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第5章 日々是修行
2.戻って来た日常
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「おっはようございまーす!」
ドアを勢い良く開け放つなり、室内に向かって大声を張り上げたエリーシアを見て、既に出勤していた同僚達は、揃って笑顔になった。
「よう、エリー、おはようさん」
「うわ……。副魔術師長から話は聞いてたが、随分バッサリ切っちまったな……」
「久しぶりだな。ゆっくり休めたか?」
肩より短い髪になったエリーシアを見て、安堵したり驚いたりしながら口々に声をかけてきた面々に、彼女は力強く宣言した。
「はい、完全復活です。今日からまた宜しくお願いします!」
そう言って頭を下げた彼女に、周囲の皆は温かい視線を送った。
「復帰早々、元気良いな」
「頑張れよ?」
そして一人一人に礼を述べつつ、自分の机に向かったエリーシアだったが、隣の席の同僚が前傾姿勢で、静かに机上の書類に目を落としているのが目に入った。
「サイラス、おっはよーう! ……え?」
勢い良くサイラスの背中をど突きつつ、朝の挨拶をしたエリーシアだったが、「痛いだろうが!?」と盛大に食ってかかるかと思いきや、サイラスの上半身がそのまま前方に勢い良く傾ぎ、目の前に積み重ねてあった分厚い魔術書山に額を打ちつけた。そしてゴスッと鈍い音が響いた直後、その山が向こう側に崩落し、その場に気まずい沈黙が漂う。
「え、ええと……、ごめん、サイラス。ちょっと力を入れ過ぎたわ」
「……ああ」
殊勝に頭を下げてエリーシアが謝ると、サイラスはそれ以上怒りはせず、ゆっくりと上半身を戻して黙々と魔導書を積み直した。その間に隣の自分の机に荷物を置いて腰掛けた彼女は、少ししてから声を潜めて問いかける。
「ねえ、具合でも悪いわけ?」
「いや、いたって健康だ」
「それにしては、随分暗いじゃない。三日前のソフィアさんとのデートで何かしくじって、まだ引きずってるわけ?」
エリーシアがそう囁いた途端、サイラスは目を見開き、もの凄い勢いで彼女に向き直った。
「おい! どうしてそれを知ってるんだ!?」
動揺著しいサイラスに、エリーシアはニヤリと嫌らしく笑いながら、事情を説明する。
「一昨日、ファルス公爵邸にシェリルが私の見舞いに来た時、その前日にソフィアさんが休みを取って、あんたと出かけたって話の合間に言ってたのよ。シェリルは詳しい内容までは、さすがに知らなかったみたいだけど」
「そうか、そっちのルートがあったか……」
「それで? 勿体ぶらずに、さっさと教えなさいよ」
本気で頭を抱えた同僚を、エリーシアはからかう気満々で小突いたが、サイラスは心底嫌そうに呟いた。
「……あれは、デートなんかじゃない」
「またまた~。そんな照れなくても。らしくないわよ?」
「俺はデートのつもりだったが、相手はそうじゃなかったってだけの話だ」
「え? 何よそれ?」
なんとなく雲行きが怪しくなって来たが、ここで話を止める訳にはいかず、エリーシアは話の続きを促した。するとサイラスが、暗い顔でボソボソと説明を始める。
「『頑張って従軍してきたんだから、美味しい物を奢ってあげる』と言われて、繁華街に繰り出したんだが……」
「十分デートじゃないの。何が不満なわけ?」
「何か、おかしいとは思ったんだ。待ち合わせ場所で顔を合わせるなり『ちょっと雰囲気を変えたいから、今日一日だけ魔術で、エリーシアさんみたいな銀の髪にしてくれない?』って、頼まれた時には」
それを聞いたエリーシアは、さすがに面食らった。
「は? 何よそれ? あんたそれでどうしたの?」
「髪を銀色に変える魔術を、その日一日持続する様にかけた」
「……馬鹿って言っても良い?」
「黙って話を聞け」
エリーシアが(そんな訳が分からない要求、突っぱねなさいよ)と目線で叱りつけたが、サイラスは視線を逸らしながら文句を言った。それで彼女もそれ以上余計な事は口にせずに、続きを促す。
「じゃあ黙って聞くから、さっさと話を進めて」
「そして食事して、お礼にちょっとした小物を買って贈って、お茶を飲んで別れて帰ったんだが……。次の日には、俺がお前似の別な女とデートしていたって噂が、王宮内で広がっていた」
「はい?」
全く意味が分からなかった彼女が首を傾げると、サイラスが忌々しげな顔付きになりながら、補足説明する。
「お前が行軍中に髪をバッサリ切った事は、近衛軍内から広まった噂で知られてたからな。俺は今現在、王宮内でお前を口説いてるにも関わらず、街で違う女にもちょっかいを出してると思われているんだ」
「ちょっと待って。それって……」
漸く事の次第が読めてきたエリーシアが顔を引き攣らせると、サイラスが疲れた様な表情で詳細を告げた。
「慌てて彼女の所に確認しに行ったら、『全く! エリーシアさんが髪を切ってた事を最初に言わないから、変な事になったじゃない!』とひとしきり怒られてから、『でもまあ、賭けの行方が益々混沌としてきて、別な意味で盛り上がってるから良しとするわ。『あんな女誑し野郎共には負けられん!』とか言って、エリーシアさん獲得レースに新たに名乗りを上げた人も出てきたしね』と、もの凄くいい笑顔で言われた」
咄嗟に目の前の同僚にかける言葉が見つからなかったエリーシアは、先程の彼の台詞で、気になった箇所について尋ねてみた。
「サイラス? さっき『女誑し野郎共』って言ってなかった? どうして複数形なの?」
「彼女は銀髪のまま、街で買い込んだ食べ物をディオンの所に差し入れに行ったり、夕飯はアクセス殿と食べに行ったらしい。そして二人にも、俺と同様の噂が立ってる。どうやら彼女は上手く噂を誘導して、停滞気味の賭けを盛り上げるつもりだったらしいな。結果的には予想外の方向で、成功しているようだ」
あらぬ方を見ながら淡々と状況説明したサイラスを見て、エリーシアは涙を禁じ得なかった。
「サイラス、あんたって……」
「何も言うな」
「…………不憫ね」
「だから、何も言うなって言ってるだろうが!? これ以上一言でも余計な事を口走ったら、窓から放り出すぞ!?」
そっと指で目尻を拭いつつエリーシアが感想を述べると、サイラスは盛大に机を叩きつつ、紛れもない怒りの声を上げた。それに仰天した周囲が、慌てて二人の所に寄って来る。
「おい、サイラスどうした!」
「落ち着け! 何があったのかは分からんが、短気は損気だぞ!?」
「分かったわよ。ぶっ飛ばされるのは御免だわ。あんただったらできるだろうしね。もう言わないから」
これ以上怒りを煽らない様に素直に引き下がったエリーシアだったが、心底サイラスに同情した。
(後からこっそりシェリルに頼んで、二人の仲を取り持って貰おうかしら?)
そんな事を暫く考えているうちに、色々宥められて落ち着きを取り戻したらしいサイラスが、大人しく椅子に座って仕事を再開したのを横目で確認したエリーシアは、声を潜めながら相談を持ちかけた。
「サイラス。話は変わるんだけど、ちょっと協力してくれない?」
「……話の内容による」
もの凄く面倒くさそうに応じたサイラスだったが、エリーシアは真顔で説明を始めた。
「シュレスタさんが、今度の月末に退職するじゃない。短い間だったけど随分お世話になったし、感謝の気持ちを込めて、盛大に送り出したいのよ」
「なるほど。俺もシュレスタさんには、就任以来何度もフォローして貰ったり、庇って貰ったからな。迷惑もかけたと思うし」
「でしょう? 私も同感。だから協力して?」
その申し出にサイラスは納得し、快く承諾した。
「分かった。それで、具体的には何をすれば良いんだ?」
「花火の術式作製を手伝って。私、火炎系の高精度で緻密な術式は、他系統と比べるとちょっと自信が無いのよ。ただ強力に爆発させれば良いって代物では無いしね」
「花火? 定時で帰宅する頃は、まだ明るいぞ? 夜にシュレスタさんを呼びつけるのか?」
確かに火炎系は他と比べると苦手だろうがと、幾分不審に思いながらサイラスが問うと、彼女は小さく首を振った。
「普通に夜に打ち上げるなら、あんたの手は借りないわ。昼に見える様にして打ち上げたいから、手伝って欲しいって言ってるの。皆からの色々なメッセージとかも、空中に一定時間固定化させたいし」
それを聞いて、サイラスが納得した様に相槌を打つ。
「なるほど……。でもそういうのって、一番得意なのはシュレスタさんじゃないのか?」
暗に「意見を貰わないのか?」と尋ねた彼に、エリーシアは苦笑した。
「勿論、本人には当日まで秘密にしておいて、驚かせるのよ? それに得意分野だから余計に『こんな事もできるのか』って、感心してくれそうじゃない」
その主張を聞いたサイラスは、尤もだと深く頷いた。
「それも道理だな。分かった、全面的に協力する。シュレスタさんの花道を、盛大に盛り上げてみせようじゃないか」
「頼りにしてるわよ? 魔術師養成院院長就任祝いも兼ねてるんだから」
エリーシアがそう述べると、それは初耳だったらしいサイラスが、少し驚いた表情になる。
「そうなのか? シュレスタさんがあそこのトップになるなら、これからどんどん優秀な魔術師が輩出されそうだな」
「そうね。うかうかしてると、王宮専属魔術師の座をあっさり奪われるかもしれないわよ?」
含み笑いでそう述べると、不敵な笑みが返ってくる。
「誰がそうそう簡単に渡すかよ」
「ソフィアさんとの事も、その意気で頑張りなさいよね」
「一言余計だ」
軽く睨まれたものの、それを見たエリーシアは我慢できずに噴き出し、それに釣られてサイラスも苦笑いの表情になった。そして騒いでいる所をガルストに窘められる所までいつも通りで、王宮専属魔術師棟はその日から、従来通りの喧騒を取り戻した。
ドアを勢い良く開け放つなり、室内に向かって大声を張り上げたエリーシアを見て、既に出勤していた同僚達は、揃って笑顔になった。
「よう、エリー、おはようさん」
「うわ……。副魔術師長から話は聞いてたが、随分バッサリ切っちまったな……」
「久しぶりだな。ゆっくり休めたか?」
肩より短い髪になったエリーシアを見て、安堵したり驚いたりしながら口々に声をかけてきた面々に、彼女は力強く宣言した。
「はい、完全復活です。今日からまた宜しくお願いします!」
そう言って頭を下げた彼女に、周囲の皆は温かい視線を送った。
「復帰早々、元気良いな」
「頑張れよ?」
そして一人一人に礼を述べつつ、自分の机に向かったエリーシアだったが、隣の席の同僚が前傾姿勢で、静かに机上の書類に目を落としているのが目に入った。
「サイラス、おっはよーう! ……え?」
勢い良くサイラスの背中をど突きつつ、朝の挨拶をしたエリーシアだったが、「痛いだろうが!?」と盛大に食ってかかるかと思いきや、サイラスの上半身がそのまま前方に勢い良く傾ぎ、目の前に積み重ねてあった分厚い魔術書山に額を打ちつけた。そしてゴスッと鈍い音が響いた直後、その山が向こう側に崩落し、その場に気まずい沈黙が漂う。
「え、ええと……、ごめん、サイラス。ちょっと力を入れ過ぎたわ」
「……ああ」
殊勝に頭を下げてエリーシアが謝ると、サイラスはそれ以上怒りはせず、ゆっくりと上半身を戻して黙々と魔導書を積み直した。その間に隣の自分の机に荷物を置いて腰掛けた彼女は、少ししてから声を潜めて問いかける。
「ねえ、具合でも悪いわけ?」
「いや、いたって健康だ」
「それにしては、随分暗いじゃない。三日前のソフィアさんとのデートで何かしくじって、まだ引きずってるわけ?」
エリーシアがそう囁いた途端、サイラスは目を見開き、もの凄い勢いで彼女に向き直った。
「おい! どうしてそれを知ってるんだ!?」
動揺著しいサイラスに、エリーシアはニヤリと嫌らしく笑いながら、事情を説明する。
「一昨日、ファルス公爵邸にシェリルが私の見舞いに来た時、その前日にソフィアさんが休みを取って、あんたと出かけたって話の合間に言ってたのよ。シェリルは詳しい内容までは、さすがに知らなかったみたいだけど」
「そうか、そっちのルートがあったか……」
「それで? 勿体ぶらずに、さっさと教えなさいよ」
本気で頭を抱えた同僚を、エリーシアはからかう気満々で小突いたが、サイラスは心底嫌そうに呟いた。
「……あれは、デートなんかじゃない」
「またまた~。そんな照れなくても。らしくないわよ?」
「俺はデートのつもりだったが、相手はそうじゃなかったってだけの話だ」
「え? 何よそれ?」
なんとなく雲行きが怪しくなって来たが、ここで話を止める訳にはいかず、エリーシアは話の続きを促した。するとサイラスが、暗い顔でボソボソと説明を始める。
「『頑張って従軍してきたんだから、美味しい物を奢ってあげる』と言われて、繁華街に繰り出したんだが……」
「十分デートじゃないの。何が不満なわけ?」
「何か、おかしいとは思ったんだ。待ち合わせ場所で顔を合わせるなり『ちょっと雰囲気を変えたいから、今日一日だけ魔術で、エリーシアさんみたいな銀の髪にしてくれない?』って、頼まれた時には」
それを聞いたエリーシアは、さすがに面食らった。
「は? 何よそれ? あんたそれでどうしたの?」
「髪を銀色に変える魔術を、その日一日持続する様にかけた」
「……馬鹿って言っても良い?」
「黙って話を聞け」
エリーシアが(そんな訳が分からない要求、突っぱねなさいよ)と目線で叱りつけたが、サイラスは視線を逸らしながら文句を言った。それで彼女もそれ以上余計な事は口にせずに、続きを促す。
「じゃあ黙って聞くから、さっさと話を進めて」
「そして食事して、お礼にちょっとした小物を買って贈って、お茶を飲んで別れて帰ったんだが……。次の日には、俺がお前似の別な女とデートしていたって噂が、王宮内で広がっていた」
「はい?」
全く意味が分からなかった彼女が首を傾げると、サイラスが忌々しげな顔付きになりながら、補足説明する。
「お前が行軍中に髪をバッサリ切った事は、近衛軍内から広まった噂で知られてたからな。俺は今現在、王宮内でお前を口説いてるにも関わらず、街で違う女にもちょっかいを出してると思われているんだ」
「ちょっと待って。それって……」
漸く事の次第が読めてきたエリーシアが顔を引き攣らせると、サイラスが疲れた様な表情で詳細を告げた。
「慌てて彼女の所に確認しに行ったら、『全く! エリーシアさんが髪を切ってた事を最初に言わないから、変な事になったじゃない!』とひとしきり怒られてから、『でもまあ、賭けの行方が益々混沌としてきて、別な意味で盛り上がってるから良しとするわ。『あんな女誑し野郎共には負けられん!』とか言って、エリーシアさん獲得レースに新たに名乗りを上げた人も出てきたしね』と、もの凄くいい笑顔で言われた」
咄嗟に目の前の同僚にかける言葉が見つからなかったエリーシアは、先程の彼の台詞で、気になった箇所について尋ねてみた。
「サイラス? さっき『女誑し野郎共』って言ってなかった? どうして複数形なの?」
「彼女は銀髪のまま、街で買い込んだ食べ物をディオンの所に差し入れに行ったり、夕飯はアクセス殿と食べに行ったらしい。そして二人にも、俺と同様の噂が立ってる。どうやら彼女は上手く噂を誘導して、停滞気味の賭けを盛り上げるつもりだったらしいな。結果的には予想外の方向で、成功しているようだ」
あらぬ方を見ながら淡々と状況説明したサイラスを見て、エリーシアは涙を禁じ得なかった。
「サイラス、あんたって……」
「何も言うな」
「…………不憫ね」
「だから、何も言うなって言ってるだろうが!? これ以上一言でも余計な事を口走ったら、窓から放り出すぞ!?」
そっと指で目尻を拭いつつエリーシアが感想を述べると、サイラスは盛大に机を叩きつつ、紛れもない怒りの声を上げた。それに仰天した周囲が、慌てて二人の所に寄って来る。
「おい、サイラスどうした!」
「落ち着け! 何があったのかは分からんが、短気は損気だぞ!?」
「分かったわよ。ぶっ飛ばされるのは御免だわ。あんただったらできるだろうしね。もう言わないから」
これ以上怒りを煽らない様に素直に引き下がったエリーシアだったが、心底サイラスに同情した。
(後からこっそりシェリルに頼んで、二人の仲を取り持って貰おうかしら?)
そんな事を暫く考えているうちに、色々宥められて落ち着きを取り戻したらしいサイラスが、大人しく椅子に座って仕事を再開したのを横目で確認したエリーシアは、声を潜めながら相談を持ちかけた。
「サイラス。話は変わるんだけど、ちょっと協力してくれない?」
「……話の内容による」
もの凄く面倒くさそうに応じたサイラスだったが、エリーシアは真顔で説明を始めた。
「シュレスタさんが、今度の月末に退職するじゃない。短い間だったけど随分お世話になったし、感謝の気持ちを込めて、盛大に送り出したいのよ」
「なるほど。俺もシュレスタさんには、就任以来何度もフォローして貰ったり、庇って貰ったからな。迷惑もかけたと思うし」
「でしょう? 私も同感。だから協力して?」
その申し出にサイラスは納得し、快く承諾した。
「分かった。それで、具体的には何をすれば良いんだ?」
「花火の術式作製を手伝って。私、火炎系の高精度で緻密な術式は、他系統と比べるとちょっと自信が無いのよ。ただ強力に爆発させれば良いって代物では無いしね」
「花火? 定時で帰宅する頃は、まだ明るいぞ? 夜にシュレスタさんを呼びつけるのか?」
確かに火炎系は他と比べると苦手だろうがと、幾分不審に思いながらサイラスが問うと、彼女は小さく首を振った。
「普通に夜に打ち上げるなら、あんたの手は借りないわ。昼に見える様にして打ち上げたいから、手伝って欲しいって言ってるの。皆からの色々なメッセージとかも、空中に一定時間固定化させたいし」
それを聞いて、サイラスが納得した様に相槌を打つ。
「なるほど……。でもそういうのって、一番得意なのはシュレスタさんじゃないのか?」
暗に「意見を貰わないのか?」と尋ねた彼に、エリーシアは苦笑した。
「勿論、本人には当日まで秘密にしておいて、驚かせるのよ? それに得意分野だから余計に『こんな事もできるのか』って、感心してくれそうじゃない」
その主張を聞いたサイラスは、尤もだと深く頷いた。
「それも道理だな。分かった、全面的に協力する。シュレスタさんの花道を、盛大に盛り上げてみせようじゃないか」
「頼りにしてるわよ? 魔術師養成院院長就任祝いも兼ねてるんだから」
エリーシアがそう述べると、それは初耳だったらしいサイラスが、少し驚いた表情になる。
「そうなのか? シュレスタさんがあそこのトップになるなら、これからどんどん優秀な魔術師が輩出されそうだな」
「そうね。うかうかしてると、王宮専属魔術師の座をあっさり奪われるかもしれないわよ?」
含み笑いでそう述べると、不敵な笑みが返ってくる。
「誰がそうそう簡単に渡すかよ」
「ソフィアさんとの事も、その意気で頑張りなさいよね」
「一言余計だ」
軽く睨まれたものの、それを見たエリーシアは我慢できずに噴き出し、それに釣られてサイラスも苦笑いの表情になった。そして騒いでいる所をガルストに窘められる所までいつも通りで、王宮専属魔術師棟はその日から、従来通りの喧騒を取り戻した。
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