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しおりを挟む友人を作るのが苦手だというさつきは、誰かと話しながら自分の案をまとめたことがないのかもしれない、と成井田は思った。
成井田が課題を提出する前には、同じ学年の友人と、今回の課題はこうしたとか、その案いいね、とか雑談する。自分一人で作っていると、独り善がりのものが出来上がりやすいからだ。自分では最高だと思って制作しても、友人に見せると笑われたりすることは、多々ある。提出前に友人に指摘されることで軌道修正もできるし、時間が無くてそのまま提出する場合も、講師たちからの辛辣な評価に備えることが出来る。
一方、いつも誰とも相談せずに一人だけで課題を仕上げて提出しているさつきは、友人とのやり取りの過程がないので、不安になるのかもしれない。
それなら、同じ講義を受けている同学年の友人を作ったらいいのではないか。
成井田は、一学年上の同じ学科の友人を、さつき以外に数人知っていた。その数人を紹介してやれば、不安は減るかもしれない。
さつきに対して、最初は付き合いにくそうな印象を持つかもしれないが、話せばシャイなだけだと解る。きっと真面目なグループの友人を紹介すれば、仲良くなれるだろう。
「それなら俺、友達が……」
しかし、成井田は言いかけてやめた。頭の中に、自分以外の人間と仲良く会話するさつきのイメージが浮かんだからだった。
「……?」
次の言葉を待って、さつきは少しだけ上向いて成井田を窺う。
成井田は軽く息を吐くと、笑顔を作ってさつきに向いた。
「講評の時って緊張しますよね」
設計の授業では、課題の作品を教室に並べると一度学生は退出し、その間に講師たちが評価をする。小さなコンペのような方式で、その評価が成績に反映される。講師の評価が終わると学生は再び教室に呼ばれ、作品ごとに付けられた評価について、講評される。作品自体に直接、AからCまでのスタンプを押されるので、自分の作品がどう評価されたのか、他の学生にもわかってしまう。その時、教室の空気は、一気に張りつめる。
「俺は単純なんで、全力で作ったものが評価されると、よっしゃってなりますし、逆に扱き下ろされるとへこみますし、いい評価された奴の作品を見て、俺の方が良いもの作ってるのにって嫉妬することもあります。でも、評価って、価値があるって認められることなんですよね」
成井田は俯いたままのさつきの、長い睫毛を見ながらなるべく普段通り、明るく言った。
「それって、好きだって、告白されてるようなものだと思うんです」
「告白……」
伏せられていたさつきの目が、再び成井田の方を向いた。
「俺は、幸崎先輩のデザイン好きです」
存外にするりと出た言葉に、成井田自身驚いた。さつきの独創的な設計は、講師たちが高評価を付けるのも、もっともだと頷ける魅力がある。他とは違う特徴を出しながら、多くの人に受け入れられやすいものを作り出せるさつきは、特別な才能を持っている。今はまださつきに近付く人間は少ないようだが、この才能と容姿で、彼が人付き合いに臆病になっているだけだと解ったら、友達などすぐに出来るだろう。
ありがとう、と微笑むさつきに、成井田は罪悪感を抱えながら笑顔を向けた。
そして頭の中では、晴れない霧のような気持ちがぐるぐると渦を巻いた。
なぜ友人を紹介すると言えなかったのか。
先輩として尊敬しているのに、彼の交友関係を、なぜ狭めようとするのか?
自分以外に、彼の笑顔が向けられるのを、なぜ許せないのか。
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