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1章
③共同作業
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ダンジョンと言っても実際にコア的なアレがある迷宮のことではない。いや、世界のどこかには存在するかもしれないが、一般的には【遺跡調査】のことを指す。
じゃあなんでダンジョンなんて言い回しをしているかといえば、この聖女様が俺の前世のなにかしらを知っているからだ。
ただそれについて俺が話題を振ると――。
「なぁ、俺の前世の話なんだが」
「マンガとアニメの見過ぎよ。気のせいだから忘れなさい」
「そんなもんこっちにねーだろ!」
と、非常に雑な煙の巻き方をされてしまう。
完全にシラを切っているわけではないので、いつかは何かを教えてくれるのかもしれない。俺がリアナについていく理由の一つでもあった。
「大衆小説ならあるでしょ。最近は貴族と使用人の禁断の愛が人気らしいわよ」
「あ~……」
そういえば自分の住んでいた町にもそんな本が置いてあったな、と思い返す。題名が非常にきわどいものだったのでエロ本の類かと思っていた。
そんなことを考えていると、前を歩くリアナが胸の前で両腕を交差させた。
「なんだよ」
「えっちなこと考えてたでしょ」
そう言われると腕の中で揺れる豊満な胸につい視線を寄せられてしまう。
俺は自分の顔がかっと熱くなるのがわかり、声を荒げた。
「そういうのはスルーしろよ!」
「だって流れてくるんだもん~」
リアナは両手をひらひらと上げてまったく反省していなさそうなポーズで先に進む。
俺の思考を読んだかのような発言は、察しの良さなどではない。
実際に思考が共有されるのだ。それは心臓を分けたことによる超現象。だが、それは副産物のようなものにしか過ぎない。
真の効果は魔力的な力を一つにすること――互いの魔力と魔法の技量までもが共有されることだ。
リアナが一介の冒険者に過ぎなかった俺を選んだのにはもちろん理由がある。
俺は魂と星の繋がりが強いらしい。だがそう言われても魔法の腕は下の下だし、自分で生かすことはできないだろう。
「ここね」
リアナが足を止めた。
どうやら目的地についたらしい。
今回の遺跡はまだ冒険者ギルドにも見つかっていない未探索の遺跡だ。
なぜそんな遺跡を俺たちが知っているのかと言われれば、『聖女パワー』なるもののおかげらしい。自分が一番乗りをしたいからといってギルドにも伝えないとは独裁政治にもほどがある。
だが――。
「どこだ……?」
目の前には森しかなかった。辺りを見回してみてもそれらしき入り口や建造物はない。
視線を仁王立ちするリアナに戻すと、聖女様は言い直した。
「……このへんね!」
「アバウトか!」
本人もわかっていなかったらしい。
「そもそもそんなわかりやすい感じで露出してたら、とっくの昔に見つかってるに決まってるでしょ!」
「待て、その通りなんだがお前もさっきまで『来ればわかる』みたいな感じだったよな? そうだよな?」
「誰かがえっちなこと考えてたせいで覚えてないわね!」
「その切り返しは大人げないぞ。ダーティプレイだ! 反則だ!」
そう言うとリアナは頭の後ろに両手をやって知らぬ存ぜぬのポーズを取る。どうやらずいぶんと都合のいい脳みそを持っているらしい。
そんなリアナをいったんスルーして、俺は腕組みして考える。
おそらく遺跡はこの辺りの地面に埋まっているんだろう。三百年前にこの世界は著しく地形が変化しているので珍しいことではない。
だがさすがに遺跡の一部すら見えないとなると、場当たり的に地面を掘るくらいしか思いつかない。残念だがそれをするには人手も道具もが足りなさすぎる。
俺は一度街に引き返すことを提案しようとリアナに振り向くと――。
「……なにやってんだ?」
長剣を空に掲げたリアナが魔力を練っていた。
「その辺吹き飛ばせば出てくるでしょ。ユーリも手伝って」
「いくらなんでも大雑把過ぎだろ! 入り口までぶっ壊れたらどうすんだ!」
「大丈夫よ。それくらいで壊れる遺跡なら壊しちゃったほうがいいし」
そういうものなのか……? と戸惑っていると、リアナに「早くしなさい」とせっつかれた。
仕方なく覚悟を決め、リアナの剣に向かって手を伸ばす。すると、それまでは剣身に薄く纏うだけだった魔力がとたんに増幅され、そして圧縮されていった。
魔力の源は俺だ。
リアナ曰く、魂と星との【繋がり】が強く、魔力量が他人よりも多いらしい。ただし、平民の血統の俺に魔法の才能はなく、初歩的な攻撃魔法しか使えない。
――はずだった。
今、魔法を発動しているのはリアナだ。
賢人であるリアナは魔法を【編み上げる力】が人間の比ではない。だが大規模な魔法を使えば即魔力切れになってしまう。
――今までは。
心臓を分けた俺たちは互いを補うことで一人では不可能なことを可能にできる。
「炎燐――……」
魔法の編み上がると同時に魔力を絞り出す。言葉を交わさずともタイミングは合う。リアナが膨大な魔力を纏った剣を振り下ろした。
「嵐疾!」
叩きつけた剣から赤い閃光が走る。刃の上に圧縮した火の力が地面を溶かし、風の力によって吹き飛ばされた。
鋭い音と光のあと、そこには放射状に抉られた地面があった。
じゃあなんでダンジョンなんて言い回しをしているかといえば、この聖女様が俺の前世のなにかしらを知っているからだ。
ただそれについて俺が話題を振ると――。
「なぁ、俺の前世の話なんだが」
「マンガとアニメの見過ぎよ。気のせいだから忘れなさい」
「そんなもんこっちにねーだろ!」
と、非常に雑な煙の巻き方をされてしまう。
完全にシラを切っているわけではないので、いつかは何かを教えてくれるのかもしれない。俺がリアナについていく理由の一つでもあった。
「大衆小説ならあるでしょ。最近は貴族と使用人の禁断の愛が人気らしいわよ」
「あ~……」
そういえば自分の住んでいた町にもそんな本が置いてあったな、と思い返す。題名が非常にきわどいものだったのでエロ本の類かと思っていた。
そんなことを考えていると、前を歩くリアナが胸の前で両腕を交差させた。
「なんだよ」
「えっちなこと考えてたでしょ」
そう言われると腕の中で揺れる豊満な胸につい視線を寄せられてしまう。
俺は自分の顔がかっと熱くなるのがわかり、声を荒げた。
「そういうのはスルーしろよ!」
「だって流れてくるんだもん~」
リアナは両手をひらひらと上げてまったく反省していなさそうなポーズで先に進む。
俺の思考を読んだかのような発言は、察しの良さなどではない。
実際に思考が共有されるのだ。それは心臓を分けたことによる超現象。だが、それは副産物のようなものにしか過ぎない。
真の効果は魔力的な力を一つにすること――互いの魔力と魔法の技量までもが共有されることだ。
リアナが一介の冒険者に過ぎなかった俺を選んだのにはもちろん理由がある。
俺は魂と星の繋がりが強いらしい。だがそう言われても魔法の腕は下の下だし、自分で生かすことはできないだろう。
「ここね」
リアナが足を止めた。
どうやら目的地についたらしい。
今回の遺跡はまだ冒険者ギルドにも見つかっていない未探索の遺跡だ。
なぜそんな遺跡を俺たちが知っているのかと言われれば、『聖女パワー』なるもののおかげらしい。自分が一番乗りをしたいからといってギルドにも伝えないとは独裁政治にもほどがある。
だが――。
「どこだ……?」
目の前には森しかなかった。辺りを見回してみてもそれらしき入り口や建造物はない。
視線を仁王立ちするリアナに戻すと、聖女様は言い直した。
「……このへんね!」
「アバウトか!」
本人もわかっていなかったらしい。
「そもそもそんなわかりやすい感じで露出してたら、とっくの昔に見つかってるに決まってるでしょ!」
「待て、その通りなんだがお前もさっきまで『来ればわかる』みたいな感じだったよな? そうだよな?」
「誰かがえっちなこと考えてたせいで覚えてないわね!」
「その切り返しは大人げないぞ。ダーティプレイだ! 反則だ!」
そう言うとリアナは頭の後ろに両手をやって知らぬ存ぜぬのポーズを取る。どうやらずいぶんと都合のいい脳みそを持っているらしい。
そんなリアナをいったんスルーして、俺は腕組みして考える。
おそらく遺跡はこの辺りの地面に埋まっているんだろう。三百年前にこの世界は著しく地形が変化しているので珍しいことではない。
だがさすがに遺跡の一部すら見えないとなると、場当たり的に地面を掘るくらいしか思いつかない。残念だがそれをするには人手も道具もが足りなさすぎる。
俺は一度街に引き返すことを提案しようとリアナに振り向くと――。
「……なにやってんだ?」
長剣を空に掲げたリアナが魔力を練っていた。
「その辺吹き飛ばせば出てくるでしょ。ユーリも手伝って」
「いくらなんでも大雑把過ぎだろ! 入り口までぶっ壊れたらどうすんだ!」
「大丈夫よ。それくらいで壊れる遺跡なら壊しちゃったほうがいいし」
そういうものなのか……? と戸惑っていると、リアナに「早くしなさい」とせっつかれた。
仕方なく覚悟を決め、リアナの剣に向かって手を伸ばす。すると、それまでは剣身に薄く纏うだけだった魔力がとたんに増幅され、そして圧縮されていった。
魔力の源は俺だ。
リアナ曰く、魂と星との【繋がり】が強く、魔力量が他人よりも多いらしい。ただし、平民の血統の俺に魔法の才能はなく、初歩的な攻撃魔法しか使えない。
――はずだった。
今、魔法を発動しているのはリアナだ。
賢人であるリアナは魔法を【編み上げる力】が人間の比ではない。だが大規模な魔法を使えば即魔力切れになってしまう。
――今までは。
心臓を分けた俺たちは互いを補うことで一人では不可能なことを可能にできる。
「炎燐――……」
魔法の編み上がると同時に魔力を絞り出す。言葉を交わさずともタイミングは合う。リアナが膨大な魔力を纏った剣を振り下ろした。
「嵐疾!」
叩きつけた剣から赤い閃光が走る。刃の上に圧縮した火の力が地面を溶かし、風の力によって吹き飛ばされた。
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