どーも悪役令嬢のメイドです。以後、御見知り置いとけ! ~霊獣になったアタシはご主人様をバッドエンドにはさせてやらない~

阿澄飛鳥

文字の大きさ
上 下
41 / 48
第二章

40:因果と死神

しおりを挟む
「シャノン、転ばないでね」
「うん、ありがとう!」

 日差しの熱い日。アタシはフィロメニアを馬車から先に降ろし、シャノンにも手を貸す。

 まだ夏休みは終わっていない。
 けれどアタシたちは舞踊会の準備のためにだいぶ早く学園へ戻っていた。

 シャノンもディアナと会うために一緒に乗ってきたのだ。

「ウィナ、舞台設備の用意はどうだ?」
「だいたいは出来てるよ。あとは演出を試行錯誤して……前々日にはリハーサルやりたいかな」
「うむ」

 フィロメニアが早くも舞台の練習に意気込んでいる。
 
 まだ当日まで時間があるのに気が早いなぁ。

「ご主人様! おかえりなさいニィ!」
「うおっ……なに、アンタ待ってたの?」
 
 そんなことを考えていたら、横から何かに飛びつかれた。
 サニィだ。

 度々学園には戻るときに相手をしていたものの、正直、一か月近く放置していたと言っても過言じゃない。
 ちょっと可哀想に思えてその背中をポンポンしてやると、気持ちよさそうに目を細める。

「よしよし。ほら、じゃあシャノンの荷物持ってあげて。終わったフィロメニアの部屋に来なさい」
「了解ニ!」
「畏まりました、ね」

 相変わらずメイドとしては使用人としてはかなり怪しい。
 けれども元々綺麗好きなのか、サニィは掃除に関しては意外とキチンとやるのだ。
 
 なのでアタシがいない間の部屋の掃除はしっかり任せてある。
 
 そして、アタシたちは宿舎まで荷物を持って移動した。
 シャノンの手伝いはサニィに任せ、フィロメニアの部屋でアタシは荷解きをする。

 すると、扉がコンコンと叩かれた。

 なにかと思いつつ扉を開く。すると、そこにはリーナが立っていた。

「久しぶりね、ウィナ」
「リーナちゃん! 一ヵ月ぶりー!」

 久しい友人に、アタシは手を取ってはしゃぐ。
 フィロメニアも顔を知っているのか、声をかけてきた。
 
「ベルティリーナか。どうした?」
「はい、フィロメニア様。実はクレイヴィアス殿下も学園にお戻りになられています。なので皆さまでお茶でも、とのお誘いでございます」
「先に舞台の設備を見たかったが……まぁ時間はある。ぜひ参加すると伝えておけ」
「畏まりました。ではテラスまでお越しください」

 そう言うとリーナは一礼して、「じゃ、あとでね、ウィナ」とウインクしてくる。
 あれが一流のメイドだよねぇ。

「シャワー浴びてからいくよね? どのドレスが良い?」
「お前が選べ」

 フィロメニアはそんな風に言って、今着ている服を脱ぎ捨てた。
 
 アタシはとりあえず赤のドレスを選ぶ。
 自分はといえばシャワーを浴び、メイド服からメイド服に着替えて、殿下のお茶会に望むのだった。


 ◇   ◇   ◇


「舞踊会の練習はどうだ? 二人とも」
「問題ありません」
「結構イイ感じだよね」
「お二人の舞台、きっとクレイヴ様も感動すると思います!」
 
 リーナの淹れたお茶を啜りながら、アタシとフィロメニア、それからシャノンは口々にそう言う。
 それを聞いたクレイヴは「楽しみだ」と言ってフィロメニアから受け取ったサイリウムを軽く振ってみせた。

「アンタこそ夏休み中、なんか問題抱えてないでしょうね」

 そうアタシが訝しむとクレイヴは声を上げて笑う。
 
「ははは、俺の方は平穏そのものだ。ジルとは最近何度か冒険に行っているが、あいつは素直になった。セルジュも元の体形に戻りつつある。全てウィナフレッドのおかげだな」
「原因もアタシにあるような気もするけどね」
「そう言った経緯も、俺たちにはいい経験さ。――時にフィロメニア」

 クレイヴの声が急に低くなった。
 なんだろうと思い、耳を傾けると、相変わらずのイケボで彼は言う。

「ペリシエール家について、何か知らないか」
「と、言いますと?」
「最近、裏の稼業を生業とする人物にペリシエール家から金が流れたらしい噂がある。もし何か企みがあるのなら公爵家も無関係ではないと思ってね」
「めっっっちゃ心当たりある話だわ、それ」
「なんだって?」

 アタシはその場でジョゼたち傭兵団に工場を放火された話をした。
 最初は驚いて聞いていたクレイヴだが、話すうちに納得がいったような表情になる。

「なるほど、通りで」
「どういう意味?」

 アタシが片眉を上げて聞くと、クレイヴはお茶を一口飲んでから話し出した。

「ある意味、今回のことはやり方がぬるいのだ。噂が立ってしまうほどにはやり方が拙く、末端に任せた仕事も雑だ。私の耳に入ってきたのはそういうことかと納得したよ」
「ってことはつまり……どゆこと?」
「公爵家を本気で潰したいならもっとやりようがあるだろう、ウィナ。たとえば――この首を取るなどだな」

 フィロメニアは笑いながら自分の首をトントンと叩く。
 
 そうだった場合には、たぶんジョゼたちは依頼を受けないだろうなぁ。
 この前は工場だったからやられてしまったが、公爵家の屋敷は次期当主を暗殺されるほどヤワな警備体制じゃない。

 そもそももし暗殺のプロとかが送り込まれてきても、アタシとセファーが気がつかないことはないだろう。
 
「しかし、わからないのはペリシエール家は公爵家の派閥だったはずだが……」
「いいえ、殿下。あの家の者が私の首を欲しがる理由は十分にあります。詳しくは話せませんが」
「恨みを買ったか」
「ご想像にお任せします。ただ、表向きは殿下の仰った通り、あの家はこちらの派閥。ペリシエール子爵自身がやったことではないでしょう」
「君はいつも何かを見透かしているな」
「殿下のお言葉から察したのみです。まぁ、すぐに事は露見するでしょう。むしろ今までよく我慢したと褒めてやりたいくらいです」

 そんなことを言いつつ、フィロメニアはお菓子を一つ齧った。

 アタシにはなんのこっちゃ、という感じだ。
 けれど、そこに来て横に座るシャノンの顔が真っ青なことに気づいた。

「シャノン? どうかした?」
「あ、あの……ペリシエールって、もしかして……」

 シャノンは震えた声でフィロメニアに問いかける。
 すると、彼女は意地の悪そうな笑みを湛えて、にこやかに返した。

「お前の友人とやら――ディアナの家だ」

 その言葉に、シャノンが息を飲む。
 アタシはこのお茶会の空気が一変したことに戸惑った。

「え、なに……? なんでシャノンの友達ん家がウチに嫌がらせしてんの?」

 アタシが言うと、フィロメニアは何がおかしいのか、顔に手を当てて笑う。

「ふふ、ウィナ。因果というのは厄介なものでな。忘れた頃に死神を送ってくるのさ」

「――それはわたくしのことでして?」

 瞬間、後方から殺気が膨れ上がって、セファーの出す警告音に従ってアタシは手を伸ばした。
 フィロメニアの顔面に直撃するコースで飛んできた黒い何かを鷲掴みにする。

 すると掴んで左手に痛みが走った。見ればテーブルに赤い液体が滴り落ちている。
 
 飛んできたのはナイフだ。

 思わず素手で掴んでしまったから指が少し切れてしまったらしい。
 アタシは出血に構わずナイフの向きを変えて、飛んできた方向に投げつける。

 だが、そのナイフは元の持ち主の手元に華麗に戻っただけだ。

「ディアナ!」
「シャノン……。お久しぶりですわね」
 
 シャノンが椅子を蹴って立ち上がる。
 ディアナと呼ばれたナイフの使い手は、煤けたような色の銀髪に、真っ青な顔で反応する。

「言っただろう。すぐに露見すると」
「数十秒後とは思わないじゃん」
「それだけ待ちきれなかったということだ」

 アタシはその言葉にため息をついて、フィロメニアの前へと立ちふさがった。
 
「――久しいな、ディアナ。随分と具合が悪そうだが」
「ふふ、お会いできるのを楽しみにしておりましたわ。フィロメニア様」
「あいにく見ての通り茶会の真っ最中でな。それに私は忙しい。お前にかまってやれる暇はない」
 
 殺気立ったディアナを前に、フィロメニアはいつもの調子で応じる。
 その間にクレイヴはシャノンの肩を持ち、その場から距離を取らせていた。

「今のでお静かになって頂ければわたくしもお騒がせしなくて済んだのですが……やはり邪魔ですわね。その使用人は」
「いいものだろう。おかげでお前のような輩に簡単に殺されずに済んでいる」
「――お姉さまを殺してでも、ですの?」
「え?」

 アタシはフィロメニアに振り向く。彼女は何の迷いもない目でアタシを見て――そしてゆっくりと目を閉じた。
 
「栓無き話だな。お前の姉――クラエス・ヴァン・ペリシエールはこのウィナフレッドに負けた。ただそういう事実があるだけだ」
 
 その名前には聞き覚えがある。
 アタシは急に頭の中の点と点が繋がったような気がした。
 
「ま、待って、じゃあアンタは……」
「そう。そうですわ。わたくしはあなたが帝国との国境沿いで殺した神殿騎士――クラエスお姉様の妹ですわ」

 そう言って笑うディアナの顔は、まさしく死神を彷彿とさせるものだった。





======================================





お付き合い頂き、ありがとうございます。
面白い、続きが気になると思ってくださった方はお気に入り登録をポチッと押してください!
感想もお待ちしております!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

双子と大魔女と運命反転の竜

丸インコ
ファンタジー
価値を決めるのは世間ではない。自分の才能を信じて運命を反転させる逆転劇! ◆公爵家の養子アルエット・ドゥプルワと、平民ながら魔術師の名門に引き取られたエグレット・エルは、オワゾー魔法学園に通う双子の姉妹。優等生の妹エグレットに比べて落ちこぼれの姉アルエットは、引き取られた公爵家で冷遇されていた。 ◆公爵家に居場所が無く、学園でも落ちこぼれのアルエットが夢見るのは、学園で最も優れた成績の者に贈られる大魔女の称号を得て自由になる未来。大魔女に値する強大な魔法を扱うには、神魂獣と呼ばれる自分の召喚獣を媒介とする必要がある……のだが、強く美しい神魂獣を召喚したエグレットと対照的に、アルエットの神魂獣は子犬サイズの骸骨でーー!? ◆ 底界“スー・テラン”からやって来る魔物“カヴァリ”と人類が戦う世界。魔術至上主義の王国で、大魔女を目指して魔法学園に通う双子の少女の物語。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

偏屈な辺境伯爵のメイドに転生しましたが、前世が秋葉原ナンバーワンメイドなので問題ありません

八星 こはく
恋愛
【愛されスキルで溺愛されてみせる!伯爵×ぽんこつメイドの身分差ラブ!】 「私の可愛さで、絶対ご主人様に溺愛させてみせるんだから!」 メイドカフェ激戦区・秋葉原で人気ナンバー1を誇っていた天才メイド・長谷川 咲 しかし、ある日目が覚めると、異世界で別人になっていた! しかも、貧乏な平民の少女・アリスに生まれ変わった咲は、『使用人も怯えて逃げ出す』と噂の伯爵・ランスロットへの奉公が決まっていたのだ。 使用人としてのスキルなんて咲にはない。 でも、メイドカフェで鍛え上げた『愛され力』ならある。 そう決意し、ランスロットへ仕え始めるのだった。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

処理中です...