12 / 65
第12話 公用語
しおりを挟む
盗賊の一人からアジトの場所と戦力を聞きだすのにそう時間はかからなかった。
ユリアーナ曰く。
「所詮、盗賊。命を対価に脅せば、義理も根性も罪の意識すらないから簡単に口を割るわよ」
その通りだった。
自分の命惜しさにベラベラとしゃべる。
こちらが聞いてもいない情報まで教えてくれた。
浅ましい大人を目の当たりにすると、青少年としては『ああはなりたくない』と本心から思う。
「さあ、盗賊のアジトに乗り込むわよ!」
盗賊のアジトを急襲しようとかけ声をかけたのが十分程前のこと。
俺とユリアーナの口から洩れたのは諦めの言葉だった。
「そろそろやめないか? これ以上時間を無駄にするわけにはいかない」
「そうね、ちょっとハードルが高かったかもね」
荒ぶる二頭の馬を錬金工房に収納した。
聞きだした連中のアジトに馬で駆け付けようとしたのだが……、それが大きな間違いだった。
一度も乗馬なんてしたことがないのに何故乗れると思ったのだろう。
他人のせいにするつもりはないが、ユリアーナの軽いノリに惑わされた気がしてならない。
『乗ったことはないけど、見たことはあるんだし、何とかなるでしょ』とはユリアーナ。
結局、なんともならなかった。
七頭の馬全て試したが歩くことすらままならない。
端的に言うと、半数以上の馬に乗ってすぐに放り出された。
「歩くしかなさそうね」
盗賊たちのアジトはここから五キロメートル程先にある洞窟。
「ユリアーナ、提案と言うか相談がある」
「五キロメートル歩くのが嫌だとか言わないでよ。盗賊を掴まえて騎士団に突きだしたら報奨金が貰えるのよ」
先程の尋問で、盗賊団のボスを含めた五人の盗賊たちに賞金がかかっていることを聞きだしていた。
さらに盗賊が盗んだ財産は討伐した者に所有権が移ることも確認済みだ。
「先立つものは必要だし、善行を積んで大金を得られるんだから反対するつもりはない」
「じゃあ、歩きましょう」
そう言って歩きだす彼女の背に言葉を投げかける。
「盗賊の持っているスキル」
そこで言葉を切ると、案の定ユリアーナが即座に反応した。
「何か面白そうなスキルでもあったの?」
「全員、公用語のスキルを持っていた」
「当たり前じゃないの」
「そのスキルを馬に付けられないかな?」
声帯が違うからしゃべることはできなくても、こちらの命令を正しく理解することができるようになるかもしれない。
理解できれば俺たちでも馬に乗れるはずだ。
公用語を理解できなくなった盗賊の末路を想像すると若干の罪悪感を覚えるが、これも因果応報と諦めてもらおう。
振り返ったユリアーナの口元に笑みが浮かぶ。
「盗賊が公用語を理解できるよりも、馬が公用語を理解できる方がずっと価値があるわ」
予想はしていたが迷いがない。
「言いだしておいて何だが、反対しないんだな」
「公用語スキルを失った盗賊には、女神であるあたしから感謝の祈りを贈りましょう」
胸の前で両手を組むと静かに目を閉じる。
「それだけ?」
「過分な同情は禁物よ」
「それじゃ……」
俺は盗賊の公用語語スキルの剥奪を試みることにした。
ユリアーナ曰く。
「所詮、盗賊。命を対価に脅せば、義理も根性も罪の意識すらないから簡単に口を割るわよ」
その通りだった。
自分の命惜しさにベラベラとしゃべる。
こちらが聞いてもいない情報まで教えてくれた。
浅ましい大人を目の当たりにすると、青少年としては『ああはなりたくない』と本心から思う。
「さあ、盗賊のアジトに乗り込むわよ!」
盗賊のアジトを急襲しようとかけ声をかけたのが十分程前のこと。
俺とユリアーナの口から洩れたのは諦めの言葉だった。
「そろそろやめないか? これ以上時間を無駄にするわけにはいかない」
「そうね、ちょっとハードルが高かったかもね」
荒ぶる二頭の馬を錬金工房に収納した。
聞きだした連中のアジトに馬で駆け付けようとしたのだが……、それが大きな間違いだった。
一度も乗馬なんてしたことがないのに何故乗れると思ったのだろう。
他人のせいにするつもりはないが、ユリアーナの軽いノリに惑わされた気がしてならない。
『乗ったことはないけど、見たことはあるんだし、何とかなるでしょ』とはユリアーナ。
結局、なんともならなかった。
七頭の馬全て試したが歩くことすらままならない。
端的に言うと、半数以上の馬に乗ってすぐに放り出された。
「歩くしかなさそうね」
盗賊たちのアジトはここから五キロメートル程先にある洞窟。
「ユリアーナ、提案と言うか相談がある」
「五キロメートル歩くのが嫌だとか言わないでよ。盗賊を掴まえて騎士団に突きだしたら報奨金が貰えるのよ」
先程の尋問で、盗賊団のボスを含めた五人の盗賊たちに賞金がかかっていることを聞きだしていた。
さらに盗賊が盗んだ財産は討伐した者に所有権が移ることも確認済みだ。
「先立つものは必要だし、善行を積んで大金を得られるんだから反対するつもりはない」
「じゃあ、歩きましょう」
そう言って歩きだす彼女の背に言葉を投げかける。
「盗賊の持っているスキル」
そこで言葉を切ると、案の定ユリアーナが即座に反応した。
「何か面白そうなスキルでもあったの?」
「全員、公用語のスキルを持っていた」
「当たり前じゃないの」
「そのスキルを馬に付けられないかな?」
声帯が違うからしゃべることはできなくても、こちらの命令を正しく理解することができるようになるかもしれない。
理解できれば俺たちでも馬に乗れるはずだ。
公用語を理解できなくなった盗賊の末路を想像すると若干の罪悪感を覚えるが、これも因果応報と諦めてもらおう。
振り返ったユリアーナの口元に笑みが浮かぶ。
「盗賊が公用語を理解できるよりも、馬が公用語を理解できる方がずっと価値があるわ」
予想はしていたが迷いがない。
「言いだしておいて何だが、反対しないんだな」
「公用語スキルを失った盗賊には、女神であるあたしから感謝の祈りを贈りましょう」
胸の前で両手を組むと静かに目を閉じる。
「それだけ?」
「過分な同情は禁物よ」
「それじゃ……」
俺は盗賊の公用語語スキルの剥奪を試みることにした。
59
新作です
どうぞよろしくお願いいたします。
下記リンクより飛べます
.:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:.
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
.:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:.
どうぞよろしくお願いいたします。
下記リンクより飛べます
.:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:.
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
.:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:.
お気に入りに追加
803
あなたにおすすめの小説

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる