上 下
5 / 28
1章

⑤奇遇で不運

しおりを挟む
 奇遇であると同時に不運でもあると思う。
 
 その場にいたのは以前依頼を共にした十人ほどの冒険者のパーティ、というか寄せ集めの連中だった。

「なんだてめぇら!?」

 リーダー格の男が魔物を押さえつけながら怒鳴ってくる。
 
 そんな怒鳴り声にも俺たちは――だいぶシラけていた。
 
「なんだと言われても……なぁ?」

「アタシたちが一番乗りしたかったのにね」

 もう一生会わなくていいと思っていた相手との遭遇に、俺的にはテンションがダダ下がりだ。

 リアナに至っては一番乗りにこそ価値を感じていただろうに、先を越していたのが件の連中だということがシラけ具合に拍車をかけている様子だ。

 そんな俺たちを見て男は悪態をついた。
 
「くそがっ! 突っ立ってんなら戦いやがれボケが!」
 
「手伝ってほしいならそう言いなさいよ。帰っちゃおうかな~」

 リアナは心底この連中が嫌いなようで、耳をかっぽじりながらそんなことを言った。聖女なのだからもうちょっとお作法を自重してほしい。
 
 見ればすでに何人かは血を流して倒れている。

 俺は少しだけため息をつくと、拳を構えて前に走り出した。

「俺は行くぞ」
 
「好きにしなさい」

 言い置くと、リアナが剣をゆっくりと抜く音がする。危なくなったときだけ助けてあげる、という思考が飛んできて、俺はふっと笑った。

 
 この程度なら俺一人で十分だ。

 
 あの冒険者たちと組んでいた時にはなかった自信が俺を突き動かす。
 
 突進してくる俺を優先的な脅威を感じたのか、数匹の魔物が飛び掛かってきた。身体強化の魔法を維持したままだ。なら――。

「んなっ!?」

 きっと、冒険者たちからは俺が消えたように見えただろう。魔物の牙を紙一重ですり抜け、一匹の背骨を裏拳で叩き折る。

 俺はそれを皮切りに、次々と魔物の急所を潰していった。一匹にかける時間は一秒もかからない。薄暗い遺跡の中で、俺の体から発せられる魔力光だけが火花のように散る。

 気がつけば冒険者たちは手を止めていた。周囲を囲んでいた魔物たちも、俺の姿を捉えられないのか一か所に集まりだす。

 ――まとめてやるならば、今だ。
 
 俺は地面を蹴った。魔物たちの真上へと飛び上がり、魔力を練る。

雷滅波紋撃イステラ・シルクラム!」

 俺は発動された紫電の閃光を直下に放った。それは群れの中心にいた個体へと直撃し、さらにその周囲へと伝播する。
 
 遺跡の中が紫色の光に照らされ、耳をつんざくような悲鳴が上がった。

 
 周囲は静寂と暗闇を取り戻す。

 
 俺が地面に降り立った時、そこには丸焦げになった魔物の塊だけが残っていた。
 

 
             ◇   ◇   ◇
               ・   ・
             ◇   ◇   ◇

 

「や、やるじゃねぇかボウズ……。また会えるとは思ってなかったぜ」
 
 冒険者たちのリーダーの男――ドルカスは引きつった顔で話しかけてきた。

「ああ、俺もだよ」

 この男が率先して仕事を放棄したおかげで以前の俺はあやうく死ぬところだったのだが、それを問い詰める気はない。

 思うところはあるものの、やはり大勢にとって一番大事なのは自分の命なのだ。その順番が違っている者のほうが少数派なのだと、今になってはそう思う。

「しかも女連れたぁ羨まし――」

「ねぇ、アンタたちどっから入ってきたの?」

 話を遮るように前に出てきたリアナに、ドルカスはたじろぐ。
 
「あ、あぁ……崖崩れででっけぇ筒が出てきたって話で……だいぶ後ろからだ」
 
 この少女の雰囲気と声は常に人を圧倒する。それが肝の据わった大男であっても変わらないようだ。

 リアナは目つきを鋭くするとさらに問い詰めた。
 
「誰に聞いたの? ギルドにそんな情報なかったでしょ?」

「お、おめぇらこそどうやって入ってきたんだ?」
 
 ドルカスは自分が尋問されていることに気づいたらしく、話をそらした。

 詳しく言えない理由があるのだろう。
 
「俺たちは別のとこから入ったんだ。けどそこから外に戻るのは難しそうだったからな。出口を探してたんだ」

「ならあっちだ。言っとくが金になりそうなもんはほとんどなかったぜ」
 
 俺が答えるとドルカスは尋問から解放されたと思ったのだろう。調子よく後ろを指さして鼻を鳴らす。だが何かを思い出したような顔をすると、申し訳なさそうに打ち明けた。
 
「ところでよ。俺たち以外のやつらが入ったんだがはぐれちまってな」

「ああ、見かけたら合流するように伝えればいいか?」

「悪ぃな」

 この男もパーティリーダーとしてメンバーの命を預かっているらしい。俺の中でドルカスの評価が少しずつ修正されていく。
 
 そんな会話をしていると、冒険者たちから声が上がった。

 気がつけば、その場を離れていたリアナが負傷した者たちに治癒魔法をかけている。

「すごいな……。かなり深かったはずだが……」

「お、俺の足も元通りだ」

「大げさなのよ。動くならもう少し休んでからにしなさい」
 
 その効果に冒険者たちは口々に驚いていたが、リアナはなんでもないように次々と手当を済ませていった。

「すげぇ嬢ちゃんだな。どこで捕まえた? あんな治癒士」

 あんな攻撃的な治癒士がいてたまるか。あと捕まったのはこっちなんだよな……。と、俺が遠い目をしていると怪訝そうな視線が飛んできたが、黙殺する。
 
「まぁ、なんだ。気ぃつけて帰れ」

「ああ。そっちも無理するなよ」

 深くは聞いてこなかったドルカスと手を挙げて別れようとした――その時、どんと腹に響くような揺れが遺跡全体に響いた。
 
「なんだ!?」

 ドルカスが怒鳴る。

 次の瞬間、壁をぶち破られて土煙が上がった。

 巨大な何かが部屋に侵入してきたのだ。


魔装ティタニス!?」


 現れたのは全身が白づくめの鉄の巨人だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

処理中です...