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『戻らぬペレー』
しおりを挟む光堂は殴られ地面に倒れていた。
スーツの男はポケットから銃を出し、光堂のこめかみに突きつける。
周りの人達は、日常の一幕を見ている様に、何事もない顔をしていつもと変わらず歩いている。
多村はその時、とっさにポケットの中でミサに発信して、鳴らしていた携帯を出し、すぐさま電話をスーツの男に渡した。
スーツの男は、ミサの仲間と確認したのか、光堂から銃を離し、何も言わずに去って行った。
「全く、嫌なやつらだ」光堂は砂をはらいながら呟き、立ち上がる。
「もし、ミサと出会ってなかったらと考えると、ゾッとする」
少しでも、何かが違えばミサとは出会ってなかったかも知れない。
多村が自身の額の汗を拭うと同時に、運命と言う奇妙な歯車を不思議に思う。
何かが少しでも違えば、完全に違う人生に変わる、そんな奇跡が毎瞬起こっていると考えると、自分達はなにかとてつもなく大きな力によって生かされているのかも知れない。
生と死が絡み合う状況の中で、多村はそんな事を考えていた。
先程の間、町の人達は、何事もなかったようにみな平然と終始歩いていた。
誰一人、見向きもせず無関心に。
多村はそんな人間達に少し恐怖を覚えた。
何だか、生きてるんだか 死んでるんだか分からない、人達だな。
多村は町の人間を見ては思う。
光堂も同じ様な事を感じていた、
町を行き交う人々の表情は、何処か無表情
人が目の前で殺されそうだろうが無関心
だが、実際この人間達を自分は否定はできないかも知れない、俺だって世界中で餓死する人間が居るのに、戦争でお互いが殺し合う世界を見ているのに、何も声を上げていない、無関心なのさ。
大多数の人間は…自分が生きるのに必死、可哀想だとは思うが、特に何もしないのさ……
餓死する人間がいるなか大量の食べられる食糧は廃棄されていく
そんな自分も何もしてない…光堂は歩き行く人々を見てそんな事を思った。
二人はその後も、とりあえず町の人達にミサの妹の写真を見せて回ったが、いっこうに手掛かりは掴めないまま時間だけが過ぎて行く。
思った以上に、人は沢山いて大きな町だ
「だめだ、見つかる気がしないな、ほんとにここにいるのか?」光堂は辺りを見回して、チエックしているが全く見つからなさそうだ。
「しかし、今だに信じられないぜ、あの噂に聞いてた黒楽町の中がこんなになってるなんて、一体この場所は何なんだ?」多村は自分の想像と全く違った町の様子を、いまだに信じられずに驚いている。
「まっ、とりあえずみんな無事に帰れればいいさ」と光堂
日差しは、今まで味わった事の無いくらい強さだった。
一日中探し歩いた二人は、汗まみれになっている
「ふぅー、そろそろ時間になるな 待ち合わせ場所に戻るか」
多村は光堂に声をかけ、二人は約束した場所に戻る事にした。
一日中歩いたが手掛かりは何もなく、予想以上に骨が折れる作業になりそうだ。
待ち合わせ場所に行くと、三人はすでに二人が来るのを待っていた。
「生きてたウキかっ、心配したウキ」
「さっき電話の時は助かった」光堂がミサに礼を言う。
「何か手掛かりは?」
「全く何も そっちは?」
マサが首をふった。
「根気よく、つづけて行くしかないわね 今日は戻りましょう」
ミサはそう言った瞬間、ふと何者かが自分達の事を見ているようなそんな気がした。 辺りを見渡して確認する。
気のせい?
四人は車に乗り込んで、ミサの住む地下の住処に戻ることに。
「はーっ、この中は落ちつくウキ、やっと安心していられるウキ」
「確かに外じゃ落ちつかないな」多村も同感だった。
「あら意外とだらしないのね」
「あんたは強い女だよ こんなとこに一人で来て生活してたなんて」
「見かけによらずナイーブなのよ」二人は笑い合う
「そういえば、外の木から いい匂いがしたウキけど、まさかバナナなってるウキか?」
「鼻がきくわね そうよ」
「ちょっと、とって来てもいいウキか?」
「あんまり遅くならなければね、暗くなると昨日の奴らがあらわれるから」
「分かったウキ」
心配になったのかマサが「ついてくよ」
二人は外に出て行った。
「私シャワー浴びてくるわ」
ミサもシャワールームに向かい、部屋には 光堂と多村が残った。
「おい多村、お前ミサの事気に入ったんじゃないのか?」
多村は、光堂の唐突な質問に少し顔を赤くする
「何言ってるんだバカいえよ」
「ただ、妹の為に命がけで一人で行動する勇気とかは尊敬するよ、たいした女だって」
光堂には多村の気持ちが分かっていた。
「ここから無事に帰ったら付き合って一緒に暮らしちまえよ、まっ残念ながら結婚式には行けないけどよ」
「あほな事ぬかしてんなよ」
二人はここから出る時には、お互い離れ離れでもう二度と会う事はないんだと、その時 気づく。
ただ、お互い その事は口に出さなかった。
ミサがシャワーから戻り
「まだ、あの二人帰ってないの?」
「バナナ探しに夢中なんじゃないのか、そのうち戻るさ」と多村は笑った。
「俺もシャワー浴びてくるわ」と光堂が多村の顔を見て、笑い席をたった。
光堂の奴、いらん気を使いやがって多村はそんな事を思い微笑む。
光堂は立派なシャワールームを見て、この場所はほんとに凄いなと感心していた。
シャワーを浴びるのがこんなに気持ちいいなんて、生まれて初めて感じるな、シャワーの水が肌にあたる感覚 、こんなに鮮明に感じるなんて 、ここに来て、今ほんとうに生きてる、不思議だがそんな実感をかみしめていた、以前より充実してる生の実感に笑ってしまう。
シャワーから出て戻った時、二人は少し慌てている様子でいた。
「二人がまだ、戻ってないんだ」
「えっ?」
「もう暗くなって来てるし、そろそろ帰らないとまずいわ」
その時、階段を降りてくる音が、嫌な予感を的中させる様に響き渡る
「どうやら帰ってきたみたいだ、全く心配かけやがって」光堂はそう言うも、あまりに焦ってこちらに向かってくる足音に気付いていて、心の中は不安でいっぱいだった、まさか誰かの身に何かが起こったんでは?。
足音の方を向くと、そこにはペレーの姿はなかった。
「おいっマサ ペレーは?」光堂は慌てている
マサは、息をきらした呼吸を整えようと必死だった。
どうやら全力で走って来たみたいだ。
「そっ、それが 木が倒れたひょうしにペレーの身体がはさまって、今まで必死に動かそうとしたんだけど 一人じゃとても動かせなかった」マサの瞳は、涙をため、赤くなっている。
その時だった
突然
外から、あの不気味な雄叫びが
ヴオォォォオー ヴオオオオオーー
三人は急いで、その場所に向かおうと外に向かって走りだす。
その時だった
ミサが手を広げて 三人を止めたのだ。
「残念だけど、もう無理よ、今から行ったら、あなた達三人も命を落とす事になる。今はここでペレーが見つからないように過ごす事を祈るしかないわ」
光堂は、とっさにナイフを背中に持ち、三人はミサを無視して階段をかけあがって行く。
「マサ案内しろ」 光堂 多村が言った。
「うん」
「ほんとうにバカな人達、この町じゃそんなお人よし、生き延びれないわ、仲間だって見捨て無いと、生き延びれ無い時だってあるの」ミサは一人叫んでいた。
三人はその声を全く聞いていなかったかの様に無視し、全力で走った、ペレーのもとに
「ペレー待ってろよ」
外の森は不気味な暗闇に包まれていた。
「なっ、なんだよあの首の長い化け物達は、こいつらが夜 雄叫びをあげて この辺りをさまよっていたのか」
光堂はあまりに不気味な生き物に驚き、声をあげた。
体長15メートルくらい、肌はくすんだ黄緑に近い色、首が異様に長く、顔はネズミのようで鋭いキバを持っているのがここからでも分かった。
ただ、デカイぶん動きは遅そうだ。三人はマサについていき、すぐにペレーの居場所にたどり着く。
「どうして来たウキかー」ペレーは震えていた
「バカほっとけるか」三人は、木を必死にどけようと力を込める
「あっ、ありがとうウキ」ペレーは涙を流し泣いている
「重い もうちょっとだ」
ヴオォォォオー
外で直に聞く、この叫び声は地鳴りのように響く、とんでもない大きな音だった。
「凄い音だ、耳が痛い」
この雄叫びを放つ主は沢山いる。
二匹がこちらに気付いたのか、どんどんせまって来ている
「ぐぅっ 重い もう少し」
「みんな、来たウキ もういい逃げろウキ」
「もう少し、なんだよ」
「ぐうううっ」
すぐ後ろまでその生き物は、近づいていた。
ヴオオゥオォオオオー もう目と鼻の先
その時、ズドーーンッ 「よしっ」
大木がずれ落ち、ペレーは動けるようになる
「みんな逃げろ」光堂が叫び、四人はいっせいに走り出す。
しかし、どう見ても逃げ切るのは不可能だった。
「みんなゴメンウキ~」
その時、車が四人の前に飛び出した
「ミッ ミサ」
「早く乗って」
四人は、間一髪、車に飛び乗った。
「ありがとう、みんな」
「礼を言うのは、はやいわ」
後ろ、前、どちらにもその生物はいる、長い首は不気味にクネクネ動いて近付いて来る。
「何とか逃げ切って見せるわ」
ミサの運転のテクニックは凄かった。
一匹かわし、二匹かわし
「このまま、突っ切るわ」
「あっ危ない」マサが叫んだ
それはミサの視界に入らなかった、ナナメ後ろからの一匹の攻撃だった。
ドンッ 車は体当たりされ激しく揺れる
「うわあああっ」
目の前でその生物の顔を、直視して見えた。
「あんなキバで噛まれたら、いちころだな、それになんてゾッとする瞳をしてるんだ」光堂は背中にいれたナイフを出し身構える、何とか車は持ちこたえ、ミサの基地まで戻ってこられた、車を捨てる様に置き 急いで五人は地下に入る。
ハアハアハアハア
「死ぬかと思った」
「全くあなた達はバカね、私もやきがまわったわ」
「みんな、ありがとう」ペレーは声を上げ泣いていた。
「無事だったんだ気にするな」足の力が抜け、床に座り込む光堂
「これ、お礼ウキ」ポケットから潰れたバナナが
「これは食べれないよ」
このグチャグチャバナナの為に死にかけたなんて、みんなはおかしくなって笑った。
その後、どうにか落ち着きを取り戻し、シャワーを浴びたり、夕食をすませる事が出来た。
ミサが口を開く
「明日みんなを、ある場所に連れて行くわ」
「こっ、こわい場所じゃないウキよね?」
ミサは返事をしなかった。
その反応がみんなを一層不安にさせる
「私も、この長い期間、ここに潜伏してるけど、そこに行くのは初めてなの、ここのスーツを着ているギャング達もそこには近づかないの」
「なんだって!!そんなに危ないのか?」
「いいえ 何があるか どうなってるか、知らないの 前にも言ったけど あなた達は黒楽町を何も知らないわ。ここはまだ、ほんの入り口なの、後ろがどこまで広がり、つづいているのかは、誰も知らないわ」
「ちなみに、そこに行った者達は誰一人こちらに戻ってきてないわ」
「そっ、そんな」
「実は言わなかったけど何日か前に、そこに入って行った妹を見たって声もあったの、確かじゃなかったし、私はここでまだ妹を探してたんだけど」
「明日もそこに入るつもりはないけど、その道周辺の地域をきいてまわろうと思ってるわ」
「その場所も気になるし 分かった、行ってみよう」
「じゃあ今日はもう寝ましょう」
疲れた5人は早めに眠る事に。
ミサは自分の寝室に向かう
「じゃあ明日 おやすみ」
部屋の電気を消したが、外ではあの雄叫びが鳴り響いていた。
「なんてバカでかい鳴き声だよ、まったく」光堂は布団を肩まで一杯にかぶる。
「今日の事なんだけどウキ、今朝町を探索してる時、ミサが人を撃って殺したウキ 撃たなきゃやられてたし、でも自分が逆の立場なら出来たか分からないウキ」
光堂は正義感の強い多村を気にした、自分の気になってる女性が人を殺す
多村はどう感じたんだろうか?
あえて口には出さなかった。
多村は無反応で、皆に背を向けて、眠っている?様に見えた。
「しかし、もしかしたらこっちの世界の光堂は、その道の先にいるかもしれないんだね」マサが言う。
「そうだとらしたら、ミサの一件が片付い後、俺たちは進むしかないな」
「そんな、そしたらもう二度と会えないウキ・・」
ペレーもようやく、この旅の行き着く先は別れだという事を、思い出したようだった。
「俺たちは自分の世界に戻るつもりで、ここに来たんだ」
「そうだったウキね」
「今のうちに渡しておくか」
光堂はポケットから何やら、首につけるアクセサリーを取り出し渡した。
それは銀一色の球体がついただけのシンプルなもの。
「今朝、多村と町を歩いてる時、買ったんだ みんなの友情の証とでも言っておくか、思い出だよ」
「ありがとう」三人は、さっそく首に身に付ける
突然「俺にもかせよ」多村が光堂に言った。
多村は、やはり起きていた
光堂は微笑み、アクセサリーを渡す
これは、お互い離れ離れになっても、いつまでも友達と言う、証だ。
四人は首にアクセサリーをつけながら、眠りについた。
明日も何が起こるか分からない
四人はこの先どうなるのか
皆が無事に生きて帰れるのか
何も分からない
ここはまだ、未知に包まれた謎の世界の序章にすぎなかったのだ
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