15 / 15
第14話 そして、これからも
しおりを挟む
「おぉ……バルネット、奮発したわね。これ超人気のお店のやつでしょ」
ラウィーリア家の中庭の一画で、ウィナはクッキーを摘まみ上げた。ひとつひとつに色鮮やかな模様を描かれたそれは、一目で高級なものだとわかる。かじると軽やかな音がして果物の風味が広がり、思わず頬を綻ばせた。
「値段や行列よりも、俺には店の中の方がよっぽど苦行だった……」
持ってきた本人がカップを置いてため息をつく。それを見て、青いドレスに身を包んだフィロメニアが笑った。
「婦女子向けの店だからな。人を使わずに自分で買いに行ったのか。良い心がけだ」
「言ってくれれば一緒に行ったのに」
ここ数日、大事を取って休養を言い渡されていたウィナは口を尖らせる。
仕事をすれば同僚に止められ、学院は授業が行われておらず、友人たちも仕事か実家に帰省している状態だ。一人で休めと言われても暇を持て余すのみである。
故に買い物に行くのなら声をかけてくれてもいいと思うのだが。
「お前に甘んじる俺が嫌だ」
バルネットはきっぱりと前を向いて言った。わからないでもないけどそういうところがズレてる、とウィナは思う。
「ふふ、甘えん坊は卒業か?」
「勘弁してくれ」
「この間、ぴーぴー泣いてた」
両手を挙げて降伏の意を示すバルネットに意地悪を言うと、逆側でフィロメニアの動きが止まった。ウィナは何事かと首をめぐらせる。
「ウィナ、それは私にも刺さる」
「そう言われればアタシにも刺さってるな……?」
こちらを見ていたバルネットが思いついたような表情に変わった。
「そうだ。皆同じだ。泣き虫は俺だけじゃない」
「「それはない」」
フィロメニアと声が重なる。直後、バルネットが崩れ落ち、笑い声が上がった。
かつて、この庭を三人で走り回ったときを思い出す。
年齢や立場が変わったとしても、きっと自分たちが互いを想い合うこの気持ちは変わらないのだろう。
背中を押したり、支えられて、時には向かい合って、胸の内を通じ合わせる。走ってゆく自分たちは決して横並びではないけれど、離れ離れになることはない。
日が暮れて、この庭に帰ってくるとき、いつも自分たちはその手を握り合っていたのだから。
ラウィーリア家の中庭の一画で、ウィナはクッキーを摘まみ上げた。ひとつひとつに色鮮やかな模様を描かれたそれは、一目で高級なものだとわかる。かじると軽やかな音がして果物の風味が広がり、思わず頬を綻ばせた。
「値段や行列よりも、俺には店の中の方がよっぽど苦行だった……」
持ってきた本人がカップを置いてため息をつく。それを見て、青いドレスに身を包んだフィロメニアが笑った。
「婦女子向けの店だからな。人を使わずに自分で買いに行ったのか。良い心がけだ」
「言ってくれれば一緒に行ったのに」
ここ数日、大事を取って休養を言い渡されていたウィナは口を尖らせる。
仕事をすれば同僚に止められ、学院は授業が行われておらず、友人たちも仕事か実家に帰省している状態だ。一人で休めと言われても暇を持て余すのみである。
故に買い物に行くのなら声をかけてくれてもいいと思うのだが。
「お前に甘んじる俺が嫌だ」
バルネットはきっぱりと前を向いて言った。わからないでもないけどそういうところがズレてる、とウィナは思う。
「ふふ、甘えん坊は卒業か?」
「勘弁してくれ」
「この間、ぴーぴー泣いてた」
両手を挙げて降伏の意を示すバルネットに意地悪を言うと、逆側でフィロメニアの動きが止まった。ウィナは何事かと首をめぐらせる。
「ウィナ、それは私にも刺さる」
「そう言われればアタシにも刺さってるな……?」
こちらを見ていたバルネットが思いついたような表情に変わった。
「そうだ。皆同じだ。泣き虫は俺だけじゃない」
「「それはない」」
フィロメニアと声が重なる。直後、バルネットが崩れ落ち、笑い声が上がった。
かつて、この庭を三人で走り回ったときを思い出す。
年齢や立場が変わったとしても、きっと自分たちが互いを想い合うこの気持ちは変わらないのだろう。
背中を押したり、支えられて、時には向かい合って、胸の内を通じ合わせる。走ってゆく自分たちは決して横並びではないけれど、離れ離れになることはない。
日が暮れて、この庭に帰ってくるとき、いつも自分たちはその手を握り合っていたのだから。
0
お気に入りに追加
20
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる