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第3章 シェリルのお披露目
4.王女の仕事
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「申し訳ありません。起こしてしまったみたいですね」
続けて神妙に詫びを入れてきたジェリドに、シェリルが慌てて首を振る。
「いえ、寝るつもりは無かったのに、考え事をしているうちに眠ってしまっていた様です。下手をすると夕食の時間を過ぎてもそのままだった可能性もありましたから、助かりました」
「それなら良かった。ですが……、そんな所で考え事ですか?」
「はい、人間って色々面倒だなぁって……、あ、いえ、その……」
(こんな事が宰相様の耳に入ったら、『いかにも猫らしい発言はお控え下さい』って怒られるかも!)
不思議そうに尋ねてきた相手に、シェリルが思わず正直に答えてしまって一人で焦っていると、彼女の心情を正確に読み取ったらしいジェリドは、笑いを堪える様な表情になりながら理由を尋ねてきた。
「父には内緒にしておきます。それで、今日何かありましたか?」
「それが……、以前寸法を測って作って貰ったドレスや、それに合わせた宝飾品が仕上がってきたのですが、どれを今度の夜会で着るかで大論争になってしまいまして」
しみじみとそんな事を口にしたシェリルに、ジェリドが怪訝な顔を見せる。
「大論争……、姫とエリーシア殿の間でですか?」
「いえ、王妃様とレイナ様とその他大勢の侍女さん達の意見が飛び交いまして。十着を何度も着直す羽目に……。しまいにはエリーが切れかけて、抑えるのが大変でした」
「それはお疲れ様でした」
口ではそう労いながらも、心底うんざりとしたシェリルの様子がおかしかったのか、ジェリドは口元を押さえて微かに肩を震わせた。それを目の当たりにしたシェリルが、盛大に拗ねる。
「ジェリド様……、絶対笑ってますよね?」
「すみません、つい……。お暇なら、気分転換に、少しお話しませんか?」
「はい、構いません。今降りますね」
「それでは人目もありますし、あちらに移動しましょう」
夕方になってそれなりに涼しくなってきた為、木の上ではちょっと寒く感じる頃合いであり、シェリルはその提案に賛同した。そしてすぐさま枝から飛び降り、一回転して音も無く地面に降り立つ。それを見たジェリドは思わず拍手しそうになったが、すぐ我に返ってシェリルを庭園の一角にある石造りの東屋に誘導し、シェリルが石造りのベンチに飛び乗ってそこに収まると、ジェリドが周囲を見渡してから軽く右手を動かし、簡潔に呪文の詠唱を始めた。
「ガルース・フェイシス・マイディン・ユーザル……」
それを興味深そうに見守っていたシェリルだったが、周囲を見渡しても何も異常は認められなかった為、満足そうに振り返ったジェリドに尋ねてみた。
「さあ、これで良し」
「あの……、今、何をなさったんですか?」
「猫の姿の姫は、王宮の大多数の人間には姫とエリーシア殿の飼い猫という事になっていますので、猫相手に真面目に話し込んでいるのを見られたら、怪しまれるか頭がおかしいと思われます。なので周囲から私達の姿が見えない様に、魔法で目くらましの術をかけました」
淡々とそんな説明をされたシェリルは、何回か目を瞬かせてから感心した様に呟いた。
「はぁ、なるほど……。あの、ジェリドさんは軍人さんですよね?」
「そうです。それが何か?」
「それにしては、魔法を使うのが、お上手ですね」
「元々、この国の上流階級には魔力が強い人間が多くて、私も幼少期に魔術師としての基本的な教育を受けているんです」
「あ、そういえば王妃様から、上流階級ほど魔力の潜在能力が高い人間が出やすいって聞きました」
「そうなんです。ですが幼少期、そちらの力量は精々中の上だったので。加えて元々武芸の方に興味があったものですから、ある程度の年になったら武芸の修練だけしていたのですが、姫に出会った後、あの最後の防御壁にやる気を引き出されて、再び魔術師としての修行もする様になったら結構上達して、王宮専属魔術師の末席レベル位には達してしまいました。これもある意味、姫のおかげです」
「……そうですか」
(ジェリドさんも、ある意味相当変わってるかも……)
晴れやかな笑顔で告げられた内容に、シェリルは相槌を打ちながらも結構失礼な事を考えた。そして続けて口にした疑問に、ジェリドの顔が僅かに引き攣る。
「ジェリドさんは、将軍さんですよね? 二十代に見えますけど、ひょっとしてそれは魔術で若く見せていて、実は三十代とか四十代なんですか?」
心底不思議そうに見上げられたジェリドは一瞬固まってから、微妙に目線を逸らしつつ答えた。
「いえ、正真正銘二十六歳です。今度父に会った時にでも、私の年齢を尋ねてみて下さい」
「…………すみません。馬鹿な事を聞きました」
そこで本気で項垂れてしまったシェリルの気持ちを他へ向けるべく、ジェリドが別の話題を探して彼女に振った。
「父と言えば……、ドレス以外の夜会の準備は順調ですか? 父から貴族名鑑の抜粋が、姫に渡った筈ですが」
その問いかけに、シェリルも気を取り直して答える。
「はい、今、頭に叩き込んでいます。エリーや王妃様にも問題を出して貰ったり、補足説明をして頂いて、手伝って貰っていますし」
「そうですか。でも無理しないで下さい。今度の夜会の主旨は、姫のお顔を皆に見て貰う事ですから。しかめっ面や不安な顔をしていたら、台無しですからね」
「王妃様達にも言われました。『今回は何があってもにこやかにしているのが、あなたの最大のお仕事ですからね』って」
「その通りですね」
「でも……、ただニコニコしているのが、王女の仕事なんでしょうか?」
「王女の仕事、ですか?」
急に顔付きを改めて問い掛けてきたシェリルに、ジェリドは正直戸惑った。そんな彼に、シェリルが引き続き疑問をぶつける。
「ジェリドさんは才能豊かで軍人としても魔術師としても、力量は十分みたいじゃないですか。エリーも王宮に来たばかりですけど、もう王宮専属魔術師としてしっかりお仕事を任せられているみたいで。私は取り敢えず一般教養を身に付けるのが先だとは分かっていますけど、それをマスターしたら何をするのかなと思いまして。一応魔術師としての才能は調べて貰いましたが、殆ど無かったんですし」
「なるほど……、王妃様やミリア様を見ていたら、笑っておられるのが王族のお仕事だと思いましたか?」
「あの、そんな風に言ったら、失礼では無いんですか?」
恐る恐る尋ねてみたシェリルに、ジェリドが真顔で断言する。
「そうですね。大変失礼ですね。下手すると不敬罪で国外追放です」
「うぅぅ嘘っ!?」
「ええ、冗談ですから、落ち着いて下さい」
「酷いです……、ジェリドさん」
クスクスと笑うジェリドを恨みがましくシェリルが見上げていると、彼は苦笑いをしながら実情を説明し始めた。
「確かに王妃様は、政治向きな事からは一線を画しておりますが、王宮内の人事、催事、直轄領の運営等には、存分に手腕を発揮していらっしゃいますよ?」
「そうなんですか……」
「しかもそれを、表立って分かるようにはしていらっしゃらない。そこが王妃様の一番凄い所です。姫にもそのうち理解できると思いますが」
「王妃様が非凡な方だと言うのは、良く分かってます」
素直に彼女が頷いたのを見て、ジェリドは話を続けた。
「それから、ミリア姫は……、何と言ってもまだ成人前ですから。姫と同様教養を身に付けるのが優先の筈ですが、確か孤児院や施薬院への視察と寄付行為はされている筈です。レイナ様の名代という形を取ってはおられますが」
「ミリア様も、ちゃんとお仕事をしてるんですか……」
自分より年下の彼女でもきちんとした仕事を持っているらしいと分かって、シェリルは若干落ち込んだ。するとジェリドがすかさず突っ込んでくる。
「確かミリア殿下に『自分に様付けの呼称は止めろ』とか言われていたのでは?」
「う……、これも内密にお願いします。猫だとどうしても気が弛んで」
「分かりました。しかし……、そうですか。ちゃんとしたお仕事がしたいんですか。そういう考え方ができる姫は、立派だと思いますよ?」
真面目な顔で頷いて貰った為、シェリルはちょっと嬉しくなって言い募った。
「はい。今は笑顔でいるのが仕事って言われても、仕方がないと思います。でもきちんと勉強して、ずっと人の姿で暮らす事に違和感を持たなくなったら、一人前に働きたいんです。でも私にもできるお仕事って、有るでしょうか?」
そこまで言って心配そうに軽く首を傾げたシェリルに、ジェリドが自信有り気に頷く。
「それは有るでしょう。心配しなくて良いですよ?」
「本当ですか?」
「ええ。夜会が済んで落ち着いたら、機会を見て王妃様にお願いしてみてはどうですか? きっと姫にもできるお仕事を、差配して下さる筈ですから」
「ありがとうございます。そう言って頂けて安心しました」
「お礼を言って頂くには及びません。姫の気鬱を少しでも晴らせたのなら、望外の喜びです」
瞳を輝かせて反応したシェリルを愛おしげに見下ろしながらジェリドは請け負い、そこで夕食の時間が近づいた事に気付いたシェリルは、彼に自室の近くまで送って貰って、約束の刻限までに部屋に辿り着いた。
そして戻って来たエリーシアと、人の姿になったシェリルがテーブルを囲んで夕食を食べ始めたが、シェリルは早速話題にその事を出した。
「……そんな風に、ジェリドさんに言って貰ったの!」
「へえぇぇ~、そうなんだぁ~。まあ、確かに人には向き不向きがあるけど、王妃様は人を見る目が有りそうだから、慣れてきたらちゃんと王妃様が考えてくれるわよ」
「そうだよね! うん、頑張ろうっと」
そう言って機嫌良く食べ進める義妹を眺めながら、エリーは(ここの所、そんな事で悩んでたのね)と納得し、更に(あの将軍様、『私の所に永久就職とかはどうですか?』とかあからさまには言わないかもしれないけど、王妃様に手を回して、近衛軍の執務棟関係の仕事をシェリルに持ってくるかもしれないわね。全く油断がならないったら)と物凄く勘ぐった考えを巡らせていた。
続けて神妙に詫びを入れてきたジェリドに、シェリルが慌てて首を振る。
「いえ、寝るつもりは無かったのに、考え事をしているうちに眠ってしまっていた様です。下手をすると夕食の時間を過ぎてもそのままだった可能性もありましたから、助かりました」
「それなら良かった。ですが……、そんな所で考え事ですか?」
「はい、人間って色々面倒だなぁって……、あ、いえ、その……」
(こんな事が宰相様の耳に入ったら、『いかにも猫らしい発言はお控え下さい』って怒られるかも!)
不思議そうに尋ねてきた相手に、シェリルが思わず正直に答えてしまって一人で焦っていると、彼女の心情を正確に読み取ったらしいジェリドは、笑いを堪える様な表情になりながら理由を尋ねてきた。
「父には内緒にしておきます。それで、今日何かありましたか?」
「それが……、以前寸法を測って作って貰ったドレスや、それに合わせた宝飾品が仕上がってきたのですが、どれを今度の夜会で着るかで大論争になってしまいまして」
しみじみとそんな事を口にしたシェリルに、ジェリドが怪訝な顔を見せる。
「大論争……、姫とエリーシア殿の間でですか?」
「いえ、王妃様とレイナ様とその他大勢の侍女さん達の意見が飛び交いまして。十着を何度も着直す羽目に……。しまいにはエリーが切れかけて、抑えるのが大変でした」
「それはお疲れ様でした」
口ではそう労いながらも、心底うんざりとしたシェリルの様子がおかしかったのか、ジェリドは口元を押さえて微かに肩を震わせた。それを目の当たりにしたシェリルが、盛大に拗ねる。
「ジェリド様……、絶対笑ってますよね?」
「すみません、つい……。お暇なら、気分転換に、少しお話しませんか?」
「はい、構いません。今降りますね」
「それでは人目もありますし、あちらに移動しましょう」
夕方になってそれなりに涼しくなってきた為、木の上ではちょっと寒く感じる頃合いであり、シェリルはその提案に賛同した。そしてすぐさま枝から飛び降り、一回転して音も無く地面に降り立つ。それを見たジェリドは思わず拍手しそうになったが、すぐ我に返ってシェリルを庭園の一角にある石造りの東屋に誘導し、シェリルが石造りのベンチに飛び乗ってそこに収まると、ジェリドが周囲を見渡してから軽く右手を動かし、簡潔に呪文の詠唱を始めた。
「ガルース・フェイシス・マイディン・ユーザル……」
それを興味深そうに見守っていたシェリルだったが、周囲を見渡しても何も異常は認められなかった為、満足そうに振り返ったジェリドに尋ねてみた。
「さあ、これで良し」
「あの……、今、何をなさったんですか?」
「猫の姿の姫は、王宮の大多数の人間には姫とエリーシア殿の飼い猫という事になっていますので、猫相手に真面目に話し込んでいるのを見られたら、怪しまれるか頭がおかしいと思われます。なので周囲から私達の姿が見えない様に、魔法で目くらましの術をかけました」
淡々とそんな説明をされたシェリルは、何回か目を瞬かせてから感心した様に呟いた。
「はぁ、なるほど……。あの、ジェリドさんは軍人さんですよね?」
「そうです。それが何か?」
「それにしては、魔法を使うのが、お上手ですね」
「元々、この国の上流階級には魔力が強い人間が多くて、私も幼少期に魔術師としての基本的な教育を受けているんです」
「あ、そういえば王妃様から、上流階級ほど魔力の潜在能力が高い人間が出やすいって聞きました」
「そうなんです。ですが幼少期、そちらの力量は精々中の上だったので。加えて元々武芸の方に興味があったものですから、ある程度の年になったら武芸の修練だけしていたのですが、姫に出会った後、あの最後の防御壁にやる気を引き出されて、再び魔術師としての修行もする様になったら結構上達して、王宮専属魔術師の末席レベル位には達してしまいました。これもある意味、姫のおかげです」
「……そうですか」
(ジェリドさんも、ある意味相当変わってるかも……)
晴れやかな笑顔で告げられた内容に、シェリルは相槌を打ちながらも結構失礼な事を考えた。そして続けて口にした疑問に、ジェリドの顔が僅かに引き攣る。
「ジェリドさんは、将軍さんですよね? 二十代に見えますけど、ひょっとしてそれは魔術で若く見せていて、実は三十代とか四十代なんですか?」
心底不思議そうに見上げられたジェリドは一瞬固まってから、微妙に目線を逸らしつつ答えた。
「いえ、正真正銘二十六歳です。今度父に会った時にでも、私の年齢を尋ねてみて下さい」
「…………すみません。馬鹿な事を聞きました」
そこで本気で項垂れてしまったシェリルの気持ちを他へ向けるべく、ジェリドが別の話題を探して彼女に振った。
「父と言えば……、ドレス以外の夜会の準備は順調ですか? 父から貴族名鑑の抜粋が、姫に渡った筈ですが」
その問いかけに、シェリルも気を取り直して答える。
「はい、今、頭に叩き込んでいます。エリーや王妃様にも問題を出して貰ったり、補足説明をして頂いて、手伝って貰っていますし」
「そうですか。でも無理しないで下さい。今度の夜会の主旨は、姫のお顔を皆に見て貰う事ですから。しかめっ面や不安な顔をしていたら、台無しですからね」
「王妃様達にも言われました。『今回は何があってもにこやかにしているのが、あなたの最大のお仕事ですからね』って」
「その通りですね」
「でも……、ただニコニコしているのが、王女の仕事なんでしょうか?」
「王女の仕事、ですか?」
急に顔付きを改めて問い掛けてきたシェリルに、ジェリドは正直戸惑った。そんな彼に、シェリルが引き続き疑問をぶつける。
「ジェリドさんは才能豊かで軍人としても魔術師としても、力量は十分みたいじゃないですか。エリーも王宮に来たばかりですけど、もう王宮専属魔術師としてしっかりお仕事を任せられているみたいで。私は取り敢えず一般教養を身に付けるのが先だとは分かっていますけど、それをマスターしたら何をするのかなと思いまして。一応魔術師としての才能は調べて貰いましたが、殆ど無かったんですし」
「なるほど……、王妃様やミリア様を見ていたら、笑っておられるのが王族のお仕事だと思いましたか?」
「あの、そんな風に言ったら、失礼では無いんですか?」
恐る恐る尋ねてみたシェリルに、ジェリドが真顔で断言する。
「そうですね。大変失礼ですね。下手すると不敬罪で国外追放です」
「うぅぅ嘘っ!?」
「ええ、冗談ですから、落ち着いて下さい」
「酷いです……、ジェリドさん」
クスクスと笑うジェリドを恨みがましくシェリルが見上げていると、彼は苦笑いをしながら実情を説明し始めた。
「確かに王妃様は、政治向きな事からは一線を画しておりますが、王宮内の人事、催事、直轄領の運営等には、存分に手腕を発揮していらっしゃいますよ?」
「そうなんですか……」
「しかもそれを、表立って分かるようにはしていらっしゃらない。そこが王妃様の一番凄い所です。姫にもそのうち理解できると思いますが」
「王妃様が非凡な方だと言うのは、良く分かってます」
素直に彼女が頷いたのを見て、ジェリドは話を続けた。
「それから、ミリア姫は……、何と言ってもまだ成人前ですから。姫と同様教養を身に付けるのが優先の筈ですが、確か孤児院や施薬院への視察と寄付行為はされている筈です。レイナ様の名代という形を取ってはおられますが」
「ミリア様も、ちゃんとお仕事をしてるんですか……」
自分より年下の彼女でもきちんとした仕事を持っているらしいと分かって、シェリルは若干落ち込んだ。するとジェリドがすかさず突っ込んでくる。
「確かミリア殿下に『自分に様付けの呼称は止めろ』とか言われていたのでは?」
「う……、これも内密にお願いします。猫だとどうしても気が弛んで」
「分かりました。しかし……、そうですか。ちゃんとしたお仕事がしたいんですか。そういう考え方ができる姫は、立派だと思いますよ?」
真面目な顔で頷いて貰った為、シェリルはちょっと嬉しくなって言い募った。
「はい。今は笑顔でいるのが仕事って言われても、仕方がないと思います。でもきちんと勉強して、ずっと人の姿で暮らす事に違和感を持たなくなったら、一人前に働きたいんです。でも私にもできるお仕事って、有るでしょうか?」
そこまで言って心配そうに軽く首を傾げたシェリルに、ジェリドが自信有り気に頷く。
「それは有るでしょう。心配しなくて良いですよ?」
「本当ですか?」
「ええ。夜会が済んで落ち着いたら、機会を見て王妃様にお願いしてみてはどうですか? きっと姫にもできるお仕事を、差配して下さる筈ですから」
「ありがとうございます。そう言って頂けて安心しました」
「お礼を言って頂くには及びません。姫の気鬱を少しでも晴らせたのなら、望外の喜びです」
瞳を輝かせて反応したシェリルを愛おしげに見下ろしながらジェリドは請け負い、そこで夕食の時間が近づいた事に気付いたシェリルは、彼に自室の近くまで送って貰って、約束の刻限までに部屋に辿り着いた。
そして戻って来たエリーシアと、人の姿になったシェリルがテーブルを囲んで夕食を食べ始めたが、シェリルは早速話題にその事を出した。
「……そんな風に、ジェリドさんに言って貰ったの!」
「へえぇぇ~、そうなんだぁ~。まあ、確かに人には向き不向きがあるけど、王妃様は人を見る目が有りそうだから、慣れてきたらちゃんと王妃様が考えてくれるわよ」
「そうだよね! うん、頑張ろうっと」
そう言って機嫌良く食べ進める義妹を眺めながら、エリーは(ここの所、そんな事で悩んでたのね)と納得し、更に(あの将軍様、『私の所に永久就職とかはどうですか?』とかあからさまには言わないかもしれないけど、王妃様に手を回して、近衛軍の執務棟関係の仕事をシェリルに持ってくるかもしれないわね。全く油断がならないったら)と物凄く勘ぐった考えを巡らせていた。
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