34 / 48
第二章
33:その傲慢に幸あれ
しおりを挟む
「ちょっとクレイヴ!」
アタシは教室棟で探していた相手をやっと見つけた。
「やぁ、ウィナフレッ――」
「ちょっと来い!」
そして、朗らかに手を挙げたクレイヴの胸倉を掴むと、引きずるように人気のない場所に連行する。
「ど、どうした? 君らしく……いや、君らしいが、何かあったのか?」
「シャノンへの虐め! アレどうにかしなさいよ!」
アタシが単刀直入に言うと、クレイヴは息を飲む気配がした。
どうやら虐めのことは知っているらしい。
「彼氏でしょ!」
「……彼女とは友人だよ。俺がフィロメニアに振られてしまったからと言って、そう決めつけるのはシャノンにも失礼だ」
「友達でもなんとかしろ!」
クレイヴはやけに落ち着いている。
その態度にアタシは普段以上に熱くなっていた。
「無理だ」
「なんで!」
「彼女自身が変わらない限り、ああいった輩は今後も出てくるだろう。友人でしかない俺が何かしたところで、それは一時的なものに過ぎない」
その言葉に、アタシは先ほどのフィロメニアからも感じたドライな雰囲気を覚える。
冷めていて、達観したようなその雰囲気――アタシはそれが、貴族特有の人間関係から来るものだと直感した。
クレイヴはアタシの様子に気づいたのか、肩に手を置いて諭すように言う。
「ウィナフレッド。君だからこそ言おう。学園の『友人』などというものは、我々貴族の世界では自らの手数の数に過ぎない。本当に大切なものならば、血を交える他ない」
つまり親戚や家族にならなければならない、ということだろうか。
なら――。
「ならシャノンとさっさと結婚しなさいよ」
「何度も言うが、彼女とはそういう関係ではないんだ。近頃は話すことも少ない。それに彼女にも別の友人が出来たみたいだ」
「誰?」
「ディアナという子爵家の娘だ。よく一緒に魔法の練習をしている」
その名前に、入学式の日にフィロメニアと一緒に登校した女子生徒の顔を思い浮かべる。
「俺も彼女には胸を張って学園で学んでほしいと思っている。だが俺は彼女から虐めについて相談されたことはない。俺たちはそういう距離なのだ」
それは違う、とウィナは思った。
距離があるから相談しないわけじゃない。何かと色んな問題を抱えたがるクレイヴを案じて話していないだけだろう。
けれど、そんなことをアタシが今言ったところで何の意味もないともわかる。
クレイヴは胸元を正すと、申し訳なさそうにこちらを見た。
「……君の思っていたような男ですまない。これで失礼する。ウィナフレッド」
そうして、アタシはまた残される。
思い違いも甚だしい。
ジルベールなどの他の攻略対象がシャノンから離れた今、彼女と交際関係に発展するのはクレイヴだと確信し切っていた。
乙女ゲーの知識を信じ切っていたのだ。
けれど、実際の人間関係はもっと複雑で、シャノンはクレイヴとの縁も薄くなってしまっている。
放っておけば彼女たちは幸せになると思っていた。
見守っていれば彼らはお互いを大事にすると思っていた。
それがアタシの慢心。
思えば、決闘でジルベールたちを叩きのめした時点で乙女ゲーのルートからは大きく外れてしまっているのかもしれない。
それはアタシの望んだことだ。
フィロメニアの死を回避するためにアタシがやったことだ。
その結果が今だ。
きっとフィロメニアが言うのならば、このまま行けばシャノンは学園を去ることになるんだろう。
彼女の言う言葉はそれほどに重い。軽々しく予想を言う主でないことはアタシが一番よく知ってる。
『またお悩みかい? 我が君』
『因果応報かもしれないけど、そう。悩んでる』
そこにセファーが仕方なさそうに降りてきた。
アタシは顔を上げて真っ直ぐ彼女を見据える。
『いいんだよ。それで。君は君の願望を好きなだけ願うといい。叶えるといい。そのために我はいるのだからねぇ。さぁ、何を望むんだい? 我が君』
セファーがそう言って差し出した手を取って、アタシは言った。
『シャノンを幸せにする!』
『これはこれは。大きく出たねぇ。告白みたいだよ』
『フィロメニアもシャノンもどっちも幸せにする。そうしたい』
そんな強欲な願いを口にしても、小さな相棒は否定することはない。
『いいだろう。なにが彼女たちの幸せがどんなものかもわからない、君のその傲慢も受け入れよう。さぁ、できることをやろうじゃないか』
セファーが光の粒と共に消えると同時に、アタシは振り返って歩き出すのだった。
◇ ◇ ◇
放課後の自習室、アタシはシャノンと二人きりで教科書を前に頭を悩ませる。
決心した次の日から、アタシはなるべくシャノンの傍にいるようにした。
特に一人で図書館や自習室に行くときにはセファーに教えてもらい、フィロメニアの許可を得て行動する。
フィロメニアは何かを察しているのかため息をついていたけれど、仕方ない。
そうしていれば虐められはしないものの、目の敵にしていると思われる生徒は顔をしかめていた。
これが一時しのぎにしかならないことはわかっている。
けれど現状、アタシにできることはこれくらいだ。
「ね、ねぇ、ウィナちゃん? なんか最近、無理して私と一緒にいない?」
「偶然でしょ」
シャノンの方もさすがに不審に思っているらしい。
若干引き気味で聞かれるが、アタシは素知らぬ顔で答える。
そんなことを続けているとどうだろう。
だんだんとアタシの耳に陰口が入るようになってきた。
これがいじめられっ子を擁護すると虐められるというやつか。
もちろんフィロメニアがいない場所でのことだが、中々肝が据わっていると思う。
「腹パンメイドだなんて、下品な名前よね」
「暴力しか取り柄のない平民ですわよ。あぁ、恐ろしい」
「フィロメニア様が心配よね。もしかして例の決闘もアレに脅されてのことだったり?」
言いたい放題だ。悪口にも色々言い方あるんだなぁなんて感心するほどだ。
けれどアタシはそんなことを言われても何の怒りも沸かない。
むしろアタシの攻撃性が周知されてるのが誇らしいくらいだ。
馬鹿め。こっちはいつでもお前らの胃をひっくり返せる拳があるんだぞ、とアタシは不敵に笑う。
「ウィナちゃん」
ぐっふっふ、と心の中で笑っていると、シャノンが口を開いた。
何かと顔を向けると、少し暗い顔で彼女は言う。
「……この間はごめんね。いきなりいなくなって」
この間、というのは中間成績の発表のときだろう。
アタシはそれに対して手を挙げて謝る。
「こっちこそごめん。アタシ調子に乗ってた」
「いいの。四位なんて本当に凄いと思うし、私なんて……」
「それ!」
急に声を上げたアタシにシャノンの体がビクっと体を跳ねた。
アタシはシャノンを指差しながら言う。
「『私なんて~』とか『私じゃどうせ~』とか言わない! 胸張って歩けって言ったでしょ! アタシなんて変なあだ名つけられても堂々としてんのよ! ねぇそこの人たち!?」
シャノンを諭すと同時にアタシの陰口を叩いていた女子生徒たちに水を向けると、彼女たちは気まずそうに視線をそらした。
無視か! まぁ返す言葉もないだろうけど!
「う、ウィナちゃん。自習室では静かにしないと」
「それもそうね! ねぇ、そこの人たち!?」
「こ、声が大きいよ」
むふーっと鼻から大きく息を吐くとアタシは背もたれに体を預ける。
すると、ぞろぞろと女子生徒たちは自習室を退散した。
どうせまた同じことを繰り返すとは思うが、今日は分が悪いと感じたんだろう。
「……ねぇ、ウィナちゃん」
「なに?」
「相談して……いい?」
「なんでもござれ」
そろそろこの魔術詠唱に関しての教科書にも飽きてきたところだ。
教科書を閉じてシャノンに向き直ると、おずおずと彼女は話し出す。
「最近、お友達が学校に来てないの」
なんかデジャヴを感じるな。
最近は教科書を読みながら腕立て伏せをするという奇妙な技を覚えたジルベールの顔が頭に浮かんだが、思考を振り払って続きを促した。
「お友達って?」
「ディアナさんって名前で、魔法の練習を一緒にしてた子なんだけど……」
クレイヴの言っていた女子生徒のことか。
たしかに最近は顔を見ていない。まぁこの学園は結構自由なところがあるから気にしていなかったけど、シャノンは気になるらしい。
『セファー。その子が今なにをしてるかわかる?』
『わからないねぇ』
少しは悩んでよ!
その即答にムカついていると、セファーは話を続ける。
『というか今現在、学園内にその女子生徒はいない。前の筋肉くんは宿舎には戻ってきていたが、彼女は戻ってきてすらいないようだ』
『家の都合かな』
『詳しく監視していたわけではないから不明だねぇ。けれど何かあれば校内でも噂になるんじゃないかな』
『確かに』
生徒たちの話題は結構な頻度で家絡みの話が多い。
自分の領内の特産品だの、新しい事業だの、割とビジネスライクな話題について話すのが貴族だ。
ディアナの家に何かあれば、校内を常に飛び回っているセファーの耳には入るだろう。
「んー……わかんないけど、お家が火の海とかじゃなさそうだから、あんまり心配しなくてもいいと思うよ」
とりあえず、シャノンにはそう伝えておく。
この子は割と自分よりも人の心配をする性格だ。その点でいうとクレイヴに似ている。
乙女ゲーをプレイしているだけでは気がつかない類似点だ。
「そ、そっか。ウィナちゃんがそういうなら」
「魔法の練習がしたいなら付き合うわよ」
「ううん。いいの。私のためにウィナちゃんの時間を使わせちゃうのは、フィロメニア様に申し訳ないから」
シャノンの顔に影が差す。
「だからそういう顔しないの!」
「うみゅ!? ――うぅ……うぃなひゃんひゃめて~!」
アタシがすかさず両手で顔を挟んでやると、タコみたいな口になったシャノンは抗議した。
ヒロインの顔になんてことをしてるんだろうと思ったが、割とこれが面白い。
「貴方達、もう少し静かになさい」
「「すみません」」
そんなことをしていたら自習室の当直の先生に怒られてしまう。
アタシたちは再び教科書を開いて、黙々と勉強に集中するのだった。
======================================
お付き合い頂き、ありがとうございます。
面白い、続きが気になると思ってくださった方はお気に入り登録をポチッと押してください!
感想もお待ちしております!
アタシは教室棟で探していた相手をやっと見つけた。
「やぁ、ウィナフレッ――」
「ちょっと来い!」
そして、朗らかに手を挙げたクレイヴの胸倉を掴むと、引きずるように人気のない場所に連行する。
「ど、どうした? 君らしく……いや、君らしいが、何かあったのか?」
「シャノンへの虐め! アレどうにかしなさいよ!」
アタシが単刀直入に言うと、クレイヴは息を飲む気配がした。
どうやら虐めのことは知っているらしい。
「彼氏でしょ!」
「……彼女とは友人だよ。俺がフィロメニアに振られてしまったからと言って、そう決めつけるのはシャノンにも失礼だ」
「友達でもなんとかしろ!」
クレイヴはやけに落ち着いている。
その態度にアタシは普段以上に熱くなっていた。
「無理だ」
「なんで!」
「彼女自身が変わらない限り、ああいった輩は今後も出てくるだろう。友人でしかない俺が何かしたところで、それは一時的なものに過ぎない」
その言葉に、アタシは先ほどのフィロメニアからも感じたドライな雰囲気を覚える。
冷めていて、達観したようなその雰囲気――アタシはそれが、貴族特有の人間関係から来るものだと直感した。
クレイヴはアタシの様子に気づいたのか、肩に手を置いて諭すように言う。
「ウィナフレッド。君だからこそ言おう。学園の『友人』などというものは、我々貴族の世界では自らの手数の数に過ぎない。本当に大切なものならば、血を交える他ない」
つまり親戚や家族にならなければならない、ということだろうか。
なら――。
「ならシャノンとさっさと結婚しなさいよ」
「何度も言うが、彼女とはそういう関係ではないんだ。近頃は話すことも少ない。それに彼女にも別の友人が出来たみたいだ」
「誰?」
「ディアナという子爵家の娘だ。よく一緒に魔法の練習をしている」
その名前に、入学式の日にフィロメニアと一緒に登校した女子生徒の顔を思い浮かべる。
「俺も彼女には胸を張って学園で学んでほしいと思っている。だが俺は彼女から虐めについて相談されたことはない。俺たちはそういう距離なのだ」
それは違う、とウィナは思った。
距離があるから相談しないわけじゃない。何かと色んな問題を抱えたがるクレイヴを案じて話していないだけだろう。
けれど、そんなことをアタシが今言ったところで何の意味もないともわかる。
クレイヴは胸元を正すと、申し訳なさそうにこちらを見た。
「……君の思っていたような男ですまない。これで失礼する。ウィナフレッド」
そうして、アタシはまた残される。
思い違いも甚だしい。
ジルベールなどの他の攻略対象がシャノンから離れた今、彼女と交際関係に発展するのはクレイヴだと確信し切っていた。
乙女ゲーの知識を信じ切っていたのだ。
けれど、実際の人間関係はもっと複雑で、シャノンはクレイヴとの縁も薄くなってしまっている。
放っておけば彼女たちは幸せになると思っていた。
見守っていれば彼らはお互いを大事にすると思っていた。
それがアタシの慢心。
思えば、決闘でジルベールたちを叩きのめした時点で乙女ゲーのルートからは大きく外れてしまっているのかもしれない。
それはアタシの望んだことだ。
フィロメニアの死を回避するためにアタシがやったことだ。
その結果が今だ。
きっとフィロメニアが言うのならば、このまま行けばシャノンは学園を去ることになるんだろう。
彼女の言う言葉はそれほどに重い。軽々しく予想を言う主でないことはアタシが一番よく知ってる。
『またお悩みかい? 我が君』
『因果応報かもしれないけど、そう。悩んでる』
そこにセファーが仕方なさそうに降りてきた。
アタシは顔を上げて真っ直ぐ彼女を見据える。
『いいんだよ。それで。君は君の願望を好きなだけ願うといい。叶えるといい。そのために我はいるのだからねぇ。さぁ、何を望むんだい? 我が君』
セファーがそう言って差し出した手を取って、アタシは言った。
『シャノンを幸せにする!』
『これはこれは。大きく出たねぇ。告白みたいだよ』
『フィロメニアもシャノンもどっちも幸せにする。そうしたい』
そんな強欲な願いを口にしても、小さな相棒は否定することはない。
『いいだろう。なにが彼女たちの幸せがどんなものかもわからない、君のその傲慢も受け入れよう。さぁ、できることをやろうじゃないか』
セファーが光の粒と共に消えると同時に、アタシは振り返って歩き出すのだった。
◇ ◇ ◇
放課後の自習室、アタシはシャノンと二人きりで教科書を前に頭を悩ませる。
決心した次の日から、アタシはなるべくシャノンの傍にいるようにした。
特に一人で図書館や自習室に行くときにはセファーに教えてもらい、フィロメニアの許可を得て行動する。
フィロメニアは何かを察しているのかため息をついていたけれど、仕方ない。
そうしていれば虐められはしないものの、目の敵にしていると思われる生徒は顔をしかめていた。
これが一時しのぎにしかならないことはわかっている。
けれど現状、アタシにできることはこれくらいだ。
「ね、ねぇ、ウィナちゃん? なんか最近、無理して私と一緒にいない?」
「偶然でしょ」
シャノンの方もさすがに不審に思っているらしい。
若干引き気味で聞かれるが、アタシは素知らぬ顔で答える。
そんなことを続けているとどうだろう。
だんだんとアタシの耳に陰口が入るようになってきた。
これがいじめられっ子を擁護すると虐められるというやつか。
もちろんフィロメニアがいない場所でのことだが、中々肝が据わっていると思う。
「腹パンメイドだなんて、下品な名前よね」
「暴力しか取り柄のない平民ですわよ。あぁ、恐ろしい」
「フィロメニア様が心配よね。もしかして例の決闘もアレに脅されてのことだったり?」
言いたい放題だ。悪口にも色々言い方あるんだなぁなんて感心するほどだ。
けれどアタシはそんなことを言われても何の怒りも沸かない。
むしろアタシの攻撃性が周知されてるのが誇らしいくらいだ。
馬鹿め。こっちはいつでもお前らの胃をひっくり返せる拳があるんだぞ、とアタシは不敵に笑う。
「ウィナちゃん」
ぐっふっふ、と心の中で笑っていると、シャノンが口を開いた。
何かと顔を向けると、少し暗い顔で彼女は言う。
「……この間はごめんね。いきなりいなくなって」
この間、というのは中間成績の発表のときだろう。
アタシはそれに対して手を挙げて謝る。
「こっちこそごめん。アタシ調子に乗ってた」
「いいの。四位なんて本当に凄いと思うし、私なんて……」
「それ!」
急に声を上げたアタシにシャノンの体がビクっと体を跳ねた。
アタシはシャノンを指差しながら言う。
「『私なんて~』とか『私じゃどうせ~』とか言わない! 胸張って歩けって言ったでしょ! アタシなんて変なあだ名つけられても堂々としてんのよ! ねぇそこの人たち!?」
シャノンを諭すと同時にアタシの陰口を叩いていた女子生徒たちに水を向けると、彼女たちは気まずそうに視線をそらした。
無視か! まぁ返す言葉もないだろうけど!
「う、ウィナちゃん。自習室では静かにしないと」
「それもそうね! ねぇ、そこの人たち!?」
「こ、声が大きいよ」
むふーっと鼻から大きく息を吐くとアタシは背もたれに体を預ける。
すると、ぞろぞろと女子生徒たちは自習室を退散した。
どうせまた同じことを繰り返すとは思うが、今日は分が悪いと感じたんだろう。
「……ねぇ、ウィナちゃん」
「なに?」
「相談して……いい?」
「なんでもござれ」
そろそろこの魔術詠唱に関しての教科書にも飽きてきたところだ。
教科書を閉じてシャノンに向き直ると、おずおずと彼女は話し出す。
「最近、お友達が学校に来てないの」
なんかデジャヴを感じるな。
最近は教科書を読みながら腕立て伏せをするという奇妙な技を覚えたジルベールの顔が頭に浮かんだが、思考を振り払って続きを促した。
「お友達って?」
「ディアナさんって名前で、魔法の練習を一緒にしてた子なんだけど……」
クレイヴの言っていた女子生徒のことか。
たしかに最近は顔を見ていない。まぁこの学園は結構自由なところがあるから気にしていなかったけど、シャノンは気になるらしい。
『セファー。その子が今なにをしてるかわかる?』
『わからないねぇ』
少しは悩んでよ!
その即答にムカついていると、セファーは話を続ける。
『というか今現在、学園内にその女子生徒はいない。前の筋肉くんは宿舎には戻ってきていたが、彼女は戻ってきてすらいないようだ』
『家の都合かな』
『詳しく監視していたわけではないから不明だねぇ。けれど何かあれば校内でも噂になるんじゃないかな』
『確かに』
生徒たちの話題は結構な頻度で家絡みの話が多い。
自分の領内の特産品だの、新しい事業だの、割とビジネスライクな話題について話すのが貴族だ。
ディアナの家に何かあれば、校内を常に飛び回っているセファーの耳には入るだろう。
「んー……わかんないけど、お家が火の海とかじゃなさそうだから、あんまり心配しなくてもいいと思うよ」
とりあえず、シャノンにはそう伝えておく。
この子は割と自分よりも人の心配をする性格だ。その点でいうとクレイヴに似ている。
乙女ゲーをプレイしているだけでは気がつかない類似点だ。
「そ、そっか。ウィナちゃんがそういうなら」
「魔法の練習がしたいなら付き合うわよ」
「ううん。いいの。私のためにウィナちゃんの時間を使わせちゃうのは、フィロメニア様に申し訳ないから」
シャノンの顔に影が差す。
「だからそういう顔しないの!」
「うみゅ!? ――うぅ……うぃなひゃんひゃめて~!」
アタシがすかさず両手で顔を挟んでやると、タコみたいな口になったシャノンは抗議した。
ヒロインの顔になんてことをしてるんだろうと思ったが、割とこれが面白い。
「貴方達、もう少し静かになさい」
「「すみません」」
そんなことをしていたら自習室の当直の先生に怒られてしまう。
アタシたちは再び教科書を開いて、黙々と勉強に集中するのだった。
======================================
お付き合い頂き、ありがとうございます。
面白い、続きが気になると思ってくださった方はお気に入り登録をポチッと押してください!
感想もお待ちしております!
0
お気に入りに追加
231
あなたにおすすめの小説
フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話
カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。
チートなんてない。
日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。
自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。
魔法?生活魔法しか使えませんけど。
物作り?こんな田舎で何ができるんだ。
狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。
そんな僕も15歳。成人の年になる。
何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。
女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。
になればいいと思っています。
皆様の感想。いただけたら嬉しいです。
面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。
よろしくお願いします!
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。
続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
ノイジーガール ~ちょっとそこの地下アイドルさん適性間違っていませんか?~
草野猫彦
ライト文芸
恵まれた環境に生まれた青年、渡辺俊は音大に通いながら、作曲や作詞を行い演奏までしつつも、ある水準を超えられない自分に苛立っていた。そんな彼は友人のバンドのヘルプに頼まれたライブスタジオで、対バンした地下アイドルグループの中に、インスピレーションを感じる声を持つアイドルを発見する。
欠点だらけの天才と、天才とまでは言えない技術者の二人が出会った時、一つの音楽の物語が始まった。
それは生き急ぐ若者たちの物語でもあった。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
もふもふ転生!~猫獣人に転生したら、最強種のお友達に愛でられすぎて困ってます~
大福金
ファンタジー
旧題:【もふもふ転生】病弱で何も出来なかった僕。森で猫カフェをオープンすると大好評♪最強種のお客様ばかり遊びに来ます
生まれた時から奇病を患い、病院から一歩も出たことなかった主人公(大和ひいろ)夢は外を走り回る事だったが、叶う事なく十二歳で他界したのだが……。
気がつくと見たこともない場所に立っていた。
そこには創造神様と女神様がいて、前世でいっぱい頑張ったご褒美に、好きなスキルや見た目にしてくれると言ってくれる。
「ご褒美を決めろって……急に言われてもっ」
ヒイロは慌てて猫獣人の姿、鑑定やアイテムボックス等のチート能力をお願いし、転生を果たすが。
どうやら上手く説明出来て無かったらしく。何もない謎の森に、見た目普通の猫の姿で生まれ変わっていた。
「これって二足歩行する普通の猫!?」
その謎の森でドラゴンの親子に出会い、料理を作ってあげる事になったり。
さらには猫獣人の村で、忌み子と虐げられていた猫獣人の子供を助けたり。
家を作ったら、いい匂いにつられて最強種ばかりが度々遊びにきたり。
だがそれだけではなかった。ヒイロには隠された力が……!?
このお話は、ヒイロが毎日を楽しく生きている内に、良きせぬハプニングに巻き込まれたりするお話。
※ハプニングのせいで、なかなかカフェはオープンしません。
※二章カフェ編がやっとスタートしました。
※毎日更新がんばります!
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します
みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが……
余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。
皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。
作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨
あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。
やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。
この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。
ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ヒロインがいない。
もう一度言おう。ヒロインがいない!!
乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。
※ざまぁ展開あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる