文太と真堂丸

だかずお

文字の大きさ
上 下
16 / 159

~ 槍使いの一山 ~

しおりを挟む
翌朝
「さて兄貴達、そろそろ自分達の街に帰りましょう」

それぞれは支度をすませ立ち上がる。
陽は昇りはじめ 村全体は優しい光に照らされていった。

「こんな、朝が迎えられるなんて、みなさんのおかげです、本当にありがとうございました」
一彦の父は頭を下げ嬉し涙を流す。

そこには一彦の姿はなかった
「倅も昨日は色々ありました、顔を出さないご無礼、許していただきたい」

「そんな、良いんですよ」文太は言った。

「さっ行きましょう」
後ろからはいつまでも鳴り止むことのない村人の感謝の声が響く
なんだか人に感謝されるのは気分がいいなぁ、そんなことを思った。
あの村人達は山賊から解放されて自由になったんだ。
これから村人達の本当の生活が始まる
僕は嬉しくなり空を見上げた。
ああ、良かった 。
一彦君は大丈夫だろうか?
少し心配もあったが、彼なら大丈夫
ぼくが心配することじゃないか。
そんなことを思った時だった。

「本当にありがとうございました」

あっ! あの声は?
山の上から、手をふる一彦君の表情は、出会った時とは違い、晴れ晴れ生き生きとしていた。
僕はそれを見て泣きそうになってしまった。

「小僧もたっしゃでな」太一が叫ぶ

「一彦君も元気で」
僕らは歩きはじめた

「稽古一生忘れません、これからも稽古はつづけます そしたら またいつか勝負してください」

「あっ、俺稽古なんかしたっけ?まあいいか 分かったよ」太一が叫んだ。
僕はなんとなく分かっていた。
それに道来さんも。
僕は照れるように少し足早に前を歩いていた真堂丸の後ろ姿を、忘れない。

ザッ    ザッ  ザッ
僕らはひたすら山路を歩いていた。
六時間ほど歩いた頃だろうか

「おいっ太一 道違うんじゃないか?」

「えっ」

「前を見てみろ」道来が前方を指さす
目の前に広がるのは、とても大きな道場のような場所

「なんだ ここは」太一が驚く
中からは掛け声のようなものが聞こえる、それも大勢の。

「稽古してるようだな、面白い、行ってみないか?」道来が言った。

その時、背後から声が

「何者だ?」
見ると黒装束をまとった、坊主の男
あれっ?僕は不思議な違和感のようなものを感じた。
なにかがひっかかる。
僕はこの人をみたことがある気がする
気のせいか?

「私はそこの門下生だが」

「いやー道に迷っちまって、よければそこの道場に寄らせてもらえないか?」太一が言う。

男は笑った
「見るところ、腰に刀をつけてまあ、一般人じゃあないな、それにそこのお前、俺が近づいた時の殺気只者じゃないな?」
男は真堂丸を見つめていた。

「良いだろう、悪い奴らじゃなさそうだ、ついて来い」

「ここは、かの有名な槍使いの名手一山さんの稽古場だ」

その名を聞いて、道来も太一も驚いた
「まさか、一山の?」

「そんな有名なんですか?」

「ああ、刀の道に生きる者では知らぬ者はいないだろう、かなり腕の立つ男だときく」

坊主の男が再び笑った
「かなり? 化け物だよ」

「おたくらじゃ天地がひっくりかえっても勝てないぜ」

その言葉にカチンときた太一
危うく この兄貴が何者かしらねえのか!真堂丸だぞと叫びそうになってしまったが、ギリギリのところでおさまえた。
あぶねぇ、真の兄貴に迷惑をかける所だった。

そして、僕らは道場に
中を覗きビックリした。
そこには、50人はいるだろう男達が槍を振るい稽古に励んでいた。

「師匠、この者達が道に迷っていたので連れて参りました」

あれが一山?
年は六十を過ぎたくらいだろうか?

「良くおいでなさった、ゆっくりくつろいでくれたまえ」
一山らしき人物は優しく微笑む

「かの有名な槍使い、一山先生と見受けた よろしければ 一戦交えたいのですが」道来は突然頭を下げる

「ほっほっほ、お主じゃまだはやい」

「どれ、空 そのものと勝負してやれ」

それは先ほどの坊主の男

「はい先生」

眼つきと空気が変わったのが一瞬で分かった

「じゃあ、よろしく 試合だと言って手を抜くな怪我するぜ」空は槍を道来に向ける

「望むところだ」

「道来さん」太一は心配そうに見つめていた。
僕も、その緊迫感に息をのむ。

真剣な表情を浮かべた二人の男は 互いに向き合い対峙している 
試合は今まさに始まろうとしていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

西涼女侠伝

水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超  舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。  役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。  家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。  ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。  荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。  主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。  三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)  涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。

小童、宮本武蔵

雨川 海(旧 つくね)
歴史・時代
兵法家の子供として生まれた弁助は、野山を活発に走る小童だった。ある日、庄屋の家へ客人として旅の武芸者、有馬喜兵衛が逗留している事を知り、見学に行く。庄屋の娘のお通と共に神社へ出向いた弁助は、境内で村人に稽古をつける喜兵衛に反感を覚える。実は、弁助の父の新免無二も武芸者なのだが、人気はさっぱりだった。つまり、弁助は喜兵衛に無意識の内に嫉妬していた。弁助が初仕合する顚末。 備考 井上雄彦氏の「バガボンド」や司馬遼太郎氏の「真説 宮本武蔵」では、武蔵の父を無二斎としていますが、無二の説もあるため、本作では無二としています。また、通説では、武蔵の父は幼少時に他界している事になっていますが、関ヶ原の合戦の時、黒田如水の元で九州での戦に親子で参戦した。との説もあります。また、佐々木小次郎との決闘の時にも記述があるそうです。 その他、諸説あり、作品をフィクションとして楽しんでいただけたら幸いです。物語を鵜呑みにしてはいけません。 宮本武蔵が弁助と呼ばれ、野山を駆け回る小僧だった頃、有馬喜兵衛と言う旅の武芸者を見物する。新当流の達人である喜兵衛は、派手な格好で神社の境内に現れ、門弟や村人に稽古をつけていた。弁助の父、新免無二も武芸者だった為、その盛況ぶりを比較し、弁助は嫉妬していた。とは言え、まだ子供の身、大人の武芸者に太刀打ちできる筈もなく、お通との掛け合いで憂さを晴らす。 だが、運命は弁助を有馬喜兵衛との対決へ導く。とある事情から仕合を受ける事になり、弁助は有馬喜兵衛を観察する。当然だが、心技体、全てに於いて喜兵衛が優っている。圧倒的に不利な中、弁助は幼馴染みのお通や又八に励まされながら仕合の準備を進めていた。果たして、弁助は勝利する事ができるのか? 宮本武蔵の初死闘を描く! 備考 宮本武蔵(幼名 弁助、弁之助) 父 新免無二(斎)、武蔵が幼い頃に他界説、親子で関ヶ原に参戦した説、巌流島の決闘まで存命説、など、諸説あり。 本作は歴史の検証を目的としたものではなく、脚色されたフィクションです。

仇討浪人と座頭梅一

克全
歴史・時代
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。 旗本の大道寺長十郎直賢は主君の仇を討つために、役目を辞して犯人につながる情報を集めていた。盗賊桜小僧こと梅一は、目が見えるのに盗みの技の為に盲人といして育てられたが、悪人が許せずに暗殺者との二足の草鞋を履いていた。そんな二人が出会う事で将軍家の陰謀が暴かれることになる。

鵺の哭く城

崎谷 和泉
歴史・時代
鵺に取り憑かれる竹田城主 赤松広秀は太刀 獅子王を継承し戦国の世に仁政を志していた。しかし時代は冷酷にその運命を翻弄していく。本作は竹田城下400年越しの悲願である赤松広秀公の名誉回復を目的に、その無二の友 儒学者 藤原惺窩の目を通して描く短編小説です。

蒼穹(そら)に紅~天翔る無敵皇女の冒険~ 四の巻

初音幾生
歴史・時代
日本がイギリスの位置にある、そんな架空戦記的な小説です。 1940年10月、帝都空襲の報復に、連合艦隊はアイスランド攻略を目指す。 霧深き北海で戦艦や空母が激突する! 「寒いのは苦手だよ」 「小説家になろう」と同時公開。 第四巻全23話

霧衣物語

水戸けい
歴史・時代
 竹井田晴信は、霧衣の国主であり父親の孝信の悪政を、民から訴えられた。家臣らからも勧められ、父を姉婿のいる茅野へと追放する。  父親が国内の里の郷士から人質を取っていたと知り、そこまでしなければ離反をされかねないほど、酷い事をしていたのかと胸を痛める。  人質は全て帰すと決めた晴信に、共に育った牟鍋克頼が、村杉の里の人質、栄は残せと進言する。村杉の里は、隣国の紀和と通じ、謀反を起こそうとしている気配があるからと。  国政に苦しむ民を助けるために逃がしているなら良いではないかと、晴信は思う、克頼が頑なに「帰してはならない」と言うので、晴信は栄と会う事にする。

厄介叔父、山岡銀次郎捕物帳

克全
歴史・時代
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

葉桜

たこ爺
歴史・時代
一九四二年一二月八日より開戦したアジア・太平洋戦争。 その戦争に人生を揺さぶられたとあるパイロットのお話。 この話を読んで、より戦争への理解を深めていただければ幸いです。 ※一部話を円滑に進めるために史実と異なる点があります。注意してください。 ※初投稿作品のため、拙い点も多いかと思いますがご指摘いただければ修正してまいりますので、どしどし、ご意見の程お待ちしております。 ※なろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿中

処理中です...