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第40話 初出勤
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診療所は神殿とは別の場所にあるということで、昨夜、宿舎へ案内してくれた少年と少女の見習い神官が図南と紗良を案内した。
診療所の門で案内役の二人と別れると図南が言う
「さてと、先ずは所長室だな」
「随分と嬉しそうね」
紗良が冷ややかな流し目を図南に向ける。
「初仕事だから張り切っているだけだって」
「ふーん、張り切るねー」
図南の大嘘を見抜いている紗良が冴え冴えとした眼光を図南に向けて言う。
「部門の責任者が紹介されたときなんて、いまにも逃げだしそうな感じだったけど?」
「逃げだすわけにはいかないだろ?」
「コール司教に見惚《みと》れてたくせに」
「見惚れてなんていねーよ! 自分たちの上司になるんだから注意してみていただけだ」
「就任式のときには彼女が上司だって分からなかったでしょ?」
(バレている! いや、ブラフの可能性もある)
紗良がカマを掛けていると断じた図南がシラを切る。
「就任式? あー、男だらけの司教のなかに若い女性の司教が一人だけ混じっていたから、少しは目が留まったかもな」
紗良の目がすっと細められた。
抑揚のない口調と冷たい視線。
「あたし、見てたのー。図南のこと、ずーっと見てたのー」
「見てたって……、あ!」
「そうー、千里眼で見てたのー」
「それは反則だろ……」
冷汗をかきながらも反撃した。
日本人の感覚としては図南の言うことは真っ当である。そして、自分の行いに後ろめたさのあった紗良が怯む。
「うっ……、それ、は……」
(行けるか?)
「いや、俺も悪かったよ。紗良に嘘を吐いたことはあやまる」
「す、素直に謝ればあたしだって鬼じゃないんだし――」
「ごめん! 紗良!」
紗良の言葉を遮る形で、図南がその場で土下座をした。
「ちょ、ちょっと図南やめてよ、そんなの。あたしも悪かったわ。もう、千里眼で監視したりしないから、ね」
慌てて紗良が図南の手を取って起こそうとする。
「いや、本当、俺が全面的に悪い」
「ほら、あたしも反省しているからさ。お互い様と言うことで仲直りしましょう」
若い男女の司教が二人。
少年は土下座し、少女は周囲の視線を気にして焦っているのがヒシヒシと周囲に伝わっていた。
当然のように周囲の神官や治療に訪れた市民たちの奇異の視線が注がれる。そんな視線に混じって診療所の窓から敵意の視線が注がれていた。
診療所の一室から図南と紗良のやり取りを見ていた中年の男が吐き捨てるように言う。
「あれが新しい司教様か。まだ子どもじゃないか」
傍らに立つ若い男が馬車隊に同行した神官から仕入れた情報を口にした。
「神殿長の懐刀との噂もあります」
神殿長や副神殿長が新しく就任する際に、身内や近しい者たちのなかでも信用がおけるものや優秀な者を一緒に赴任させてそれなりの役職を与えるのは通例となっていた。
それでも図南と紗良のように若年のものを司教に抜擢するのは異例のことである。
当然、誰もが勘ぐり憶測が飛び交う。
「小僧の方は腕も立つそうだな」
「恐ろしいほどの腕前と聞いています」
「だが、頭の方は残念なようだな。あれじゃ、司教の真似事をしたガキがじゃれ合っているようにしか見えん」
奇異の目にさらされている図南と紗良を見て言った。
「目にした者の話では二人とも神聖魔法の腕は一級品らしいです。なかには既に二人を崇拝している者いるとか」
「神聖魔法が優れているだけなら利用価値もあるというものだ」
「噂ですが、頭もそれなりに切れるようです」
「念のため、しばらくは大人しくしているように他の者たちに伝えろ。用心するに越したことはないからな」
「承知いたしました」
若い男が恭しく頭《こうべ》を垂れた。
診療所の門で案内役の二人と別れると図南が言う
「さてと、先ずは所長室だな」
「随分と嬉しそうね」
紗良が冷ややかな流し目を図南に向ける。
「初仕事だから張り切っているだけだって」
「ふーん、張り切るねー」
図南の大嘘を見抜いている紗良が冴え冴えとした眼光を図南に向けて言う。
「部門の責任者が紹介されたときなんて、いまにも逃げだしそうな感じだったけど?」
「逃げだすわけにはいかないだろ?」
「コール司教に見惚《みと》れてたくせに」
「見惚れてなんていねーよ! 自分たちの上司になるんだから注意してみていただけだ」
「就任式のときには彼女が上司だって分からなかったでしょ?」
(バレている! いや、ブラフの可能性もある)
紗良がカマを掛けていると断じた図南がシラを切る。
「就任式? あー、男だらけの司教のなかに若い女性の司教が一人だけ混じっていたから、少しは目が留まったかもな」
紗良の目がすっと細められた。
抑揚のない口調と冷たい視線。
「あたし、見てたのー。図南のこと、ずーっと見てたのー」
「見てたって……、あ!」
「そうー、千里眼で見てたのー」
「それは反則だろ……」
冷汗をかきながらも反撃した。
日本人の感覚としては図南の言うことは真っ当である。そして、自分の行いに後ろめたさのあった紗良が怯む。
「うっ……、それ、は……」
(行けるか?)
「いや、俺も悪かったよ。紗良に嘘を吐いたことはあやまる」
「す、素直に謝ればあたしだって鬼じゃないんだし――」
「ごめん! 紗良!」
紗良の言葉を遮る形で、図南がその場で土下座をした。
「ちょ、ちょっと図南やめてよ、そんなの。あたしも悪かったわ。もう、千里眼で監視したりしないから、ね」
慌てて紗良が図南の手を取って起こそうとする。
「いや、本当、俺が全面的に悪い」
「ほら、あたしも反省しているからさ。お互い様と言うことで仲直りしましょう」
若い男女の司教が二人。
少年は土下座し、少女は周囲の視線を気にして焦っているのがヒシヒシと周囲に伝わっていた。
当然のように周囲の神官や治療に訪れた市民たちの奇異の視線が注がれる。そんな視線に混じって診療所の窓から敵意の視線が注がれていた。
診療所の一室から図南と紗良のやり取りを見ていた中年の男が吐き捨てるように言う。
「あれが新しい司教様か。まだ子どもじゃないか」
傍らに立つ若い男が馬車隊に同行した神官から仕入れた情報を口にした。
「神殿長の懐刀との噂もあります」
神殿長や副神殿長が新しく就任する際に、身内や近しい者たちのなかでも信用がおけるものや優秀な者を一緒に赴任させてそれなりの役職を与えるのは通例となっていた。
それでも図南と紗良のように若年のものを司教に抜擢するのは異例のことである。
当然、誰もが勘ぐり憶測が飛び交う。
「小僧の方は腕も立つそうだな」
「恐ろしいほどの腕前と聞いています」
「だが、頭の方は残念なようだな。あれじゃ、司教の真似事をしたガキがじゃれ合っているようにしか見えん」
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「承知いたしました」
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よろしければ読んでみてください
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薄幸の少女と老人の不思議な本
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