26 / 48
第二章
25:厄介ごとを持ち来むな
しおりを挟む
夜が明けるのが少し遅くなって、日向にいれば汗ばむような、そんな時期。
同じ色の制服を身に着けた少女が二人、学園の道を歩く。
一人は青混じりの金髪をまとめ上げ、シワひとつない学生服を校則に則って完璧に着こなしていた。
その姿は生徒たちの模範というべき姿であり、同時に羨望の対象でもある。
それに対し、もう一人の少女は対照的だ。
真っ黒な髪に大きめの青いリボン。
学生服は肩から羽織るだけで、その下にはメイド服を着ている。
そんな二人が並んで歩く姿は、他の生徒たちの視線を自然と集めた。
「フィロメニア様だわ!」
「相変わらず綺麗だよな……!」
「ウィナフレッド様も負けておりませんわ」
「え、あの子、平民だよ?」
「関係ないだろ。あれだけ強ぇんだぜ?」
「そうだよ。小さいことはいいことだよ」
「あんたはなんの話してんの?」
そんな言葉も気にかけず、二人は歩調を同じくして、教室棟へ向かう。
彼女たちは一学期の始めに怪しい噂のあった教師に対し、決闘を申し込んだ。
そして、グレーター級を使う三人を相手に数的不利という状況でありながら、見事勝利を収めたことは学園中の知ることである。
結果、もたらされたのは、使用人を学生と認めるという異例の待遇。
もちろんそれに対し、使用人でありながら学園に入学することを良く思わない者もいる。
だが、彼女たちの強さというゆるぎない証明は、その人気を躍進させていた。
すでに次の舞踊会の主賓は彼女たちだという声もある。
学年主席だけが立てる、全生徒が憧れる夢の舞台だ。
その人気の陰で必死に努力しているものもいるだろう。
未来はまだわからない。
各々の夢や目的に向け、己の力を磨き上げ、研鑽を積む者たちがいる限り。
◇ ◇ ◇
「いや、相変わらず目立ってんね」
アタシことウィナ――【ウィナフレッド・ディカーニカ】は通学路で今日何度目かの黄色い声を聞く。
そして、横にいるこの世界の悪役令嬢【フィロメニア・ノア・ラウィーリア】へそう声をかけた。
すると、訝しむような視線が返ってくる。
「その言葉はそのままそっくり返す。メイド服で登校する生徒など、学園創立以来、お前が初めてだろうよ」
「実際、これが仕事着なんだから仕方ないじゃん」
そう。これは別に自己顕示欲のために着ているわけではない。
いくら学園長による特例で入学出来たといっても、フィロメニアの使用人であることは変わらないのだ。
相変わらずフィロメニアの部屋の掃除、洗濯、事務処理、その他もろもろはやらなくてはならないし、お茶会があればアタシがお茶を淹れなければならない。
メイド服というのは前世じゃすでにコスプレでしかなかったけれど、この世界では実用的な仕事着なのだ。
仕事に必要なものは全部身に着けておけるようにしてあるし、長年着ている分、こっちの方が動きやすい。
朝の準備から仕事が始まっているので、フィロメニアの身支度をしてから学生服へ……なんて暇はないのだ。
というか、あの日以来、フィロメニアのお茶会の頻度が爆発的に増えた。
それはどうやらアタシのお茶を飲みにくるのが目的らしい。
貴族の令嬢や子息がメイドに憧れるというのも変な話だが、決闘で派手にやったアタシが粛々とお茶を淹れるところを見るのが人気らしかった。
たぶん、ギャップ萌え、というやつなのかもしれない。
『その言葉の使い方はあっているのかねぇ』
そのとき、脳内に声が響く。
見ると、腕組みして首を捻った緑髪の少女がアタシの伴うように空中に漂っている。
この子は【セファー】だ。妖精みたいな容姿だけれど、一応は神様らしい。
アタシは自分にしか見えないその相棒に脳内で反論する。
『でもそういうことでしょ。決闘のときとの落差が大きくて感動する~とか言ってたじゃない』
『それを萌えと表現するのか、という意味だよ。そもそも萌えということば自体、君の中で死語のようなのだが』
『うるせー。萌えでも推しでもなんでもいいのよ。おかげでフィロメニアの悪評も吹っ飛んだんだから』
実際、決闘の際に噂立ってしまった「公爵令嬢ご乱心」の噂はどこかへ消えてしまった。
敵対したマリエッタが学園から去ったこともあるが、やっぱり――。
『人は流行というものに弱いねぇ』
『アタシの頭の中のセリフを先に言わないでくれる?』
『君の考えを肯定したまでさ。では、我は今日も今日とて覗きに精を出そう』
人の思考を勝手に読んでくる相棒は、そう言ってどこかへ飛び去っていく。
ああやって飛び去る仕草をしてみせるが、実際にはセファーはいつでもどこにでもいる。
情報収集癖とでも言えばいいのか。図書館の本の半分はすでに内容を覚えてしまったらしい。
ついでに学園内の様々な場所の監視も行っているんだから、たぶん意識だか体を分裂できるんだろう。
「ウィナちゃん! フィロメニア様!」
そんなことを考えていると、名前を呼ばれた。
後ろを振り返ると、少し早歩きで追いかけてきたのは長身のイケメンと栗色の髪をした少女だ。
攻略対象の一人、かつ王太子殿下の【クレイヴィアス・エルサレム・モルドルーデン】、そしてこの世界のヒロインである【シャノン・コンフォルト】だ。
「おはよー」
「うん、おはよう! フィロメニア様もおはようございます」
「うむ」
朝からシャノンは快活そうに笑った。
横にいるクレイヴもそんなシャノンを見て頬を緩ませている。
わかる……。いるだけでこの子は周囲を明るくしてくれるよね……。わかりみが深い。
ついでに言うと、二人が一緒にいること自体がアタシにとっては尊みがスゴい。
なんてったってメイン攻略対象とヒロインの黄金カップルだ。
それを画面越しではなく、実際に目の前に出来ているんだから眼福にもほどがある。
「ウィナフレッド。勉学の調子はどうだ?」
「う゛っ」
アタシがそうしみじみと現状を幸せに感じていると、クレイヴが話しかけてきた。
コイツ、中々痛いところを突いてくる。
「ぼ、ぼちぼちでまんがな」
「どこの地方の喋り方なのだそれは。……毎日、私が放課後に見てやっています。殿下」
「ははは、これまで学ぶ機会のなかったことだ。仕方ないだろう。今日も励むのなら私とシャノンも参加していいか?」
「別にアタシはいいけど……フィロメニアは?」
そう言ってちらっと横目で見ると、フィロメニアは無言で頷いた。
今は特に問題なさそうにみえるが、実際には彼女はシャノンに対して良い感情を抱いてない。
それは先日、アタシに毒入りのチョコを渡したところに起因する。
ただ、フィロメニアもシャノンに全て非があるとは思っていないようで、今もこうして表立った敵意を表すことはないのだった。
アタシとしては仲良くしてほしいんだけどなー……。
「では放課後にテラスへ集合だ」
「おっけー」
そうして、アタシたち四人はなんだかんだでつるんでいる。
平民出身二人と超上流貴族出身二人の歪な集団。
けれど意外にもこれがしっくりくる。
勉強と仕事を両立するのは大変だけれど、今のところは学園生活に問題はない。
と、思っていたのは放課後までだった。
◇ ◇ ◇
「それで、ジルべールのことなのだが……」
「おぉい、ちょっと待って! 一緒に勉強するって話でしょ。なにナチュラルに相談始めてんの!?」
「……駄目か?」
さぁ、いざ勉強を始めようというときに、クレイヴが重々しく相談事を展開し始めた。
瞬時に突っ込むと、アタシより座高が高いのに上目遣いで見てくるという器用な技を使ってくる。
クソッ、顔がいいな!?
「厄介ごとを持ち来むなクソボケって星典にも書いてあるでしょ」
「それは星の外へむやみに祈りを捧げると主神四星以外の神を呼び寄せてしまうという意味だ。ウィナ」
「だいたい合ってるでしょ。フィロメニアもなんか言ってよ」
「奴がどんな愚かなことをしているか聞けるのならば、愉しそうな話だ」
「悪い癖出た……」
「と、とにかくジルベールさんが大変なんです!」
シャノンが場をまとめるように必死にアピールした。
けれど、ジルベールのことは知っている。最近、学園の授業を休みがちなのだ。
アタシはそもそも興味がないので、てっきり落ち込んで精神でもやられたのかと思っていたのだけれど。
「実は冒険者稼業に精を出しているらしくてな……。まぁ、そういった活動も成績に加味されるが……」
「あー……」
なんとなくアタシは察した。
例の乙女ゲーでも勉強に力をいれるか、鍛錬に励むか、恋愛にいそしむか、はたまた冒険者としてお金や名声を稼ぐか。
学園生活の中でそういった選択肢が取れて、その結果が期末成績に反映されるのだ。
けれどそれはあくまで休日や放課後の話で、学校を休んでまでやることではなかったはずだ。
「ウィナちゃんに負けたのが相当悔しかったみたいで……」
「なに? リベンジ希望ってやつ?」
「……たぶん」
はっ、とフィロメニアはその言葉を笑い飛ばす。そして、口端を吊り上げた。
「奴では逆立ちしようが天地がひっくり返ろうがウィナには勝てんだろうよ」
だが、クレイヴには笑えないようで、声を重くしてテーブルに体を預ける。
「……俺は幼馴染として学業を疎かにすることは看過できないんだ」
「私もです……」
知り合い以上カップル未満の二人が同時に落ち込んだように顔を伏せた。
「そー言われてもなー……」
その様子にアタシはこめかみを掻く。
「殿下から伝えればどうなのです。『無駄な努力だ。才能のない、筋肉だけのお前は肉体を見せつける仕事にでもつけ。その方が人のためになるだろう』と」
「今のはフィロメニアの私怨だよね!?」
「そ、そうです! 実際にそうだとしてもよくありません!」
「アンタも後ろから刺してんだけど!?」
「それもまた然りか……」
「クレイヴ!? 解決する気ある!?」
フィロメニアの刺々しい意見を肯定し出したクレイヴに聞くと、彼は手を振って答える。
「いや、ウィナフレッド。実際、冒険者稼業においてはそう上手く名声を集められるものではない。筋肉云々はともかく、率直に言って正しい努力とは言えない。ならばしっかりと授業に出席し、舞踊の面で己を磨いた方がジルのためになる」
「じゃあなに? もしアイツが間違って主席にでもなったら舞踊祭で脱ぐの?」
「まさか。大衆の面前でそんなことをするほどジルも……ジルも――」
そこでクレイヴ以下、全員の顔は上を向いた。
そして言葉にしなくても伝わってくる。みんな同じ顔をしてるもん。
やるだろうなぁ……、と。
「学園の印象が汗臭くなるのを避けるためにも放っておいた方がいいのでは」
「そんな気がしてきました……」
「アタシもそう思う」
その場のクレイヴを除く全員が顔を背けると、彼は焦ったように手を平をかざす。
「ま、待ってくれ。君たちが想像していることは容易に理解できるが、そう簡単に舞台に上がれるものではない。俺はジルが前のようにしっかりと授業に出てくれさえすればいいんだ」
クレイヴは必死だ。
アタシはため息をつくと、妥協点を探るために提案した。
「じゃあ何をしてほしいのか考えてよ。アタシはもう仕事と勉強で手一杯だし、シャノンだって人のこと心配してる余裕あんの?」
「ううっ……。そういえば私、まだ課題終わってません」
「ほら、クレイヴ。シャノンもこんな感じよ」
腕を広げて言ってみせると、クレイヴは顎に手を当てて目を瞑る。
「……そうだな。今一度考えてみよう。あいつがどうすれば真面目に授業に出てくれるようになるか」
できれば今度から考えてから持ち込んでほしいな、と思いつつ、ジルベールの話題はそこでお開きとなった。
======================================
第二章開始です!
お付き合い頂き、ありがとうございます。
面白い、続きが気になると思ってくださった方はお気に入り登録をポチッと押してください!
感想もお待ちしております!
同じ色の制服を身に着けた少女が二人、学園の道を歩く。
一人は青混じりの金髪をまとめ上げ、シワひとつない学生服を校則に則って完璧に着こなしていた。
その姿は生徒たちの模範というべき姿であり、同時に羨望の対象でもある。
それに対し、もう一人の少女は対照的だ。
真っ黒な髪に大きめの青いリボン。
学生服は肩から羽織るだけで、その下にはメイド服を着ている。
そんな二人が並んで歩く姿は、他の生徒たちの視線を自然と集めた。
「フィロメニア様だわ!」
「相変わらず綺麗だよな……!」
「ウィナフレッド様も負けておりませんわ」
「え、あの子、平民だよ?」
「関係ないだろ。あれだけ強ぇんだぜ?」
「そうだよ。小さいことはいいことだよ」
「あんたはなんの話してんの?」
そんな言葉も気にかけず、二人は歩調を同じくして、教室棟へ向かう。
彼女たちは一学期の始めに怪しい噂のあった教師に対し、決闘を申し込んだ。
そして、グレーター級を使う三人を相手に数的不利という状況でありながら、見事勝利を収めたことは学園中の知ることである。
結果、もたらされたのは、使用人を学生と認めるという異例の待遇。
もちろんそれに対し、使用人でありながら学園に入学することを良く思わない者もいる。
だが、彼女たちの強さというゆるぎない証明は、その人気を躍進させていた。
すでに次の舞踊会の主賓は彼女たちだという声もある。
学年主席だけが立てる、全生徒が憧れる夢の舞台だ。
その人気の陰で必死に努力しているものもいるだろう。
未来はまだわからない。
各々の夢や目的に向け、己の力を磨き上げ、研鑽を積む者たちがいる限り。
◇ ◇ ◇
「いや、相変わらず目立ってんね」
アタシことウィナ――【ウィナフレッド・ディカーニカ】は通学路で今日何度目かの黄色い声を聞く。
そして、横にいるこの世界の悪役令嬢【フィロメニア・ノア・ラウィーリア】へそう声をかけた。
すると、訝しむような視線が返ってくる。
「その言葉はそのままそっくり返す。メイド服で登校する生徒など、学園創立以来、お前が初めてだろうよ」
「実際、これが仕事着なんだから仕方ないじゃん」
そう。これは別に自己顕示欲のために着ているわけではない。
いくら学園長による特例で入学出来たといっても、フィロメニアの使用人であることは変わらないのだ。
相変わらずフィロメニアの部屋の掃除、洗濯、事務処理、その他もろもろはやらなくてはならないし、お茶会があればアタシがお茶を淹れなければならない。
メイド服というのは前世じゃすでにコスプレでしかなかったけれど、この世界では実用的な仕事着なのだ。
仕事に必要なものは全部身に着けておけるようにしてあるし、長年着ている分、こっちの方が動きやすい。
朝の準備から仕事が始まっているので、フィロメニアの身支度をしてから学生服へ……なんて暇はないのだ。
というか、あの日以来、フィロメニアのお茶会の頻度が爆発的に増えた。
それはどうやらアタシのお茶を飲みにくるのが目的らしい。
貴族の令嬢や子息がメイドに憧れるというのも変な話だが、決闘で派手にやったアタシが粛々とお茶を淹れるところを見るのが人気らしかった。
たぶん、ギャップ萌え、というやつなのかもしれない。
『その言葉の使い方はあっているのかねぇ』
そのとき、脳内に声が響く。
見ると、腕組みして首を捻った緑髪の少女がアタシの伴うように空中に漂っている。
この子は【セファー】だ。妖精みたいな容姿だけれど、一応は神様らしい。
アタシは自分にしか見えないその相棒に脳内で反論する。
『でもそういうことでしょ。決闘のときとの落差が大きくて感動する~とか言ってたじゃない』
『それを萌えと表現するのか、という意味だよ。そもそも萌えということば自体、君の中で死語のようなのだが』
『うるせー。萌えでも推しでもなんでもいいのよ。おかげでフィロメニアの悪評も吹っ飛んだんだから』
実際、決闘の際に噂立ってしまった「公爵令嬢ご乱心」の噂はどこかへ消えてしまった。
敵対したマリエッタが学園から去ったこともあるが、やっぱり――。
『人は流行というものに弱いねぇ』
『アタシの頭の中のセリフを先に言わないでくれる?』
『君の考えを肯定したまでさ。では、我は今日も今日とて覗きに精を出そう』
人の思考を勝手に読んでくる相棒は、そう言ってどこかへ飛び去っていく。
ああやって飛び去る仕草をしてみせるが、実際にはセファーはいつでもどこにでもいる。
情報収集癖とでも言えばいいのか。図書館の本の半分はすでに内容を覚えてしまったらしい。
ついでに学園内の様々な場所の監視も行っているんだから、たぶん意識だか体を分裂できるんだろう。
「ウィナちゃん! フィロメニア様!」
そんなことを考えていると、名前を呼ばれた。
後ろを振り返ると、少し早歩きで追いかけてきたのは長身のイケメンと栗色の髪をした少女だ。
攻略対象の一人、かつ王太子殿下の【クレイヴィアス・エルサレム・モルドルーデン】、そしてこの世界のヒロインである【シャノン・コンフォルト】だ。
「おはよー」
「うん、おはよう! フィロメニア様もおはようございます」
「うむ」
朝からシャノンは快活そうに笑った。
横にいるクレイヴもそんなシャノンを見て頬を緩ませている。
わかる……。いるだけでこの子は周囲を明るくしてくれるよね……。わかりみが深い。
ついでに言うと、二人が一緒にいること自体がアタシにとっては尊みがスゴい。
なんてったってメイン攻略対象とヒロインの黄金カップルだ。
それを画面越しではなく、実際に目の前に出来ているんだから眼福にもほどがある。
「ウィナフレッド。勉学の調子はどうだ?」
「う゛っ」
アタシがそうしみじみと現状を幸せに感じていると、クレイヴが話しかけてきた。
コイツ、中々痛いところを突いてくる。
「ぼ、ぼちぼちでまんがな」
「どこの地方の喋り方なのだそれは。……毎日、私が放課後に見てやっています。殿下」
「ははは、これまで学ぶ機会のなかったことだ。仕方ないだろう。今日も励むのなら私とシャノンも参加していいか?」
「別にアタシはいいけど……フィロメニアは?」
そう言ってちらっと横目で見ると、フィロメニアは無言で頷いた。
今は特に問題なさそうにみえるが、実際には彼女はシャノンに対して良い感情を抱いてない。
それは先日、アタシに毒入りのチョコを渡したところに起因する。
ただ、フィロメニアもシャノンに全て非があるとは思っていないようで、今もこうして表立った敵意を表すことはないのだった。
アタシとしては仲良くしてほしいんだけどなー……。
「では放課後にテラスへ集合だ」
「おっけー」
そうして、アタシたち四人はなんだかんだでつるんでいる。
平民出身二人と超上流貴族出身二人の歪な集団。
けれど意外にもこれがしっくりくる。
勉強と仕事を両立するのは大変だけれど、今のところは学園生活に問題はない。
と、思っていたのは放課後までだった。
◇ ◇ ◇
「それで、ジルべールのことなのだが……」
「おぉい、ちょっと待って! 一緒に勉強するって話でしょ。なにナチュラルに相談始めてんの!?」
「……駄目か?」
さぁ、いざ勉強を始めようというときに、クレイヴが重々しく相談事を展開し始めた。
瞬時に突っ込むと、アタシより座高が高いのに上目遣いで見てくるという器用な技を使ってくる。
クソッ、顔がいいな!?
「厄介ごとを持ち来むなクソボケって星典にも書いてあるでしょ」
「それは星の外へむやみに祈りを捧げると主神四星以外の神を呼び寄せてしまうという意味だ。ウィナ」
「だいたい合ってるでしょ。フィロメニアもなんか言ってよ」
「奴がどんな愚かなことをしているか聞けるのならば、愉しそうな話だ」
「悪い癖出た……」
「と、とにかくジルベールさんが大変なんです!」
シャノンが場をまとめるように必死にアピールした。
けれど、ジルベールのことは知っている。最近、学園の授業を休みがちなのだ。
アタシはそもそも興味がないので、てっきり落ち込んで精神でもやられたのかと思っていたのだけれど。
「実は冒険者稼業に精を出しているらしくてな……。まぁ、そういった活動も成績に加味されるが……」
「あー……」
なんとなくアタシは察した。
例の乙女ゲーでも勉強に力をいれるか、鍛錬に励むか、恋愛にいそしむか、はたまた冒険者としてお金や名声を稼ぐか。
学園生活の中でそういった選択肢が取れて、その結果が期末成績に反映されるのだ。
けれどそれはあくまで休日や放課後の話で、学校を休んでまでやることではなかったはずだ。
「ウィナちゃんに負けたのが相当悔しかったみたいで……」
「なに? リベンジ希望ってやつ?」
「……たぶん」
はっ、とフィロメニアはその言葉を笑い飛ばす。そして、口端を吊り上げた。
「奴では逆立ちしようが天地がひっくり返ろうがウィナには勝てんだろうよ」
だが、クレイヴには笑えないようで、声を重くしてテーブルに体を預ける。
「……俺は幼馴染として学業を疎かにすることは看過できないんだ」
「私もです……」
知り合い以上カップル未満の二人が同時に落ち込んだように顔を伏せた。
「そー言われてもなー……」
その様子にアタシはこめかみを掻く。
「殿下から伝えればどうなのです。『無駄な努力だ。才能のない、筋肉だけのお前は肉体を見せつける仕事にでもつけ。その方が人のためになるだろう』と」
「今のはフィロメニアの私怨だよね!?」
「そ、そうです! 実際にそうだとしてもよくありません!」
「アンタも後ろから刺してんだけど!?」
「それもまた然りか……」
「クレイヴ!? 解決する気ある!?」
フィロメニアの刺々しい意見を肯定し出したクレイヴに聞くと、彼は手を振って答える。
「いや、ウィナフレッド。実際、冒険者稼業においてはそう上手く名声を集められるものではない。筋肉云々はともかく、率直に言って正しい努力とは言えない。ならばしっかりと授業に出席し、舞踊の面で己を磨いた方がジルのためになる」
「じゃあなに? もしアイツが間違って主席にでもなったら舞踊祭で脱ぐの?」
「まさか。大衆の面前でそんなことをするほどジルも……ジルも――」
そこでクレイヴ以下、全員の顔は上を向いた。
そして言葉にしなくても伝わってくる。みんな同じ顔をしてるもん。
やるだろうなぁ……、と。
「学園の印象が汗臭くなるのを避けるためにも放っておいた方がいいのでは」
「そんな気がしてきました……」
「アタシもそう思う」
その場のクレイヴを除く全員が顔を背けると、彼は焦ったように手を平をかざす。
「ま、待ってくれ。君たちが想像していることは容易に理解できるが、そう簡単に舞台に上がれるものではない。俺はジルが前のようにしっかりと授業に出てくれさえすればいいんだ」
クレイヴは必死だ。
アタシはため息をつくと、妥協点を探るために提案した。
「じゃあ何をしてほしいのか考えてよ。アタシはもう仕事と勉強で手一杯だし、シャノンだって人のこと心配してる余裕あんの?」
「ううっ……。そういえば私、まだ課題終わってません」
「ほら、クレイヴ。シャノンもこんな感じよ」
腕を広げて言ってみせると、クレイヴは顎に手を当てて目を瞑る。
「……そうだな。今一度考えてみよう。あいつがどうすれば真面目に授業に出てくれるようになるか」
できれば今度から考えてから持ち込んでほしいな、と思いつつ、ジルベールの話題はそこでお開きとなった。
======================================
第二章開始です!
お付き合い頂き、ありがとうございます。
面白い、続きが気になると思ってくださった方はお気に入り登録をポチッと押してください!
感想もお待ちしております!
0
お気に入りに追加
231
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】
ゆうの
ファンタジー
公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。
――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。
これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。
※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。
このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
転生令嬢シルヴィアはシナリオを知らない
黎
恋愛
片想い相手を卑怯な手段で同僚に奪われた、その日に転生していたらしい。――幼いある日、令嬢シルヴィア・ブランシャールは前世の傷心を思い出す。もともと営業職で男勝りな性格だったこともあり、シルヴィアは「ブランシャール家の奇娘」などと悪名を轟かせつつ、恋をしないで生きてきた。
そんなある日、王子の婚約者の座をシルヴィアと争ったアントワネットが相談にやってきた……「私、この世界では婚約破棄されて悪役令嬢として破滅を迎える危機にあるの」。さらに話を聞くと、アントワネットは前世の恋敵だと判明。
そんなアントワネットは破滅エンドを回避するため周囲も驚くほど心優しい令嬢になった――が、彼女の“推し”の隣国王子の出現を機に、その様子に変化が現れる。二世に渡る恋愛バトル勃発。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
私はモブのはず
シュミー
恋愛
私はよくある乙女ゲーのモブに転生をした。
けど
モブなのに公爵家。そしてチート。さらには家族は美丈夫で、自慢じゃないけど、私もその内に入る。
モブじゃなかったっけ?しかも私のいる公爵家はちょっと特殊ときている。もう一度言おう。
私はモブじゃなかったっけ?
R-15は保険です。
ちょっと逆ハー気味かもしれない?の、かな?見る人によっては変わると思う。
注意:作者も注意しておりますが、誤字脱字が限りなく多い作品となっております。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる