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しおりを挟む『えっ、なんであんた柊木先生と写真撮ってんの。送ってよそれ』
成井田のスマホを盗み見た姉が、目の色を変えて言った。画面には、ホテルのラウンジで撮った、ユタとさつきと成井田の三人が写った写真が表示されていた。ラウンジの内装写真を設計の参考にと撮影していたのを、勘違いしたウェイターに「お撮りしましょうか」と声を掛けられ、成り行きで撮られた写真だった。
『誰と勘違いしてるのか知らないけど、何に使う気か解らないから嫌だ』
『じゃー見るだけ。見るだけならいいでしょ。やっぱ柊木先生じゃん。うちの保育園の園医だよ。こんなイケメン他にいないし』
『そんな訳ないだろ。この人は建築士だよ』
『えーじゃあ、柊木先生って双子なのかな。似すぎなんだけど』
顔の良い男に目がない姉に、成井田はやれやれと息を吐いて聞き流した。保育士として働いている姉だが、こんな軽い様子で務まっているのか怪しい、など思った。
そのやり取りを思い出した成井田は、まさか、と中之島の横顔を確認する。
「コウちゃんが俺に嘘ついてるとは思えなくて、もしかして柊木先生がコウちゃんに建築士だって言って近づいたんじゃないかって、ちょっと心配になっちゃってさ。今回も急にキャンセルしたの、柊木先生絡みなのかなって。成井田はコウちゃんから何か相談されたりしてない?」
「い……え……。でも、俺、そのユタさんに一度会って話したことあります。親切で、建築の事を色々教えて頂いたんですけど……。実は、幸崎先輩が合宿に来れないことを連絡してきたのも、そのユタさんからで……」
「え……?」
ユタとは、ホテルのラウンジで打ち合わせをした直後にお礼のメッセージを送って以来、連絡を取っていなかった。
それが昨夜、荷造りをしていた時に突然着信があった。
『明日の合宿の件だけど、さつきは行けそうにないんだ。部長なのに申し訳ないって、謝ってたよ。悪いんだけど、成井田くん対応頼めるかな』
そう言われて、はい、と言う以外の選択肢はなかった。
ただ、成井田の中で、この涼しげな声の主に対して妬ましい感情が湧いた。それは一気に膨れ上がり、ぶつけ先のない気持ちは肉に食い込むほど強く拳を握り締めさせた。
さつきには合宿の相談事について返信を要するメッセージを何度も送っていたが、夏休みに入ってから一度も返事がない。八月に入ってからは、既読にすらならなくなっている。今までさつきが、成井田からの連絡を無視する事など一度も無かった。それが今日になって、欠席の連絡すら本人からではなく、ユタから来る。
『先輩、どうかしたんですか?』
どこにもぶつけられない、怒りのようなやるせない気持ちを抱えて、成井田は聞きにくい事をそのまま口にした。気持ちがそのまま表れて、思ったよりも語気は強くなった。ユタに悟られただろうか、と成井田は少し焦った。
しかし、ユタはたっぷりと間を置いて、悠然と一言だけ言った。
『わかるだろ?』
薄くせせら笑われたように思えて、頭に血が上った成井田はブツリと音が立つ勢いで通話を終了させた。
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