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しおりを挟む別れ際に抱き締められた時、自分の腕を、成井田の背中に回していたら……どうなっていただろう。そんな夢想が浮かぶ。
しかし、また信号が赤になったタイミングで、ユタのひと回り大きな手のひらに手を握られて、さつきはビクッと身体を震わせた。
ユタはちらりとさつきに視線を送り、口角を緩やかに上げる。それだけの動作が、映画のワンシーンのように美しかった。
さつきの心臓がとくりと脈動する。
ユタと愛し合っているのに、成井田のことを考える自分は、下劣で、不道徳で卑しい。
こんなにも自分に尽くしてくれている、ユタへの裏切り行為だ。さつきの額に、冷や汗のようなものが浮かび、雫となってその一筋が重ねられたユタの手の甲に落ちた。
ユタを愛している。
何度も、胸の中で繰り返す。
成井田が自分に対して好意を寄せてくれても、自分がユタを愛することとは無関係だ。
さつきは、自分の手を握ってくれたユタの形の良い指に、もう一方の手を重ねて握った。
車は順調に流れた。
休日の前に会うと、ユタは必ずマヴィにさつきを連れて行く。
見慣れた車窓が流れていくのを見ているうちに、さつきは自分の中に、別の衝動が湧いてくるのを感じて戸惑った。
景色は木立が中心となり、あと十分もせずにあの場所に到着する。
あの家で、また、ユタと二人きりの週末を過ごす。
そう思うと、抑えていた心臓が再びドクドクと脈打ち、身体が熱くなるような気さえした。
ついさっき、成井田に追及されて冷や汗をかいていた時の緊張感とは、まったく違う感覚だった。
やがて車は、霧の深い森の中に止まった。
ドアを開けて一歩、外に出るのに大きな勇気が必要だった。
ここに来るということは、ユタと“プレイ”を伴うセックスをするということだった。
「どうしたの?」
車から中々降りないさつきに、助手席のドアを開けてユタが手を伸ばす。
さつきはユタの手に会釈をして遠慮し、ボディバックを両手で抱えたまま車を降りた。
しかし、ユタはさつきの腰を抱いて、ボディバックの下で既に熱を持って膨らんでいた股間をあっさりと暴いた。
「あっ……」
服の上からきゅっと掴まれて、小さく声が漏れる。
羞恥で顔を伏せるさつきの腰を抱きなおして、ユタは嬉しそうに笑った。
「俺に抱かれたくて堪らなかった? それとも成井田くんに抱き締められたからかな」
耳元で囁かれて、さつきはビクリと大袈裟なほど身体を揺らした。
駅での成井田とのやり取りを、ユタに見られていた……?
成井田に対して抱いた、不貞に繋がる下劣な感情まで読み取られてしまったと思い、さつきは青ざめた。
しかし、ユタは大切なものを扱うようにさつきを優しく抱き締める。
「大丈夫、忘れさせるよ」
顔を上向かされたさつきに与えられたのは、蕩けるようなキスだった。
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