有能侍女、暗躍す

篠原 皐月

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第3章 起死回生一発逆転

4.作戦開始

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 そして夜になると、ソフィアとジーレス、オイゲンが全員黒装束で居間に集まり、大きなテーブルにルーバンス公爵邸の見取り図を広げて、これからの行動の最終確認を行った。

「姉さん、本当に行く気か?」
 三人で一通り確認を終えて見取り図を巻き終えた所で、イーダリスが如何にも不本意そうな顔で声をかけてきた為、ソフィアは呆れ気味に言い返した。

「今更、何を言ってるのよ?」
「しかし……、これは俺の問題だし、せめて彼女に説明するのは、自分の役目の筈だと思うし……」
「この期に及んで、何をゴチャゴチャ言ってるのよ。あんたにはあそこにこっそり忍び込むなんて芸当は無理だし、堂々と乗り込んだら、計画の話なんかできないでしょうが? だけど見ず知らずの人間が、こんなとんでもない話を持ち込んでも、ルセリア嬢が納得して素直に頷くとは思えないし。だから忍び込む技量があって、彼女と面識がある私が出向くしか無いの。いい加減、割り切りなさい」
 ピシャリと言い切られて、イーダリスはそれ以上反論できずに頷く。

「分かった……。宜しく頼むよ」
 そこで申し訳無さそうに頭を下げた弟を励ますつもりで、ソフィアは半ばからかい気味に告げた。

「任せなさい! でも言っておくけど、彼女がこちらに来たら、改めて自分で口説くのよ? あまり恥ずかしい台詞まで、代弁するつもりは無いんだからね」
「あ、あのなぁっ!!」
 瞬時に真っ赤になった弟に笑いかけながら、ソフィアは手を振った。

「じゃあ、行って来ます」
 それで我に返ったらしいイーダリスは、慌てて姉に同行する二人に頭を下げた。

「ジーレス殿、オイゲン殿、お手数をおかけして申し訳ありません。姉の事を宜しくお願いします」
「心得ました。いざという時はフォローしますから、安心して下さい」
「今夜はあくまで秘密裏に事を運ぶつもりなので、荒事に及ぶつもりはありませんからね」
 そして全員で玄関まで移動し、イーダリスやファルドの前で騎乗した三人は、あっという間に門から出て闇の中に消えて行った。

(あのルーバンス公爵邸に忍び込むなんて、かなり難しいぞ? この前に忍び込んだ時も、お抱え魔術師の手によると思われる防御魔術が、幾重にも張り巡らせてあったしな。ジーレス殿が付いて行くなら、そこら辺の心配は無いと思うが……)
 扉の隙間から外に出ていたサイラスは、門を閉めて戻ってくるイーダリスとファルドを見ながら、密かに考え込んだ。

(やっぱり、行って様子を見て来るか)
 最初は大人しく待っているべきだとは思ったものの、やはり色々心配になったサイラスは、イーダリスに見つからない様に植え込みの中に姿を隠し、二人が目の前を通り過ぎて邸内に戻ったのを見届けてから、門へと駆け寄った。更に彼は門の格子の隙間から街路に出て、ルーバンス公爵邸へ向かって軽快に走り出した。
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