21 / 77
21
しおりを挟む*
「ケヴィン・ローチを知ってる?」
待ち合わせ場所から、タクシーで目的地に向かう道すがら、ユタはさつきに聞いた。黒いチェスターコートの下にノーカラーシャツと深みのあるテラコッタカラーのニットを着たユタは、カジュアルだが上品で、人目を惹く艶やかな男だ。目にかかる髪の間からの視線を直に受け取るだけで、さつきはドキリと胸が高鳴る。ユタはハッとする程の美形で、表情の変化が乏しいため一見冷たい印象を受ける。しかし、あまり感情を表に出さないユタの表情が変わる瞬間を、さつきは知っていた。前後不覚になる程激しく交わる時、恍惚としたユタの潤んだ瞳はゾッとするほど美しく蕩ける。
その時を思い出してざわめく心中を気付かれないようにと、さつきは目を泳がせてユタの問いに答えた。
「はい。アメリカの建築家、ということくらいしか知りませんが……」
「充分だよ。コウちゃんは勤勉だね。名前を聞いて、すぐに思いあたる子は稀じゃないかな」
そう言ってユタは微笑み、さつきの髪を優しく撫でた。
「コウちゃんの言う通り、ローチはサーリネンやミースに師事したアメリカの建築家だ。オークランド博物館とか、フォード財団ビルが有名かな。これから行くのは、そのローチ設計のビルの中にあるバーだよ」
ユタはローチ設計の建築物を二、三点、手元の端末画面に映してさつきに見せた。そこには、巨大なビルの吹き抜け部分に配置された、緑あふれる庭園の写真などがあった。
「日本にも、ローチ氏設計の建物があったんですね」
「うん。コウちゃんが気に入ってくれるといいな」
さつきの滑りの良い髪を、一すくい指先で弄ると、ユタはほんのりと口角を上げて見せた。
*
ユタについて入ったのは、地上四十一階のバーラウンジだった。夜色がよく見えるように照度を落とされた店内に入ると、壁一面のガラス越しに大都市の夜景が広がって見え、さつきは思わず息を飲んだ。
「高いところ、大丈夫?」
窓側を向いて二脚並んで置かれたソファ席を案内されると、さつきは巨大な窓から一歩下がって眼下を恐る恐る見た。宝石のように煌めく無数の光の粒の洪水に圧倒される反面、飲み込まれそうな恐ろしさもあった。
「大丈夫です」
腰を引きながらソファに座るさつきを見て、ユタはクスリと笑う。
「大丈夫。堕ちるときは一緒だよ」
浅く腰かけた身体を引き寄せて、ユタはさつきのこめかみにキスをした。まるで恋人のような扱いに、さつきは赤面して目を伏せる。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
友人とその恋人の浮気現場に遭遇した話
蜂蜜
BL
主人公は浮気される受の『友人』です。
終始彼の視点で話が進みます。
浮気攻×健気受(ただし、何回浮気されても好きだから離れられないと言う種類の『健気』では ありません)→受の友人である主人公総受になります。
※誰とも関係はほぼ進展しません。
※pixivにて公開している物と同内容です。
【完結】聖アベニール学園
野咲
BL
[注意!]エロばっかしです。イマラチオ、陵辱、拘束、スパンキング、射精禁止、鞭打ちなど。設定もエグいので、ダメな人は開かないでください。また、これがエロに特化した創作であり、現実ではあり得ないことが理解できない人は読まないでください。
学校の寄付金集めのために偉いさんの夜のお相手をさせられる特殊奨学生のお話。
公開凌辱される話まとめ
たみしげ
BL
BLすけべ小説です。
・性奴隷を飼う街
元敵兵を性奴隷として飼っている街の話です。
・玩具でアナルを焦らされる話
猫じゃらし型の玩具を開発済アナルに挿れられて啼かされる話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる