12 / 52
第2章 巻き起こる騒動
1.出陣
しおりを挟む
ソフィアが、密かにステイド子爵家に戻ってから二日後。
ルーバンス公爵邸での見合い当日は、ステイド子爵家の姉弟にとっては、腹立たしい位の晴天に恵まれた。
昼食を取りながらの顔合わせとなった為、昼前に玄関ホールに降りてきたイーダリスとソフィアは、執事に開けて貰った玄関の扉を抜けて、外へと出ながら楽しげに会話する。
「今回、本当に助かっちゃったわ。ドレスだけじゃなくて、それに合わせた華美過ぎず質素過ぎないアクセサリーまで、見繕って貸して貰えるなんて。王宮に戻ったら、リリスにちゃんとお礼をしないとね」
しみじみと語る姉の装いを見ながら、イーダリスも同意して頷く。
「本当にそうだね。俺は男だからどうとでもなるけど、下手な格好をして行ったら、どんな噂を流される事になるか分からないし」
「既に色々噂の的になってる連中が、何を言っても気にする必要は無いと思うけど」
「それとこれとは別だから。じゃあそろそろ行こうか」
「ええ」
そして弟に促されて、目の前に停められている馬車に乗り込もうとしたソフィアは、その扉に付けられていた紋章を見て、驚いた様に目を見開いた。
「うわ……、我が家の馬車に乗るのなんて久しぶり。というか、まだ家にあったわけ? とっくに売り払ったのかと思っていたわ。点検とか手入れとかの維持費だって、馬鹿にならないんじゃない?」
不思議そうに尋ねたソフィアに、イーダリスが苦笑しながら答える。
「そうは言っても、王宮に正式に伺候する時とか、王宮主催の式典とかに参加する時に、正装で騎乗したり歩いて行けないだろう? なんとかやりくりしているよ」
「それもそうね」
その返答に、ソフィアは納得して頷いた。そのやり取りをさり気なく二人の後に付いてきていたサイラスが耳にして、深々と溜め息を吐く。
(なんかもう、本当に涙ぐましい倹約生活だよな)
この二日だけで、ステイド子爵邸の使用人は正確にはかなり昔から常駐している老侍女と老執事二人だけで、あとはファルス公爵家差し回しの使用人が、ジーレス達を初めとする、公爵家所属の人間の世話をしている状態である事が分かり、自分の食事もジーレスが公爵家の運営費から補填している事実を掴んでいたサイラスは、思わず落涙しそうになった。しかし見送りに出ていたジーレス達の言葉を聞いて我に返り、そろそろと移動を開始する。
「それでは気を付けて。変な言質を取られない様に、くれぐれも頑張りなさい」
半ば面白がっている様に見えるジーレスに続いて、オイゲンとファルドも、冷やかし混じりに声をかける。
「幾らムカついたからって、いきなり公爵令息を殴り倒してくるなよ?」
「変な物を使うのも、禁止だから。分かっているよな?」
「もう……、幾らなんでも、場は弁えているつもりですよ。じゃあ行って来ます」
「ご心配おかけして申し訳ありません。戻ったら報告しますので」
窓から姉弟が苦笑いで頭を下げつつ挨拶すると、彼女達を乗せた馬車は静かに走り出した。そして正面玄関で三人が見送っていると、その視線の先で馬車に駆け寄った猫が、その後部の荷物を乗せる台に飛び乗り、更に屋根に飛び上がったのが見えた。
どうやらその猫は無事に屋根の上に収まったらしく、馬車はそのまま門を向けて街路に出て行ったが、それを見たオイゲンとファルドが不思議そうに首を傾げる。
「おい、今、サイラスが馬車に乗って行った様に見えたが」
「止めなくて良いのか? 変な所で降りたら、迷子になって戻って来れないかもしれないぞ?」
人一倍気配に敏いジーレスが黙って馬車を見送っていた為、二人は怪訝そうに尋ねたのだが、当のジーレスは軽く笑っただけだった。
「大丈夫だ。サイラスはイーダ殿とソフィアに懐いているから、二人が出かけるのを見て一緒に出掛けたくなったんだろう。心配せずとも迷子などにならずに、一緒に帰って来るさ」
その物言いに、若干釈然としない物を感じたものの、二人はそれ以上の追及はしなかった。
「ふぅん? まあ、お前が言うならそうだろうな」
「じゃあ、二人の土産話を楽しみに、今のうちに自分の仕事を片付けておくか」
そうして三人は連れ立って、屋敷内に戻って行った。
ルーバンス公爵邸での見合い当日は、ステイド子爵家の姉弟にとっては、腹立たしい位の晴天に恵まれた。
昼食を取りながらの顔合わせとなった為、昼前に玄関ホールに降りてきたイーダリスとソフィアは、執事に開けて貰った玄関の扉を抜けて、外へと出ながら楽しげに会話する。
「今回、本当に助かっちゃったわ。ドレスだけじゃなくて、それに合わせた華美過ぎず質素過ぎないアクセサリーまで、見繕って貸して貰えるなんて。王宮に戻ったら、リリスにちゃんとお礼をしないとね」
しみじみと語る姉の装いを見ながら、イーダリスも同意して頷く。
「本当にそうだね。俺は男だからどうとでもなるけど、下手な格好をして行ったら、どんな噂を流される事になるか分からないし」
「既に色々噂の的になってる連中が、何を言っても気にする必要は無いと思うけど」
「それとこれとは別だから。じゃあそろそろ行こうか」
「ええ」
そして弟に促されて、目の前に停められている馬車に乗り込もうとしたソフィアは、その扉に付けられていた紋章を見て、驚いた様に目を見開いた。
「うわ……、我が家の馬車に乗るのなんて久しぶり。というか、まだ家にあったわけ? とっくに売り払ったのかと思っていたわ。点検とか手入れとかの維持費だって、馬鹿にならないんじゃない?」
不思議そうに尋ねたソフィアに、イーダリスが苦笑しながら答える。
「そうは言っても、王宮に正式に伺候する時とか、王宮主催の式典とかに参加する時に、正装で騎乗したり歩いて行けないだろう? なんとかやりくりしているよ」
「それもそうね」
その返答に、ソフィアは納得して頷いた。そのやり取りをさり気なく二人の後に付いてきていたサイラスが耳にして、深々と溜め息を吐く。
(なんかもう、本当に涙ぐましい倹約生活だよな)
この二日だけで、ステイド子爵邸の使用人は正確にはかなり昔から常駐している老侍女と老執事二人だけで、あとはファルス公爵家差し回しの使用人が、ジーレス達を初めとする、公爵家所属の人間の世話をしている状態である事が分かり、自分の食事もジーレスが公爵家の運営費から補填している事実を掴んでいたサイラスは、思わず落涙しそうになった。しかし見送りに出ていたジーレス達の言葉を聞いて我に返り、そろそろと移動を開始する。
「それでは気を付けて。変な言質を取られない様に、くれぐれも頑張りなさい」
半ば面白がっている様に見えるジーレスに続いて、オイゲンとファルドも、冷やかし混じりに声をかける。
「幾らムカついたからって、いきなり公爵令息を殴り倒してくるなよ?」
「変な物を使うのも、禁止だから。分かっているよな?」
「もう……、幾らなんでも、場は弁えているつもりですよ。じゃあ行って来ます」
「ご心配おかけして申し訳ありません。戻ったら報告しますので」
窓から姉弟が苦笑いで頭を下げつつ挨拶すると、彼女達を乗せた馬車は静かに走り出した。そして正面玄関で三人が見送っていると、その視線の先で馬車に駆け寄った猫が、その後部の荷物を乗せる台に飛び乗り、更に屋根に飛び上がったのが見えた。
どうやらその猫は無事に屋根の上に収まったらしく、馬車はそのまま門を向けて街路に出て行ったが、それを見たオイゲンとファルドが不思議そうに首を傾げる。
「おい、今、サイラスが馬車に乗って行った様に見えたが」
「止めなくて良いのか? 変な所で降りたら、迷子になって戻って来れないかもしれないぞ?」
人一倍気配に敏いジーレスが黙って馬車を見送っていた為、二人は怪訝そうに尋ねたのだが、当のジーレスは軽く笑っただけだった。
「大丈夫だ。サイラスはイーダ殿とソフィアに懐いているから、二人が出かけるのを見て一緒に出掛けたくなったんだろう。心配せずとも迷子などにならずに、一緒に帰って来るさ」
その物言いに、若干釈然としない物を感じたものの、二人はそれ以上の追及はしなかった。
「ふぅん? まあ、お前が言うならそうだろうな」
「じゃあ、二人の土産話を楽しみに、今のうちに自分の仕事を片付けておくか」
そうして三人は連れ立って、屋敷内に戻って行った。
9
お気に入りに追加
241
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。
たまこ
恋愛
公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。
ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。
※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

(完)仕方ないので後は契約結婚する
川なみな
ファンタジー
マルグリートは婚約破棄されたせいで子爵家に嫁ぐ事になった。
そこは、貧乏な子爵だけど。ちっとも、困りません。
ーーーーーーーー
「追放されても戻されても生き残ってみせますう」に出てたキャラも出演します!
3月1日にランキング26位になりました。皆さまのおかげです。ありがとうございます!!
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで
あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。
怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。
……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。
***
『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる