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1章
④筋肉聖女
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「あ~、あった。ここよ」
魔法で吹き飛ばした一帯を探していると、リアナが声を上げた。
俺が近づくと地面に埋まった金属板をガンガンと蹴りつけている。
「これが遺跡の入り口か?」
俺は石で出来たな古代遺跡を想像していたのだが、前の前のそれは随分とかけ離れていた。
リアナは首を縦に振る。
「そう。たぶん中はもっと想像と違うわよ」
「それはそれで楽しみだけどな。で、どう開けるんだ?」
先ほどから足蹴にしている鉄板は見たところ取っ手らしき部品がない。見た目は完全に蓋だ。この世界には魔法で開閉する扉もあるが、それらしき紋章も見えなかった。
リアナはしゃがみこむ。
やがて、うんうんと唸ったあげく、鉄板の端に手をかけて――。
「おりゃ」
――無理やり引きはがした。
「お前……」
「え、いや、だってわかんないんだもん」
だからといってフィジカルに頼りすぎだろ。なんで教団はこの少女に【聖女】の称号を渡しちゃったのか甚だ疑問だ。
「筋肉聖女」
「自分で言うのかよ」
フンッとマッスルポーズでけらけらと笑うリアナにツッコミをいれつつ、鉄板が引きはがされた跡を覗く。わかってはいたが中は完全に暗闇だ。
「魔物なんて滅多にいないわよ。ほら、ビビってないで入りましょ」
「そうだな」
以前の俺ならば探索のセオリー通り、脱出手段を確保するなどしてから中に入っただろう。だが、リアナと一緒ならば大概のことはなんとかなる。
俺たちは揃って遺跡の入口へと飛び込んだ。
◇ ◇ ◇
・ ・
◇ ◇ ◇
「って普通にいるじゃねーか! 魔物ォ!」
そう叫びながら俺は、歯が縦にも横にも生えた大型犬サイズのネズミを殴り殺した。
「おかしいなぁ。完全に塞がってたら魔物も繁殖できないと思うんだけど」
「どっかほかの入口があるんじゃないのか?」
「たぶんそれね」
リアナは話しながら身の丈ほどの長剣を片手で振り回し、ネズミをなます切りにしていく。よくもまぁこんな狭い場所で器用に使えるものだ。
感心しながら十匹目のネズミを壁に叩きつけると、敵の襲撃は落ち着いていた。
俺は松明代わりにしていた光の魔法の強度をあげる。照らされ露わになった光景を見て、俺は思わず声を漏らした。
「これが……遺跡だって?」
そこにあったのは割れたモニター、潰れたスイッチ、外れたパネル、垂れ下がったケーブル――おおよそこの世界の文明とはかけはなれたものだった。
どちらかといえば俺の元の世界に近いものだろう。
リアナが消えかけの標識らしきものに目をやりつつ答える。
「アンタの前世の世界がどんなんだが知らないけど、これが古代遺跡よ」
俺はこの世界を剣と魔法の世界だと思っていたが、それだけではないらしい。
リアナはキーボードに積もった埃を払いながら言う。
「大昔の人はね。もっと頭がよくて、もっと複雑な魔法が使えたのよ」
「その大昔の人はどこいったんだよ?」
「教会で教えられるでしょ」
「人間と神様が深淵からきた悪魔と戦って、ってやつか?」
俺がこの世界で教わったおとぎ話をあげると、リアナは当たり前だと言わんばかりに呆れてみせた。しかし、こんな施設を見せられてしまっては、到底その話を信じる気にはなれない。
「最後は追い詰められた悪魔が自分たちごとこの星を吹き飛ばして……けれど神様によって人間が生き延びることができた。遺跡は神様に守ってもらえた人たちの住処だったとも言われてるわね」
「ただのおとぎ話だろ」
「どうかしら」
この話に興味を失ったらしいリアナはいつの間にか耳に手を当てて何かを探っていた。
「人の声がする」
「俺たち以外に誰かいるのか?」
「こっちね」
リアナが遺跡の奥を指し示す。
それに従って進んでいくと、たしかに怒号や戦闘の音が聞こえるようになってきた。しかし、途中で明らかに人のサイズではない巨大な扉に阻まれる。
金属製の扉は厚みもあり、手動で動かせる重さとは思えない。遺跡全体の様子からして、その辺のパネルを弄っても動きはしないだろう。
「これ、この扉の奥か?」
「そうみたい。無理やり開けるしかないわね。……アンタもやんのよ」
「筋肉聖女の出番かと思ってな」
茶化してやるとリアナは「ウフフ」と嫌な笑顔を返してきたので素直に行動に移った。
互いに両方の扉に手をかけ、魔法を編み上げる。
「「炎燐旺華!」」
火の属性による増幅の力――身体能力を向上させる魔法だ。魔法の中ではとっては初歩的な魔法だが、使用者の技量がズバ抜けていると絶大な威力をもたらす。
長く閉ざされていた扉が「バキッ」という音とともに動き出す。
さらにリアナが魔法の強度を、俺が魔力の量を上乗せすると、掴んだ部分がひしゃげるほどのパワーが発揮される。
錆びついた超重量の扉は、つんざくような轟音と共に押し開かれた。
「あぁ!?」
「ん? ……あ」
扉の奥で魔物と戦っていた冒険者たちと目が合う。
突然現れた俺たちに驚くその顔はどこかで見たことのある――以前、リアナの護衛中に逃げた連中だった。
魔法で吹き飛ばした一帯を探していると、リアナが声を上げた。
俺が近づくと地面に埋まった金属板をガンガンと蹴りつけている。
「これが遺跡の入り口か?」
俺は石で出来たな古代遺跡を想像していたのだが、前の前のそれは随分とかけ離れていた。
リアナは首を縦に振る。
「そう。たぶん中はもっと想像と違うわよ」
「それはそれで楽しみだけどな。で、どう開けるんだ?」
先ほどから足蹴にしている鉄板は見たところ取っ手らしき部品がない。見た目は完全に蓋だ。この世界には魔法で開閉する扉もあるが、それらしき紋章も見えなかった。
リアナはしゃがみこむ。
やがて、うんうんと唸ったあげく、鉄板の端に手をかけて――。
「おりゃ」
――無理やり引きはがした。
「お前……」
「え、いや、だってわかんないんだもん」
だからといってフィジカルに頼りすぎだろ。なんで教団はこの少女に【聖女】の称号を渡しちゃったのか甚だ疑問だ。
「筋肉聖女」
「自分で言うのかよ」
フンッとマッスルポーズでけらけらと笑うリアナにツッコミをいれつつ、鉄板が引きはがされた跡を覗く。わかってはいたが中は完全に暗闇だ。
「魔物なんて滅多にいないわよ。ほら、ビビってないで入りましょ」
「そうだな」
以前の俺ならば探索のセオリー通り、脱出手段を確保するなどしてから中に入っただろう。だが、リアナと一緒ならば大概のことはなんとかなる。
俺たちは揃って遺跡の入口へと飛び込んだ。
◇ ◇ ◇
・ ・
◇ ◇ ◇
「って普通にいるじゃねーか! 魔物ォ!」
そう叫びながら俺は、歯が縦にも横にも生えた大型犬サイズのネズミを殴り殺した。
「おかしいなぁ。完全に塞がってたら魔物も繁殖できないと思うんだけど」
「どっかほかの入口があるんじゃないのか?」
「たぶんそれね」
リアナは話しながら身の丈ほどの長剣を片手で振り回し、ネズミをなます切りにしていく。よくもまぁこんな狭い場所で器用に使えるものだ。
感心しながら十匹目のネズミを壁に叩きつけると、敵の襲撃は落ち着いていた。
俺は松明代わりにしていた光の魔法の強度をあげる。照らされ露わになった光景を見て、俺は思わず声を漏らした。
「これが……遺跡だって?」
そこにあったのは割れたモニター、潰れたスイッチ、外れたパネル、垂れ下がったケーブル――おおよそこの世界の文明とはかけはなれたものだった。
どちらかといえば俺の元の世界に近いものだろう。
リアナが消えかけの標識らしきものに目をやりつつ答える。
「アンタの前世の世界がどんなんだが知らないけど、これが古代遺跡よ」
俺はこの世界を剣と魔法の世界だと思っていたが、それだけではないらしい。
リアナはキーボードに積もった埃を払いながら言う。
「大昔の人はね。もっと頭がよくて、もっと複雑な魔法が使えたのよ」
「その大昔の人はどこいったんだよ?」
「教会で教えられるでしょ」
「人間と神様が深淵からきた悪魔と戦って、ってやつか?」
俺がこの世界で教わったおとぎ話をあげると、リアナは当たり前だと言わんばかりに呆れてみせた。しかし、こんな施設を見せられてしまっては、到底その話を信じる気にはなれない。
「最後は追い詰められた悪魔が自分たちごとこの星を吹き飛ばして……けれど神様によって人間が生き延びることができた。遺跡は神様に守ってもらえた人たちの住処だったとも言われてるわね」
「ただのおとぎ話だろ」
「どうかしら」
この話に興味を失ったらしいリアナはいつの間にか耳に手を当てて何かを探っていた。
「人の声がする」
「俺たち以外に誰かいるのか?」
「こっちね」
リアナが遺跡の奥を指し示す。
それに従って進んでいくと、たしかに怒号や戦闘の音が聞こえるようになってきた。しかし、途中で明らかに人のサイズではない巨大な扉に阻まれる。
金属製の扉は厚みもあり、手動で動かせる重さとは思えない。遺跡全体の様子からして、その辺のパネルを弄っても動きはしないだろう。
「これ、この扉の奥か?」
「そうみたい。無理やり開けるしかないわね。……アンタもやんのよ」
「筋肉聖女の出番かと思ってな」
茶化してやるとリアナは「ウフフ」と嫌な笑顔を返してきたので素直に行動に移った。
互いに両方の扉に手をかけ、魔法を編み上げる。
「「炎燐旺華!」」
火の属性による増幅の力――身体能力を向上させる魔法だ。魔法の中ではとっては初歩的な魔法だが、使用者の技量がズバ抜けていると絶大な威力をもたらす。
長く閉ざされていた扉が「バキッ」という音とともに動き出す。
さらにリアナが魔法の強度を、俺が魔力の量を上乗せすると、掴んだ部分がひしゃげるほどのパワーが発揮される。
錆びついた超重量の扉は、つんざくような轟音と共に押し開かれた。
「あぁ!?」
「ん? ……あ」
扉の奥で魔物と戦っていた冒険者たちと目が合う。
突然現れた俺たちに驚くその顔はどこかで見たことのある――以前、リアナの護衛中に逃げた連中だった。
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