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第4章 それぞれの結末
(5)急展開
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「その……、正直に言うと、篤志芸術展で姿を見かけた時から、君の事は気になっていて……。直接顔を合わせるようになって、その気持ちが強くなっていったんだ」
「は? いえ、あのですね」
予想外の事を言われて混乱しているリディアとは対照的に、話を切り出してしまった上は、徹底的に話しきるつもりのランディスは、落ち着き払って話を続けた。
「それでこの間色々考えて、やっぱり結婚するなら君しかいないと思って」
「ちょっと待ってください! いきなりそんな事を言われても! それに私、普通の平民ですよ!? 王子様と結婚なんて、どう考えても無理じゃ無いですか!!」
唖然としていたものの「結婚」云々の台詞が飛び出した事で、急に我に返った彼女は、慌てて制止した。その指摘に、ランディスが冷静に応じる。
「ああ、確かに王子のままなら、平民の君との結婚は無理だね」
「そうですよね!」
「だから、私が王子でなくなれば良いし、君が書類上で貴族になれれば問題無いわけだ」
「え?」
無理だと言われて安堵した直後に淡々と指摘された内容を聞いて、リディアは再び混乱した。そんな彼女に、ランディスが説明を加える。
「幸い、兄上には先だって息子が生まれたから、当面、王位継承に不安は無い。既に両親や兄夫婦と内々に相談して、王族籍から抜ける許可を貰ってある」
「『抜ける許可を貰ってある』って! 間違ってもそんなにあっさり、言う事ではありませんよね!?」
さすがに声を荒げたリディアだったが、それを見たランディスは苦笑いした。
「あっさり言っているけど、実際はあっさり済むものでは無いよ。一代限りの公爵位を賜る事になって、住居は王宮内にある、独立した離れの一つを使う事になるし。幸い領地は無くとも、官吏としての仕事は続けるし、贅沢をしなければ現有資産で生活には困らない」
「何を勝手に、一人で色々決めてるんですか!」
「そうだね。だから君にも一緒に、色々考えて貰いたいんだ。形式上だけでも貴族になって、堅苦しい思いをさせる事になるし」
そこで漸くリディアは、先程の話に合点がいった。
「だからニルグァさんと、養子縁組をする事になると?」
「そういう事。彼は爵位の継承権は無いし、人柄も問題は無いしね」
既にお膳立ては済んでいる流れに、リディアは尤もらしい事を口にしてみた。
「殿下なら、別に私みたいな平民の行き遅れなんか相手にしなくても、貴族のお嬢様を選び放題では無いんですか?」
「これが、そうでも無いんだよ。私は兄上と比べると、地味で華が無くてね。気の利いた会話とかも苦手で、愛想も悪いし」
「そうは思えませんが」
「リディアとは、話していて楽しいからね」
「…………っ」
本気の笑みと分かる表情で告げられた為、彼女は咄嗟に言い返せず、困惑顔で口を噤んだ。そこですかさずランディスが、反論する隙を与えずに踵を返す。
「とにかくそういう事だから、私との結婚を考えて欲しい。返事はもう少し先で良いから。それじゃあ、このリストを騎士団長に提出する必要があるから、失礼するよ」
「はい……、失礼します」
反射的に頭を下げて見送ったものの、リディアはその場に一人取り残されてから、呆然と呟く。
「結婚? 私が、殿下と? ……え?」
そのまま少しの間立ち尽くしていたが、こんな事をしていても埒が明かないと思い返たリディアは、騎士団の執務棟を出て、本来の勤務場所である後宮に向かって歩き出した。するとここでアルティナが、背後から近付いて来て不思議そうに声をかける。
「リディア? こんな時間に、こんな所でどうしたの? 今日は朝から、王妃様の視察の随行予定じゃなかった?」
「それが今朝になって、急に予定が変わったのよ」
「そうだったの。それじゃあね」
そこで横をすり抜けようとしたアルティナだったが、そんな彼女の肩をリディアが素早く掴んで引き止めた。
「アルティナ、ちょっと待って。確か今日はお昼からの勤務で、まだ時間は有るわよね?」
「え、ええ……。それはそうだけど。どうかしたの? そんなに怖い顔をして」
「いいから、こっちに来て!」
「分かったから、引っ張らないで!」
まだ騎士団執務棟からさほど離れていなかったのを幸い、リディアはアルティナの手を引っ張りながら執務棟に逆戻りし、そのまま朝から主が不在のナスリーンの執務室に入り込んだ。
「失礼します!」
一応ノックして室内に入ったリディアは、アルティナを引き込んだ後、ドアを閉めて安堵したように溜め息を吐いた。
「今日は隊長が休暇で助かったわ。ここなら人目に付かないし、盗み聞きされる心配も無いわよね?」
「それはそうでしょうけど……、隊長室に勝手に入った上に、私用で使って良いのかしら?」
「あまり褒められない行為だとは分かっているけど、あまり他人の耳には入れたくないのよ。アルティナ、本当にここだけの話にして欲しいんだけど」
「ええ。絶対口外しないわ。何かしら?」
真面目なリディアであれば、普段は間違ってもしないであろう乱暴な行動に、何か切羽詰まった事情でも生じたのかとアルティナは軽く身構えたが、次の瞬間聞かされた内容は、ある意味予想外である意味予想通りだった。
「実は……、ついさっきランディス殿下に、結婚を考えて欲しいと言われたの。どう思う? 無茶苦茶過ぎるわよね?」
怖い位真剣な表情で切り出したリディアだったが、それを聞いたアルティナは、若干拍子抜けした。
「……あら、やっと? 良かったわ。殿下をど突く羽目にならなくて」
思わず気の抜けた表情で呟いた相手を見て呆気に取られたリディアは、次の瞬間猛烈に怒り出し、アルティナに掴みかかりながら抗議した。
「アルティナ! 何なの、その反応? まさかあなた、殿下が私に求婚する事を知っていたの!? 知っていて黙っていたわけ!? あんまりじゃない!!」
「ちょっと弁解させて! 別に面白がって、黙っていたわけじゃないのよ!? だってリディアは全然殿下の気持ちに気付いてないし、殿下はぐずぐずしているし、部外者が他人の恋愛話なんてデリケートは事柄に、好き勝手に口を挟むわけにはいかないじゃない!」
「それはそうかもしれないけど!?」
「それで、これまではともかく、これからはどうするの?」
そこで急に真顔になったアルティナに問い返され、リディアは思わず口ごもった。
「どうって……、殿下は王族から抜けるとか、私をニルグァさんの養女にするとか色々言っていたけど……」
「立場的なものはともかく、殿下個人に対するあなたの気持ちはどうなの?」
「どう、って言われても……」
微妙に自分から視線を逸らしつつ煮え切らない返事しかしないリディアに対して、アルティナは怒り出したりはせず、苦笑しながら言い聞かせた。
「とにかく、突然殿下から予想外の話を聞かされて、凄く混乱しているのは分かるし、今日はこれから取り敢えず通常業務をこなして、夜にゆっくり考えれば良いわよ。殿下だってすぐに返事が欲しいとかは、言って無かったでしょう?」
「それは、そうだけど……」
「私は、結構お似合いだと思うけどね。それじゃあ、そろそろ行くわね」
「……ええ」
最後は少し無責任な事を言ってしまったかとアルティナは密かに反省したが、リディアはおとなしく頷き、そこで二人は隊長室から出て、それぞれの目的地に向かって歩き出した。
「やっと告白までこぎつけたみたいだけど、やっぱり色々面倒そうね。私としてはランディス殿下に、これまで以上の奮闘を期待したいけど……。できるかしら?」
そんな結構失礼な独り言を呟いたアルティナは、小さく肩を竦めてから再び無言で歩き続けた。
「は? いえ、あのですね」
予想外の事を言われて混乱しているリディアとは対照的に、話を切り出してしまった上は、徹底的に話しきるつもりのランディスは、落ち着き払って話を続けた。
「それでこの間色々考えて、やっぱり結婚するなら君しかいないと思って」
「ちょっと待ってください! いきなりそんな事を言われても! それに私、普通の平民ですよ!? 王子様と結婚なんて、どう考えても無理じゃ無いですか!!」
唖然としていたものの「結婚」云々の台詞が飛び出した事で、急に我に返った彼女は、慌てて制止した。その指摘に、ランディスが冷静に応じる。
「ああ、確かに王子のままなら、平民の君との結婚は無理だね」
「そうですよね!」
「だから、私が王子でなくなれば良いし、君が書類上で貴族になれれば問題無いわけだ」
「え?」
無理だと言われて安堵した直後に淡々と指摘された内容を聞いて、リディアは再び混乱した。そんな彼女に、ランディスが説明を加える。
「幸い、兄上には先だって息子が生まれたから、当面、王位継承に不安は無い。既に両親や兄夫婦と内々に相談して、王族籍から抜ける許可を貰ってある」
「『抜ける許可を貰ってある』って! 間違ってもそんなにあっさり、言う事ではありませんよね!?」
さすがに声を荒げたリディアだったが、それを見たランディスは苦笑いした。
「あっさり言っているけど、実際はあっさり済むものでは無いよ。一代限りの公爵位を賜る事になって、住居は王宮内にある、独立した離れの一つを使う事になるし。幸い領地は無くとも、官吏としての仕事は続けるし、贅沢をしなければ現有資産で生活には困らない」
「何を勝手に、一人で色々決めてるんですか!」
「そうだね。だから君にも一緒に、色々考えて貰いたいんだ。形式上だけでも貴族になって、堅苦しい思いをさせる事になるし」
そこで漸くリディアは、先程の話に合点がいった。
「だからニルグァさんと、養子縁組をする事になると?」
「そういう事。彼は爵位の継承権は無いし、人柄も問題は無いしね」
既にお膳立ては済んでいる流れに、リディアは尤もらしい事を口にしてみた。
「殿下なら、別に私みたいな平民の行き遅れなんか相手にしなくても、貴族のお嬢様を選び放題では無いんですか?」
「これが、そうでも無いんだよ。私は兄上と比べると、地味で華が無くてね。気の利いた会話とかも苦手で、愛想も悪いし」
「そうは思えませんが」
「リディアとは、話していて楽しいからね」
「…………っ」
本気の笑みと分かる表情で告げられた為、彼女は咄嗟に言い返せず、困惑顔で口を噤んだ。そこですかさずランディスが、反論する隙を与えずに踵を返す。
「とにかくそういう事だから、私との結婚を考えて欲しい。返事はもう少し先で良いから。それじゃあ、このリストを騎士団長に提出する必要があるから、失礼するよ」
「はい……、失礼します」
反射的に頭を下げて見送ったものの、リディアはその場に一人取り残されてから、呆然と呟く。
「結婚? 私が、殿下と? ……え?」
そのまま少しの間立ち尽くしていたが、こんな事をしていても埒が明かないと思い返たリディアは、騎士団の執務棟を出て、本来の勤務場所である後宮に向かって歩き出した。するとここでアルティナが、背後から近付いて来て不思議そうに声をかける。
「リディア? こんな時間に、こんな所でどうしたの? 今日は朝から、王妃様の視察の随行予定じゃなかった?」
「それが今朝になって、急に予定が変わったのよ」
「そうだったの。それじゃあね」
そこで横をすり抜けようとしたアルティナだったが、そんな彼女の肩をリディアが素早く掴んで引き止めた。
「アルティナ、ちょっと待って。確か今日はお昼からの勤務で、まだ時間は有るわよね?」
「え、ええ……。それはそうだけど。どうかしたの? そんなに怖い顔をして」
「いいから、こっちに来て!」
「分かったから、引っ張らないで!」
まだ騎士団執務棟からさほど離れていなかったのを幸い、リディアはアルティナの手を引っ張りながら執務棟に逆戻りし、そのまま朝から主が不在のナスリーンの執務室に入り込んだ。
「失礼します!」
一応ノックして室内に入ったリディアは、アルティナを引き込んだ後、ドアを閉めて安堵したように溜め息を吐いた。
「今日は隊長が休暇で助かったわ。ここなら人目に付かないし、盗み聞きされる心配も無いわよね?」
「それはそうでしょうけど……、隊長室に勝手に入った上に、私用で使って良いのかしら?」
「あまり褒められない行為だとは分かっているけど、あまり他人の耳には入れたくないのよ。アルティナ、本当にここだけの話にして欲しいんだけど」
「ええ。絶対口外しないわ。何かしら?」
真面目なリディアであれば、普段は間違ってもしないであろう乱暴な行動に、何か切羽詰まった事情でも生じたのかとアルティナは軽く身構えたが、次の瞬間聞かされた内容は、ある意味予想外である意味予想通りだった。
「実は……、ついさっきランディス殿下に、結婚を考えて欲しいと言われたの。どう思う? 無茶苦茶過ぎるわよね?」
怖い位真剣な表情で切り出したリディアだったが、それを聞いたアルティナは、若干拍子抜けした。
「……あら、やっと? 良かったわ。殿下をど突く羽目にならなくて」
思わず気の抜けた表情で呟いた相手を見て呆気に取られたリディアは、次の瞬間猛烈に怒り出し、アルティナに掴みかかりながら抗議した。
「アルティナ! 何なの、その反応? まさかあなた、殿下が私に求婚する事を知っていたの!? 知っていて黙っていたわけ!? あんまりじゃない!!」
「ちょっと弁解させて! 別に面白がって、黙っていたわけじゃないのよ!? だってリディアは全然殿下の気持ちに気付いてないし、殿下はぐずぐずしているし、部外者が他人の恋愛話なんてデリケートは事柄に、好き勝手に口を挟むわけにはいかないじゃない!」
「それはそうかもしれないけど!?」
「それで、これまではともかく、これからはどうするの?」
そこで急に真顔になったアルティナに問い返され、リディアは思わず口ごもった。
「どうって……、殿下は王族から抜けるとか、私をニルグァさんの養女にするとか色々言っていたけど……」
「立場的なものはともかく、殿下個人に対するあなたの気持ちはどうなの?」
「どう、って言われても……」
微妙に自分から視線を逸らしつつ煮え切らない返事しかしないリディアに対して、アルティナは怒り出したりはせず、苦笑しながら言い聞かせた。
「とにかく、突然殿下から予想外の話を聞かされて、凄く混乱しているのは分かるし、今日はこれから取り敢えず通常業務をこなして、夜にゆっくり考えれば良いわよ。殿下だってすぐに返事が欲しいとかは、言って無かったでしょう?」
「それは、そうだけど……」
「私は、結構お似合いだと思うけどね。それじゃあ、そろそろ行くわね」
「……ええ」
最後は少し無責任な事を言ってしまったかとアルティナは密かに反省したが、リディアはおとなしく頷き、そこで二人は隊長室から出て、それぞれの目的地に向かって歩き出した。
「やっと告白までこぎつけたみたいだけど、やっぱり色々面倒そうね。私としてはランディス殿下に、これまで以上の奮闘を期待したいけど……。できるかしら?」
そんな結構失礼な独り言を呟いたアルティナは、小さく肩を竦めてから再び無言で歩き続けた。
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