教科書通りの恋を教えて

山鳩由真

文字の大きさ
上 下
91 / 108

後日談ーもう一度あの時をー 双子の義弟15

しおりを挟む


 墓参りの後、また少し観光して、その夜はカナと郁の家に泊まった。
 ノアの心臓は、墓参りで郁の笑顔を見てからずっとバクバクと早鐘を打っていた。性別検査を受ける前のウィリー、ノアは母親たちに勧められて郁と三人で風呂に入り、郁の部屋で寝ることになった。
 整頓された部屋の中に、布団が敷き詰められていた。

「ここが俺の部屋だよ。布団でも眠れるかな?」

「俺はどこでも寝れるのが特技なんだ。それにノアもよくゲームしながら机で寝てるし大丈夫だと思うな……イテッ」

 むすっと唇を引き結んだ顔のノアが、調子よく応えたウィリーの足を踏んだ。ウィリーは「なんだよ、本当のことじゃん」とノアを恨めしげに睨む。その様子を見て郁がくすりと笑った。

「二人とも仲がいいんだね。俺は兄弟がいないから、羨ましいよ」

 その笑顔が寂しそうに見えて、ウィリーは慌ててフォローした。

「郁だって、もう俺たちと兄弟だから、仲良くしようよ!」

「そうか。そうだね」

 郁の驚いた顔が、嬉しそうな顔に変わる。
 そして……

「「わっ……?!」」

 ぎゅうっと細い腕が二人を抱き締めた。

「ありがとう。my little bro」

 郁に頬をすり寄せられて、ウィリーも、そしてノアもゆでダコのように顔を赤くしてしばらく硬直してしまった。


 布団に入るとすぐに寝息が聞こえてきて、ノアはウィリーが羨ましいくらいだった。
 こんな状況でなんで寝られるんだ。
 布団の真ん中の郁の右腕をウィリーが、左腕をノアが抱き枕のように抱き締めて寝ていた。どんな状況でも寝られると豪語したウィリーの寝息が疎ましい。左右から体温の高い子供二人にくっつかれている郁の左腕はしっとりと汗ばんでいた。そのせいもあるのか、昼間は気づかなかった“良い匂い”が強く感じられた。呼吸と見せかけてその匂いを胸いっぱいに吸い込むと、なんとも言えない心地よさが身体中に走る。熱いような、痺れるような感覚が吸い込んだ胸から腰に、足の指先まで伝わっていく。

 寝られない……。

 ノアは、どくどくと何かが身体の中で脈打つのを感じながら、郁の顔を見上げた。

「ん……」

 ノアの視線に気づいて、軽く閉じていた郁のガラス玉のような瞳が開く。

 かわいい……。

 思わずノアは心の中で呟いた。そしてはっとした。ああ、そうだ。もうこれは間違いないのだ。
 俺は、こいつ……この人のことが、好きになってしまったんだ。

「Iku...I love you...」

 うるさいくらい脈打つ心臓をおさえながら、ノアは告白した。それを聞いた郁は微笑んで迷いない様子で応えた。

「I love you,Noah.Good night.」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君は俺の光

もものみ
BL
【オメガバースの創作BL小説です】 ヤンデレです。 受けが不憫です。 虐待、いじめ等の描写を含むので苦手な方はお気をつけください。  もともと実家で虐待まがいの扱いを受けておりそれによって暗い性格になった優月(ゆづき)はさらに学校ではいじめにあっていた。  ある日、そんなΩの優月を優秀でお金もあってイケメンのαでモテていた陽仁(はると)が学生時代にいじめから救い出し、さらに告白をしてくる。そして陽仁と仲良くなってから優月はいじめられなくなり、最終的には付き合うことにまでなってしまう。  結局関係はずるずる続き二人は同棲まですることになるが、優月は陽仁が親切心から自分を助けてくれただけなので早く解放してあげなければならないと思い悩む。離れなければ、そう思いはするものの既に優月は陽仁のことを好きになっており、離れ難く思っている。離れなければ、だけれど離れたくない…そんな思いが続くある日、優月は美女と並んで歩く陽仁を見つけてしまう。さらにここで優月にとっては衝撃的なあることが発覚する。そして、ついに優月は決意する。陽仁のもとから、離れることを――――― 明るくて優しい光属性っぽいα×自分に自信のないいじめられっ子の闇属性っぽいΩの二人が、運命をかけて追いかけっこする、謎解き要素ありのお話です。

運命なんて残酷なだけ

緋川真望
BL
「この人が本当に運命の番ならいいのに」 オメガである透はアルファの婚約者との結婚を間近に控えたある日、知らない男に襲われてむりやり番(つがい)にされてしまう。汚されたΩは家門の恥だと屋敷を追い出され、婚約も破棄され、透はその事件ですべてを失った。 三年後、母の葬儀にこっそり参加した透は参列者のひとりから強烈なアルファのフェロモンを感じ取る。番にされたオメガは番のフェロモンしか感じ取れないはず。透はその男こそ犯人だと思ってナイフで襲いかかるが、互いに発情してしまい激しく交わってしまう。 男は神崎慶という実業家で、自分は犯人ではないと透に訴える。疑いを消せない透に対して「俺が犯人を捕まえてやる。すべて成し遂げた暁には俺と結婚して欲しい」といきなりプロポーズするのだが……。 透の過去は悲惨ですが、慶がものすごいスパダリなのでそこまでつらい展開は無いはずです。 ちゃんとハッピーエンドになります。 (攻めが黒幕だったとかいう闇BLではありません)

幼馴染から離れたい。

June
BL
アルファの朔に俺はとってただの幼馴染であって、それ以上もそれ以下でもない。 だけどベータの俺にとって朔は幼馴染で、それ以上に大切な存在だと、そう気づいてしまったんだ。 βの谷口優希がある日Ωになってしまった。幼馴染でいられないとそう思った優希は幼馴染のα、伊賀崎朔から離れようとする。 誤字脱字あるかも。 最後らへんグダグダ。下手だ。 ちんぷんかんぷんかも。 パッと思いつき設定でさっと書いたから・・・ すいません。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

α嫌いのΩ、運命の番に出会う。

むむむめ
BL
目が合ったその瞬間から何かが変わっていく。 α嫌いのΩと、一目惚れしたαの話。 ほぼ初投稿です。

【完結】10年愛~運命を拒絶したオメガ男性の話

十海 碧
BL
拙作『恋愛経験ゼロ、モテ要素もないので恋愛はあきらめていたオメガ男性が運命の番に出会う話』のスピンオフ第2弾です。 林雅司、24歳アルファ男性はオメガや女性問題を専門としている人権派の弁護士。 ロシアの大統領に気に入られ、ロシアに連れ去られそうになったRYO、29歳オメガ男性を保護することになりました。RYOはオメガ風俗のナンバーワンキャスト。運命の番であることがわかりますが、RYOは風俗の仕事を続けることができなくなるので番になることを拒否します。 別の人生を歩む2人ですが、10年後再会します。

しのぶ想いは夏夜にさざめく

叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。 玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。 世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう? その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。 『……一回しか言わないから、よく聞けよ』 世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

処理中です...