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後日談ーもう一度あの時をー 双子の義弟7
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そして、モザイク無しには見れない姿にしてやろうと目論んでいた宿敵、“にーちゃん”を目の前にした時、ノアはカナを見た以上の衝撃を受けた。
ほっそりとして自分たちより背の高い郁は、わざわざウィリーとノアの目線にあわせて屈んでくれた。そしてカナと同様に優しい笑顔で自己紹介をした。肌は白く唇は赤く、大きめの瞳は澄んでいて吸い込まれそうだと思った。長めのショートカットはサラサラで、あまり毛を片方耳にかけていた。首筋がまぶしいほど生白く、しばらく目が離せなかった。カナの時と同じく、ノアは差し出された郁の柔らかい手をやっと握り返した。
まずは急所を思いきり蹴飛ばしてやろうと思っていた足は、根が生えたようにピクリとも動かなかった。
レストランで昼食をとった後、ウィリーのリクエストでスカイツリーにのぼった。カナとメアリーはすぐに二人の世界に入ってしまうので、自然と子供同士で動くことになる。
「あんまり英語が得意じゃないから、変だったら教えてほしい」
年長者の郁は、はにかみながらもたどたどしい英語でウィリーとノアの世話を焼いてくれた。展望デッキに設置されたポストから、日本語で手紙を書いて送りたいというウィリーに、郁は親切にやり方を教えた。味方だと思っていたウィリーは、優しいにーちゃんの郁にすっかり懐柔されてしまいまったく頼りにならない。ノアは憤慨していた。
「ノアも書かないか?」
しかし、うるさい、と突っぱねようと思うのに、柔らかい笑顔を向けられるとノアの戦意は気の抜けたように萎んでしまう。
「そう、うまいねノア」
ノ、ア、とカタカナで書いてもらった字を真似て書くと、郁がまた嬉しそうに控えめな笑顔を見せる。ドキリとノアの心臓が鳴る。
展望デッキから降りると、メアリーが買い物をしたいと言うのでカナが付き合うことになった。
「じゃあ、俺たちはカフェで休んでるよ」
展望デッキではしゃぎ疲れたウィリーが眠たそうに目を擦るのを見た郁は、そう言って母親ふたりの背中を見送った。ちょっと古めかしい雰囲気の薄暗いカフェに三人で入った。客は大人ばかりで、落ち着いた曲がかかっていた。
「ごめん、良かったかな」
カフェのソファに座ってから、郁はノアの顔を見て言った。
「別に」
母親たちと別れて行動するのを勝手に決めてしまったことを郁はノアに詫びた。ノアは素っ気なく顔を背けた。展望デッキで笑顔を向けられてから、動悸がしてまともに郁の顔を見ることができなかった。
「二人は何がいい?」
メニューを開いた郁が、すぐに眉をひそめた。
「どうしよう……。困ったな」
そこには写真などなく、日本語しか載っていなかった。読めない字が並ぶ白い紙を見て、ウィリーとノアは顔を見合わせた。
「俺、なんでもいいよ」
困り顔の郁に、半分目を閉じたウィリーが言う。
「俺いらない」
ノアは相変わらず顔を背けたまま言った。
「ご注文はお決まりですか?」
タイミング悪く現れた店員に、郁はおおいに焦っているようだった。メニューをじっと眺めてから、それでも何かを注文して郁は息を吐いた。
ほっそりとして自分たちより背の高い郁は、わざわざウィリーとノアの目線にあわせて屈んでくれた。そしてカナと同様に優しい笑顔で自己紹介をした。肌は白く唇は赤く、大きめの瞳は澄んでいて吸い込まれそうだと思った。長めのショートカットはサラサラで、あまり毛を片方耳にかけていた。首筋がまぶしいほど生白く、しばらく目が離せなかった。カナの時と同じく、ノアは差し出された郁の柔らかい手をやっと握り返した。
まずは急所を思いきり蹴飛ばしてやろうと思っていた足は、根が生えたようにピクリとも動かなかった。
レストランで昼食をとった後、ウィリーのリクエストでスカイツリーにのぼった。カナとメアリーはすぐに二人の世界に入ってしまうので、自然と子供同士で動くことになる。
「あんまり英語が得意じゃないから、変だったら教えてほしい」
年長者の郁は、はにかみながらもたどたどしい英語でウィリーとノアの世話を焼いてくれた。展望デッキに設置されたポストから、日本語で手紙を書いて送りたいというウィリーに、郁は親切にやり方を教えた。味方だと思っていたウィリーは、優しいにーちゃんの郁にすっかり懐柔されてしまいまったく頼りにならない。ノアは憤慨していた。
「ノアも書かないか?」
しかし、うるさい、と突っぱねようと思うのに、柔らかい笑顔を向けられるとノアの戦意は気の抜けたように萎んでしまう。
「そう、うまいねノア」
ノ、ア、とカタカナで書いてもらった字を真似て書くと、郁がまた嬉しそうに控えめな笑顔を見せる。ドキリとノアの心臓が鳴る。
展望デッキから降りると、メアリーが買い物をしたいと言うのでカナが付き合うことになった。
「じゃあ、俺たちはカフェで休んでるよ」
展望デッキではしゃぎ疲れたウィリーが眠たそうに目を擦るのを見た郁は、そう言って母親ふたりの背中を見送った。ちょっと古めかしい雰囲気の薄暗いカフェに三人で入った。客は大人ばかりで、落ち着いた曲がかかっていた。
「ごめん、良かったかな」
カフェのソファに座ってから、郁はノアの顔を見て言った。
「別に」
母親たちと別れて行動するのを勝手に決めてしまったことを郁はノアに詫びた。ノアは素っ気なく顔を背けた。展望デッキで笑顔を向けられてから、動悸がしてまともに郁の顔を見ることができなかった。
「二人は何がいい?」
メニューを開いた郁が、すぐに眉をひそめた。
「どうしよう……。困ったな」
そこには写真などなく、日本語しか載っていなかった。読めない字が並ぶ白い紙を見て、ウィリーとノアは顔を見合わせた。
「俺、なんでもいいよ」
困り顔の郁に、半分目を閉じたウィリーが言う。
「俺いらない」
ノアは相変わらず顔を背けたまま言った。
「ご注文はお決まりですか?」
タイミング悪く現れた店員に、郁はおおいに焦っているようだった。メニューをじっと眺めてから、それでも何かを注文して郁は息を吐いた。
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