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~ 流れ ~
しおりを挟む僕、文太は今、得体のしれない男と一緒にいる、口数も少ない為、何を考えてるのか、どんな性格なのかも掴めぬまま。
何も分からない男と。
寝ながら色々な事を考えていた。
これからの事、僕に刀を持つ仕事が務まるのか、村の人達を救えるのか?
考えると不安に押しつぶされそうになり、いっそう眠れなくなる。
これからどうしよう?
考えても答えは見つからない。
そもそもそんなものがあるとも思えなかった。
答え? 答え?
僕は真っ暗闇の中に迷いこんでしまった、どこに向かえばいいのか?
出口はあるのか?
僕だけが頼りだ、村の人達を助けなきゃ、しっかりするんだ文太
自分がやらなきゃ。
僕は、自分に喝をいれた。
気分を変えたく思い、真堂丸の事を考えてみる、彼は一体何者で、何故刀を持ち、何をしているのか?謎だらけだった。
どんな人生を歩んで来たんだろう。
そして、あの刀の実力。
朝方、物音に目を覚まし目をあけると、真堂丸は立ち上がり今にも何処かに向かおうとしてる所だった。
僕は勇気を振り絞り話しかけてみる
「あのう、良かったら一緒にお供させてくれませんか?」
返事はない。
しかし、僕は彼と離れた後に見つめざるを得ないであろう、自分の背後にすぐ迫る、不安や孤独感を考えると、立ちすくみそうになり一人ぼっちにならない為に必死にくらいついた。
「食料の面倒なら自分がみます、ですからお供させてくれませんか?」
真堂丸は無言で僕の顔を見る
「はやくしろ」
救われた様な思いだった。
すぐさま支度をして真堂丸の後について行く事に。
「あのう、どうして刀を?」
相変わらず返事はない
少しくらい話してくれたって良いじゃないか、僕は心の中でそっけない態度の真堂丸に文句を言った。
その日のうちに人で賑わう街に着く。
僕は始めて見る、これだけ栄えてる街に心を踊らした。
「わあ、凄いですね 」
僕は気をつかうように
「あっ、お腹空きましたよね、ご飯にしましょう」
街の食堂に行き
「好きな物食べて下さい」
「酒」真堂丸は僕の目を見て言った。
この鋭い眼光、正直、目を見られるだけで全てを見透かされている様な、そして獣の様な鋭さに、いまだになれず震え上がってしまう感じがした。
僕はこんな目をした人間に今まで出会った事がない。
真堂丸は静かに酒を飲んでいる
隣の客達は侍らしく、腰に刀をぶら下げ、何やらあつく語っている
「そりゃあ、おめえ男に生まれた以上強さを求めるべ、最強の名声」
「あはは、お前じゃ無理っぺ、お前の思う最強は誰じゃ?」
「うーんそうだなぁ、沢山思い浮かぶなぁ、まずは槍使いの一山、ありゃあとてつもないらしいのう、それに獣の様な動きを見せるという狼泊 、それに大怪力と言われ恐れられている剛大 怪しい魔術の刀を振るうと言われてる妖魔師、たくさんいるなぁ、でもやっぱり・・・」
「ああ、あいつじゃろうな あいつの噂を聞かない日はなかった」
「最近は聞かないな、噂では死んだって話もあるからな」
「いまや、誰もが名声、力の証明欲しさに、あいつの命を狙ってるからのう、神に刀の才を授けられたと言われてる」
「剣豪 真堂丸」二人の男の声は見事に一致していた。
僕はそれをきいて思った。まっ、まさかこの人が?まっまさかな。
でも、もしかしたら。
真堂丸は何事もないように、表情一つ変えずに酒を飲んでいる。
その時、表は騒がしかった
ガシャン
「お侍いさん、どうか命だけは」
「いかんなぁ、このガキは俺の足にこんなものをつけた、命をもって反省しろ」
辺りからは、ざわめきがたつ。そんな事で、と言う声がちらついたが誰一人として止めるものはいなかった。
泣き叫ぶおじさんの声とその子供。
そんな、たったそんな事で、殺されるのか?人間が 人間が。
自分の村の事といい、今目の前にひろがる現実
僕は信じ難い光景をまのあたりにして、どうしようもない思いにかられた。
世界はここまで酷い有り様だったの?
そんな事、あっていいはずがない。
僕は真堂丸にお願いをこう。
「どうか、お願いします、あの人達を助けてください、どうか」
真堂丸の口から発せられたのは意外な言葉だった。
「何故?」
「何故って?」
今にも子供は斬り殺されそうだ
どっ、どうしよう ぼっ、ぼくはどうすれば? 自分にはどうすることも出来ない?本当に何も?
ただ黙って見てるしかないのか?
僕は腰の刀に手をまわした。
やるしかない
「まっ、まて」足の震えが声にまで伝わってしまう
「なんだぁ、貴様は?」
「そっ、その子を離せ」
「貴様も斬られたいのか?」
僕は生まれてはじめて刀を抜いた。
しかし、足の震えはいっそうひどくなり立ってるのがやっとだ。
「おいおい、ちびっちゃうんじゃないのか?」
「いっ、いまのうちに逃げてください」
親子は頭を下げ走って逃げて行く。
「正義の人間きどりか、小僧、いいだろう勝負してやるよ」
相手も刀を抜く
これが本当の命をかけた勝負
何分後かに僕はこの世にもういないかもしれない。
死
死
死
僕の目の前にハッキリ死というものが意識された。
僕は恐怖のあまり刀を落としそうに、おっ母さん 僕はまだ死ねない生きなきゃいけないんだ。
刀をしっかり握りしめる
ふーふー 、一瞬の時だったが、異様に永く感じる もう一時間は、たったんじゃないか?というほどの錯覚 緊張はピークに達していた。
その瞬間自分の脳裏に自分が斬り殺された画が浮かぶ
落ちつけ、落ちつけ 、おっ母 おっ母
その瞬間だった、相手の雄叫びが
「おおおーっ」
くるっ しっかり刀を握らなきゃ、そんなことを考えていた瞬間、僕の刀はもうはじかれていた、「あっ!」
「死ねっ」
その時だった 「待て」
「なんだとっ、 あっ 道来さん」
その声の主は背の高い男
「お前は何をしてるんだ」
「ちょっと生意気だったもんで、からかってやったんすよ」
「そんな理由で刀を振るうやつは弱い男だ、謝れ」
「へっ、へい すまん」
「君、悪かったな、しかし後一瞬私が来るのが遅かったら、死んでたぞ」
そう言い残し去っていった。
あっああ 助かった 僕は腰をぬかしていた。 立てないや
人だかりは、すぐになくなり、また何事もなかったように、人々は往来しはじめた。
すこしは、真堂丸が助けてくれると思ってたけど、やはりそんなことはなかったようだ。席に戻ると何事もなかったよう、表情ひとつかえずに酒を飲む真堂丸の姿があった。
隣の席の男が
「お兄さん勇気あるね、でも後からきた、道来って男とだけは関わらないほうがいいぜ、相当な実力者だからよ、
お兄さんじゃ、10ぺん死んだって敵わないよ」
僕らは店を出た
真堂丸は街の外れた所に腰をおろし、横になり寝っころんだ。
やっぱり野宿か。
ああ、家の中で暮らしたあの日々が恋しい。
文句を言っても仕方ない、僕も横になった。
「あのう、先程はどうも」
振り向くと先程助けた親子の姿が
「今晩どうでしょう、お礼といっちゃなんですが、うちにお泊りになられては?」
「えっ?良いんですか?」
「もちろんです」
「あのお連れさんも一緒に」
「ありがとうございます」
僕は頭を下げた。
「何故だ?俺は何もしてない」
「良いんです、どうぞ」
真堂丸はキョトンと不思議な顔を浮かべていた。
何故?素直にそう感じている 真堂丸の顔はそんな表情だった。
かくして僕たちは、その人の家にお世話になることになった。
一体、僕はこれからどうなるのか?
僕らは何処に向かっているのか?
依然、道はなにも見えないままでいた。
正直怖かった、これからあんな世界に身をおくことになる。
自分に出来るのか?
本当に自分に出来るのか?
とりあえず、久しぶり家の中で眠れる、まずはゆっくり休ませてもらおう、考えるのはそこからだ。
一旦、気持ちを整理しなきゃ。
僕達はその人の家に向かう。
その親子は、僕らに家の中の一室を貸してくれた。
「うちは妻を亡くし、二人で住んでいるんです。この部屋は空いてるんで好きなだけ使って下さい」
「私は平八郎と申します、で息子の喜一です」
「本当にここまでしてくれて助かります」僕は頭を深々と下げた。
「いえ、私たちは命を救われたんです、これくらいのこと。でもね私正直嬉しかったんです、まだこの街にも、命をかけ、人を助ける。そんな人間がいたんだって嬉しかったんです」
僕は照れた。
真堂丸は興味なさそうに窓の外を一人見つめている
「では、部屋でゆっくりしてください」
「しばらくはここで暮らせるね、真堂丸」僕は、くだけた感じで話かけてみた
しかし返事はない。
こうして僕らはここにしばらくやっかいになることになった。
これから何が待ち受けているのか、僕にはまだ想像もつかないまま。
しかし、すでにとてつもなく大きな運命の歯車は廻っていたのだ
そう 文太と真堂丸が会った あの日から・・・
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