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第2章
第55話 五人衆
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「静かだな」
『はい。攻撃されてるって言ってましたけど、どうなったんでしょ?』
もうじき日が暮れるだろう時間。俺たちはリリーナに言われた基地を目指してドールを走らせる。
そろそろ着くはずだが、戦闘の音が聞こえない。
もうすでに撃退されたか、もしくは――。
そう考えていると、警報が鳴った。
俺とセレスは素早くレバーとフットペダルを操作して、【ペルラネラ】を急ターンさせる。
それまでの【ペルラネラ】の進路に砲弾が通過するのを見て、俺は舌打ちをした。
「遅かったか」
「そのようですわ」
見れば、前方で黒い布をまとったゴーレムたちが森の影から立ち上がる。
そして、その奥にはひと際大きな影が三騎、腕組みしていた。
『やはり【ペルラネラ】と【オリフラム】か。三男』
『どうやらエルフたちの手先となったようだ。次男』
『我らでこやつらを叩きのめせばよいのだろう? 長男』
三つの男の声が響くが、そのどれもが同じような声に聞こえる。
ゴーレムの出で立ちもほとんど変わらず、識別できるのは羽織っているマントの色くらいだろうか。
砲撃を跳躍で避けたらしい【オリフラム】がガシャン、と隣に着地した。
『グレンさん! こいつらはアタシたちがやります! 先へ急いでください!』
両の剣を抜きながらルーシーが言ってきた。
こいつらがここで待ち伏せをしていたということは、すでに基地は敵の占領下にあるということだ。
『ちょっとした戦術級の兵器』とやらが使われるのも時間の問題かもしれない。
ルーシーの判断は冷静だ。
だが、敵は多勢。いくらルーシーが戦い慣れしてきたとしても、苦戦はするだろう。
俺は答えは決まっているとわかっていても、ルーシーに聞く。
「やれるか?」
『数が多いのはこの間の戦いで経験しました。やってみせます!』
こいつらは知っている。
【アズーロ】と【フクスィア】とは順番が逆になるが、中盤の中ボスに当たる敵だ。
確か名前は――。
『ほう? 我らが【五人衆】を相手に一人で戦うというのか。次男』
『なんと愚かな小娘よ。長男』
『侮るな。こやつは皇国とラハトの戦ですでに武勲をあげている。手加減は無用ぞ。三男』
あの大柄なゴーレムたちを司令塔として、それぞれ五騎のゴーレムを操作する敵だ。
攻略法さえ知っていれば大した敵じゃない。
俺はルーシーにそれを教えておく。
「わかった。先にアタマをやれ。それで終わる。任せたぞ!」
『わかりました! 頭をやればいいんですね!』
……ん? 本当にわかったのか?
俺は少し疑問に思いつつも、【ペルラネラ】をダッシュさせた。
てっきり邪魔をされるかと思ったが、意外にも敵は走り去る俺たちを傍観する。
どうやらこの先にも敵はいるのだろう。
ルーシーのことは心配だが、あいつは主人公だ。
こんなところで負けるわけがない。
そう自分に言い聞かせて、俺は【ペルラネラ】を走らせるのだった。
◇ ◇ ◇
『良いのか? 長男』
『我らが受けた命は【オリフラム】の破壊。あとはあの操り人形どもが【ペルラネラ】を始末するのだろう。次男』
『あやつらに掛かれば【ペルラネラ】とて敵うはずもない。加えて【ペルラネラ】の騎士はあやつらの息子だというではないか。三男』
「グレンさんの親御さん……! アンタたち、それでも騎士なの!?」
【ペルラネラ】が去った後、ルーシーは剣を構えて敵を待ち受ける。
すると、急にピコンと音がして、手元のボタンが光った。
「なにこれ?」
「あっ、ルクレツィア様――」
「あ、ポチっとな」
なんとなくルーシーがそれを押すと、騎乗席内に三つの窓が開く。
そこには三人のそれぞれ異なるデザインの仮面を被った、なんだかピチピチのスーツを着た男たちがいた。
鍛え上げられた筋肉がもりあがって影を作るほど、肌にピッタリ張り付く衣装だ。
それを見て、ルーシーはドン引きする。
「へ、変態さんだぁ……! エリィ、見ない方がいいよ」
「は、はい。あまり殿方のそのような恰好には慣れておりません……」
後ろを見ると、エリィは手で目を隠して顔を赤らめていた。
『なんだと!? 我らを愚弄するとは! これはますます生かしてはおけんな。次男』
『そのようだ。じっくりと嬲り殺しにしてくれよう。長男』
『待て。我らは【五人衆】に感情など要らぬ。ただ淡々と敵を殺すのみだ。三男』
仮面のせいで誰が喋っているのかわからない。
どうやらこの三人は兄弟のようだが、誰が長男で、誰が次男で、誰が三男なのかルーシーにはわかりかねる。
なにより……。
「……五人衆って言うけど三人しかいなくない?」
『わからぬか。我らは配下の手足を含めて五人衆……。数えてみよ』
「えっと、ひいふうみい……」
言われて、ルーシーは素直にゴーレムの数を数える。
そうして数を数えたルーシーは首を捻った。
「アンタら含めると十八なんだけど……」
『もしかすればこの小娘、馬鹿なのではないか? 長男』
『もしかしなくとも馬鹿なのだ。三男』
『凡人には我らの意図を理解できないこともあるのだ。次男』
言われて、ルーシーは騎乗席の中で手を振り上げて怒鳴る。
「人をバカバカ言うな! なんだそのピッチリな恰好は!? 乳首透けてんじゃん! 変態か! 変態でしょ! 変態なのよ!」
ルーシーの言葉に男たちは自分の胸を見た。
そして、その乳首が浮いているのを見て、ぐぅと唸る。
『わ、我らの戦装束は【星詠み】様より賜ったもの! 貴様にどうこう言われる筋合いはないわ!』
「自分で着ててちょっと恥ずかしくなってきたんでしょ! バーカバーカ! つーか誰が喋ってんだかわかんないのよ!」
『ええい! この小娘めが! 五騎のゴーレムを操るからこそ【五人衆】だと言っておるのだ!』
「なるほどぉぉぉ!」
痺れを切らして斬りかかってきたゴーレムの一騎の頭に、ルーシーは剣を叩きつける。
すると、叩き割られた頭からバチバチと火花を散らして、ゴーレムはその動きを止めた。
「これで十七じゃん。そのよくわかんない名前、やめたほうがいいんじゃない?」
『……やってくれる。その首、ここで持ち帰らぬは我らの恥だ。三男』
『ぐっ……。我の手足のひとつを……! 一斉にかかるぞ! 次男!』
『当然のこと。我らは一心同体。たかが一騎、されど一騎、全力で相手をする。長男』
シュン、と音がして、男たちの映っていた窓が消える。
そこで、後ろのエリィが首を傾げてルーシーに言った。
「ルクレツィア様。お兄様が言っていたのはそういう意味ではないと……」
「え? なにが?」
そんなやりとりをしている間に、ゴーレムたちが一斉に動き出す。
それを見て、ルーシーは【オリフラム】を走りださせた。
「行くよ! エリィ!」
「あ……。はい!」
――グレンさんが言ってた通り、頭が弱点みたいだ。これならいける!
ルーシーはにやりと笑いつつも、敵に突っ込んでいくのだった。
『はい。攻撃されてるって言ってましたけど、どうなったんでしょ?』
もうじき日が暮れるだろう時間。俺たちはリリーナに言われた基地を目指してドールを走らせる。
そろそろ着くはずだが、戦闘の音が聞こえない。
もうすでに撃退されたか、もしくは――。
そう考えていると、警報が鳴った。
俺とセレスは素早くレバーとフットペダルを操作して、【ペルラネラ】を急ターンさせる。
それまでの【ペルラネラ】の進路に砲弾が通過するのを見て、俺は舌打ちをした。
「遅かったか」
「そのようですわ」
見れば、前方で黒い布をまとったゴーレムたちが森の影から立ち上がる。
そして、その奥にはひと際大きな影が三騎、腕組みしていた。
『やはり【ペルラネラ】と【オリフラム】か。三男』
『どうやらエルフたちの手先となったようだ。次男』
『我らでこやつらを叩きのめせばよいのだろう? 長男』
三つの男の声が響くが、そのどれもが同じような声に聞こえる。
ゴーレムの出で立ちもほとんど変わらず、識別できるのは羽織っているマントの色くらいだろうか。
砲撃を跳躍で避けたらしい【オリフラム】がガシャン、と隣に着地した。
『グレンさん! こいつらはアタシたちがやります! 先へ急いでください!』
両の剣を抜きながらルーシーが言ってきた。
こいつらがここで待ち伏せをしていたということは、すでに基地は敵の占領下にあるということだ。
『ちょっとした戦術級の兵器』とやらが使われるのも時間の問題かもしれない。
ルーシーの判断は冷静だ。
だが、敵は多勢。いくらルーシーが戦い慣れしてきたとしても、苦戦はするだろう。
俺は答えは決まっているとわかっていても、ルーシーに聞く。
「やれるか?」
『数が多いのはこの間の戦いで経験しました。やってみせます!』
こいつらは知っている。
【アズーロ】と【フクスィア】とは順番が逆になるが、中盤の中ボスに当たる敵だ。
確か名前は――。
『ほう? 我らが【五人衆】を相手に一人で戦うというのか。次男』
『なんと愚かな小娘よ。長男』
『侮るな。こやつは皇国とラハトの戦ですでに武勲をあげている。手加減は無用ぞ。三男』
あの大柄なゴーレムたちを司令塔として、それぞれ五騎のゴーレムを操作する敵だ。
攻略法さえ知っていれば大した敵じゃない。
俺はルーシーにそれを教えておく。
「わかった。先にアタマをやれ。それで終わる。任せたぞ!」
『わかりました! 頭をやればいいんですね!』
……ん? 本当にわかったのか?
俺は少し疑問に思いつつも、【ペルラネラ】をダッシュさせた。
てっきり邪魔をされるかと思ったが、意外にも敵は走り去る俺たちを傍観する。
どうやらこの先にも敵はいるのだろう。
ルーシーのことは心配だが、あいつは主人公だ。
こんなところで負けるわけがない。
そう自分に言い聞かせて、俺は【ペルラネラ】を走らせるのだった。
◇ ◇ ◇
『良いのか? 長男』
『我らが受けた命は【オリフラム】の破壊。あとはあの操り人形どもが【ペルラネラ】を始末するのだろう。次男』
『あやつらに掛かれば【ペルラネラ】とて敵うはずもない。加えて【ペルラネラ】の騎士はあやつらの息子だというではないか。三男』
「グレンさんの親御さん……! アンタたち、それでも騎士なの!?」
【ペルラネラ】が去った後、ルーシーは剣を構えて敵を待ち受ける。
すると、急にピコンと音がして、手元のボタンが光った。
「なにこれ?」
「あっ、ルクレツィア様――」
「あ、ポチっとな」
なんとなくルーシーがそれを押すと、騎乗席内に三つの窓が開く。
そこには三人のそれぞれ異なるデザインの仮面を被った、なんだかピチピチのスーツを着た男たちがいた。
鍛え上げられた筋肉がもりあがって影を作るほど、肌にピッタリ張り付く衣装だ。
それを見て、ルーシーはドン引きする。
「へ、変態さんだぁ……! エリィ、見ない方がいいよ」
「は、はい。あまり殿方のそのような恰好には慣れておりません……」
後ろを見ると、エリィは手で目を隠して顔を赤らめていた。
『なんだと!? 我らを愚弄するとは! これはますます生かしてはおけんな。次男』
『そのようだ。じっくりと嬲り殺しにしてくれよう。長男』
『待て。我らは【五人衆】に感情など要らぬ。ただ淡々と敵を殺すのみだ。三男』
仮面のせいで誰が喋っているのかわからない。
どうやらこの三人は兄弟のようだが、誰が長男で、誰が次男で、誰が三男なのかルーシーにはわかりかねる。
なにより……。
「……五人衆って言うけど三人しかいなくない?」
『わからぬか。我らは配下の手足を含めて五人衆……。数えてみよ』
「えっと、ひいふうみい……」
言われて、ルーシーは素直にゴーレムの数を数える。
そうして数を数えたルーシーは首を捻った。
「アンタら含めると十八なんだけど……」
『もしかすればこの小娘、馬鹿なのではないか? 長男』
『もしかしなくとも馬鹿なのだ。三男』
『凡人には我らの意図を理解できないこともあるのだ。次男』
言われて、ルーシーは騎乗席の中で手を振り上げて怒鳴る。
「人をバカバカ言うな! なんだそのピッチリな恰好は!? 乳首透けてんじゃん! 変態か! 変態でしょ! 変態なのよ!」
ルーシーの言葉に男たちは自分の胸を見た。
そして、その乳首が浮いているのを見て、ぐぅと唸る。
『わ、我らの戦装束は【星詠み】様より賜ったもの! 貴様にどうこう言われる筋合いはないわ!』
「自分で着ててちょっと恥ずかしくなってきたんでしょ! バーカバーカ! つーか誰が喋ってんだかわかんないのよ!」
『ええい! この小娘めが! 五騎のゴーレムを操るからこそ【五人衆】だと言っておるのだ!』
「なるほどぉぉぉ!」
痺れを切らして斬りかかってきたゴーレムの一騎の頭に、ルーシーは剣を叩きつける。
すると、叩き割られた頭からバチバチと火花を散らして、ゴーレムはその動きを止めた。
「これで十七じゃん。そのよくわかんない名前、やめたほうがいいんじゃない?」
『……やってくれる。その首、ここで持ち帰らぬは我らの恥だ。三男』
『ぐっ……。我の手足のひとつを……! 一斉にかかるぞ! 次男!』
『当然のこと。我らは一心同体。たかが一騎、されど一騎、全力で相手をする。長男』
シュン、と音がして、男たちの映っていた窓が消える。
そこで、後ろのエリィが首を傾げてルーシーに言った。
「ルクレツィア様。お兄様が言っていたのはそういう意味ではないと……」
「え? なにが?」
そんなやりとりをしている間に、ゴーレムたちが一斉に動き出す。
それを見て、ルーシーは【オリフラム】を走りださせた。
「行くよ! エリィ!」
「あ……。はい!」
――グレンさんが言ってた通り、頭が弱点みたいだ。これならいける!
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