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しおりを挟む美形で、人格者で、川喜田事務所の建築士ならば、対抗しようがない。そう思っていた節があった。さつきが将来、設計者を目指しているか解らないが、建築士のユタと親しくすることで様々な知識や情報を得られることは大きな魅力だった筈だ。それが、違うのであれば、さつきがユタと付き合うメリットとしては、弱い。
「幸崎先輩は、ユタさんが建築士ではないこと、知ってるんでしょうか」
「うん。たぶんね。一回二人と鉢合わせした事があって、その時俺が、そのユタさんのこと、柊木先生だって言ったし。でも、驚いたような顔してたから、俺が言った時初めて知ったのかもしれない」
用があってすぐに別れたから、その後の二人がどういう話をしてたかは解らないけど、と中之島は続けた。
「あとコウちゃん、夏の間、家にずっと帰ってきてないみたいなんだよね」
中之島が盆休みに実家に帰省した際、毎日隣家のさつきを訪ねたが、一度も出なかったと言う。
「弟が柊木先生のいる小児科にかかってるんだけど、柊木先生も八月いっぱい休みらしくて。それで……もしかして、コウちゃん、柊木先生とそういう意味で付き合ってるのかな、なんて」
中之島の推測に、成井田はドクリと首の血管が脈打つのを自覚した。
中之島の問いの答えは口にしたくない。けれど、自分の知っていることを中之島に隠した所で何になるだろう。そもそも、メリットだとかを考えて、ユタが建築士でなければ同じ建築学科の自分の方がさつきに近いと思ったが、さつきにとって、ユタが建築士かどうかなど、関係ないのかもしれない。
成井田は庭の隅に落ちている、誰かに踏み潰された木の実を見つめながら中之島に返事をした。
「……たぶん、二人は恋人同士だと思います」
「そうかあ。ちょっと心配だな……」
長い息を吐いて、中之島が頭をかいた。
「何でですか?」
「柊木先生に騙されてないかなーって。コウちゃん、柊木先生のこと、信頼しきってる感じだったから。付き合い始めたのって、いつからなんだろ。年始あたりから、サークルも急に休んだりして、段々ちょっとやつれてるような雰囲気になっちゃったんだよな。成井田と仲良くなって、一時期明るくなったのに、急に落ちたというか」
成井田は、年頭に会ったさつきの様子を思い浮かべた。片平に恋人の存在を追求されて、しっとりと儚げな表情で弁解していた。あの時既に、ユタとの付き合いが始まっていたのかもしれないと思うと、ぎゅっと軋んだような痛みが心臓に走った。
「声をかけても相談してくれないし、また一人きりで困ってるんじゃないかって心配でさ。高校で孤立していじめられてたこともあるし。でも、余計なお世話かな」
中之島はあくびをしてから、ぽつりと呟いた。
「あの人といる時のコウちゃん、幸せそうな顔してたし」
成井田は、血管が浮き上がる程に強く拳を握り締めた。
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