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第4章 何事も程々に
5.高レベルな要求
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「いきなり、なんて高レベルな要求を……」
今回の騒動でジーレスと身近で接してみて、以前から分かっていた王宮専属魔術師としても十分務まるその力量に加え、一癖も二癖もある者達を見事に纏める統率力、猫に姿を変えていた自分を当初から看破していた観察眼など、改めて格の違いを認識させられたばかりだった為、サイラスは絶望感と徒労感に打ちひしがれた。しかしそんな彼に、ソフィアが淡々と追い討ちをかけてくる。
「できるの? できないの? 二択なんだからさっさと答えなさい。答えないのなら、できないとみなすわよ?」
そこでサイラスは勢い良く顔を上げて叫んだ。
「越える! 現時点では無理だが、いつかは絶句越えてやるからな! と言うか、経験値が違い過ぎるから、今すぐに越えてみせろって言うのは無しだぞ!? 頼むから!」
そんな切実な訴えをしてきたサイラスに、ソフィアは思わず小さく吹き出す。
「それ位、大目に見てあげるわよ」
「それは良かった。……それと、もう一つだけ頼みがあるんだが」
「何?」
そこで神妙に切り出されてソフィアが首を傾げると、サイラスは再度真剣な表情になって言い出した。
「例の……、ソフィアが胴元になってる、誰がエリーシアを落とすかっていう、王宮内で流行ってる賭。俺を候補から外してくれ。頼む」
それを聞いたソフィアは、実に残念そうな顔付きになる。
「あら……、サイラスは結構人気があったのに……」
どう見ても本気で言っているとしか思えない口振りに、サイラスの口調に泣きが入りかけた。
「本当に勘弁してくれ! どうして惚れてる女が胴元になっている、他の女を落とす賭けの対象にならなくちゃいけないんだ?」
その切実な訴えに、ソフィアは軽く肩を竦めて了承した。
「分かったわよ。『諸事情で今後は賭けの対象にはなりません』と賭けていた人に断りを入れて、掛け金は全額返すわ」
「良かった……」
心底安堵した様にサイラスが俯いて溜め息を吐いたところで、ソフィアがからかうように言い出した。
「ところで、サイラス? 何か忘れていない?」
「忘れてる……って、何を?」
当惑したサイラスに、ソフィアは尚も確認を入れる。
「私は『私の事を好きでしょう?』とは言ったけど、それ以上余計な事は、一言も言って無いんだけど? そっちの立場もあるでしょうし」
「…………」
そこできちんと先程からのやり取りを思い返したサイラスは、がっくりと項垂れた。
「……気を遣って貰ってどうも」
「どういたしまして」
そこで顔を上げたサイラスは、すまして応じたソフィアに向かって、怖い位真剣な表情で申し出た。
「年上だろうが、面倒くさかろうが、裏表がある仕事を持っていようが、借金返済に血道を上げていようが、それでも俺はお前の事が好きなんだ。俺と付き合ってくれ」
「そこまで言われて『嫌よ』の一言で済ませたら、私って相当の人でなしよね」
自分の台詞を聞いてくすくすと笑ったソフィアに、サイラスは幾分気分を害した様に言い返した。
「こら、人には言わせておいて、自分は言わないでごまかすつもりじゃないだろうな?」
「あら、そんな事無いわよ? 付き合ってあげる。だけど本当に物好きよね。私なんかに纏わりついてたら、有り金を全部むしり取られるわよ?」
相変わらず楽しそうな笑顔のソフィアに、もう完全に腹を括ったサイラスが、苦笑いで応じた。
「自慢じゃないが、そこそこ高給取りの上独身寮暮らしで、年の割に結構金をため込んでるんだ。それに無一文になっても、また稼げば良いさ」
「あら、思った以上に太っ腹。むしり取り甲斐があると言うものだわ」
そこで人の悪い笑みを浮かべた彼女に、サイラスが若干の不安を覚える。
「……やっぱりちょっと不安になってきた。むしり取っても良いが、程々にしてくれ」
「何よ、意気地なしね」
そう言って楽しげに笑い出したソフィアにサイラスも釣られて笑い出し、それからは純粋に料理と酒を堪能して、二人は連れ立って王宮の宿舎に戻って行った。
今回の騒動でジーレスと身近で接してみて、以前から分かっていた王宮専属魔術師としても十分務まるその力量に加え、一癖も二癖もある者達を見事に纏める統率力、猫に姿を変えていた自分を当初から看破していた観察眼など、改めて格の違いを認識させられたばかりだった為、サイラスは絶望感と徒労感に打ちひしがれた。しかしそんな彼に、ソフィアが淡々と追い討ちをかけてくる。
「できるの? できないの? 二択なんだからさっさと答えなさい。答えないのなら、できないとみなすわよ?」
そこでサイラスは勢い良く顔を上げて叫んだ。
「越える! 現時点では無理だが、いつかは絶句越えてやるからな! と言うか、経験値が違い過ぎるから、今すぐに越えてみせろって言うのは無しだぞ!? 頼むから!」
そんな切実な訴えをしてきたサイラスに、ソフィアは思わず小さく吹き出す。
「それ位、大目に見てあげるわよ」
「それは良かった。……それと、もう一つだけ頼みがあるんだが」
「何?」
そこで神妙に切り出されてソフィアが首を傾げると、サイラスは再度真剣な表情になって言い出した。
「例の……、ソフィアが胴元になってる、誰がエリーシアを落とすかっていう、王宮内で流行ってる賭。俺を候補から外してくれ。頼む」
それを聞いたソフィアは、実に残念そうな顔付きになる。
「あら……、サイラスは結構人気があったのに……」
どう見ても本気で言っているとしか思えない口振りに、サイラスの口調に泣きが入りかけた。
「本当に勘弁してくれ! どうして惚れてる女が胴元になっている、他の女を落とす賭けの対象にならなくちゃいけないんだ?」
その切実な訴えに、ソフィアは軽く肩を竦めて了承した。
「分かったわよ。『諸事情で今後は賭けの対象にはなりません』と賭けていた人に断りを入れて、掛け金は全額返すわ」
「良かった……」
心底安堵した様にサイラスが俯いて溜め息を吐いたところで、ソフィアがからかうように言い出した。
「ところで、サイラス? 何か忘れていない?」
「忘れてる……って、何を?」
当惑したサイラスに、ソフィアは尚も確認を入れる。
「私は『私の事を好きでしょう?』とは言ったけど、それ以上余計な事は、一言も言って無いんだけど? そっちの立場もあるでしょうし」
「…………」
そこできちんと先程からのやり取りを思い返したサイラスは、がっくりと項垂れた。
「……気を遣って貰ってどうも」
「どういたしまして」
そこで顔を上げたサイラスは、すまして応じたソフィアに向かって、怖い位真剣な表情で申し出た。
「年上だろうが、面倒くさかろうが、裏表がある仕事を持っていようが、借金返済に血道を上げていようが、それでも俺はお前の事が好きなんだ。俺と付き合ってくれ」
「そこまで言われて『嫌よ』の一言で済ませたら、私って相当の人でなしよね」
自分の台詞を聞いてくすくすと笑ったソフィアに、サイラスは幾分気分を害した様に言い返した。
「こら、人には言わせておいて、自分は言わないでごまかすつもりじゃないだろうな?」
「あら、そんな事無いわよ? 付き合ってあげる。だけど本当に物好きよね。私なんかに纏わりついてたら、有り金を全部むしり取られるわよ?」
相変わらず楽しそうな笑顔のソフィアに、もう完全に腹を括ったサイラスが、苦笑いで応じた。
「自慢じゃないが、そこそこ高給取りの上独身寮暮らしで、年の割に結構金をため込んでるんだ。それに無一文になっても、また稼げば良いさ」
「あら、思った以上に太っ腹。むしり取り甲斐があると言うものだわ」
そこで人の悪い笑みを浮かべた彼女に、サイラスが若干の不安を覚える。
「……やっぱりちょっと不安になってきた。むしり取っても良いが、程々にしてくれ」
「何よ、意気地なしね」
そう言って楽しげに笑い出したソフィアにサイラスも釣られて笑い出し、それからは純粋に料理と酒を堪能して、二人は連れ立って王宮の宿舎に戻って行った。
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