす。
こうして、僕達はお互いの道を進むことに、必ずまた何処かで会えるだろう、その時まで しばしお別れ
太一さん 道来 さん 本当にありがとう
僕らはいつまでも二人の背中を見つめ 僕は手を振り続けていた。
また必ず
必ず
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兵法家の子供として生まれた弁助は、野山を活発に走る小童だった。ある日、庄屋の家へ客人として旅の武芸者、有馬喜兵衛が逗留している事を知り、見学に行く。庄屋の娘のお通と共に神社へ出向いた弁助は、境内で村人に稽古をつける喜兵衛に反感を覚える。実は、弁助の父の新免無二も武芸者なのだが、人気はさっぱりだった。つまり、弁助は喜兵衛に無意識の内に嫉妬していた。弁助が初仕合する顚末。
備考 井上雄彦氏の「バガボンド」や司馬遼太郎氏の「真説 宮本武蔵」では、武蔵の父を無二斎としていますが、無二の説もあるため、本作では無二としています。また、通説では、武蔵の父は幼少時に他界している事になっていますが、関ヶ原の合戦の時、黒田如水の元で九州での戦に親子で参戦した。との説もあります。また、佐々木小次郎との決闘の時にも記述があるそうです。
その他、諸説あり、作品をフィクションとして楽しんでいただけたら幸いです。物語を鵜呑みにしてはいけません。
宮本武蔵が弁助と呼ばれ、野山を駆け回る小僧だった頃、有馬喜兵衛と言う旅の武芸者を見物する。新当流の達人である喜兵衛は、派手な格好で神社の境内に現れ、門弟や村人に稽古をつけていた。弁助の父、新免無二も武芸者だった為、その盛況ぶりを比較し、弁助は嫉妬していた。とは言え、まだ子供の身、大人の武芸者に太刀打ちできる筈もなく、お通との掛け合いで憂さを晴らす。
だが、運命は弁助を有馬喜兵衛との対決へ導く。とある事情から仕合を受ける事になり、弁助は有馬喜兵衛を観察する。当然だが、心技体、全てに於いて喜兵衛が優っている。圧倒的に不利な中、弁助は幼馴染みのお通や又八に励まされながら仕合の準備を進めていた。果たして、弁助は勝利する事ができるのか? 宮本武蔵の初死闘を描く!
備考
宮本武蔵(幼名 弁助、弁之助)
父 新免無二(斎)、武蔵が幼い頃に他界説、親子で関ヶ原に参戦した説、巌流島の決闘まで存命説、など、諸説あり。
本作は歴史の検証を目的としたものではなく、脚色されたフィクションです。
鵺の哭く城
崎谷 和泉
歴史・時代
鵺に取り憑かれる竹田城主 赤松広秀は太刀 獅子王を継承し戦国の世に仁政を志していた。しかし時代は冷酷にその運命を翻弄していく。本作は竹田城下400年越しの悲願である赤松広秀公の名誉回復を目的に、その無二の友 儒学者 藤原惺窩の目を通して描く短編小説です。
蒼穹(そら)に紅~天翔る無敵皇女の冒険~ 四の巻
初音幾生
歴史・時代
日本がイギリスの位置にある、そんな架空戦記的な小説です。
1940年10月、帝都空襲の報復に、連合艦隊はアイスランド攻略を目指す。
霧深き北海で戦艦や空母が激突する!
「寒いのは苦手だよ」
「小説家になろう」と同時公開。
第四巻全23話
霧衣物語
水戸けい
歴史・時代
竹井田晴信は、霧衣の国主であり父親の孝信の悪政を、民から訴えられた。家臣らからも勧められ、父を姉婿のいる茅野へと追放する。
父親が国内の里の郷士から人質を取っていたと知り、そこまでしなければ離反をされかねないほど、酷い事をしていたのかと胸を痛める。
人質は全て帰すと決めた晴信に、共に育った牟鍋克頼が、村杉の里の人質、栄は残せと進言する。村杉の里は、隣国の紀和と通じ、謀反を起こそうとしている気配があるからと。
国政に苦しむ民を助けるために逃がしているなら良いではないかと、晴信は思う、克頼が頑なに「帰してはならない」と言うので、晴信は栄と会う事にする。
葉桜
たこ爺
歴史・時代
一九四二年一二月八日より開戦したアジア・太平洋戦争。
その戦争に人生を揺さぶられたとあるパイロットのお話。
この話を読んで、より戦争への理解を深めていただければ幸いです。
※一部話を円滑に進めるために史実と異なる点があります。注意してください。
※初投稿作品のため、拙い点も多いかと思いますがご指摘いただければ修正してまいりますので、どしどし、ご意見の程お待ちしております。
※なろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿中
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