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第1章 降って湧いた災難
2.予期せぬ話
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「本当に、公爵様と世の中の男を比べると、見劣りするのも甚だしいですわね!! そもそも男たるもの、公爵様の様に軽挙妄動などはせずどっしりと落ち着いて構え、物事に対して慎重かつ真摯に向き合い、自らや周囲にとって何が有益なのかを迷わず判断し、率先して行動して周囲の手本となるべく……」
両目を見開き、身振り手振りまで付けて熱演状態に突入したソフィアをもう誰も止められず、三人は顔を寄せてコソコソと囁き合った。
「エリーシアさん、ソフィアさんに理想の男性像なんか聞いたら駄目ですって、あれほど言ったのに……。私、以前延々と、ファルス公爵夫妻について熱く語られた事があるんですから。これ、下手をすると、夕刻までかかりますよ? もう殆ど病気ですよね?」
「ごめんなさい。私の考えが甘かったわ。私もお義父様の事は尊敬しているけど、ここまで熱く語れないわね……」
頭を振り動かしているうちに、常に綺麗に結い上げているソフィアの髪がほつれてきており、それを認めたエリーシアが正直ドン引きしていると、シェリルはそもそもの原因について尋ねた。
「ところでエリーは、どうしてソフィアさんに理想の男性像なんて聞いたの?」
その問いかけに、エリーシアは若干言い難そうに告げる。
「……彼女に片思いしている同僚が、約一名いるから。本人から直接頼まれたわけじゃないんだけど、『付き合ってる人がいるかとか、どんなタイプの男性が好みかとか、さり気なく聞いて欲しい』的なオーラを、最近醸し出しててウザくてね。つい、じゃあ聞いてあげようかな、と」
「サイラスさんね……」
「そんな事、言ってましたね。そう言えば……」
それを聞いたシェリルとリリスが思わず遠い目をしていると、ここでいきなり鋭い叱責の声が、室内に響き渡った。
「それで、公爵様の才能が他者と比べて抜きんでているのは勿論ですが、それ以上に才能がある者を発掘し、適材適所で……。姫様! エリーシアさん! リリス! 私の話をきちんと聞いてらっしゃいますか!?」
「は、はいぃぃっ!!」
「しっかり聞いてます!」
「ファルス公爵の徳の深さが、実感できますねっ!!」
「そうでしょう。それで」
「失礼します」
三人が必死になって頷いたのを見て、ソフィアが満足そうに話を続行させようとした所で、専属ではないが給仕等の業務で交代でシェリルに付いている侍女の一人が、ノックの後ドアを開けて顔を覗かせた。
「ソフィアさん。ご自宅から通信が入っていますので、出て頂けますか?」
その申し出にソフィアは直ちに話を止めて、同年配の彼女を不思議そうに見やった。
「自宅から? 誰からの連絡でしょうか?」
「弟のイーダと名乗りましたが」
「イーダが?」
意外そうに小首を傾げたソフィアに、相手が事務的に告げる。
「隣の控えの間の魔導鏡に、回線を繋いでおきましたので、出て頂けますか?」
「分かりました。ありがとうございます」
そして彼女が扉を閉めると同時に、ソフィアはシェリルに向き直って頭を下げた。
「姫様、申し訳ありません。少し席を外します」
「構わないから、お話ししてきて? でもソフィアに通信って、珍しいわね」
「そうなんですよね。王宮内で働いている事は、周囲には秘密にしてますし、家族にも仕事中は滅多な事では連絡して来るなと言ってあるんですが……」
納得しかねる顔付きのままソフィアは部屋を出て行き、隣接している自分達が待機する場合の控室に入った。そして壁に掛けられている魔導鏡を覗き込むと、確かに王都内のステイド子爵家で生活している弟の顔が映し出されていた。
「待たせたわね、イーダリス。でも、こんな時間にどうしたの? 何か至急の用事?」
「姉さん、落ち着いて聞いてくれ」
何気なく問いかけたのに、怖い位真剣な顔で弟が口を開いた為、ソフィアも瞬時に硬い顔付きになった。
「何? そんなに怖い顔をして。領地に居る父さんと母さんに何かあったの?」
「父さん達は元気だよ。今朝も魔導鏡で話をしたし。そうじゃなくて、もの凄く面倒な事になった」
割と楽天的な弟の、常には無い深刻そうな表情に、ソフィアは嫌な予感を覚えた。
「……まさか、また借金が増えたとか言わないわよね?」
「少し位だったら、その方が良かったかもしれない」
余人に知られない所で借金返済に血道をあげているソフィアが、(本当にそうだったらただじゃおかないわよ!?)と弟を睨み付けたが、イーダリスは沈痛な面持ちで項垂れた。それを見たソフィアは、取り敢えず最悪の事態では無い事が分かって安堵しつつ、弟を叱り付ける。
「意味が分からないわ。さっさと用件を言いなさい。こっちは仕事中なのよ?」
「それが……、姉さんと俺に、縁談が持ち込まれた」
「は? 縁談? どこの誰と? って言うか、イーダはともかく、私にはあり得ないと思うんだけど。下手な冗談は止めて、さっさと本題に入って頂戴」
「いや、本当に俺達への縁談なんだ。それで相手って言うのが……」
そして如何にも言い難そうにイーダリスが告げてきた内容は、完全にソフィアの意表を衝いた上、彼女を困惑の渦に叩き込む事になった。
両目を見開き、身振り手振りまで付けて熱演状態に突入したソフィアをもう誰も止められず、三人は顔を寄せてコソコソと囁き合った。
「エリーシアさん、ソフィアさんに理想の男性像なんか聞いたら駄目ですって、あれほど言ったのに……。私、以前延々と、ファルス公爵夫妻について熱く語られた事があるんですから。これ、下手をすると、夕刻までかかりますよ? もう殆ど病気ですよね?」
「ごめんなさい。私の考えが甘かったわ。私もお義父様の事は尊敬しているけど、ここまで熱く語れないわね……」
頭を振り動かしているうちに、常に綺麗に結い上げているソフィアの髪がほつれてきており、それを認めたエリーシアが正直ドン引きしていると、シェリルはそもそもの原因について尋ねた。
「ところでエリーは、どうしてソフィアさんに理想の男性像なんて聞いたの?」
その問いかけに、エリーシアは若干言い難そうに告げる。
「……彼女に片思いしている同僚が、約一名いるから。本人から直接頼まれたわけじゃないんだけど、『付き合ってる人がいるかとか、どんなタイプの男性が好みかとか、さり気なく聞いて欲しい』的なオーラを、最近醸し出しててウザくてね。つい、じゃあ聞いてあげようかな、と」
「サイラスさんね……」
「そんな事、言ってましたね。そう言えば……」
それを聞いたシェリルとリリスが思わず遠い目をしていると、ここでいきなり鋭い叱責の声が、室内に響き渡った。
「それで、公爵様の才能が他者と比べて抜きんでているのは勿論ですが、それ以上に才能がある者を発掘し、適材適所で……。姫様! エリーシアさん! リリス! 私の話をきちんと聞いてらっしゃいますか!?」
「は、はいぃぃっ!!」
「しっかり聞いてます!」
「ファルス公爵の徳の深さが、実感できますねっ!!」
「そうでしょう。それで」
「失礼します」
三人が必死になって頷いたのを見て、ソフィアが満足そうに話を続行させようとした所で、専属ではないが給仕等の業務で交代でシェリルに付いている侍女の一人が、ノックの後ドアを開けて顔を覗かせた。
「ソフィアさん。ご自宅から通信が入っていますので、出て頂けますか?」
その申し出にソフィアは直ちに話を止めて、同年配の彼女を不思議そうに見やった。
「自宅から? 誰からの連絡でしょうか?」
「弟のイーダと名乗りましたが」
「イーダが?」
意外そうに小首を傾げたソフィアに、相手が事務的に告げる。
「隣の控えの間の魔導鏡に、回線を繋いでおきましたので、出て頂けますか?」
「分かりました。ありがとうございます」
そして彼女が扉を閉めると同時に、ソフィアはシェリルに向き直って頭を下げた。
「姫様、申し訳ありません。少し席を外します」
「構わないから、お話ししてきて? でもソフィアに通信って、珍しいわね」
「そうなんですよね。王宮内で働いている事は、周囲には秘密にしてますし、家族にも仕事中は滅多な事では連絡して来るなと言ってあるんですが……」
納得しかねる顔付きのままソフィアは部屋を出て行き、隣接している自分達が待機する場合の控室に入った。そして壁に掛けられている魔導鏡を覗き込むと、確かに王都内のステイド子爵家で生活している弟の顔が映し出されていた。
「待たせたわね、イーダリス。でも、こんな時間にどうしたの? 何か至急の用事?」
「姉さん、落ち着いて聞いてくれ」
何気なく問いかけたのに、怖い位真剣な顔で弟が口を開いた為、ソフィアも瞬時に硬い顔付きになった。
「何? そんなに怖い顔をして。領地に居る父さんと母さんに何かあったの?」
「父さん達は元気だよ。今朝も魔導鏡で話をしたし。そうじゃなくて、もの凄く面倒な事になった」
割と楽天的な弟の、常には無い深刻そうな表情に、ソフィアは嫌な予感を覚えた。
「……まさか、また借金が増えたとか言わないわよね?」
「少し位だったら、その方が良かったかもしれない」
余人に知られない所で借金返済に血道をあげているソフィアが、(本当にそうだったらただじゃおかないわよ!?)と弟を睨み付けたが、イーダリスは沈痛な面持ちで項垂れた。それを見たソフィアは、取り敢えず最悪の事態では無い事が分かって安堵しつつ、弟を叱り付ける。
「意味が分からないわ。さっさと用件を言いなさい。こっちは仕事中なのよ?」
「それが……、姉さんと俺に、縁談が持ち込まれた」
「は? 縁談? どこの誰と? って言うか、イーダはともかく、私にはあり得ないと思うんだけど。下手な冗談は止めて、さっさと本題に入って頂戴」
「いや、本当に俺達への縁談なんだ。それで相手って言うのが……」
そして如何にも言い難そうにイーダリスが告げてきた内容は、完全にソフィアの意表を衝いた上、彼女を困惑の渦に叩き込む事になった。
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