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後日談ーもう一度あの時をー 双子の義弟・終
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帰国してからしばらくして、外出から部屋に戻った郁はベッドの上に並べられたものを見て目を疑った。
「一花……これ、どうしたんだ」
「シアトルにいる間にカナさんにお店教えてもらって、買い足したんだ。郁に似合いそうなのいっぱいあって、選べなくてたくさん買っちゃったよ」
行商人のように隣に座って品定めをする室見に訊くと、にこりと笑って答える。
ベッドの上には、色とりどりでデザインも様々な、下着、のようなものが敷き詰められるように置かれていた。そのほとんどが大事な部分に布が無く、本来の下着の用途は果たせなさそうなものばかり……間違いなく、セックス用のアイテムだった。
「また予定外のヒートになったら……あのヒートは、これが原因だと思う」
「その時は俺がおさめてあげるから、大丈夫。俺がずっとそばにいるから」
耳まで赤くなった郁のそばに寄ると、室見はちゅっと軽くキスをして、大丈夫と自信満々に微笑む。
一花の会社は一体どうなっているんだ、社長の息子がこんなに頻繁に一、二週間休暇を取っても問題はないのか?
怪訝そうな表情を浮かべる郁に、郁の疑問を察した室見はとても機嫌が良さそうに笑った。
「大丈夫。俺ボンボンってやつだし、優秀だから引き継ぎも完璧だよ。郁はヒート不全が治ったら、また学校に戻るつもりでしょ? そしたらお互い仕事で時間を取りにくくなる。今みたいにゆっくり二人で過ごす時間は貴重だよ。だから、今を大事にしたいんだ」
そう言うなり、室見は時間が惜しいとばかりに郁の腰に手を回し引き寄せた。
室見の言うことも、もっともかもしれないと郁が考える間に、キスが降りてくる。
瞳を閉じた室見の顔は、満ち足りているように見えた。シアトルで母親に“幸せでしょう”と指摘された時、自分もこんな顔をしていたのかもしれないな、と郁は思う。
室見と番になった時は、とても苦しい思いをしてつらかった。簡単では無かったけれど、再会して良い関係を結びつつある今はとても満ち足りている。
もしかしたら、何年、何十年後かにも、こんな風に今のことを思い返すのかもしれない。
もう一度あのときを、過ごしたいと。
深くなっていくキスに落ちながら、郁は頭の片隅でそう思った。
fin.
帰国してからしばらくして、外出から部屋に戻った郁はベッドの上に並べられたものを見て目を疑った。
「一花……これ、どうしたんだ」
「シアトルにいる間にカナさんにお店教えてもらって、買い足したんだ。郁に似合いそうなのいっぱいあって、選べなくてたくさん買っちゃったよ」
行商人のように隣に座って品定めをする室見に訊くと、にこりと笑って答える。
ベッドの上には、色とりどりでデザインも様々な、下着、のようなものが敷き詰められるように置かれていた。そのほとんどが大事な部分に布が無く、本来の下着の用途は果たせなさそうなものばかり……間違いなく、セックス用のアイテムだった。
「また予定外のヒートになったら……あのヒートは、これが原因だと思う」
「その時は俺がおさめてあげるから、大丈夫。俺がずっとそばにいるから」
耳まで赤くなった郁のそばに寄ると、室見はちゅっと軽くキスをして、大丈夫と自信満々に微笑む。
一花の会社は一体どうなっているんだ、社長の息子がこんなに頻繁に一、二週間休暇を取っても問題はないのか?
怪訝そうな表情を浮かべる郁に、郁の疑問を察した室見はとても機嫌が良さそうに笑った。
「大丈夫。俺ボンボンってやつだし、優秀だから引き継ぎも完璧だよ。郁はヒート不全が治ったら、また学校に戻るつもりでしょ? そしたらお互い仕事で時間を取りにくくなる。今みたいにゆっくり二人で過ごす時間は貴重だよ。だから、今を大事にしたいんだ」
そう言うなり、室見は時間が惜しいとばかりに郁の腰に手を回し引き寄せた。
室見の言うことも、もっともかもしれないと郁が考える間に、キスが降りてくる。
瞳を閉じた室見の顔は、満ち足りているように見えた。シアトルで母親に“幸せでしょう”と指摘された時、自分もこんな顔をしていたのかもしれないな、と郁は思う。
室見と番になった時は、とても苦しい思いをしてつらかった。簡単では無かったけれど、再会して良い関係を結びつつある今はとても満ち足りている。
もしかしたら、何年、何十年後かにも、こんな風に今のことを思い返すのかもしれない。
もう一度あのときを、過ごしたいと。
深くなっていくキスに落ちながら、郁は頭の片隅でそう思った。
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初めまして。楽しく読ませてもらってます。
今のところ とても切ない…。幸せになって欲しいです。更新楽しみにしています。
コメントありがとうございます。
楽しみにして頂けてとっても嬉しいです。
ハッピーエンドの予定ですが、切ない展開も多いかもしれません。
返信の仕方がわからず遅くなってしまいました。すみません💦