教科書通りの恋を教えて

山鳩由真

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10.旅行 6

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「ごめん。俺が疲れさせたから」
 郁が目を覚ますと、室見の心底すまなそうな顔が覗いてきた。キングサイズのベッドの真ん中から、ぼんやりと薄暗い部屋の中を見回す。左手には浴衣姿の室見が腰掛けていて、右手には大きなガラス扉の先に檜の丸い風呂が見えた。それは暗闇の中、暖色系のライトで照らされている。
「悪い……寝すぎてしまったか……?」
 洗い場で交わった時はまだ、西日が射していたと思う。終わってから風呂に浸かり、そこで眠りそうになって室見に笑いながら引っ張りあげられた後の記憶がない。まだ怠さの残る身体を起こすと、室見は背中を支えてくれた。
「夕食はレストランに行く予定だったんだけど、予約時間に間に合いそうになかったからお弁当につめて部屋に運んで貰ったんだ。食べられる?」
 やはりあのあと自分がたっぷり眠ってしまったために、夕食を食べそこなってしまったらしい。
「ごめん。起きるまで待っててくれたのか?」
「うん。仕事の疲れも溜まってただろうし、寝られる時に寝かせてあげたほうがいいかなって……というより、寝顔がかわいくて起こせなかった」
「起こしてくれてよかったのに……」
 かわいいなどと言われて気恥ずかしくなり、郁は曖昧に視線をさ迷わせた。


 和室に移動すると座卓の上に膝塗りの大きな箱がふたつ置かれていた。蓋を開けると中は細かく仕切りがあり、そのひとつひとつの仕切りの中に季節の食材を使った料理が上品におさめられていた。室見と向かい合わせに席について、遅い夕食をとる。座卓に置いたままになっていた腕時計を見ると、まもなく二十一時になるところだった。
「何も食べずに待っていてくれたのか?」
「ウェルカムフルーツと軽食があったから、ちょっとだけつまんだよ。郁と食べたかったからお弁当は手をつけてない」
「それは申し訳なかったな……。お腹空いただろう」
「勝手に待っただけだから気にしないで」
 食べよう、と室見は箸を郁に握らせて、自分も持って手を合わせていただきます、をした。
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