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第3章 蠢く陰謀
8.協定締結
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「私が知らない所で、色々迷惑をかけていたみたいで悪かったわね。その賭けと噂のせいで、ディオン同様私の婿候補とか思われて、一部から反感を買ってたって事よね?」
「いや、それはあまり気にしていない。トレリア国に居た頃は、もっとえげつない嫌がらせを受けた事もあったからな。ディオンも元々下級貴族だから嫌がらせとかには慣れてるし、アクセスさんは根っからの平民だし。それなのに副官をやってるからって、近衛軍内で妬まれる事も多いらしい」
「へえ? そうなんだ」
予想外に淡々と言われたエリーシアは肩すかしを食らった気分だったが、ここでサイラスが顔付きを改め、話題を変えてきた。
「エリー、話を元に戻すが……。王太子殿下はこれまではっきり意思表示してないか、してもお前が気が付かずにスルーしてるだけで、お前に惚れてるんだ。あくまで第三者としての立場からの、観察の結果なんだがな。それでお前、どうする気だ?」
いきなり問いかけられて、流石にエリーシアは面食らった。
「ちょっと待って。何よ、その一足飛びの議論は? 本人から何も言われてないのに、どうこうしようがないでしょうが?」
彼女としては当然の訴えだったのだが、サイラスは渋面になりながら話を続ける。
「そういう場面になった時に、動揺して流されて、気が付いたら決まってたって事態にはなって欲しくないからな」
「私、そんなに意思は弱くない方だと思うけど?」
はっきりと面白く無さそうな顔になった彼女に、サイラスが辛抱強く言い聞かせる。
「それは分かってはいるが、お前はれっきとした公爵令嬢で伯爵だからな。本人が気にしてなくても、色々しがらみは多いと思う。尤も、お前が本気で王太子に惚れてるってなら話は別だが。……でも本音を言えば、それでも王太子とは結婚して欲しくないが」
サイラスがそんな事を真顔で言い出した為、エリーシアはつい、からかう様な口調で尋ねてみた。
「あら、何よそれ? まさかあんたまで私の事が好きだとでも、言うつもりじゃないでしょうね?」
「惚れてるぞ? その魔術師としての腕に」
サラッと言われた内容が、頭の中に浸透するまで数秒かかったエリーシアは、相変わらず真剣な表情を保っている同僚の顔を、穴が開くほど凝視してから静かに感想を述べた。
「……へえ? 何か混じり気無しの賞賛の言葉なんて、初めて聞いた気がするんだけど?」
「一応言っておくが、ふざけているんじゃないぞ? それに口に出すと結構恥ずかしいから、恐らく今後は口にしないと思うから、心して聞いとけ」
「拝聴します」
互いに真面目にそんな会話を交わしてから、サイラスは軽く息を整えてから一気に言い切った。
「お前は変な所で常識は無いし、無頓着だし、傍若無人な所はあるが、その膨大な魔力と、それを縦横無尽に操れる行使力と、型に囚われない柔軟な発想に、俺は本気で羨ましいと思ってるし、心酔してるんだ。一魔術師としては悔し過ぎるから普段は口に出さないが、色々粗削りな所があっても、お前だったら女でも王宮専属魔術師長に就任できる力量はあるだろうし、その下で働いても良いと思ってる」
そんな事を面と向かって言われたエリーシアは、流石に照れくさくなって人差し指で軽く頬を掻きつつ、礼を述べた。
「面映ゆいわね、そこまで真面目に褒められると。まあ、高評価してくれてありがとう」
そこですかさずサイラスが、顔をしかめながら言葉を継いでくる。
「それは良いんだが……、王太子なんかと結婚してみろ。まさか王太子妃が魔術師として、男ばかりの中で働くわけにいかないだろうが?」
「それは確かに、そうでしょうねぇ……」
その指摘にエリーシアが考え込みながら同意すると、サイラスがきっぱりと言い切った。
「だから、お前にその気がないのに、王太子との縁談がゴリ押しされる事態になったら、全力でぶち壊してやるからそのつもりでな」
それを聞いたエリーシアは驚いた表情になって何回か瞬きしてから、口元を緩めた。
「うっわ、今の何か、愛の告白っぽい。笑えるわ」
それにサイラスも苦笑しながら、一言付け加える。
「言ってろ。だけどお前が本気で殿下に惚れたってんなら、潔く一緒に働くのは諦めてやるから、早めに言えよ?」
「そういう事には、ならないとは思うけどね……」
自嘲気味に肩を竦めたものの、エリーシアはすぐにいつもの顔になって宣言した。
「分かったわ、その時はあんたに一番先に言うから。普段の言動にも、もう少し気を付ける様にするし」
それを聞いたサイラスは、晴れ晴れとした笑顔になって、力強く頷いた。
「よし。これで小難しい話は終わりだ。抜かりなく従軍準備を済ませて、事に乗じて何かを仕掛けてこようなんて不心得者は撃退して、さっさと国境から引き上げるぞ?」
そう促すと、エリーシアも嬉々として頷く。
「それには全面的に賛成。意地と見栄の張り合いでの紛争に、長々と関わり合うのはごめんだし、欲の皮の突っ張った狸の手下の鼠ごとき、ちょっかい出してきても捻り潰してやるわ。ところで準備って、ちゃんと進んでるの?」
「勿論。俺なりの考え得るだけの自衛策を、腕によりをかけて作成中だ」
「それは見るのが楽しみだわ」
ニヤリと皮肉っぽく笑った彼女を、サイラスが同様の笑顔で窘める。
「おい、エリー。そういう物は、使わないに越した事はないんじゃないのか?」
「それは確かにそうなんだけどね……。せっかく準備したのに、使わないなんて勿体無いじゃない。使わずに済んだのは、戻ってから披露して見せてよ。どんなのを準備したのか興味があるし」
にこにこと促してくるエリーシアに、サイラスは苦笑して交換条件を出した。
「仕方のない奴だな。分かった。未使用の物は、戻ってから魔術師内で披露する事にするが、ちゃんとお前のも披露しろよ?」
「勿論、それ位分かってるわよ」
笑って頷いたエリーシアは、それから食べるのを再開し、その合間にサイラスと術式についての議論を交わしながら、充実した一時を過ごした。
「いや、それはあまり気にしていない。トレリア国に居た頃は、もっとえげつない嫌がらせを受けた事もあったからな。ディオンも元々下級貴族だから嫌がらせとかには慣れてるし、アクセスさんは根っからの平民だし。それなのに副官をやってるからって、近衛軍内で妬まれる事も多いらしい」
「へえ? そうなんだ」
予想外に淡々と言われたエリーシアは肩すかしを食らった気分だったが、ここでサイラスが顔付きを改め、話題を変えてきた。
「エリー、話を元に戻すが……。王太子殿下はこれまではっきり意思表示してないか、してもお前が気が付かずにスルーしてるだけで、お前に惚れてるんだ。あくまで第三者としての立場からの、観察の結果なんだがな。それでお前、どうする気だ?」
いきなり問いかけられて、流石にエリーシアは面食らった。
「ちょっと待って。何よ、その一足飛びの議論は? 本人から何も言われてないのに、どうこうしようがないでしょうが?」
彼女としては当然の訴えだったのだが、サイラスは渋面になりながら話を続ける。
「そういう場面になった時に、動揺して流されて、気が付いたら決まってたって事態にはなって欲しくないからな」
「私、そんなに意思は弱くない方だと思うけど?」
はっきりと面白く無さそうな顔になった彼女に、サイラスが辛抱強く言い聞かせる。
「それは分かってはいるが、お前はれっきとした公爵令嬢で伯爵だからな。本人が気にしてなくても、色々しがらみは多いと思う。尤も、お前が本気で王太子に惚れてるってなら話は別だが。……でも本音を言えば、それでも王太子とは結婚して欲しくないが」
サイラスがそんな事を真顔で言い出した為、エリーシアはつい、からかう様な口調で尋ねてみた。
「あら、何よそれ? まさかあんたまで私の事が好きだとでも、言うつもりじゃないでしょうね?」
「惚れてるぞ? その魔術師としての腕に」
サラッと言われた内容が、頭の中に浸透するまで数秒かかったエリーシアは、相変わらず真剣な表情を保っている同僚の顔を、穴が開くほど凝視してから静かに感想を述べた。
「……へえ? 何か混じり気無しの賞賛の言葉なんて、初めて聞いた気がするんだけど?」
「一応言っておくが、ふざけているんじゃないぞ? それに口に出すと結構恥ずかしいから、恐らく今後は口にしないと思うから、心して聞いとけ」
「拝聴します」
互いに真面目にそんな会話を交わしてから、サイラスは軽く息を整えてから一気に言い切った。
「お前は変な所で常識は無いし、無頓着だし、傍若無人な所はあるが、その膨大な魔力と、それを縦横無尽に操れる行使力と、型に囚われない柔軟な発想に、俺は本気で羨ましいと思ってるし、心酔してるんだ。一魔術師としては悔し過ぎるから普段は口に出さないが、色々粗削りな所があっても、お前だったら女でも王宮専属魔術師長に就任できる力量はあるだろうし、その下で働いても良いと思ってる」
そんな事を面と向かって言われたエリーシアは、流石に照れくさくなって人差し指で軽く頬を掻きつつ、礼を述べた。
「面映ゆいわね、そこまで真面目に褒められると。まあ、高評価してくれてありがとう」
そこですかさずサイラスが、顔をしかめながら言葉を継いでくる。
「それは良いんだが……、王太子なんかと結婚してみろ。まさか王太子妃が魔術師として、男ばかりの中で働くわけにいかないだろうが?」
「それは確かに、そうでしょうねぇ……」
その指摘にエリーシアが考え込みながら同意すると、サイラスがきっぱりと言い切った。
「だから、お前にその気がないのに、王太子との縁談がゴリ押しされる事態になったら、全力でぶち壊してやるからそのつもりでな」
それを聞いたエリーシアは驚いた表情になって何回か瞬きしてから、口元を緩めた。
「うっわ、今の何か、愛の告白っぽい。笑えるわ」
それにサイラスも苦笑しながら、一言付け加える。
「言ってろ。だけどお前が本気で殿下に惚れたってんなら、潔く一緒に働くのは諦めてやるから、早めに言えよ?」
「そういう事には、ならないとは思うけどね……」
自嘲気味に肩を竦めたものの、エリーシアはすぐにいつもの顔になって宣言した。
「分かったわ、その時はあんたに一番先に言うから。普段の言動にも、もう少し気を付ける様にするし」
それを聞いたサイラスは、晴れ晴れとした笑顔になって、力強く頷いた。
「よし。これで小難しい話は終わりだ。抜かりなく従軍準備を済ませて、事に乗じて何かを仕掛けてこようなんて不心得者は撃退して、さっさと国境から引き上げるぞ?」
そう促すと、エリーシアも嬉々として頷く。
「それには全面的に賛成。意地と見栄の張り合いでの紛争に、長々と関わり合うのはごめんだし、欲の皮の突っ張った狸の手下の鼠ごとき、ちょっかい出してきても捻り潰してやるわ。ところで準備って、ちゃんと進んでるの?」
「勿論。俺なりの考え得るだけの自衛策を、腕によりをかけて作成中だ」
「それは見るのが楽しみだわ」
ニヤリと皮肉っぽく笑った彼女を、サイラスが同様の笑顔で窘める。
「おい、エリー。そういう物は、使わないに越した事はないんじゃないのか?」
「それは確かにそうなんだけどね……。せっかく準備したのに、使わないなんて勿体無いじゃない。使わずに済んだのは、戻ってから披露して見せてよ。どんなのを準備したのか興味があるし」
にこにこと促してくるエリーシアに、サイラスは苦笑して交換条件を出した。
「仕方のない奴だな。分かった。未使用の物は、戻ってから魔術師内で披露する事にするが、ちゃんとお前のも披露しろよ?」
「勿論、それ位分かってるわよ」
笑って頷いたエリーシアは、それから食べるのを再開し、その合間にサイラスと術式についての議論を交わしながら、充実した一時を過ごした。
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