有能侍女、暗躍す

篠原 皐月

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第3章 起死回生一発逆転

12.挙式直前

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「……ジェリド」
「どうかしたのか? シェリル」
「面の皮が厚い人間の見本って、あんな感じ?」
 その問いかけに、ジェリドは冷笑しながら答えた。

「加えて、小者が服を着て歩いて喋っている見本だな」
 それを聞いたシェリルは、椅子の背もたれに身体を預けながら、独り言の様に呟いた。

「そう……。この式が終わった時、あの人達がどんな顔をしているか見ものね。あ、最後の最後は見られなかったんだわ……」
 そこでこれからの予定を思い出したシェリルが、如何にも残念そうな顔になった為、ジェリドがある事を提案をした。

「それならサイラスに、その一部始終を録画しておいて貰おう。彼は今日は一日、この周囲を駆けずり回っている筈だから」
 それを聞いたシェリルは、嬉々として応じた。

「あ、そうね! お願いしてくれる? 今からでも大丈夫かしら?」
「勿論、君の望みとあらば、どうとでもさせよう」
 そして満面の笑顔で請け負ったジェリドは、早速携帯用の魔導鏡を取り出して、サイラスを呼び出した。

「……という訳だ。漏れなく最後までしっかり撮っておけよ? 万が一、彼女を失望させたら、棺桶に片足を突っ込む羽目になると思え」
 文字通り駆けずり回っている所に、問答無用で余計な仕事を言い付けられたサイラスは、さすがに顔を引き攣らせた。

「どれだけ俺を働かせる気ですか? あんただって相当魔術は使えるんだから、自分でできるだろうが」
「生憎と、ここで記録媒体が確保できない。シェリルの側を離れる訳にはいかないからな。お前のオーバーワークなんて知った事か。ちゃんとやれよ、分かったな?」
「あ、おい!」
 そして一方的に通信を切られて腹を立てたものの、無視すると後が怖すぎる為、サイラスは「ったく、あの鬼畜野郎!!」と愚痴を零しつつも、祭壇の間の記録映像を撮るべく、準備を始めた。

 その一方で、新郎側の控え室では、ステイド子爵の次女であるネリアが夫と共にやって来て、久々に一家が顔を揃えていた。

「お久しぶりです、お義父さん、お義母さん」
「やあ、ケネル君、久しぶり」
「本当に、こんな茶番に付き合って貰うなんて、申し訳ないわ」
「いえいえ、私もルーバンス公爵家一党の傍若無人な振る舞いには、常日頃思う所が有りましたから。今回のこのお話、喜んで協力させて頂きます」
 夫が義理の両親と礼儀正しく挨拶をしている横で、ネリアが笑顔で姉と弟に声をかけた。

「姉さん、イーダリス、今回は本当に災難だったわね。でもあの話を聞いて呆れたわ。絶対、脚本を書いたのは姉さんでしょう? イーダは常識人だものね」
 それを聞いたソフィアは、苦笑いしかできなかった。

「姉に向かって酷い言いぐさね。否定はできないけど」
「しかしお義兄さんまで巻き込む事になってしまって、誠に申し訳ありません」
 イーダリスが神妙に、姉の夫であるケネルに頭を下げると、ケネルは笑って手を振った。

「気にしなくて良いよ。今回は存分に楽しませて貰うつもりで来たしね」
「この人ったら話を聞いてから、毎晩想定される会話を口にしながら、鏡の前で色々なポーズを取って練習していたのよ? 笑っちゃうでしょう?」
 横からネリアが口を挟むと、これまでは義兄弟に対しては謹厳実直なイメージしか無かった為、ソフィア達は困惑した顔付きになった。

「……意外です」
「結構、楽しい方だったんですね」
「こら、ネリア。そんな事を暴露するな」
 そんなケネルの笑いながら窘める声で、室内は一斉に笑い声に包まれ、ソフィアは暫し現状を忘れて楽しい時間を過ごした。しかしすぐに神殿の係官がやってきて、現実に引き戻される。

「失礼します。そろそろお時間になりますので、皆様準備をお願いします」
「分かりました。それでは私達は祭壇の間に移動するか」
「そうですね」
 そして両親の後について歩き出したソフィアは、(さあ、いよいよ本番だわ)と気合いを入れ直し、計画の遂行と成功を自分自身に誓った。

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