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第2章 巻き起こる騒動
16.弟の悲哀
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「そもそも姉さんが王宮に派遣されたのも、シェリル姫様の身の回りのお世話と護衛の他に、あの偽物第一王子の騒ぎで不穏になっていた王宮内の内偵と、公爵からの指示があれば、偽王子を即座に始末する役目を帯びていたわけだし」
「ふぎゃ!?」
(おいおい、ちょっと待て! するとまかり間違ったら、俺は彼女にざっくり殺られていたかもしれないって事か!?)
とんでもない内容を聞かされて、サイラスは思わず叫び声を上げて文字通り飛び上がった。しかしここで、イーダリスが不思議そうな顔付きになる。
「でも聞くところによると、最近姉さんは、当時偽ラウール王子を演じていたサイラスさんとは、最近王宮内で立ち話する程度には仲が良いらしいし。……あれ? そう言えば、お前の名前はサイラスさんから取ったのかな? 姉さんと、どういう関係なんだろう?」
「…………」
そんな事を呟いてイーダリスは真顔で考え込んでしまったが、もう何も言う気力が無かったサイラスは、このままベッドに突っ伏したい気持ちを気合いだけで堪えた。しかしイーダリスは彼以上に色々思うところがあったらしく、深刻な顔付きで誰に言うともなしに、愚痴り続けた。
「だけど、改めて考えると……、もう本当に絶望的だよな。こんな裏事情ありまくりの姉さんなんて、誰が結婚してくれるって言うんだよ……
「にゃ?」
イーダリスの口調が変化して、半ばヤケ気味に呟いた為、サイラスは少し驚いて彼を見やった。
「ネリア姉さんは素直に侍女勤めだけをして、公爵夫妻に可愛がられて真っ当な縁談を仲介して貰って、とっくに結婚して子供もいるっていうのに……。姉さんにも公爵様達が、色々と相手を紹介してくれたのに、『骨になるまで、ファルス公爵家に忠誠を誓います! 結婚なんてしてる暇ありません!』と断言して突っぱねて。もう適齢期云々の話じゃないぞ……」
「にゃぅ……」
がっくりと肩を落とし、ベッドに両手を付いて前傾姿勢になったイーダリスに、サイラスはかける言葉も無かったが、そのうちに彼の声が段々涙声になってきた。
「そ、それもこれもっ……。元はと言えば、父さんと俺が、不甲斐ないせいでっ……、本来何の責任も無い姉さんが、一生独り身にっ……」
そこで声を詰まらせ、ゴシゴシと目を擦ったイーダリスを不憫に思ったサイラスは、優しく声をかけた。
「みゃお~ん」
(本当に家族思いで、苦労性の良い奴だな……。安心しろ。俺がソフィアを貰ってやるから)
サイラスが声を上げながら、イーダリスの左手に自分の前脚を軽く乗せて、トントンと宥める様に軽く何度か叩いてやると、イーダリスは呆気に取られた表情になってから、徐々に両眼から涙を溢れさせた。
「サイラス? お前ひょっとして、俺を慰めてくれいるのか?」
「にゃん!」
力強くサイラスが頷いた途端、イーダリスは滂沱の涙を流しつつ、サイラスを勢い良く引き寄せて、自分の胸で抱き締めた。
「サ、サイラス! 俺は今、もの凄く感動してるぞ!! ありがとう、猫の身で俺の愚痴を黙って聞いてくれたばかりか、慰めてくれて! 何てできた猫なんだ、お前はっ!!」
「むぎゃっ! もがっ! にぎゃぁぁ~っ!!」
(こら、ちょっと待て、離せ! 窒息するっ!!)
じたばた抵抗するも、イーダリスにしっかり抱き締められて殆ど身動きができないサイラスは、本気で酸欠になりかけた。
「俺、頑張るから! 何としてでも、上手く事を運んでみせるぞ!」
「ぶふぁっ!! ふぐっ!」
(分かった! 分かったから! 取り敢えず手を離せっ! ……こうなったらイーダリスには悪いが、力ずくで!)
生命の危険に晒された為、魔術を行使しようと首輪のガラス玉を探って人語を話せる様にしようとした時、ドアをノックする音が響いた。
「坊ちゃま。お休みのところ、申し訳ございません」
その呼びかける声に、イーダリスはサイラスを放してベッドを降りながら言葉を返した。
「どうした? 起きていたから構わないが?」
「ふみゅぅ~」
(た、助かった……。本気で死ぬかと思ったぞ)
やっと人心地付いたサイラスが脱力してベッドに突っ伏していると、イーダリスはドアの向こうに声をかけながら歩み寄り、ドアを開けて老執事のベンサムに尋ねた。すると彼が、困惑も露わにある事を告げてくる。
「それが……、門の所にお客様がお出でです」
「こんな時間に客?」
「魔導信では、ルーバンス公爵家のロイ殿と仰っておいでですが……」
盛大に顔を顰めたイーダリスだったが、事情が分かった途端、苦々しげに溜め息を吐いた。そしてすぐに、ベンサムに指示を出す。
「分かった。後は俺が対応するから、ベンサムは寝直してくれて構わない。ああ、その前に、門の前で馬鹿面晒してる阿呆野郎に、ちょっとだけ待っていろとだけ伝えてくれ」
「はい、夜分でもあり、少々お待ち頂くようにお伝えしておきます。それでは失礼します」
年若い主の乱暴な言葉を全く動じずに受け止め、ベンサムは自分が為すべき事を為すために、その場を後にした。そしてイーダリスは手早く寝間着から普段着に着替えながら、サイラスに尋ねてくる。
「サイラスも来るか? 愚か者の顔と言うのがどんな代物なのか、見せてやるぞ?」
「にゃう、にゃ~ん!」
「よし、決まりだ。付いて来い」
即座に声を上げたサイラスに、イーダリスは皮肉っぽく顔を歪めてから、彼を引き連れて寝室から出て行った。
そして一人と一匹は階段を下りて玄関を抜け、真っ直ぐ門へと向かうと、確かに堅く閉じられた格子状の門の向こうに、昼間見たロイが立っているのを認めた。
「ふぎゃ!?」
(おいおい、ちょっと待て! するとまかり間違ったら、俺は彼女にざっくり殺られていたかもしれないって事か!?)
とんでもない内容を聞かされて、サイラスは思わず叫び声を上げて文字通り飛び上がった。しかしここで、イーダリスが不思議そうな顔付きになる。
「でも聞くところによると、最近姉さんは、当時偽ラウール王子を演じていたサイラスさんとは、最近王宮内で立ち話する程度には仲が良いらしいし。……あれ? そう言えば、お前の名前はサイラスさんから取ったのかな? 姉さんと、どういう関係なんだろう?」
「…………」
そんな事を呟いてイーダリスは真顔で考え込んでしまったが、もう何も言う気力が無かったサイラスは、このままベッドに突っ伏したい気持ちを気合いだけで堪えた。しかしイーダリスは彼以上に色々思うところがあったらしく、深刻な顔付きで誰に言うともなしに、愚痴り続けた。
「だけど、改めて考えると……、もう本当に絶望的だよな。こんな裏事情ありまくりの姉さんなんて、誰が結婚してくれるって言うんだよ……
「にゃ?」
イーダリスの口調が変化して、半ばヤケ気味に呟いた為、サイラスは少し驚いて彼を見やった。
「ネリア姉さんは素直に侍女勤めだけをして、公爵夫妻に可愛がられて真っ当な縁談を仲介して貰って、とっくに結婚して子供もいるっていうのに……。姉さんにも公爵様達が、色々と相手を紹介してくれたのに、『骨になるまで、ファルス公爵家に忠誠を誓います! 結婚なんてしてる暇ありません!』と断言して突っぱねて。もう適齢期云々の話じゃないぞ……」
「にゃぅ……」
がっくりと肩を落とし、ベッドに両手を付いて前傾姿勢になったイーダリスに、サイラスはかける言葉も無かったが、そのうちに彼の声が段々涙声になってきた。
「そ、それもこれもっ……。元はと言えば、父さんと俺が、不甲斐ないせいでっ……、本来何の責任も無い姉さんが、一生独り身にっ……」
そこで声を詰まらせ、ゴシゴシと目を擦ったイーダリスを不憫に思ったサイラスは、優しく声をかけた。
「みゃお~ん」
(本当に家族思いで、苦労性の良い奴だな……。安心しろ。俺がソフィアを貰ってやるから)
サイラスが声を上げながら、イーダリスの左手に自分の前脚を軽く乗せて、トントンと宥める様に軽く何度か叩いてやると、イーダリスは呆気に取られた表情になってから、徐々に両眼から涙を溢れさせた。
「サイラス? お前ひょっとして、俺を慰めてくれいるのか?」
「にゃん!」
力強くサイラスが頷いた途端、イーダリスは滂沱の涙を流しつつ、サイラスを勢い良く引き寄せて、自分の胸で抱き締めた。
「サ、サイラス! 俺は今、もの凄く感動してるぞ!! ありがとう、猫の身で俺の愚痴を黙って聞いてくれたばかりか、慰めてくれて! 何てできた猫なんだ、お前はっ!!」
「むぎゃっ! もがっ! にぎゃぁぁ~っ!!」
(こら、ちょっと待て、離せ! 窒息するっ!!)
じたばた抵抗するも、イーダリスにしっかり抱き締められて殆ど身動きができないサイラスは、本気で酸欠になりかけた。
「俺、頑張るから! 何としてでも、上手く事を運んでみせるぞ!」
「ぶふぁっ!! ふぐっ!」
(分かった! 分かったから! 取り敢えず手を離せっ! ……こうなったらイーダリスには悪いが、力ずくで!)
生命の危険に晒された為、魔術を行使しようと首輪のガラス玉を探って人語を話せる様にしようとした時、ドアをノックする音が響いた。
「坊ちゃま。お休みのところ、申し訳ございません」
その呼びかける声に、イーダリスはサイラスを放してベッドを降りながら言葉を返した。
「どうした? 起きていたから構わないが?」
「ふみゅぅ~」
(た、助かった……。本気で死ぬかと思ったぞ)
やっと人心地付いたサイラスが脱力してベッドに突っ伏していると、イーダリスはドアの向こうに声をかけながら歩み寄り、ドアを開けて老執事のベンサムに尋ねた。すると彼が、困惑も露わにある事を告げてくる。
「それが……、門の所にお客様がお出でです」
「こんな時間に客?」
「魔導信では、ルーバンス公爵家のロイ殿と仰っておいでですが……」
盛大に顔を顰めたイーダリスだったが、事情が分かった途端、苦々しげに溜め息を吐いた。そしてすぐに、ベンサムに指示を出す。
「分かった。後は俺が対応するから、ベンサムは寝直してくれて構わない。ああ、その前に、門の前で馬鹿面晒してる阿呆野郎に、ちょっとだけ待っていろとだけ伝えてくれ」
「はい、夜分でもあり、少々お待ち頂くようにお伝えしておきます。それでは失礼します」
年若い主の乱暴な言葉を全く動じずに受け止め、ベンサムは自分が為すべき事を為すために、その場を後にした。そしてイーダリスは手早く寝間着から普段着に着替えながら、サイラスに尋ねてくる。
「サイラスも来るか? 愚か者の顔と言うのがどんな代物なのか、見せてやるぞ?」
「にゃう、にゃ~ん!」
「よし、決まりだ。付いて来い」
即座に声を上げたサイラスに、イーダリスは皮肉っぽく顔を歪めてから、彼を引き連れて寝室から出て行った。
そして一人と一匹は階段を下りて玄関を抜け、真っ直ぐ門へと向かうと、確かに堅く閉じられた格子状の門の向こうに、昼間見たロイが立っているのを認めた。
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