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第3章 蠢く陰謀
18.異変の狼煙
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一緒に作戦行動をする面々と、早朝顔を合わせたエリーシアだったが、その直後から彼女の機嫌は人知れず悪かった。更に馬で移動を開始してから、暫くは大人しく部隊の先頭付近で道案内に徹していたルパートが、いつの間にかエリーシアのもとにやって来て、抜け目が刺さそうな笑顔で話しかけて来た為、彼女の機嫌は坂道を転げ落ちるように悪化する。
「やあ、エリーシア。君の噂は、王都にいる兄弟達から色々聞かされているよ?」
含み笑いでそんな事を言ってきた相手を、エリーシアは冷たく一瞥したのみだった。
「……どちら様でしょうか?」
その問いかけに対し、ルパートが哀れっぽく応じる。
「何だ、僕の顔も知らないのかい? そんな事で貴族社会でやっていけるのかな? まあ、僕らの様な生粋の貴族とは違って、ずっと平民の暮らしをしていたから無理もないが。平民なら平民なりに、俺達が示した好意を素直に受け取るべきではないのかな?」
「あなたの顔と名前は一応存じ上げてはいますが、自分から名乗りもしないで、いきなり人の名前を場所も弁えずに声高に叫ぶ方に対する礼儀などは、持ち合わせていないだけです」
「……へえ? 随分尤もらしい事を言うじゃないか」
一瞬、気分を害した様な表情になったものの、ここで寛容さを示すのも貴族としての役割だとでも思ったのか、ルパートは一応笑顔らしい表情で胸を張りつつ名乗った。
「現ルーバンス公爵の六男で、スペリシア伯爵の養子のルパートだ。宜しく」
「ご丁寧な自己紹介をありがとうございます。グラード伯爵兼ファルス公爵の長女であるエリーシアです。王宮専属魔術師として王宮に勤めております。以後、お見知りおき下さい」
静かで落ち着いた口調ながら、“伯爵”の所を微妙に強く言ったエリーシアの嫌味は伝わった様で、相手は僅かに顔を引き攣らせた。
「随分つれないな。同じ血を持つ兄妹だっていうのに」
そこですかさず、エリーシアが真顔で言い出す。
「最近時に思うんですけど、親は選べませんが、兄弟って選べると思うんですよね。ですから、兄弟付き合いは選んでする主義なんです。それに私には幸いな事に、周囲の人間に誇れる、稀代の魔術師であるアーデンと、敏腕と名高い現ファルス公爵の二人が父として導いてくれますし、美貌と教養溢れるフレイア様が母として目配りしてくれますので、どなた様方とは違って段違いに幸運だと思います」
そう言ってコロコロと楽しそうに笑って見せたエリーシアを、憤怒の形相になったルパートが恫喝する。
「……いい気になってんじゃねえぞ」
「あら、どうかされました? 私の家族話の中で、ルパート殿が気を悪くする内容があったでしょうか?」
鋭い視線を真っ向から受け止めても、エリーシアは全く怯む様子を見せなかったが、ここで斜め後方から声がかけられた。
「ルパート殿。先頭のアクセス殿から、進行方向の確認をしたいと言ってきましたが」
「今行く」
小型の魔導鏡を懐にしまいつつサイラスが声をかけると、ルパートは盛大に舌打ちして馬を進めて前方へと移動した。そんな彼と入れ替わりにサイラスがエリーシアの横に付き、小声で窘める。
「エリー。気持ちは分かるが、煽るな」
「だって、何よあの猫撫で声。気持ち悪いったらありゃしないわ。それにあの目つき、絶対何か企んでるでしょ」
「そんなわけないだろ、と言いたいところだが、俺も同感だな。初めて見た時から、何か胡散臭い」
忌々しげな顔つきになったサイラスだったが、エリーシアの次の台詞には一瞬虚を衝かれた。
「大体ね、あの目が気に入らないのよ! あの公爵と同じ紫色で!」
苛立たしげな同僚の顔付きを見たサイラスは、ここで漸く出発以降、彼女が本気で腹を立てていた理由を悟った。
「……お前と王妃様とも一緒だものな。それで余計にイライラしていたか。気持ちは分かるが、作戦前にこれ以上吠えるなよ?」
「分かってるわよ。集中するわ」
「そうしてくれ」
(本当にな……、ウェスリーみたいに、ただ気に食わなくて睨みつけているだけなら、それ程気にならないんだが)
エリーシアもそれなりに反省している事は分かっていた為、サイラスはそれ以上蒸し返す事はせず、事務的な話に移った。
「取り敢えずまだレストン国側には、探知されていない様だな」
「そうね。その手の類の魔術の気配は、広範囲に探査網を広げても感じられないし」
「こんな森の中で囲まれたりしたら、洒落にならんしな」
「それこそ私とあんたの失態になるわよね」
「縁起でも無い事を言うな」
隠密行動中であり、敵方に存在を知られる事自体が命取りになりかねない事から、馬に揺られつつも慎重に探査魔術を広げていたエリーシアだったが、至近距離に兵の存在も、敵方の魔術師の探索も受けていない事を確認していた。しかし何となく一抹の不安が拭えないまま、部隊が歩みを止める。
「さて、昨日立案した待機場所はこの辺りだと思いますが、どうですか? ルパート殿」
「その筈です」
先頭部にいた部隊の指揮官のアクセスがルパートに尋ねると、彼は真顔で頷いた。しかし木々の切れ目から見下ろす燎原に、レストン国の兵の姿など全く見えない為、アクセスは疑惑に満ちた視線を彼に向ける。
「ルパート殿。ここからだとレストン軍の部隊が全く見えない上、昨日、検討した地図上の地形と、ここから見える地形が違う気がするのだが?」
「いえ、確かにここで間違いありませんよ? 確かです」
しかしルパートが全く譲らない為、アクセスは忌々しげな表情になりながら、少し離れた所に居る魔術師二人に声をかけた。
「それを判断するのはこちらだ。エリー、サイラス!」
「はい」
「お呼びですか? 副司令官」
「至急、地形を上空から確認してくれ。あと、できるだけ気づかれない様に、レストン国の部隊の所在確認を頼む」
すぐに馬を下りて駆け寄ってきた二人に、アクセスは的確に指示を出す。
「分かりました。サイラス、上から見てくれる?」
「じゃあ、そっちは下から頼む」
「了解」
それを聞いた二人はルパートをチラッと見て(こいつ何かヘマをやったのか?)と思ったものの、すぐに意識を術式の方に集中した。
「シェス・エール・リェン・アル……」
「フィルタ・カン・メイム・ジャステ……」
「バンス・テラド・ルヴェン・デ・ボマ!!」
「何!?」
そして二人が探査の方に意識を集中し始めた為、何となく周囲の兵士達も二人に視線を合わせていた時、ルパートがいきなり大声で呪文を唱えたと思ったら、両腕を勢い良く上空に向かって突き上げた。すると彼の両手から明るい光球が飛び出して上昇し、かなりの高度で炸裂する。その軌跡は淡いピンク色でしっかり一直線に残っており、それが狼煙の一種だと瞬時に判断できたアクセスは、血相を変えてルパートに掴みかかった。
「貴様正気か! こんな所で何をする!」
敵陣の真っ只中でそんな行為をする意味を悟ったアクセスは憤怒の形相になったが、ルパートは未だに正確な事態を理解してはいないのか、勝ち誇った顔で悪態を吐いた。
「はっ、正気に決まってんだろ! 散々、俺達の事を馬鹿にしやがって! いい気味だ、このあばずれ女! 報いを受けろ!」
ここであまりの事態に呆気に取られていた近衛兵の中から、一人が進み出てルパートに詰め寄る。
「ふざけるな! エリーシアに迷惑をかけているのは、どこからどう見てもルーバンス公爵家一党の方だろうが!? 何を逆恨みしている!!」
「何だ貴様は! 引っ込んでろ!!」
「ミューラ・ヒャレム・キリエス」
抗議してきた兵士が憤怒の形相のまま、首から下げていたペンダントの鎖を乱暴に引きちぎりつつ呪文を唱えると、そのペンダントヘッドから溢れ出た光が彼の全身を包み、その光が消え去ると同時に王太子であるレオンの姿が現れた。
「レ、レオン殿下!?」
「あんた、何だってこんなとこに居るんですか!?」
ルパートが肝を潰し、アクセスが完全に怒りの声を上げたと同時に、サイラスとエリーシアの悲鳴じみた声がその場に響いた。
「副司令官殿、大変です! 完全に囲まれてます!」
「しかも向こうは、こちらの位置が分かっているみたいに、同心円状に接近してきます! 人数と方角はおおよそですが、北西30、北北西30、北20、北東10、東40、南50、南西20、西10! どうして!? これまでの魔術探査には、全然感じなかったのに!?」
「落ち着け、エリーシア。お前の探査に手落ちがあったわけじゃない。恐らく向こうは予め俺達の到達位置が分かっていたから、わざわざ魔術探査なんかをしないで、ひたすら遠距離から存在を消す事に集中していただけだ。探査はもういい」
「は、はい」
完全に声を裏返らせたエリーシアの報告を聞いて、アクセスは逆に落ち着いて腹を括った。そしてレオンの存在を知って真っ青になっているルパートに歩み寄り、問答無用で殴り倒す。
「相手も森の中じゃ、大部隊を展開できないだけマシってか……。取り敢えず」
「ぐわぁっ!!」
そしてアクセスは、気絶したらしく地面に横たわったルパートをゴミでも見る様な目つきで見下ろしながら、エリーシアに声高に言いつけた。
「エリー、この馬鹿野郎を馬に魔術で括り付けておいてくれ。落ち着いたらじっくり聞き出してやるからな!」
「分かりました」
そして素早く愛馬に騎乗しながら、矢継ぎ早に指示を出す。
「ここから離脱するぞ! エリー、サイラス、遠慮するな。全開でいけ。魔術使用制限を俺の権限で解除する。エリーは先頭、サイラスは最後尾だ。できるな!?」
「できます!」
「任せて下さい!」
「殿下! あんたへのお小言も後回しだ! あんたが居る以上、降伏なんて事はできん。周りの言う通りに動けよ!?」
「……分かった」
「全員、聞いたな? 殿下を中心に紡錘陣を取れ! 右後方に反転、突破する!!」
アクセスの剣幕に気圧されて頷いたレオンが騎乗するやいなや、ジェリドによって厳選されていた近衛兵が細かい役割分担など話し合わずとも、阿吽の呼吸で彼を取り囲んだ。それを確認したアクセスは彼の指揮官としての勘を頼りに、一番破れそうな方向に向かって、正面突破を試みた。
「やあ、エリーシア。君の噂は、王都にいる兄弟達から色々聞かされているよ?」
含み笑いでそんな事を言ってきた相手を、エリーシアは冷たく一瞥したのみだった。
「……どちら様でしょうか?」
その問いかけに対し、ルパートが哀れっぽく応じる。
「何だ、僕の顔も知らないのかい? そんな事で貴族社会でやっていけるのかな? まあ、僕らの様な生粋の貴族とは違って、ずっと平民の暮らしをしていたから無理もないが。平民なら平民なりに、俺達が示した好意を素直に受け取るべきではないのかな?」
「あなたの顔と名前は一応存じ上げてはいますが、自分から名乗りもしないで、いきなり人の名前を場所も弁えずに声高に叫ぶ方に対する礼儀などは、持ち合わせていないだけです」
「……へえ? 随分尤もらしい事を言うじゃないか」
一瞬、気分を害した様な表情になったものの、ここで寛容さを示すのも貴族としての役割だとでも思ったのか、ルパートは一応笑顔らしい表情で胸を張りつつ名乗った。
「現ルーバンス公爵の六男で、スペリシア伯爵の養子のルパートだ。宜しく」
「ご丁寧な自己紹介をありがとうございます。グラード伯爵兼ファルス公爵の長女であるエリーシアです。王宮専属魔術師として王宮に勤めております。以後、お見知りおき下さい」
静かで落ち着いた口調ながら、“伯爵”の所を微妙に強く言ったエリーシアの嫌味は伝わった様で、相手は僅かに顔を引き攣らせた。
「随分つれないな。同じ血を持つ兄妹だっていうのに」
そこですかさず、エリーシアが真顔で言い出す。
「最近時に思うんですけど、親は選べませんが、兄弟って選べると思うんですよね。ですから、兄弟付き合いは選んでする主義なんです。それに私には幸いな事に、周囲の人間に誇れる、稀代の魔術師であるアーデンと、敏腕と名高い現ファルス公爵の二人が父として導いてくれますし、美貌と教養溢れるフレイア様が母として目配りしてくれますので、どなた様方とは違って段違いに幸運だと思います」
そう言ってコロコロと楽しそうに笑って見せたエリーシアを、憤怒の形相になったルパートが恫喝する。
「……いい気になってんじゃねえぞ」
「あら、どうかされました? 私の家族話の中で、ルパート殿が気を悪くする内容があったでしょうか?」
鋭い視線を真っ向から受け止めても、エリーシアは全く怯む様子を見せなかったが、ここで斜め後方から声がかけられた。
「ルパート殿。先頭のアクセス殿から、進行方向の確認をしたいと言ってきましたが」
「今行く」
小型の魔導鏡を懐にしまいつつサイラスが声をかけると、ルパートは盛大に舌打ちして馬を進めて前方へと移動した。そんな彼と入れ替わりにサイラスがエリーシアの横に付き、小声で窘める。
「エリー。気持ちは分かるが、煽るな」
「だって、何よあの猫撫で声。気持ち悪いったらありゃしないわ。それにあの目つき、絶対何か企んでるでしょ」
「そんなわけないだろ、と言いたいところだが、俺も同感だな。初めて見た時から、何か胡散臭い」
忌々しげな顔つきになったサイラスだったが、エリーシアの次の台詞には一瞬虚を衝かれた。
「大体ね、あの目が気に入らないのよ! あの公爵と同じ紫色で!」
苛立たしげな同僚の顔付きを見たサイラスは、ここで漸く出発以降、彼女が本気で腹を立てていた理由を悟った。
「……お前と王妃様とも一緒だものな。それで余計にイライラしていたか。気持ちは分かるが、作戦前にこれ以上吠えるなよ?」
「分かってるわよ。集中するわ」
「そうしてくれ」
(本当にな……、ウェスリーみたいに、ただ気に食わなくて睨みつけているだけなら、それ程気にならないんだが)
エリーシアもそれなりに反省している事は分かっていた為、サイラスはそれ以上蒸し返す事はせず、事務的な話に移った。
「取り敢えずまだレストン国側には、探知されていない様だな」
「そうね。その手の類の魔術の気配は、広範囲に探査網を広げても感じられないし」
「こんな森の中で囲まれたりしたら、洒落にならんしな」
「それこそ私とあんたの失態になるわよね」
「縁起でも無い事を言うな」
隠密行動中であり、敵方に存在を知られる事自体が命取りになりかねない事から、馬に揺られつつも慎重に探査魔術を広げていたエリーシアだったが、至近距離に兵の存在も、敵方の魔術師の探索も受けていない事を確認していた。しかし何となく一抹の不安が拭えないまま、部隊が歩みを止める。
「さて、昨日立案した待機場所はこの辺りだと思いますが、どうですか? ルパート殿」
「その筈です」
先頭部にいた部隊の指揮官のアクセスがルパートに尋ねると、彼は真顔で頷いた。しかし木々の切れ目から見下ろす燎原に、レストン国の兵の姿など全く見えない為、アクセスは疑惑に満ちた視線を彼に向ける。
「ルパート殿。ここからだとレストン軍の部隊が全く見えない上、昨日、検討した地図上の地形と、ここから見える地形が違う気がするのだが?」
「いえ、確かにここで間違いありませんよ? 確かです」
しかしルパートが全く譲らない為、アクセスは忌々しげな表情になりながら、少し離れた所に居る魔術師二人に声をかけた。
「それを判断するのはこちらだ。エリー、サイラス!」
「はい」
「お呼びですか? 副司令官」
「至急、地形を上空から確認してくれ。あと、できるだけ気づかれない様に、レストン国の部隊の所在確認を頼む」
すぐに馬を下りて駆け寄ってきた二人に、アクセスは的確に指示を出す。
「分かりました。サイラス、上から見てくれる?」
「じゃあ、そっちは下から頼む」
「了解」
それを聞いた二人はルパートをチラッと見て(こいつ何かヘマをやったのか?)と思ったものの、すぐに意識を術式の方に集中した。
「シェス・エール・リェン・アル……」
「フィルタ・カン・メイム・ジャステ……」
「バンス・テラド・ルヴェン・デ・ボマ!!」
「何!?」
そして二人が探査の方に意識を集中し始めた為、何となく周囲の兵士達も二人に視線を合わせていた時、ルパートがいきなり大声で呪文を唱えたと思ったら、両腕を勢い良く上空に向かって突き上げた。すると彼の両手から明るい光球が飛び出して上昇し、かなりの高度で炸裂する。その軌跡は淡いピンク色でしっかり一直線に残っており、それが狼煙の一種だと瞬時に判断できたアクセスは、血相を変えてルパートに掴みかかった。
「貴様正気か! こんな所で何をする!」
敵陣の真っ只中でそんな行為をする意味を悟ったアクセスは憤怒の形相になったが、ルパートは未だに正確な事態を理解してはいないのか、勝ち誇った顔で悪態を吐いた。
「はっ、正気に決まってんだろ! 散々、俺達の事を馬鹿にしやがって! いい気味だ、このあばずれ女! 報いを受けろ!」
ここであまりの事態に呆気に取られていた近衛兵の中から、一人が進み出てルパートに詰め寄る。
「ふざけるな! エリーシアに迷惑をかけているのは、どこからどう見てもルーバンス公爵家一党の方だろうが!? 何を逆恨みしている!!」
「何だ貴様は! 引っ込んでろ!!」
「ミューラ・ヒャレム・キリエス」
抗議してきた兵士が憤怒の形相のまま、首から下げていたペンダントの鎖を乱暴に引きちぎりつつ呪文を唱えると、そのペンダントヘッドから溢れ出た光が彼の全身を包み、その光が消え去ると同時に王太子であるレオンの姿が現れた。
「レ、レオン殿下!?」
「あんた、何だってこんなとこに居るんですか!?」
ルパートが肝を潰し、アクセスが完全に怒りの声を上げたと同時に、サイラスとエリーシアの悲鳴じみた声がその場に響いた。
「副司令官殿、大変です! 完全に囲まれてます!」
「しかも向こうは、こちらの位置が分かっているみたいに、同心円状に接近してきます! 人数と方角はおおよそですが、北西30、北北西30、北20、北東10、東40、南50、南西20、西10! どうして!? これまでの魔術探査には、全然感じなかったのに!?」
「落ち着け、エリーシア。お前の探査に手落ちがあったわけじゃない。恐らく向こうは予め俺達の到達位置が分かっていたから、わざわざ魔術探査なんかをしないで、ひたすら遠距離から存在を消す事に集中していただけだ。探査はもういい」
「は、はい」
完全に声を裏返らせたエリーシアの報告を聞いて、アクセスは逆に落ち着いて腹を括った。そしてレオンの存在を知って真っ青になっているルパートに歩み寄り、問答無用で殴り倒す。
「相手も森の中じゃ、大部隊を展開できないだけマシってか……。取り敢えず」
「ぐわぁっ!!」
そしてアクセスは、気絶したらしく地面に横たわったルパートをゴミでも見る様な目つきで見下ろしながら、エリーシアに声高に言いつけた。
「エリー、この馬鹿野郎を馬に魔術で括り付けておいてくれ。落ち着いたらじっくり聞き出してやるからな!」
「分かりました」
そして素早く愛馬に騎乗しながら、矢継ぎ早に指示を出す。
「ここから離脱するぞ! エリー、サイラス、遠慮するな。全開でいけ。魔術使用制限を俺の権限で解除する。エリーは先頭、サイラスは最後尾だ。できるな!?」
「できます!」
「任せて下さい!」
「殿下! あんたへのお小言も後回しだ! あんたが居る以上、降伏なんて事はできん。周りの言う通りに動けよ!?」
「……分かった」
「全員、聞いたな? 殿下を中心に紡錘陣を取れ! 右後方に反転、突破する!!」
アクセスの剣幕に気圧されて頷いたレオンが騎乗するやいなや、ジェリドによって厳選されていた近衛兵が細かい役割分担など話し合わずとも、阿吽の呼吸で彼を取り囲んだ。それを確認したアクセスは彼の指揮官としての勘を頼りに、一番破れそうな方向に向かって、正面突破を試みた。
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