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第3章 陰謀
(15)急行
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結局、夜半に上がった火の手は、夜が明けようとする頃になって、漸く鎮火した。ハールド子爵邸があった町の広場に、急遽簡易の救護所兼避難所を設置し、保護した負傷者を取り敢えず集め、必要な処置も済ませてから、藍里は疲労感満載の溜め息を吐いた。
「はぁ……。これで何とか、鎮火できたわよね? 生存者も救出できた筈だし」
その呟きに、ハールド子爵家や、屋敷内に詰めていた家臣が殆ど死亡してしまった為、様々な指揮を取らざるをえなかったジーク達と同様に、先程まで駆けずり回っていたルーカスが、かなり棘のある口調で返す。
「ああ。殆どの火災が爆発の余波で二次的に炎上した物だったみたいだし、普通の火で助かった。これで水で消えない代物だったら、パニックが倍増だったぞ」
それを聞いた藍里が、ピクッと片眉を上げて反応した。
「随分、引っ掛かる物言いをしてくれるわね」
「当たり前だろう! よりにもよって、どうしてあんな物騒な物を持ち歩くんだ!?」
「好きで持ってたわけじゃないし、連中がちょっかい出して来なければ無害な代物だったわよ! 第一それのお陰で助かった癖に、何言ってるのよ!!」
そこで周囲の状況などお構いなしに、怒鳴り合いに突入しかけた二人だったが、唐突に藍里の背後から現れた人物によって、それを中断させられた。
「よう、藍里。予想外にピンピンしてるじゃないか。安心したぞ」
「悠理!?」
「アルデインに居る筈のお前が、どうしてここに!?」
予想外に出現した悠理に、すっかり度肝を抜かれて驚愕している二人に構わず、彼はどこかのんびりと周囲の様子を見回しながら、問いを発した。
「今回は本当に災難だったな。しかしこの近辺、酷い有様だな。何があった?」
「ちょっと待って、どうして悠理がこんな時に、こんな所にひょっこり現れるわけ?」
問いかけに質問で返された悠理は、苦笑いしながら事情を説明した。
「酷い言い草だな。ちょっと事情があって暫くリスベラントに来られなくなるから、何日か前に、央都の屋敷に置いてある荷物を整理しに出向いたんだ。その直後にデスナール領から、お前がルーカス殿下諸共消息不明になった知らせが届いて、慌てて公爵閣下が差し向けた捜索隊に入れて貰って、駆け付けたって言うのに。しかし目的のデスナール子爵領に入る前にこの騒ぎに出くわしたうえ、何故かお前達がここに雁首揃えているし。一体、何がどうなってるんだ?」
「それはどうも……。できれば、もうちょっと早く来てくれたら、こんな大事にならずに済んだんだけど」
最後は本気で困惑顔になった次兄に、藍里は一応申し訳なく思いながらも、つい恨み言を漏らした。その背後から、捜索隊の一員らしい壮年の男性が歩み寄り、恭しくルーカスに頭を下げる。
「お久しぶりです、ルーカス殿下。早速ですが、この事態は一体どういう事でしょうか?」
どうやら面識はあったらしく、挨拶を簡略化して険しい表情で尋ねてきた為、ルーカスは藍里に「公爵家直属の部隊長のアランだ」と簡潔に紹介してから、彼に重々しく事実を告げた。
「オランデュー伯爵とアメーリア姉上に依頼された、ハールド子爵家とその娘のデスナール子爵夫人が共謀して、俺とアイリ嬢を暗殺する計画だった。その見返りに、デスナール子爵と離縁した後、夫人が再婚した子爵の異母弟がデスナール子爵家を継ぐ事を認めて貰えるように、オランデュ-伯爵が後押しする密約があったらしい」
「何ですって!?」
「それは本当ですか、殿下!」
アランは勿論、彼に付き従ってきた兵士達も驚愕して顔色を変えたが、ルーカスは益々渋面になりながら言葉を継いだ。
「こんな事で、誰が嘘を言うか。しかも伯爵家子飼いの封魔師まで出向いていて、捕まって危うく殺されかけたぞ。幸い施していた策がうまく起動して、屋敷が爆発炎上した隙に逃げ出せて、事なきを得たがな」
「そうでしたか。それはようございました」
ここで何か言いたげにルーカスが藍里に視線を向けたが、結局余計な事は言わずに話を続けた。
「オランデュー伯爵子飼いの封魔師については、俺達に施しておいた拘束がかなり前に消えたから、もう死んでいるとは思うが。広場に集めた重軽傷者の中に伯爵の手下がいるのを確認したから、彼らから詳しい事が聞ける筈だ」
「勿論、そんな重大な離反行為を、このまま放置できません」
「さっそく生存者の確認と、罪状の調査を致します」
「そうしてくれ。それにハールド子爵の屋敷はこの通りで無理だろうが、レイチェル夫人とオランデュー伯爵との繋がりを示す物が、デスナール子爵邸に残されている可能性がある」
ルーカスがそう指摘すると、アランはすぐに部下達に指示を飛ばした。
「それではリューン。部隊の半数はここに残すから、お前は引き続き住民達の救助活動と生存者の取り調べを指揮してくれ。ハールド子爵家の者や、主だった家臣の働きが期待できないからな」
「了解しました」
「残りの者は、私と共にデスナール子爵領へ向かうぞ」
「はい」
「すぐに全員に伝達します」
そして付近に散らばっていた部下達に指示を出したアランは、逆に彼等に呼ばれて集まって来たジーク達に、険しい表情のまま申し出た。
「皆様、お疲れの所を申し訳ありませんが、ここでは十分休めませんし、証拠隠滅の可能性もありますので、これからすぐに子爵領までの移動をお願いします」
それは確かにちょっと勘弁して欲しい申し出ではあったが、それを拒否できるだけの理由を持たなかったジーク達は、溜め息を飲み込んでアランに頷いて見せた。
「分かりました。至急移動しましょう」
そして幾つかの詳細についてのやり取りをしてから、彼等はアランの部下が調達してきた馬に飛び乗り、隣接するデスナール領のザルべスに向かって一斉に駆け出した。
「はぁ……。これで何とか、鎮火できたわよね? 生存者も救出できた筈だし」
その呟きに、ハールド子爵家や、屋敷内に詰めていた家臣が殆ど死亡してしまった為、様々な指揮を取らざるをえなかったジーク達と同様に、先程まで駆けずり回っていたルーカスが、かなり棘のある口調で返す。
「ああ。殆どの火災が爆発の余波で二次的に炎上した物だったみたいだし、普通の火で助かった。これで水で消えない代物だったら、パニックが倍増だったぞ」
それを聞いた藍里が、ピクッと片眉を上げて反応した。
「随分、引っ掛かる物言いをしてくれるわね」
「当たり前だろう! よりにもよって、どうしてあんな物騒な物を持ち歩くんだ!?」
「好きで持ってたわけじゃないし、連中がちょっかい出して来なければ無害な代物だったわよ! 第一それのお陰で助かった癖に、何言ってるのよ!!」
そこで周囲の状況などお構いなしに、怒鳴り合いに突入しかけた二人だったが、唐突に藍里の背後から現れた人物によって、それを中断させられた。
「よう、藍里。予想外にピンピンしてるじゃないか。安心したぞ」
「悠理!?」
「アルデインに居る筈のお前が、どうしてここに!?」
予想外に出現した悠理に、すっかり度肝を抜かれて驚愕している二人に構わず、彼はどこかのんびりと周囲の様子を見回しながら、問いを発した。
「今回は本当に災難だったな。しかしこの近辺、酷い有様だな。何があった?」
「ちょっと待って、どうして悠理がこんな時に、こんな所にひょっこり現れるわけ?」
問いかけに質問で返された悠理は、苦笑いしながら事情を説明した。
「酷い言い草だな。ちょっと事情があって暫くリスベラントに来られなくなるから、何日か前に、央都の屋敷に置いてある荷物を整理しに出向いたんだ。その直後にデスナール領から、お前がルーカス殿下諸共消息不明になった知らせが届いて、慌てて公爵閣下が差し向けた捜索隊に入れて貰って、駆け付けたって言うのに。しかし目的のデスナール子爵領に入る前にこの騒ぎに出くわしたうえ、何故かお前達がここに雁首揃えているし。一体、何がどうなってるんだ?」
「それはどうも……。できれば、もうちょっと早く来てくれたら、こんな大事にならずに済んだんだけど」
最後は本気で困惑顔になった次兄に、藍里は一応申し訳なく思いながらも、つい恨み言を漏らした。その背後から、捜索隊の一員らしい壮年の男性が歩み寄り、恭しくルーカスに頭を下げる。
「お久しぶりです、ルーカス殿下。早速ですが、この事態は一体どういう事でしょうか?」
どうやら面識はあったらしく、挨拶を簡略化して険しい表情で尋ねてきた為、ルーカスは藍里に「公爵家直属の部隊長のアランだ」と簡潔に紹介してから、彼に重々しく事実を告げた。
「オランデュー伯爵とアメーリア姉上に依頼された、ハールド子爵家とその娘のデスナール子爵夫人が共謀して、俺とアイリ嬢を暗殺する計画だった。その見返りに、デスナール子爵と離縁した後、夫人が再婚した子爵の異母弟がデスナール子爵家を継ぐ事を認めて貰えるように、オランデュ-伯爵が後押しする密約があったらしい」
「何ですって!?」
「それは本当ですか、殿下!」
アランは勿論、彼に付き従ってきた兵士達も驚愕して顔色を変えたが、ルーカスは益々渋面になりながら言葉を継いだ。
「こんな事で、誰が嘘を言うか。しかも伯爵家子飼いの封魔師まで出向いていて、捕まって危うく殺されかけたぞ。幸い施していた策がうまく起動して、屋敷が爆発炎上した隙に逃げ出せて、事なきを得たがな」
「そうでしたか。それはようございました」
ここで何か言いたげにルーカスが藍里に視線を向けたが、結局余計な事は言わずに話を続けた。
「オランデュー伯爵子飼いの封魔師については、俺達に施しておいた拘束がかなり前に消えたから、もう死んでいるとは思うが。広場に集めた重軽傷者の中に伯爵の手下がいるのを確認したから、彼らから詳しい事が聞ける筈だ」
「勿論、そんな重大な離反行為を、このまま放置できません」
「さっそく生存者の確認と、罪状の調査を致します」
「そうしてくれ。それにハールド子爵の屋敷はこの通りで無理だろうが、レイチェル夫人とオランデュー伯爵との繋がりを示す物が、デスナール子爵邸に残されている可能性がある」
ルーカスがそう指摘すると、アランはすぐに部下達に指示を飛ばした。
「それではリューン。部隊の半数はここに残すから、お前は引き続き住民達の救助活動と生存者の取り調べを指揮してくれ。ハールド子爵家の者や、主だった家臣の働きが期待できないからな」
「了解しました」
「残りの者は、私と共にデスナール子爵領へ向かうぞ」
「はい」
「すぐに全員に伝達します」
そして付近に散らばっていた部下達に指示を出したアランは、逆に彼等に呼ばれて集まって来たジーク達に、険しい表情のまま申し出た。
「皆様、お疲れの所を申し訳ありませんが、ここでは十分休めませんし、証拠隠滅の可能性もありますので、これからすぐに子爵領までの移動をお願いします」
それは確かにちょっと勘弁して欲しい申し出ではあったが、それを拒否できるだけの理由を持たなかったジーク達は、溜め息を飲み込んでアランに頷いて見せた。
「分かりました。至急移動しましょう」
そして幾つかの詳細についてのやり取りをしてから、彼等はアランの部下が調達してきた馬に飛び乗り、隣接するデスナール領のザルべスに向かって一斉に駆け出した。
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