教科書通りの恋を教えて

山鳩由真

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9.疎通 1

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 室見に招かれたのは、LDKの他に個室が三部屋もあるファミリータイプのマンションだった。駅から徒歩で十分程度、職場の学校までは電車で十分なので、三十分ほどで行ける距離だ。
「親から格安で借りてるんだ」
 引越しが済んでようやく少し落ち着いた頃、そう言う室見の生活ぶりを改めて見て、郁は軽くカルチャーショックを受けた。郁が来る少し前から一人で住んでいたという部屋の中は、モデルルームのように清潔で整頓されていたが、すべてハウスキーパーに任せているのだという。洗濯物も、下着までマンションのランドリーサービスに出していて、部屋の中に洗濯機が無かった。食事は外食が基本で家ではほとんど食べなかったそうで、冷蔵庫はあるものの中には飲料しか入っていない。
「でもこれからは郁と暮らすから、朝と夜は部屋で一緒に食べたいと思ってる。ハウスキーパーに食事サービスも追加で頼んであるから。でも、郁は料理好きだから、時々は一緒に作ろう」
 今まで洗濯も掃除も食事の準備も、当然自分でしていた郁は生活レベルの違いに戸惑った。ハウスキーパーの用意していった温かい食事を前に、郁が手をつけずに黙っていると室見が首をかしげる。
「どうしたの?」
「俺の給料じゃ、ここの家賃すら払えないと思う……」
 ダイニングテーブルの向かいに座っていた室見が、スープをすくったスプーンを空中でとめて郁のことを目を丸くして見る。そして、堪えるようにして笑い出した。
「郁先生の給料をあてにしてないから、安心してよ。俺に合わせて貰ってるんだから、生活費は全部俺が出すから」
「いや、一緒に暮らすなら俺も負担するよ」
「えー……。じゃあ、収入比で金額決めよう」
 そう言って示された室見の収入額に、郁はさらに衝撃を受けた。こんなに差があっては、郁が払う分は結局雀の涙ほどになってしまう。郁とて教師であり、決して薄給という訳ではない筈なのだが……。
「格差社会を感じるよ……」
「不動産の家賃収入と運用関係の収入が大きいかな。どっちも親が勝手に俺の名義にしてるだけなんだけど……。会社からの給料はたいしたことないよ」
 会社と聞いて、そう言えば年を考えると室見は今年新社会人になっている筈だと思い出す。室見の曾祖父が起こし、両親が幹部を務める製薬会社で働いているのだろうか。
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