女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有

文字の大きさ
上 下
7 / 53

第7話 スキルの検証(1)

しおりを挟む
 森の中に図南の声が響く。

「火球」

 火球が二十数メートル先の大木に当たって小さな爆発を起こす。
 攻撃魔法の名称を声に出す必要はないのだが、検証中ということで敢えて口にしていた。

「続いて、魔弾《まだん》」

 今度は三十メートル以上先に着弾して地面を小さく抉った。
 それを見ていた拓光がつぶやく。

「火球の方は威力もショボいんだな」

「殺傷力はほぼなさそうだな」

 そう口にした図南は然程《さほど》残念そうな顔はしていない。

 確かに攻撃手段としては役立ちそうになかったが、火を起こす道具や手間が省けるのはありがたかった。
 戦闘用というよりも日常生活を送る上での便利スキル、だと図南は位置づける。

 それに比べて魔弾の殺傷力は高い。
 拓光がインターネット上の動画サイトで見た知識をもとに言う。

「魔弾の方は対戦車ライフルくらいの破壊力があるんじゃないのか?」

「対戦車ライフルの破壊力がどんなものか知らないので何とも言えないが、至近距離でなら十分に攻撃に使えるかもな」

 図南はそう言いながらも、魔弾が実戦では使いものにならないと考えていた。
 逆に実戦で使うなら魔刃《まじん》だな、と思う。

 実際、至近距離なら身体強化を併用しての魔刃の方がよほど使い勝手が良い。その上、乾坤一擲の加護の影響もあって殺傷力も圧倒的に高かった。

「問題は命中率か」

「魔法を狙ったところに当てるのがこれ程難しいとは思わなかったよ」

 天を仰ぐ図南の傍らで紗良が攻撃魔法を放つ。

「魔弾!」

 彼女の突き出した右手から放たれた、魔力の弾丸が数百メートル先の大木を抉《えぐ》った。
 紗良の声が続けて森の中に響く。

「さらに魔弾! からのー、二十連射ー!」

 ほぼ同時に二十発の魔弾が撃ち出され、大木へと吸い込まれるように全弾が命中し、大木が地響きを立てて倒れた。

「さすが闇雲、図南とは一味違うな」

「ありがとうございます、不知火さん。得手不得手があるのは仕方がないことです。事実、図南も魔刃《まじん》なら外しません」

「そりゃ、魔刃は近接攻撃魔法だからな」

「違うぞ、拓光。魔刃は攻撃魔法で唯一、必中特性があるんだ」

 図南が力なく肩を落とした。

 ここまでの練習で近接攻撃魔法は全員が一度も外していない。
 翻《ひるがえ》って、遠距離攻撃魔法は数メートルの距離ならともかく、十メートル以上離れると紗良しかまともに命中させることができなかった。

「俺も図南も、遠距離攻撃魔法は相当練習しないと使いものになりそうにないな」

 拓光から羨望の視線を受けた紗良が、得意げな顔で謙虚なことを口にする。

「これも加護の恩恵です」

 図南と拓光は紗良のステータスを改めて思いだす。

【名 前】 闇雲紗良
【H P】 999,999,999
【M P】 999,999,999
【加 護】 百発百中(常時発動:命中率+20% 任意発動:必中 ※MP100/回)
【加 護】 明鏡止水(常時発動:回避率+10%、命中率+10% 任意発動:回避率+50%、命中率+50% ※MP100/10分)
【スキル】
神聖魔法  10/10(最大値)
無属性魔法 10/10(最大値)
身体強化  10/10(最大値)(※MP 2/分)
千里眼   10/10(最大値)(※MP 1/分)
集中    10/10(最大値)(回避率+30% ※MP1/分)
射程+100%(魔弾)
射程+100%(魔弾)
射程+100%(魔弾)
射程+100%(魔弾)
射程+100%(魔弾)
水魔法    1/10
風魔法    1/10

 オーバーキルという言葉はあるが、紗良の場合、魔弾の射程と命中率がそれに相当する。

「全ての攻撃魔法に必中が適用できるとか、反則だろ……」

 呆れる図南に、

「毎回MP100を消費する任意発動の必中を常に発動させられる桁外れの魔力があればこそ、だけどな」

 拓光が注目すべき点が違うのだと指摘した。

「うーん、毎回発動させるのも面倒だから常時発動にならないかなー」

「贅沢なことを言うな」

 図南の窘める言葉に、贅沢なことを十分に自覚した紗良が嬉しそうに微笑んで図南に寄り添う。

「図南の魔刃も十分凄いよー」

「お、おう……」

 そんな二人を見ながら拓光があきれ顔でつぶやいた。

「俺に言わせれば、いろんな意味で二人とも贅沢だよ」

 紗良の笑顔と柔らかな感触に、一瞬、拓光の存在を忘れかけた図南がバツが悪そうに紗良を引きはがす。

「すまない、拓光」

「いや、いつものことだ。気にしないでくれ」

「そ、そうか? じゃあ、検証を続けようか」

 三人が検証を再開した。

(適当に撃っても当たるんだろうな、あれ)

 明後日の方向に向けて放たれた魔弾が方向転換して数キロメートル先のドラゴンにヒットする映像を思い描きながら図南が聞く。

「徹底的に魔弾の射程を伸ばしたんだな」

 例えば紗良の取得しているスキルの一つ、『射程+100%』。
 これは全ての攻撃魔法の射程を伸ばすスキルではなく、プレーヤーが選んだ一つの攻撃魔法の射程距離を伸ばすスキルである。

 プレーヤーは任意の攻撃魔法を選んで様々な強化を施することができるのだが、一度選んだら変更できない。
 これにより同じ加護や魔法を持つプレーヤーでも個性がでる、というのがこのゲームの特徴でもある。

 紗良はゲーム中でも最大射程を誇る無属性魔法の魔弾を徹底して強化していた。

「うん! 魔弾が一番遠くまで届くから~」

 上機嫌の紗良に図南が聞く。

「魔弾の最大射程って、二キロメートルだったよな?」

「見えない敵を千里眼で捕捉して、射程+100%を五つ重複させた魔弾で十二キロメートル先から狙撃できるの」

 射程+100%の重ね掛けと必中のコンボの脅威を紗良が嬉しそうに口にした。

「凶悪……」

 拓光が閉口する。

「サービス開始直後、即、臨時メンテだな、それ」

(同一スキルの効果が重複するバグが残っているなんて、叔父さんも思ってなかったんだろうな)

「へへへへー。いいでしょう」

「二人に比べて俺はなんて雑魚なんだ……」

 わざとらしくうな垂れた拓光が自身のステータスを告げる。
しおりを挟む
こんなのも書いています
よろしければ読んでみてください

下記リンクより飛べます
.:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:.
薄幸の少女と老人の不思議な本
.:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:. .:*゚..:。:.
感想 29

あなたにおすすめの小説

異世界巻き込まれ転移譚~無能の烙印押されましたが、勇者の力持ってます~

影茸
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界に転移することになった僕、羽島翔。 けれども相手の不手際で異世界に転移することになったにも関わらず、僕は巻き込まれた無能と罵られ勇者に嘲笑され、城から追い出されることになる。 けれども僕の人生は、巻き込まれたはずなのに勇者の力を使えることに気づいたその瞬間大きく変わり始める。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

処理中です...