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9.疎通 2
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「室見はどんな仕事をしているんだ?」
「今はMRって言って病院と薬局を回って薬を届けたり説明したりする仕事だよ」
「難しそうな仕事だな」
「製薬会社のいわゆる営業って言われてる仕事なんだけど、外回りが多いから自分でスケジュールを組みやすいし、中学生の頃から社会勉強とか言って会社には行かされてたから薬の情報はだいたい頭に入ってるし、難しいことはあんまりないよ。来年はファイナンス、その次はマーケティング、人事部……って異動して全体把握してく感じかな。たぶん」
「相変わらず優秀なんだな」
中学生の室見も、頭の回転が早くとても要領が良かった。その素養を生かしてきっと仕事も素晴らしく良くできるのだろう。郁は嬉しくなって、ふ、と柔らかく笑った。
「……」
和やかだった空気が一変したのを感じて顔をあげる。そこには熱を含んだ瞳があり、視線が合うと郁の心臓はドクリと大きく跳ねた。
室見に手を引かれて、食事を終えたダイニングからリビングにある滑らかな布張りのソファに座らされる。淫らな予感がして、咄嗟に郁は隣に座った室見の胸をやんわりと押して拒絶を示した。室見はその手を取って、指先を自分の口元に運ぶと人差し指の先を舐める。ぬめる感触に郁は首をすくめた。
「郁……。最後に俺にさよならって言ったの、覚えてる?」
室見が郁の指を唇の端に捕らえたまま囁く。郁はそれに、こくりと頷いた。お互いのフェロモンが濃く薫り出して、性的興奮が高まってくる。
「俺はずっと、裏切られたと思ってたよ。どうして郁は嘘をついてまで俺から離れるんだって、全然納得できなかった。俺の親に脅されたのかと思って、まわりの人間に随分当たり散らした。高二頃に、親は荒れた俺を見限ったのか諦めたのか、ついに折れて、大人になってちゃんと社会人になったら郁を迎えに行けばいい、と言い出した。でもそれまでは接近禁止にされて、たぶん親はその間に俺が郁を忘れることに賭けてた」
鋭い視線を浴びせられて、郁は目を合わせることができなかった。目を合わせたら、その先の行為に一気に堕ちてしまう。俯いて、やっと室見の声を聞いていた。
「今はMRって言って病院と薬局を回って薬を届けたり説明したりする仕事だよ」
「難しそうな仕事だな」
「製薬会社のいわゆる営業って言われてる仕事なんだけど、外回りが多いから自分でスケジュールを組みやすいし、中学生の頃から社会勉強とか言って会社には行かされてたから薬の情報はだいたい頭に入ってるし、難しいことはあんまりないよ。来年はファイナンス、その次はマーケティング、人事部……って異動して全体把握してく感じかな。たぶん」
「相変わらず優秀なんだな」
中学生の室見も、頭の回転が早くとても要領が良かった。その素養を生かしてきっと仕事も素晴らしく良くできるのだろう。郁は嬉しくなって、ふ、と柔らかく笑った。
「……」
和やかだった空気が一変したのを感じて顔をあげる。そこには熱を含んだ瞳があり、視線が合うと郁の心臓はドクリと大きく跳ねた。
室見に手を引かれて、食事を終えたダイニングからリビングにある滑らかな布張りのソファに座らされる。淫らな予感がして、咄嗟に郁は隣に座った室見の胸をやんわりと押して拒絶を示した。室見はその手を取って、指先を自分の口元に運ぶと人差し指の先を舐める。ぬめる感触に郁は首をすくめた。
「郁……。最後に俺にさよならって言ったの、覚えてる?」
室見が郁の指を唇の端に捕らえたまま囁く。郁はそれに、こくりと頷いた。お互いのフェロモンが濃く薫り出して、性的興奮が高まってくる。
「俺はずっと、裏切られたと思ってたよ。どうして郁は嘘をついてまで俺から離れるんだって、全然納得できなかった。俺の親に脅されたのかと思って、まわりの人間に随分当たり散らした。高二頃に、親は荒れた俺を見限ったのか諦めたのか、ついに折れて、大人になってちゃんと社会人になったら郁を迎えに行けばいい、と言い出した。でもそれまでは接近禁止にされて、たぶん親はその間に俺が郁を忘れることに賭けてた」
鋭い視線を浴びせられて、郁は目を合わせることができなかった。目を合わせたら、その先の行為に一気に堕ちてしまう。俯いて、やっと室見の声を聞いていた。
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