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狂人
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その場所はベラーセルと呼ばれる区域で森の奥深くにあった。
僕は正常な常識、良識のある、まともな人間である。
まぁ大抵の普通の人間は、社会に適応出来る、まともな人々の事を言うのだが、その森の奥地に住む者達は、まともな者ではなく、頭のおかしな異常者達ばかりと、僕の住む街では恐れられていた。
「フレドリック、お前、絶対にあの森の奥地には行ってはならないぞ、あそこは頭のイカれた狂人ばかりしかいない場所だからな、はやく政府もあんな不気味な場所を壊してくれれば良いのに」
僕らの住むこの国では皆が口を揃えてこう言う。
僕も絶対にベラーセルには近づかなかった、そう、二十八歳の夏が来るまでは。
その日僕は、美しい女性に出会う。
僕の働く本屋に、その女性は客としてやって来たのだ。
「すみません、あなたの事好きになったんですが、付き合ってくれませんか」
僕は嬉しかった反面、こんな事を思った。
いきなり前置きもなしに、会った瞬間に告白って、少し変わった人なんじゃないのか?何故なら僕はその子に全く面識はなく、
今まで会っている客の顔や、出会った人の事は、大抵覚えていたからだ。
それとも僕の知らない所で僕を知っていたのだろうか。
そこで僕はこんな事を言った。
「いきなり告白されて、もちろん嬉しいんですが、何処かでお会いしたことありましたっけ?」
「いえ今日が初めてですけど、いきなり女性が会ったばかりの男性に告白するのはおかしな事ですか?」
「いえ、別に、大胆で素晴らしいと思いますよ」
僕も彼女に一目惚れだった。
彼女は続けた。
「それなら明日、自分の家のある、この住所に泊まりに来てくれませんか?」
一瞬僕は後ろに引いてしまった、これは何かの罠なのではないか?
いきなり家に泊まりに来い?
それとも少し変わっているのか?
それとも嘘つかれてからかわれているだけなのか?そんな疑念が頭をよぎる。
「いきなり家になんて、中々思っても言えないですよね、本当ですか?」
「どうして本当の事以外を言うのですか?」
その言葉に嬉しい反面、少し、この子を怖いと思いつつも、彼女の美しい容姿に惹かれた僕はこう答えた。
「明日その住所に行きます」
そして翌日
僕はベラーセルのある地域の森の前に立っていた。
まさか教えてもらった住所がこの区域だったなんて。
すぐに帰ろうともしたが、既に彼女もそこで待っていたのだ。
何度も断り、帰ろうとした僕だったが、結局、美しい彼女の容姿と言う魅力に負け、彼女の家に向かう事にした。
「いきなり遠くまでこさせてしまってすみません、遠かったですよね?」
そんな彼女の普通のやりとりに少し僕は安心した。
なんだ、そこまで変わってなんか無いじゃないか、もしかしたら僕らの住む街の人間は、ここに住む人達を嫌いであんな嘘をついて近寄らせない様にしてるのかも知れない、そんな事を思った。
森を抜けるとそこには街があり人々で賑わっていた。
初めての街、近寄ってはいけないと言われた街に来ている事に少し興奮気味な僕は嬉しくなる。
帰ったらみんなに自慢してやろう、僕はベラーセルに言ったんだ勇気あるだろうとか言ってみよう。
次の瞬間、僕は言葉を失った。
角を曲がったところに急に全裸の男が立っていたからだ。
「なっ、なんなんだよあんたは?」
「あんたこそなんなんですか?」男は全裸である事を隠そうともせずに答えた。
僕はこいつは頭がおかしいんだと思い、彼女の手を強く引き
「はやくあっちに行こう」と連れて行った。
「なんだよ、あの男は公然わいせつ罪で逮捕されるぞ、ここには頭のおかしな奴がいるから君も気を付けるんだよ」
「え?どうして全裸で歩いてたら変な人なんですか?」
僕は彼女の返答に唖然とした。
「当たり前じゃあないか、服も着ないで街を歩くなんて卑猥だし、見る人が見たら気分を害するだろう、それに法律で決まってるじゃないか」
「法律?」
「そんな事も知らないのかい、人が決めたルールだよ、それは絶対に守らなきゃいけないものでしょ」
「どうして?そんな絶対に破っちゃいけないルールがあるんですか?」
「どうしてって、何も無かったら無法地帯になっちゃうだろ」
僕は理解した、何故人々がこの地域には近付くなと言ったのかを。
やはりこの子も頭がおかしいんだ、僕はこの場を去ろうとした。
「私の事嫌いになりましたか?」
その美しい表情を見て、僕は思いとどまってしまう、せっかくここまで来たんだ、せめて家まで行こう。
その時だった
「あっ!!!」
僕は再び声をあげる
なんと、男が店の棚から、お金を払わず商品を勝手に持っていったからだ。
「泥棒だ、泥棒だ」気付いたら僕は叫んでいた。
「どうして叫んでいるの?」
またも彼女の意味の分からない発言
「何を言ってるんだ、勝手に商品をお金も払わずに持って行ったんだぞ」
「お金?」
「君、お金も知らないのかい?」
「なんですかそれは?」
僕は説明するのが面倒臭くなる
やはりこの場所に住む者達は、法律もなく、政治もなく、一般常識もなく、まるで原始時代から時が止まってる様な遅れた考えの者達の集まりなんだ。
「よく、お金がなく、この場所が成り立ってるよな、泥棒はいけない事なんだぞ」
「泥棒?」
「そうだよ、人の物を盗む者の事だよ」
「人の物を盗む?」
「そうだよ、君が所有して、持ってる持ち物を、勝手に取る者の事を言うんだよ」
「私が所有?私が所有しているものなんて、この世にあるのですか?」
「何を言ってるんだ君は」
ああ、この地域の者達はやはり阿呆に違いない、馬鹿なのだ、変人と言われる所以(ゆえん)が分かった。
また次の角で僕の視界にこんな光景が入る
街中で若者が麻薬をやっているのだ。
「あれは麻薬だぞ、薬物だ、あんなのも見つかったら逮捕されて、裁かれるんだぞ、いけない事なんだ」
「逮捕?裁く?なんですかそれは、どうしていけない事なんですか?」
僕は完全に呆れ果ててしまった。
「いけないって、そう決まってるからだよ」
「そんな決まりがあるんですか?誰が決めたんですか?」
「世の中だよ、世の中で悪いと決まってるの」
「世の中が正しい、悪いものを決めるのですか?」
「そうだよ、あ~もうっ、社会で決まってるの」
「ルールを破るとどうなるんですか?」
「檻の中に何年も逮捕されるんだよ」
彼女は少し驚いた顔をしていた。
「おかしなルールがあるんですね、他人が人の人生のルールを勝手に決めて、それを破ると罰せられるなんて」
ああ、駄目だこの子は…僕は思った。
怒りをぶちまける為にこんな事を言ってみた。
「君達、生きてるならちゃんと税金をはらっているのか?」あっ、お金すら知らなかったんだった。
僕は言った後に思う。
「税金?なんですかそれは」
「色々払うんだよ、自分の所有する土地代やら、働いたらその分、生きてればみんな払わなきゃいけないものなの」
「自分の生まれた地で生活するのに、代価を払わなきゃ生きていけないんですか?」
僕は決めた、こんな頭のおかしい狂人が住む場所から一刻もはやく離れよう、はやくまともな人と会話がしたいと。
僕は直ぐ様その場を去って行った。
ベラーセルの人々は口を揃えて言っている。
「絶対にこの森から出ちゃあいけないよ、頭のおかしい狂人達が、あっちには住んでいるから」と。
僕は正常な常識、良識のある、まともな人間である。
まぁ大抵の普通の人間は、社会に適応出来る、まともな人々の事を言うのだが、その森の奥地に住む者達は、まともな者ではなく、頭のおかしな異常者達ばかりと、僕の住む街では恐れられていた。
「フレドリック、お前、絶対にあの森の奥地には行ってはならないぞ、あそこは頭のイカれた狂人ばかりしかいない場所だからな、はやく政府もあんな不気味な場所を壊してくれれば良いのに」
僕らの住むこの国では皆が口を揃えてこう言う。
僕も絶対にベラーセルには近づかなかった、そう、二十八歳の夏が来るまでは。
その日僕は、美しい女性に出会う。
僕の働く本屋に、その女性は客としてやって来たのだ。
「すみません、あなたの事好きになったんですが、付き合ってくれませんか」
僕は嬉しかった反面、こんな事を思った。
いきなり前置きもなしに、会った瞬間に告白って、少し変わった人なんじゃないのか?何故なら僕はその子に全く面識はなく、
今まで会っている客の顔や、出会った人の事は、大抵覚えていたからだ。
それとも僕の知らない所で僕を知っていたのだろうか。
そこで僕はこんな事を言った。
「いきなり告白されて、もちろん嬉しいんですが、何処かでお会いしたことありましたっけ?」
「いえ今日が初めてですけど、いきなり女性が会ったばかりの男性に告白するのはおかしな事ですか?」
「いえ、別に、大胆で素晴らしいと思いますよ」
僕も彼女に一目惚れだった。
彼女は続けた。
「それなら明日、自分の家のある、この住所に泊まりに来てくれませんか?」
一瞬僕は後ろに引いてしまった、これは何かの罠なのではないか?
いきなり家に泊まりに来い?
それとも少し変わっているのか?
それとも嘘つかれてからかわれているだけなのか?そんな疑念が頭をよぎる。
「いきなり家になんて、中々思っても言えないですよね、本当ですか?」
「どうして本当の事以外を言うのですか?」
その言葉に嬉しい反面、少し、この子を怖いと思いつつも、彼女の美しい容姿に惹かれた僕はこう答えた。
「明日その住所に行きます」
そして翌日
僕はベラーセルのある地域の森の前に立っていた。
まさか教えてもらった住所がこの区域だったなんて。
すぐに帰ろうともしたが、既に彼女もそこで待っていたのだ。
何度も断り、帰ろうとした僕だったが、結局、美しい彼女の容姿と言う魅力に負け、彼女の家に向かう事にした。
「いきなり遠くまでこさせてしまってすみません、遠かったですよね?」
そんな彼女の普通のやりとりに少し僕は安心した。
なんだ、そこまで変わってなんか無いじゃないか、もしかしたら僕らの住む街の人間は、ここに住む人達を嫌いであんな嘘をついて近寄らせない様にしてるのかも知れない、そんな事を思った。
森を抜けるとそこには街があり人々で賑わっていた。
初めての街、近寄ってはいけないと言われた街に来ている事に少し興奮気味な僕は嬉しくなる。
帰ったらみんなに自慢してやろう、僕はベラーセルに言ったんだ勇気あるだろうとか言ってみよう。
次の瞬間、僕は言葉を失った。
角を曲がったところに急に全裸の男が立っていたからだ。
「なっ、なんなんだよあんたは?」
「あんたこそなんなんですか?」男は全裸である事を隠そうともせずに答えた。
僕はこいつは頭がおかしいんだと思い、彼女の手を強く引き
「はやくあっちに行こう」と連れて行った。
「なんだよ、あの男は公然わいせつ罪で逮捕されるぞ、ここには頭のおかしな奴がいるから君も気を付けるんだよ」
「え?どうして全裸で歩いてたら変な人なんですか?」
僕は彼女の返答に唖然とした。
「当たり前じゃあないか、服も着ないで街を歩くなんて卑猥だし、見る人が見たら気分を害するだろう、それに法律で決まってるじゃないか」
「法律?」
「そんな事も知らないのかい、人が決めたルールだよ、それは絶対に守らなきゃいけないものでしょ」
「どうして?そんな絶対に破っちゃいけないルールがあるんですか?」
「どうしてって、何も無かったら無法地帯になっちゃうだろ」
僕は理解した、何故人々がこの地域には近付くなと言ったのかを。
やはりこの子も頭がおかしいんだ、僕はこの場を去ろうとした。
「私の事嫌いになりましたか?」
その美しい表情を見て、僕は思いとどまってしまう、せっかくここまで来たんだ、せめて家まで行こう。
その時だった
「あっ!!!」
僕は再び声をあげる
なんと、男が店の棚から、お金を払わず商品を勝手に持っていったからだ。
「泥棒だ、泥棒だ」気付いたら僕は叫んでいた。
「どうして叫んでいるの?」
またも彼女の意味の分からない発言
「何を言ってるんだ、勝手に商品をお金も払わずに持って行ったんだぞ」
「お金?」
「君、お金も知らないのかい?」
「なんですかそれは?」
僕は説明するのが面倒臭くなる
やはりこの場所に住む者達は、法律もなく、政治もなく、一般常識もなく、まるで原始時代から時が止まってる様な遅れた考えの者達の集まりなんだ。
「よく、お金がなく、この場所が成り立ってるよな、泥棒はいけない事なんだぞ」
「泥棒?」
「そうだよ、人の物を盗む者の事だよ」
「人の物を盗む?」
「そうだよ、君が所有して、持ってる持ち物を、勝手に取る者の事を言うんだよ」
「私が所有?私が所有しているものなんて、この世にあるのですか?」
「何を言ってるんだ君は」
ああ、この地域の者達はやはり阿呆に違いない、馬鹿なのだ、変人と言われる所以(ゆえん)が分かった。
また次の角で僕の視界にこんな光景が入る
街中で若者が麻薬をやっているのだ。
「あれは麻薬だぞ、薬物だ、あんなのも見つかったら逮捕されて、裁かれるんだぞ、いけない事なんだ」
「逮捕?裁く?なんですかそれは、どうしていけない事なんですか?」
僕は完全に呆れ果ててしまった。
「いけないって、そう決まってるからだよ」
「そんな決まりがあるんですか?誰が決めたんですか?」
「世の中だよ、世の中で悪いと決まってるの」
「世の中が正しい、悪いものを決めるのですか?」
「そうだよ、あ~もうっ、社会で決まってるの」
「ルールを破るとどうなるんですか?」
「檻の中に何年も逮捕されるんだよ」
彼女は少し驚いた顔をしていた。
「おかしなルールがあるんですね、他人が人の人生のルールを勝手に決めて、それを破ると罰せられるなんて」
ああ、駄目だこの子は…僕は思った。
怒りをぶちまける為にこんな事を言ってみた。
「君達、生きてるならちゃんと税金をはらっているのか?」あっ、お金すら知らなかったんだった。
僕は言った後に思う。
「税金?なんですかそれは」
「色々払うんだよ、自分の所有する土地代やら、働いたらその分、生きてればみんな払わなきゃいけないものなの」
「自分の生まれた地で生活するのに、代価を払わなきゃ生きていけないんですか?」
僕は決めた、こんな頭のおかしい狂人が住む場所から一刻もはやく離れよう、はやくまともな人と会話がしたいと。
僕は直ぐ様その場を去って行った。
ベラーセルの人々は口を揃えて言っている。
「絶対にこの森から出ちゃあいけないよ、頭のおかしい狂人達が、あっちには住んでいるから」と。
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