文太と真堂丸

だかずお

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~ 理想と現実 ~

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今日は久しぶりに家の中で眠れた。
ああ、天井のあるところで眠れる、こんなに快適なことだったんだ。
人は失って、今まで当たり前にあったものの、大切さや、有難さに気づく事がある。

「あれっ?真堂丸は?」
もう何処か外に出かけた様だ。部屋の中には既に居ない。

そうだ、せっかく街に来たんだ、僕も観光しよう。

僕は家に住まわせてくれてる、平八郎さんに挨拶をすませて外に出た。

家を出る時、子供の喜一が笑いながら見送ってくれた。
はぁーいいなぁ、こういうの和むなぁ、僕は何だか村に居た頃の安心した気分に浸れて嬉しくなった。
村の子供たち元気かなぁ?
なんとかなる、きっとすべてうまくいく。
そんな気持ちが、わきでてきた。
ああ、状況は何も変わらないのに、自分の気持ちひとつでこんなに変わるんだな、僕は歩きながら、ふと、そんな事を感じた。
そうさ、きっと何とかなる。
自分の気持ちを変えれば、きっと状況も変わるさ。
なんだか、心が少し楽になった。

初めて歩く街は、大勢の人で賑わい、人々は笑いあっていた。

ああ、こんな光景が見られるんだ。
みんな笑いあい、和気あいあいと話ている。
楽しく暮らしている、みんな誰だって、こう暮らしたいに決まってる、僕は街の平和な光景に心を踊らせた。

「ああ、良いなぁ、幸せだなぁ」
ついつい笑みがこぼれる

その時だった、僕がこの世界の現実と言うモノをしらしめさせられたのは。

ブゥーゥーウーウーウー

けたたましい、警報の様な、気味の悪い音

先程まで笑い合っていた人々の顔は恐怖でおののき、皆、地面にひれ伏している、さっきまで明るい空気が流れていた街は、一変し、今やずっしりと重たい嫌な空気に変わっていた。
僕もみなと同様、道にひれ伏した。

道の真ん中に歩くは、たった三人の男

僕は隣にいる人に話かける
「これは一体?」

「あんた、よそから来たのかい?あの三人はね、大帝国という大きな勢力を持った、この辺りの幹部様達なんだ、ひれ伏さなきゃ殺される」

「大帝国?」

「あんた、知らないのかい?彼らは日本を支配し、牛耳るつもりなのさ、この国を力と支配によって我がものにしようとしてる恐ろしい連中じゃ、どんどん勢力はでかくなっていて、どうなることか想像するだけでも恐ろしい」

そっ、そんな、僕は言いようのない絶望感におそわれた、僕の村がたすかっても世界はこんな状態なのか?
人々が力と恐怖で支配される世界
そんな、バカな 正直に僕が感じた気持ちだ、そんなのが許されてたまるか。しかし、それに対して何も出来ない無力な自分、ひれ伏しながら地面の土を力強く握りしめていた。

「なかなか、よく言うこときくじゃないか」

「でも、あいつ、ひれ伏しがたりないね」

そう言った瞬間、たったそれだけの理由で、奴らは人を斬り殺した。

人間の命を、生活を、心を、平然といとも簡単に奪ったのだ。

誰一人として、歯向かう者はいなかった。

悔しい、僕に力があったら。
僕に力があったら
僕が強かったら
泣いた、自分の無力さに泣いた
何も出来ない自分の非力さに泣いた


これが現実の世界・・

とうとうその日には、今朝の街の活気は戻らなかった。

僕は言いようのない不安と恐怖から逃げるように家に戻る

そして、家に帰ると喜一が笑って出迎えてくれた。
平八郎さんも「顔が青ざめてるなぁ、見たくないもんみちまったんだなぁ。あったかい汁物つくるけぇ、待っててくれ」

平八郎さんは表情からすぐに僕の気持ちを察してくれたらしい。
僕にはこんなに優しくしてくれる人達がいる、堪えられないくらいの涙が瞳にたまっていたが、僕は堪えた。

「ありがとう」

僕は無力感、絶望感に襲われていた、一生逃げ続けるしかないのか?

部屋に入り、ふすまを開くとそこには真堂丸がいた。

何故だろう、一瞬僕には彼が希望に見えた。彼ならなんとかしてくれるんじゃないだろうか?

刀を真剣に磨いてる真堂丸の姿が、僕の不安をかきけし、安心させる光に見えたのだ。

僕は壁を向き、堪えられなくなった涙を流した。
涙はぽろぽろ流れた。
情けない話、もし僕が素直な子供なら泣きついていたかも知れない 「助けて」と。

真堂丸は黙って刀を磨いている

僕は誰かに頼りたい気持ちでいっぱいだった。

この世界を救って下さい
この世界を救って下さい

その日の夜だった

「おい」

それは、初めて真堂丸から僕に話かけてきてくれた瞬間だった。
僕は素直に嬉しかった。

「なっ、何ですか?」

「さっき、何故泣いていた?」

僕は何だか恥ずかしくなった
「何でもないです」

「お前は変わった人間だ、人の為に命をかけ、人の為に泣く、そうだろ?」

「言わせてもらいますけどね、僕が変わってるんじゃなくて、世界がおかしいんです」

声はしなくなった

「これからどうするつもりですか?」

しばし沈黙の後

「さあな」

僕は嬉しかった、会話になってる。

「あのう、ききたい事があるんです。僕は街で噂をききました、伝説の剣豪、真堂丸の噂を あなたの事じゃないですか?」僕は息を飲んだ。



返事はなかった




かのように思われた


が。


「人はそう呼ぶ」

やっぱりそうだったんだ、ぼっ、ぼくはとんでもなく凄い人と一緒に居るんだ。

なんだか自分まで強くなったそんな気までした。

その日の会話は結局、それだけだった。


翌日
僕は昨日の勢いで真堂丸に話かけてみた
「あのう、今日街一緒に歩きませんか?」

真堂丸は黙って頷く。

なんだか、やっぱり嬉しかった。
友達が出来た、そんな気持ちでいっぱいになる。
村を出てから初めて出来た友達。
真堂丸が何者かはどうでも良かった。
僕にとっては友達
それだけが、僕にとっての事実だ。

街を歩いている時、思ったのは、昨日の奴らが来た時 真堂丸ならどうするんだろうということだった。
彼は人を助けるようなことはしない感じであるが、自分に向かってくるものそれに対してはどうなるんだろう?
そんなことを考えては街を歩いていた。


すると突然、何者かが僕の肩を

「おいっ、気様 昨日はよくも邪魔したな」

あっ昨日、平八郎さん達を斬ろうとした男だ。
僕は助けを求めるかのように真堂丸のほうを情けなくも、すぐに見てしまった自分に気づく。

彼は何事もないように空を眺めている

「あははは、たいした友達だな、お前には興味ないってよ、俺はこんなような男嫌いじゃないぜ、友達を見捨てて空をながめてる あはは ケッサクだ」

「おいっ兄ちゃん友達借りてくぜ、刀をふるいたいんだよ、まあ返せないかもしれないがな、おいこっちこい」

僕は覚悟を決めた。弱くたって、僕だって刀を握ると決めたんだ、やってやる

真堂丸は欠伸をしながら、何故か黙ってついてきている。

「よしここで勝負だ 弱い侍ちゃん」

僕は刀を握りしめた。

やっぱり怖い、無理だよ 足はガクガク震え始める、しゃれじゃない本当に命がかかった真剣勝負
僕の全細胞、全神経が開ききるような、異様な緊迫感

僕はこの瞬間 しっかりと命と対峙しなければならないのだ

やるしかない 命をかけた

真堂丸は石の上に座ってみている。

「うおおおおおおおっ」

僕は突然、渾身の力を込め刀を振りかざした、昨日までビビって何も出来ない僕と思って油断した男の刀は地面にはじかれた。やったー 僕は勝った 勝った、勝ったんだ

僕は刀を、すぐに鞘に収める。

その瞬間だった
「馬鹿かお前何やってんだ」
刀を再び拾った男が叫ぶ
「相手を殺すまで終わりじゃないのさ、俺の勝ち」

あっ、僕はもう死んだ

そう思った瞬間だった
男の刀はピクリとも動かない

見ると、二本の指で刀をおさまえている、真堂丸の姿があった。

「ひいいいぃっ 化け物」
男は刀を置いて、一目散に走って逃げて行く。

「たっ、助けてくれたんですか?」

「勝負はお前の勝ちだ、それだけだ」そっけなくつぶやき、真堂丸は歩きだした。

でも、僕は真堂丸が心配して、ついてきたんじゃないかと勝手に解釈して嬉しくなった。本当のところはどうか知らないが、ただただ興味があっただけかも知れない、でも助けてくれたんだ。
僕は素直に嬉しかった。

「待ってよ」
僕は真堂丸の背中を追っかけ走って行った

空には真っ赤な夕陽が暖かく色づいている 

とっても綺麗な空だった。


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