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第25話 襲撃(2)
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身体強化された圧倒的な運動能力に任せた高速の斬撃は、図南の手に肉を斬る感触と骨を断つ感触を伝える。
血の臭いが鼻孔を刺激する。
地面に転がる男の苦痛の声が喧騒の中にあって鮮明に聞こえる。
図南の背中を何かが駆けあがるような不快感が襲った。
それは、オークとの戦闘では感じることのなかった感覚。突然襲ってきた得体の知れない感覚に恐怖する。
一瞬、図南の動きが止まった。
それを見逃さなかった襲撃者が図南に切り掛かる。
「恨むなら戦場で動きを止めた己の未熟さを恨めよ!」
図南よりも二十センチメートルは背の高い大男が巨大な戦斧を振り下ろした。その巨大な戦斧に中段に構えていた長剣を切り上げるようにして合わせる。
甲高い金属音が響き、手には重い衝撃が伝った。
(何だよ、これ!)
あまりの衝撃に図南が顔を歪める。
同時に大男も顔を歪めていた。
隙を突いた振り下ろしの一撃だった。
体格差を活かした、重い戦斧に体重を乗せての振り下ろし。
切り上げた長剣を勢いに任せて押し切って致命傷を与えられるはずだった。或いは、長剣が戦斧の勢いに耐え切れずに折れる可能すらあった。
「バカな!」
勝利を疑わなかった男の戦斧を図南の長剣が大きく弾き飛ばした。
戦斧が勢いよく夜空に舞う。
予想しなかった結果に、大男が慌てて距離を取る。
「遅い!」
図南が叫んだ。
(加速!)
大男の目には図南の姿が消えたように見えたかもしれない。飛び退《すさ》る大男との距離を瞬き一つの時間で詰める。
「グアッ!」
長剣を水平に薙いだ図南の一撃が、大男の両脚を太もものあたりから斬り飛ばした。
叫びながら地面に転がった男を捨て置き、次のターゲットへ向けて駆ける。
「グハッ!」
「退くな! 持ち堪える――、ガハッ!」
「敵が手強すぎます!」
「手数が足りない! 増援を頼む!」
神官たちの切羽詰まった叫びが図南の耳に届く。
視線を向けると、見覚えのある騎士と三人の神官が倍以上の襲撃者と対峙していた。彼らの足元には数人の騎士と神官が横たわっている。
甲高いい金属音と悲鳴が響くなか、図南が叫んだ。
「ラルスさん! 加勢します!」
(加速! 集中!)
図南の声を聞いたラルスが咄嗟に振り向く。
だが、そこには誰もいなかった。
「ゴフッ!」
「グゥッ!」
「な、何が……」
「き、気を付け――ガッ!」
襲撃者たちが悲鳴を上げて次々と倒れていく。
闇に紛れた図南の動きに対応できる者は一人もいない。
身体強化と感覚強化、さらに加速と集中を重ね掛けしたその速度は、襲撃者に何が起きているのか理解する時間を与えなかった。
襲撃者だけではなかった。神官たちも何が起きているの理解できなかった。
時間にして数秒。
八人の襲撃者が戦闘力を奪われた状態で次々と地面にくずおれる。
「倒れている人たちで瀕死の方はいますか?」
「あ……、ああ、こ、この二人が危険な状態です」
その問いにラルスがかろうじて答える。
図南が瀕死の二人を治療する様子と、周囲で苦痛の声を上げる襲撃者たちを、ただ茫然と眺めていた。
いま、何が起きたんだ?
これを眼の前の少年がやったのか?
いまも瀕死の者が瞬く間に回復してく……。
ラルスは自分の目に映るものが信じられなかった。
血の臭いが鼻孔を刺激する。
地面に転がる男の苦痛の声が喧騒の中にあって鮮明に聞こえる。
図南の背中を何かが駆けあがるような不快感が襲った。
それは、オークとの戦闘では感じることのなかった感覚。突然襲ってきた得体の知れない感覚に恐怖する。
一瞬、図南の動きが止まった。
それを見逃さなかった襲撃者が図南に切り掛かる。
「恨むなら戦場で動きを止めた己の未熟さを恨めよ!」
図南よりも二十センチメートルは背の高い大男が巨大な戦斧を振り下ろした。その巨大な戦斧に中段に構えていた長剣を切り上げるようにして合わせる。
甲高い金属音が響き、手には重い衝撃が伝った。
(何だよ、これ!)
あまりの衝撃に図南が顔を歪める。
同時に大男も顔を歪めていた。
隙を突いた振り下ろしの一撃だった。
体格差を活かした、重い戦斧に体重を乗せての振り下ろし。
切り上げた長剣を勢いに任せて押し切って致命傷を与えられるはずだった。或いは、長剣が戦斧の勢いに耐え切れずに折れる可能すらあった。
「バカな!」
勝利を疑わなかった男の戦斧を図南の長剣が大きく弾き飛ばした。
戦斧が勢いよく夜空に舞う。
予想しなかった結果に、大男が慌てて距離を取る。
「遅い!」
図南が叫んだ。
(加速!)
大男の目には図南の姿が消えたように見えたかもしれない。飛び退《すさ》る大男との距離を瞬き一つの時間で詰める。
「グアッ!」
長剣を水平に薙いだ図南の一撃が、大男の両脚を太もものあたりから斬り飛ばした。
叫びながら地面に転がった男を捨て置き、次のターゲットへ向けて駆ける。
「グハッ!」
「退くな! 持ち堪える――、ガハッ!」
「敵が手強すぎます!」
「手数が足りない! 増援を頼む!」
神官たちの切羽詰まった叫びが図南の耳に届く。
視線を向けると、見覚えのある騎士と三人の神官が倍以上の襲撃者と対峙していた。彼らの足元には数人の騎士と神官が横たわっている。
甲高いい金属音と悲鳴が響くなか、図南が叫んだ。
「ラルスさん! 加勢します!」
(加速! 集中!)
図南の声を聞いたラルスが咄嗟に振り向く。
だが、そこには誰もいなかった。
「ゴフッ!」
「グゥッ!」
「な、何が……」
「き、気を付け――ガッ!」
襲撃者たちが悲鳴を上げて次々と倒れていく。
闇に紛れた図南の動きに対応できる者は一人もいない。
身体強化と感覚強化、さらに加速と集中を重ね掛けしたその速度は、襲撃者に何が起きているのか理解する時間を与えなかった。
襲撃者だけではなかった。神官たちも何が起きているの理解できなかった。
時間にして数秒。
八人の襲撃者が戦闘力を奪われた状態で次々と地面にくずおれる。
「倒れている人たちで瀕死の方はいますか?」
「あ……、ああ、こ、この二人が危険な状態です」
その問いにラルスがかろうじて答える。
図南が瀕死の二人を治療する様子と、周囲で苦痛の声を上げる襲撃者たちを、ただ茫然と眺めていた。
いま、何が起きたんだ?
これを眼の前の少年がやったのか?
いまも瀕死の者が瞬く間に回復してく……。
ラルスは自分の目に映るものが信じられなかった。
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