ブラインドワールド

だかずお

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『次なる道』

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歓喜の宴は大地に力強く鳴り響き
その歌は、人々の恐怖と不安からの生活の終わりを告げていた。
人々は己で選択し、行動し、自ら道を切り開いたのである。
新しい朝の光が、大地に降り注ぎ始めていた。
その光景は圧巻だった。
人々の宴の声、鳴り止まない音楽が、大地に響き渡る中、空から朝の光が、暗闇を消し去るかの様、一斉に大地全体を包み始めたのだ。

光堂達は声をあげた「すごい」

「地球は素晴らしい」光堂は気がついたら、こんな言葉を呟いていた。
世界には、こんなにも豊かな大地が存在していたんだ。
自分がこんな場所に来るまで、意識した事が無い事に驚いた。
自分は、とんでもなく美しい世界に居たんだ
黒楽町に入ってからというもの、危険な日々で忘れていたが、目の前には、そんなこと関係ないように綺麗な景色が当たり前にひろがっていた。
光堂は手元に咲く一輪の花を見つめては、なんだか笑ってしまった。

生きている 存在してることの奇跡
当たり前に広がる世界の美しさ
当たり前過ぎるそれを、人は時に忘れてしまう。
生命は奇跡じゃないか。
光堂は再びそんなことを感じた。

自分の見ようと思うものが、世界には見える。
自分の見方次第で、世界は変わる。
自分の心次第
あの男は一体何を見たんだろう?
あのピラミッドの男が、少し寂しげに映り、可哀想にも感じた。

すると
「また、みなさんに助けてもらってしまいました」突然うしろからマナの声。

「みんなが各々の意思でやったことさ、これからは、自分だけが犠牲になるなんて不可能だっていうことだ」光堂は笑った。

きっとこの人達は仲間の為なら、どんな所にも助けに来る
マナはそう思い、彼らと知り合いになれたことを誇らしくさえ思えた。

ペレーは両手にバナナを持ち

マサは酒を飲み

多村は料理を食べている

マナは部族の女性達と会話している

みんな嬉しそうだ。

良かった
素直に浮かんだ気持ちだった。

目の前に、ほんとにすぐ目の前に

とてつもなくでかい、太陽が浮かび上がっていた
それは言葉にするのが難しいくらい、素晴らしく、圧巻であった。

みんなしばし、太陽を見つめ
「我々の夜明けが始まった」
人々はそう叫び、また辺りは賑わい始める。
不思議だったのは、ピラミッドは跡形もなく消えさってしまっていた事と、河にかかる光の橋は消えずに残っていた事。
一体あいつは何者だったんだろう?

「そろそろ、あの懐かしの小屋に帰らないウキかっ?」

「そうだな」と多村

マサは酔っ払って頷き、ご機嫌だった

「じゃあそろそろ帰るか」

みなは人々に別れを告げ、あの小屋に戻ることにする。
彼らは橋まで馬に乗せ、みんなを送ってくれた。

「我々はあなた方の事を永遠に忘れません、私達はあの広場にあなた方の銅像を建てることに決めたのです。いつかまた、是非立ち寄って下さい」

少し照れ臭くもあったが、どんな銅像になるのかは、気になった。
ペレーがとてつもなく、神格化されるのかな、などと考えると笑ってしまう。

「ありがとう、さようなら」

彼らはいつまでも手を振ってくれていた。
部族の人々も嬉し涙を浮かべ手を振っている。
あの美しい涙はこれから、あの人達の希望の世界に続く涙だと、一同は確信していた。
あの優しく、強い愛が必ず素晴らしい方に導いてくれる。
そんな確信があった。
時代や習慣、住んでる場所を超えて絆は繋がっている。
大切なものは、目に見えなくとも、誰の中にも変わらずに在り続け、繋がっていることを光堂は知った。

「いやー、なんだかホッとしたウキ」

「そうね、やっぱりとっても勇敢なお猿さんだったねペレーは」

「当たり前ウキ」ペレーは照れ臭そうに言う

一同は大笑い
マサも酔いながら笑っている。
ようやく帰って来た懐かしの場所、随分と久しぶりの小屋のような気がした。

「まだ無事にあったか、なんだかずいぶん時が、たったような変な感じがするな」と光堂

「あれだけの体験をしたんだ、長く感じる筈さ」多村が優しく、光堂の背中を叩いた。

疲れ切っていたのか、みんなは小屋ですぐさまくつろぎ始める。

「よっぽど疲れたんだな」と身体中筋肉痛の多村は呟いた。

「良い冒険が出来たよ」光堂は笑った

「みなさん、本当にありがとうございました」

みんなはマナの無事な姿が目の前に戻り、心底安心して眠りにつく、全員、何も考える間もなく、気が付いたら眠りについていた。

どれくらい眠っていたんだろう?
目が覚めた光堂は、外の露天風呂にさっそく浸かりに行く

「いやー最高だ」

「この湯に浸かる瞬間はたまらないなぁ」

もう目の前にはピラミッドはない。

お湯は、暖かく、ちょうど良い湯加減

辺りを見渡せば森の中

「ふうーっ」

自然とリラックスした呼吸が出てくる。
光堂は少し、ピラミッドの主の言葉を考えていた。あいつは何かを知っているようだった。
何も知らないのは、俺のほう?
俺はいったい世界について何を知っているんだろう?
本当は何も知らないんじゃないだろうか?
何故俺はここにいて、何をしているんだろうか 己とは?
何も知らなかった 自分を知る。
俺は気づいたら存在して、目の前に広がる人生を生きていた。

存在

そう、我々は存在してるのだ 何も知らぬ間に。

自分がいる

光堂は空を見上げた。
「わお」思わず声が出てしまった。

空に散りばめられたダイヤモンドの様な星々が、光堂を優しく包んでいた。

しばらくすると多村が入ってきた。
「ずいぶんとはやい起床だな、と言っても今は夜中になるのか」

「目が覚めちまったんだ」

「うーはーっ、気持ちいい」

「ぷはーっ」多村もお風呂に浸かるという、この行為を堪能しているようだった。

「多村はここに来て、色んな疑問がわかないか?」

「あのピラミッドの主が言った事とかか?」

「ああ、実は俺達は生きて来たけど、本当は何一つ、何も知らずに生きてきたんじゃないだろうか?」

「俺達はいったい何処に向かってるんだ、俺は何も知らない」

「まあ、人によっちゃ、そんなこと疑問にもたず一生を終えていくだろうし、でも、まあ、思春期なんかは大抵は考えるんじゃないか?俺も考えたことはある。でも、考えたって、分からないしな。
ただ周りの人間、毎日の暮らしの中、それらの疑問は忘れてってしまうけど」

「もしかしたら、この旅の先に何か分かるかもしれない気はするけどな」

「まあ、分かろうが、分からまいが、存在してんだ、どっちにしろ今を真剣に生きるだけさ」

「確かに生きてりゃ、良い事も、辛い事だってある、でもそんな経験出来たって事で見っけもんだと俺は思う」

二人は星を見上げた
星を見上げてると疑問も消えてしまうようだった。
一人つきつめてみても、分からず、少し恐怖や孤独感なども感じたが、大丈夫。
この大宇宙に身を任してみると、安心と言うものに優しく包まれている感じがしたのだ。
自分達はとてつもなく大きな力に生かされてる、そんな気がした。

「明日の朝は、この小屋の裏にあるっていう光の扉に向かうのか?」

「ああ、そうしようと思う、今はそれ以外に道はないし」

「次は何が待ってるんだろうな?まあ何が出てきても、よっぽどじゃないと俺はもう何も驚かんぞ」多村は笑った。

「ああ、そうだな。また新しい場所か」

光堂は風呂から先にあがり、小屋に戻った
時計がないから時間は分からなかったが、今はまだ真夜中
明日、新たな場所に出発する

光堂は呼吸して   外を眺めた

静かな夜更け
部屋にはペレーのイビキだけがこだましていた。


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