上 下
44 / 65

第44話 騎士団第二部隊

しおりを挟む
「いやー、よく来てくれた。カンナギ君、だったかな?」

 上機嫌出迎えてくれたのは対オーガ防衛ライン構築の指揮を執っていた第二部隊のコンラート隊長。

「ご用件というのはオーガ討伐の調書作成のための聞き取りかなにかでしょうか?」

 二時間ほど前にコンラート隊長と会話をした際に見せた、彼の悪そうな笑顔を思いだしながら、素知らぬ顔で訊いた。

「そこまで煩わせるつもりはない。調書の方は我々で作成したものがある。確認のために目を通してもらえれば十分だ」

 実際にオーガを討伐した俺から一言の話も聞いていないのに調書が出来上がっているのかよ。
 これがこの世界の騎士団の標準とは思いたくないな。

「それは助かります。では早速、調書を読ませて頂きます」

「いや、急ぐ必要はない。調書は後ほど持ってこさせる。その前に少し話をしたい」

「お話ですか?」

「第一部隊のパウルから無理難題を言われているらしいじゃないか?」

 本題がそちらだと言うことは予想できたが、何の前置きもなしにいきなり核心に触れた来たな。

「無理難題というほどこのことではありません。私が討伐した盗賊のアジトに案内するよう言われているだけです」

「アジトに残してきた盗品の引き渡しを要求されているのだろ?」

 俺は少し困ったような表情を浮かべて恐縮する。

「私の国では討伐した盗賊が所持いていた盗品は討伐した者に所有権が移ります。てっきりこちらの国でもそうだと思い込んでいました。ご迷惑をお掛けし申し訳ございませんでした」

 パウル騎士団長に騙されている世間知らずの青年を演じる。

「盗賊から奪った盗品は君のものだ。アジトに残してきた盗品は後日運びだせばいい。もちろん、その間に誰かが発見して運び出した場合は運び出した者が所有者となる」

 知っている。
 知っているが、不正がまかり通るような騎士団相手に正論を言っても取り合ってはもらえないだろ。

 それどころか、機嫌を損ねたら冤罪えんざいで投獄されかねない。

「え? どういうことでしょうか?」

「パウルは君が法律に疎いことを悪用し、本来君が手にすべき盗賊の所持品を不当に奪おうとしている」

「たとえ一度に運びだせなくても、盗賊を討伐した者に所有権が移るのはこちらの国でもそうだったんですね」

 外国人なので法律に疎い振りをした。

「要はパウルのヤツが君の資産を横取りしようとしているわけだ」

「そんな! 騎士団の隊長さんがですか!」

 心底驚いたふりをする俺にコンラート隊長が同情した表情で言う。

「パウルはこちらに赴任してくる前から良からぬ噂があってな。私としてはヤツのシッポを掴んで悪事を白日の下に曝したいと考えている」

 内部で処理して第一部隊の隊長を更迭するのかと思ったが違うようだ。

「同じ騎士団として恥になるのではありませんか?」

隠蔽いんぺいする方が騎士団の恥だ。汚職まみれの第一騎士団を告発することで、我々第二部隊が公正、且つ、清廉であることを知らしめたい」

 第三、第四部隊には一歩リードしているから、ここで競争相手の第一部隊の汚職を暴くことで第一部隊を蹴落とし、騎士団内部での優位性を不動のものにしようという魂胆か。
 パウル隊長と同類の薄汚い大人であることは間違いないが、コンラート隊長の方が少しだけずる賢いようだ。

「具体的に私は何をしたらいいでしょう? それと、私の得るメリットを教えて頂けますか?」

「さすが商人! 話が早くていい」

 こちらが利害で動く人間と判断しようだ。我が意を得たりとばかりにコンラート隊長が身を乗りだした。

「明日、パウルを案内して盗賊団のアジト跡に向かうな?」

「ええ」

 盗賊のアジト跡には異空間収納に収まりきらなかった盗品が残っていることになっている。それをパウルに引き渡すためにアジトへ案内することになっていた。

「そこで、だ。一つ私の策に乗ってみないか?」

「策です、か? 商人なので騎士様のような難しいことは分かりませんが……」

 形だけ難色を示す。

「何、難しいことはない。私の言う通りに動いてくれれば、君は盗賊を討伐して手にすべき資産を守れ、我々は騎士団内部のうみを出すことができる。双方にとってメリットがあると思うが、どうかね?」

 おいおい。
 盗賊の盗品はもともと俺に所有権がある、と言ったばかりじゃなかったか?

「分かりました。では、コンラート隊長のご指示通りに動きましょう」

「決まりだ」

 コンラート隊長が提案した作戦内容は単純明快なものだった。
 盗賊のアジトから持ち帰った盗品を自宅に持ち帰ったところに、第二部隊が踏み込んでパウル隊長以下、かかわった騎士団員たちを捕縛するというモノだ。

 盗品はもともと保管されていた倉庫の扉を開ける瞬間にでも錬金工房から倉庫へ移せばいいので特に問題はない。
 自分の手を汚さずに解決できるならそれに越したことはないだろう。

「作戦通りに事が運ぶと第一部隊はどうなりますか?」

「第一部隊を我々の部隊が糾合し、新たに第一部隊と第二部隊を編成し直すことになるだろう。まあ、第一部隊は事実上解体だな」

 コンラート隊長が得意げに語った。
 第一部隊と第二部隊が互いに噛み合って自滅するのが理想なのだが、ここは第一部隊を解体できるだけでも良しとしよう。

「驚きました。隊長は策士ですね」

「いやなに、これくらいは大したことはない」

 そう言って上機嫌で笑いだした。

 何ともこずるい大人が多いことだ。
 異世界も世知辛いよなー。

 とはいえ、日本で詐欺事件などの知能犯のニュースを幾つも見ていたせいか、騎士団の隊長二人が小悪党にしか見えない。

 この状況を何とか利用できないモノだろうか?
 
 俺はそんなことを考えながら、俺はコンラート隊長と握手を交わし、ユリアーナたちと合流するため孤児院へと向かうことにした。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...