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第2章 巻き起こる騒動
10.方針決定
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「それで、だな……、姉さん」
「何?」
眼光鋭い姉から若干視線を逸らしつつ、イーダリスは口ごもりながらも、自分の意見を述べた。
「その……、今回、じっくり話ができた、という程の時間でも無いんだが……。彼女と二人きりで忌憚のない会話をしてみて、やっぱり、できれば彼女と結婚したいと……」
しかしそんな精一杯の訴えを、ソフィアは乱暴に切り捨てる。
「あっそう、『できれば』なのね。それならどう考えても不可能って事で、ここは潔く諦め」
「誰が諦めるか!! 姉さんがなんと言おうと、俺はルセリアと結婚するぞ!!」
姉の言葉に顔色を変えたイーダリスは、椅子の肘掛け部を拳で叩きながら、語気強く宣言した。それを見た周囲から、途端に苦笑と冷やかしの声が上がる。
「若いと言うのは、良い事だな」
「おぉう~、随分かっこ良く宣言しちまったな~、若さん」
「ここで前言撤回したら、私達はくそみそに貶してあげる役どころだよね?」
「勢いに任せて言うんじゃなくて、さっさと正直に言いなさいよ。全く!」
「……すみません」
呆れ顔のソフィアに止めを刺されて、イーダリスは羞恥で顔を赤く染め上げた。そこで苦笑いを消して、いち早くいつもの表情になっていたジーレスが、考え込みながら冷静に話を進める。
「そうなると……、今後の話の進め方を、より慎重に考える必要があるだろうな」
その言葉に、室内の者は全員瞬時に真顔になり、弛緩していた室内の空気が、再び張り詰めた。
「頭領の仰る通りですね。元々二人抱き合わせで持ちかけてきた縁談ですし、一方は了承してもう一方は断るってのは、向こうの考えが私達の予想通りなら、問答無用で突っぱねて来る筈ですから」
忌々しげにソフィアが応じると、オイゲンも眉根を寄せる。
「しかも娘の方は貰ってもいいが、嫁に出す気はないなんて言ったら、余計に縁談を持ちかけた意味が無いしな?」
「イーダリス殿、誰か弁の立つ知り合いとか親戚に心当たりは? 本人が結婚を申込みに行くと余計に足元を見られるし、信頼できて容易く言質を取られない人物に断りを入れさせつつ、ルーバンス公爵家側の感触を探って貰いたいものだが」
そのファルドの問いかけに、イーダリスとソフィアは難しい顔になった。
「単なる伝言とかをお願いするなら、いない事も無いですが……」
「そういう難しい、かつ面倒な事を引き受けて貰う事になると……」
手元不如意な為、貴族間の交際も最低限にしているステイド子爵家であり、当然そんな面倒な事を引き受けて貰える人物に心当たりは無かった。ジーレスもそこの所はとっくに把握済みの為、次善策を迷わず口にする。
「それじゃあ、ファルド。明日辺り、お前が公爵家に出向いてくれないか? 特に予定は無かっただろう?」
「勿論構いませんよ? じゃあ、行って来ます。王都滞在中に、何か公爵家の表向きの用事でも頼まれるかもと思って、一応従者用のお仕着せも持参してきましたのでね」
ジーレスからの要請にファルドは平然と頷いたが、それを聞いたソフィア達は狼狽した。
「そんな! ファルド殿に、更にご迷惑をかけるなんて!」
「先生には無関係の話ですし! それ位私達で何とかしますから!」
しかし固辞するステイド家の姉弟に向かって、結構長い付き合いである彼は、明るく笑いながら言い聞かせた。
「俺にとって、無関係な話じゃないさ。可愛い弟子の縁談とあればね。しかも相手が、ちょっと話を聞いただけでも相当いけ好かない奴ときている。ここは全力で、ちょっかいを出さないと駄目だろう」
そこで二人は顔を見合わせて逡巡したものの、結局他に適当な選択肢が無かった為、彼に向かって揃って頭を下げた。
「すみません」
「宜しくお願いします」
「ああ、任せてくれ。とは言っても、あっさり事が運ぶとは思わないけどね。結果の方はあまり期待しないでくれ」
「勿論です!」
ソフィアが力強く頷いた後は、面倒な問題を忘れるべく皆で世間話で盛り上がっているのを見上げながら、サイラスは安堵の溜め息を吐いた。
(やっぱり彼女の縁談は、断る流れになってはいるが、弟の方は受ける事になったか……。確かに面倒になったな。暫くこのまま腰を据えて、事態がどう転ぶか見極めないと。無理を言って、長期休暇を取って来ておいて良かった。……復帰した後が怖いがな)
休暇明けの惨状を想像して一瞬本気で背筋が寒くなったサイラスだったが、ここで引き上げる気は毛頭なく、この問題にケリが付くまでこの屋敷に居座る事を、改めて決意した。
「何?」
眼光鋭い姉から若干視線を逸らしつつ、イーダリスは口ごもりながらも、自分の意見を述べた。
「その……、今回、じっくり話ができた、という程の時間でも無いんだが……。彼女と二人きりで忌憚のない会話をしてみて、やっぱり、できれば彼女と結婚したいと……」
しかしそんな精一杯の訴えを、ソフィアは乱暴に切り捨てる。
「あっそう、『できれば』なのね。それならどう考えても不可能って事で、ここは潔く諦め」
「誰が諦めるか!! 姉さんがなんと言おうと、俺はルセリアと結婚するぞ!!」
姉の言葉に顔色を変えたイーダリスは、椅子の肘掛け部を拳で叩きながら、語気強く宣言した。それを見た周囲から、途端に苦笑と冷やかしの声が上がる。
「若いと言うのは、良い事だな」
「おぉう~、随分かっこ良く宣言しちまったな~、若さん」
「ここで前言撤回したら、私達はくそみそに貶してあげる役どころだよね?」
「勢いに任せて言うんじゃなくて、さっさと正直に言いなさいよ。全く!」
「……すみません」
呆れ顔のソフィアに止めを刺されて、イーダリスは羞恥で顔を赤く染め上げた。そこで苦笑いを消して、いち早くいつもの表情になっていたジーレスが、考え込みながら冷静に話を進める。
「そうなると……、今後の話の進め方を、より慎重に考える必要があるだろうな」
その言葉に、室内の者は全員瞬時に真顔になり、弛緩していた室内の空気が、再び張り詰めた。
「頭領の仰る通りですね。元々二人抱き合わせで持ちかけてきた縁談ですし、一方は了承してもう一方は断るってのは、向こうの考えが私達の予想通りなら、問答無用で突っぱねて来る筈ですから」
忌々しげにソフィアが応じると、オイゲンも眉根を寄せる。
「しかも娘の方は貰ってもいいが、嫁に出す気はないなんて言ったら、余計に縁談を持ちかけた意味が無いしな?」
「イーダリス殿、誰か弁の立つ知り合いとか親戚に心当たりは? 本人が結婚を申込みに行くと余計に足元を見られるし、信頼できて容易く言質を取られない人物に断りを入れさせつつ、ルーバンス公爵家側の感触を探って貰いたいものだが」
そのファルドの問いかけに、イーダリスとソフィアは難しい顔になった。
「単なる伝言とかをお願いするなら、いない事も無いですが……」
「そういう難しい、かつ面倒な事を引き受けて貰う事になると……」
手元不如意な為、貴族間の交際も最低限にしているステイド子爵家であり、当然そんな面倒な事を引き受けて貰える人物に心当たりは無かった。ジーレスもそこの所はとっくに把握済みの為、次善策を迷わず口にする。
「それじゃあ、ファルド。明日辺り、お前が公爵家に出向いてくれないか? 特に予定は無かっただろう?」
「勿論構いませんよ? じゃあ、行って来ます。王都滞在中に、何か公爵家の表向きの用事でも頼まれるかもと思って、一応従者用のお仕着せも持参してきましたのでね」
ジーレスからの要請にファルドは平然と頷いたが、それを聞いたソフィア達は狼狽した。
「そんな! ファルド殿に、更にご迷惑をかけるなんて!」
「先生には無関係の話ですし! それ位私達で何とかしますから!」
しかし固辞するステイド家の姉弟に向かって、結構長い付き合いである彼は、明るく笑いながら言い聞かせた。
「俺にとって、無関係な話じゃないさ。可愛い弟子の縁談とあればね。しかも相手が、ちょっと話を聞いただけでも相当いけ好かない奴ときている。ここは全力で、ちょっかいを出さないと駄目だろう」
そこで二人は顔を見合わせて逡巡したものの、結局他に適当な選択肢が無かった為、彼に向かって揃って頭を下げた。
「すみません」
「宜しくお願いします」
「ああ、任せてくれ。とは言っても、あっさり事が運ぶとは思わないけどね。結果の方はあまり期待しないでくれ」
「勿論です!」
ソフィアが力強く頷いた後は、面倒な問題を忘れるべく皆で世間話で盛り上がっているのを見上げながら、サイラスは安堵の溜め息を吐いた。
(やっぱり彼女の縁談は、断る流れになってはいるが、弟の方は受ける事になったか……。確かに面倒になったな。暫くこのまま腰を据えて、事態がどう転ぶか見極めないと。無理を言って、長期休暇を取って来ておいて良かった。……復帰した後が怖いがな)
休暇明けの惨状を想像して一瞬本気で背筋が寒くなったサイラスだったが、ここで引き上げる気は毛頭なく、この問題にケリが付くまでこの屋敷に居座る事を、改めて決意した。
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